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2025年06月16日08:00
ついにあのツルを見ました!
皆さんは「キヅール」をご存知でしょうか。2017年に誕生したキヅールは僕の郷里が生み出した狂っ…個性的なマスコットキャラクターです。いわてグルージャ盛岡というサッカークラブのマスコットなのですが、何がそんなに有名かというとその狂っ…折鶴をモチーフとした独特なフォルムと、それでいこうと決めた狂…心意気みたいなものが評判でして、「そいつがマスコットをしているクラブのことは知らないが、キヅールのことは知っている」と評されるほどの存在なのです。
僕も長年にわたり、何かのついでがあったら一度見てみたいと思いながら、「わざわざそのために都合を合わせるのは違うと思う」「理想はたまたま行った競馬場とかで見たい」「こっちから行くんじゃなくてそっちから来てほしい」みたいな微妙な心理的ブレーキも掛かっており、実際にそれを見る機会には恵まれてきませんでした。
しかし、この週末、僕はついにその機会を得たのです。「新宿の日」だとか何とかいう理由で、JFLのクリアソン新宿なるチームが国立競技場で試合をやるんだかやらないんだかという機会があり、ぜひ見にきてほしいということで見に行くことにしたのですが、その対戦相手が件のいわてグルージャ盛岡で、キヅールが上京してくるというのです。うむ、ここまで状況が整う機会を逃したら、もうキヅールを見る機会はないかもしれない。そんなことを思いましてのお出掛けとなりました。
↓ということでやってきましたおなじみ国立競技場!
国立競技場開催とは言ってもそこはJFLの試合ですので、ゴールデンウィークに見たJリーグの試合のようなお祭り感はありません。東京体育館の横を抜けていく王道ルートで国立競技場に向かった際も、「ここにゲートとかあることが多いんだよなぁ」の場所には特に何もなく、「ここに巨大なバナーが貼ってあることが多いんだよなぁ」の場所にも特に何もなく、目を凝らして立て看板とか張り紙を見ないと今日がどこ対どこなのかもよくわからないくらいの感じです。
しかし、そんなときにも心にビビッと伝わってくるのが郷里の気配なのか。遠くから響く笛の音と太鼓の音、そして「サッコラチョイワヤッセ」なる呪文の声。おぉこれは郷里が誇る東北お祭りのJ2リーグ所属・さんさ踊りの掛け声ではありませんか(※J1リーグは青森ねぶた、秋田竿燈、仙台七夕/J2リーグはほかに山形花笠)。「踊らされたことはあるが祭りそのものを見たことはない」くらいの距離感ではありますが、やはりこの響きには心を惹きつけられるものがあります。お祭り気分もグッと高まってまいりました。
↓「サッコラ」は「幸呼来(幸が来るように)」という意味だそうです!
そういうの教えずに、ただただ踊りだけやらされるんですよね!
さて、まずは散策を…とスタジアム外周を歩き始めますと、僕の額のあたりでピキーンという音が鳴り、ざらつくプレッシャーを覚えます。野球場とかサッカー場とかでは基本的に感じることのないビジネスの気配です。「高い意識を感じる…!?」「もしやこの意識、経営者か…?」「サッカーを通じた社会貢献とか世界につながるこの道とか夢みたいなことを言っている経営者でもいるのか…?」などと警戒心を高める僕。
すると案の定、この日の国立競技場には意識の高いビジネスマンと意識の高いスポンサーブースが大挙押し寄せているではありませんか。「新宿の日」というだけあって新宿圏からやってきたビジネススーツによるビジネスブースの多いこと多いこと。こどもたちの環境への意識を高めるブースだとか、新NISAだの保険だの資産運用の相談ができるブースだとか、専門学校の生徒さんたちが出展するワークショップだとか、同じ駄菓子を配るにしてもブースで要求される意識の高いこと高いこと。
そればかりか経営者たちがビジネスの話をするために集まってくるのか、謎の「ラウンジ」がボコボコ設置されています。「NSROOM/SKYBOX」(※国立競技場のVIP用個室)の入口のご案内に始まり、簿記会計の資格スクールなどを運営する会社による「千駄ヶ谷ラウンジ」なるラウンジのご案内、さらには「外苑ラウンジ経営者交流会」というド直球の経営者向けラウンジまで。ピキーンと高い意識を感じたので、僕もなるべく経営者に見えるツラをしながら「何ですかコレ?」と聞いてみたのですが「招待状はお持ちですか?」「ないですね」「招待状をお持ちの方のみのご案内となっております」みたいな取りつく島ナシの反応で、何かこう「あぁこの巨大な建物の1層から3層が平民のエリアでその上に上級国民がいるんだな」みたいな気持ちになりまして、今なら「サッカーは労働者のもの!」とか言ってるヨーロッパのフーリガンの気持ちも分かるような気がしましたよね。
↓国立競技場のVIPルームにたくさんVIPがくるようです!
↓このラウンジは真の経営者というよりは強化経営者くらいの集まりな気がします!
↓このラウンジってサッカー見るんですかね?見ないんですかね?
まぁ、新宿区でJFLのサッカークラブを運営して国立競技場で試合をしようというクラブとそれを応援する人たちの集まりなわけですから、これぐらいの意識の高さはあって当然でしょう。「夢」と「野心」がなければそんなこと始めるはずもありません。その意識の高さゆえか非常に撤収も早く、多くのブースは試合開始を迎える頃には誰もいなくなってしまいましたが、「ハーフタイムくらいまでダラダラお客来ますよ?」なんて話は経営者層には理解が及ばなくて当然。13時試合開始って言ってんだから、遅くとも12時には集合しているのが経営者マインドなのです。何というプレッシャーか…!
経営者のプレッシャーにすっかり疲れてしまった僕は、導かれるように郷里から上京してきたブースへと向かいます。するとそこには懐かしい郷里の風が吹いているではありませんか。自分たちはそんなに食べないけど県外にはプッシュしている観光者向けグルメ「わんこそば」を模したマスコットキャラクター「そばっち」(※ねづっちのイントネーションで)を並べた観光案内ブースや、いわてグルージャ盛岡のグッズショップと言い張りながら郷里のソウルフード「福田パン」を売るブースなどが、しっかりと活動をつづけています。
僕もあまりの懐かしさに「福田パンください!」と涙を流しながら近づいていきますが、ビックリしましたよね、お値段が500円で。「え?福田パンなのに500円も取るんですか…?」「150円くらいでようやく妥当価格というか…100円でもまぁそんなもんかなと思うくらいのパンのはずですが…」「500円出すなら東京にはもっと美味いパンいくらでもありますけど…?」などとクチからあふれ出そうになる本音をこらえつつ、ここで食べることに意味があるのだと思い直して一押しのあんバター味を購入。味はいつも通り「給食のパンにあんことバターを挟んだ味」でしたが、ちょうどいいお昼ご飯になりました。
↓福田パンが500円か…!これは経営者向けの価格…!
↓あまりの福田インフレにキヅールグッズが安く見えてくる…!
↓ちなみに福田パンはこういうパンで見た通りの味がします!
そんなことで散策を終えた僕は、いよいよ試合会場へ。JFLの試合とは言ってもさすが国立開催のビッグマッチです。なかなかの数のお客さんが集っており、大変にぎやかな雰囲気。そんななか一番の元気を見せていたのはいわてグルージャ盛岡のサポーターたち。人数的にはホーム側であるクリアソン新宿を上回るほどの大集団で、バナーを柵沿いにビッシリ掲出したり、小さいビッグユニフォームを掲げたりとサポーター感あふれる応援でチームを盛り上げています。
そうした応援活動のなかでもやはり一番の押しポイントはキヅールである模様で、グルージャ側スタンドには「私どもよりもキヅールをご覧になりたいわけですよね?」という正直ベースのアピールが高らかにこだましています。一番目立ついい場所には「敵地 ツル、襲来」などと40代男性のセンスを感じさせるバナーを掲げ、「折れない心」(※折鶴と掛かってます)だの「一岩昇鶴」(※岩手が一丸となってJ3再昇格を目指せみたいなことだと思います/鶴と掛かってます)だの、ツル一本鎗で押してくるその力強さ。他クラブならチェ・ゲバラとかを掲げるエリアにも岩手のゲバラこと石川啄木の肖像を掲げるあたりも含めて(※ほかに宮沢賢治先生の肖像もありました)、東京の経営者層には決して飲まれない強き魂が燃え盛っています。そうです、啄木ならきっとこう言うでしょう。「金は稼ぐものではない、借りるものだ!」と(←ある意味で経営者が言いそう)。そして「借りた金は返すな!」と(←これも経営者が言いそう)。「どれだけ借りられるかが人間の器量だ!」と(←全部経営者が言いそう)。そう、我々は決して金には屈しない。見ていろ東京の経営者層、森と土に生きるイーハトーブの民の強さを!
↓一応クラブのエンブレムが鶴モチーフで「グルージャ」自体が鶴という意味なので、チーム全体が鶴の扱いです!
↓縁もゆかりもないチェ・ゲバラとか掲げてるクラブにガツンと見せつける郷土愛!
↓経営者層によるキックインセレモニーのあとはいよいよ試合開始です!
今日初めてやったのかな?くらいの声量で響き渡る「5、4、3、2、1、クリアソン」の掛け声とともに始まった試合。JFLらしい熱いハートと肉体をぶつけ合う試合には場内は大盛り上がり。歓声や拍手の大きさに「もしかしたら今日は1万人の大台いくかも!」と僕も手応えを覚えます。ボックス席ではVIPたちが手に持った小さなカードを互いに与え合う様子も見られ、サポーター同士の心のつながり・一体感がスタジアム全体に広がっているのを肌で感じます。0-0ながらも時間を忘れるほどの熱戦は、体感45分であっという間に前半終了です。
そして、迎えたハーフタイム。ついに本日のテーマであるアレがやってきました。場内を盛り上げるべく、いわてグルージャ盛岡のマスコット「キヅール」が姿を現したのです。クリアソン新宿側のマスコットが意識の高いマーケティングの末に選ばれたであろう「猫」モチーフであるのとは対照的に、岩手県の県鳥でもなく(※県鳥はキジ)、冬になると川にバサバサ飛んでくるハクチョウでもなく、南部藩の家紋からセレクトした鶴をモチーフにデザインを公募したら「何故か折鶴型デザインが応募してきて」「何故かそれが投票で選ばれて」「採用することになっちゃった」という打算なき自由と民主主義のもとに選ばれたキヅール。僕はついにあのキヅールをこの目で見たのです!
↓知っている人には今さらな話でしょうが、コレがキヅールです!
ハーフタイムには午前中からやっていた観衆参加型の運動会イベントの決勝戦として400メートルリレーをやるとかで、キヅールもその盛り上げに加わったのですが、キヅール自身はまったくもって何もできる様子がありません。一応自力で歩行はできるようですが、翼を畳む機能はないらしく、狭い人混みなどを移動する際は介護の係員さんが翼を畳んで手で抑えながら移動していきます。そんな翼なもので何ができるはずもなく、もちろんクチバシで何かできるはずもなく、自力でできるのは歩行と上下動、せいぜいがお辞儀くらいといった雰囲気。
よくよく見ると首のあたりに四角い窓のようなものがあって、そこから足の本体が布越しに前を見ているようなのですが、もちろん手を出したり声を出したりできるはずもなく、キヅールはただただそこにいるだけです。ただ、そこにいるだけで誰よりも目立っているという点では、これぞ真のマスコットという風格も感じなくはありません。正直、新しい猫のキャラクターを見せられたところで、もはや何も感じないですからね。似たようなのがいっぱいいるので。頑張ったら成功できるとは限らないのが、ビジネスもマスコットも難しくて面白いところなのかもしれないなと思いますよね。
↓運動会イベントでくりあにゃんはゴールテープを持ってくれたりするのだが…
↓キヅールはゴールテープを持つ人を見守るのみ!何しに来たんだ!?
↓帰るときは翼がぶつからないように介護の係員さんが補助!
念願のキヅールを見ることができてすっかり満足して迎えた後半戦。見ている感じでは何も起きずにスコアレスドローで終了しそうな雰囲気だったのですが、アディショナルタイムに突入した後半47分、いわてグルージャ盛岡が右サイドでゴチャゴチャして中央にクロスを入れたら、何かいいところにおさまりまして、グルージャが先制&決勝点となりました。まさにキヅール魂というか、意識高く運営やらを頑張ったクリアソン新宿には勝点1すら与えず、グルージャが勝点3を持っていったのには僕も熱い郷土愛を覚えましたよね。「見たか経営者!」という魂の一撃、率直に言って爽快でした!
↓アディショナルタイムに決めました!
↓歓喜に沸くキヅール戦士たち!
↓スタンドのサポーターも大盛り上がりです!

↓ちなみにこの日の観衆はJFL史上最多となる16755人だったそうです!
↓なお、チケット販売数は26000枚を超えていたそうですが、まぁそこは気にしないでください!
▂▅▇ 𝗦𝗛𝗜𝗡𝗝𝗨𝗞𝗨 𝗗𝗔𝗬 '𝟮𝟱 ▇▅▂
— Criacao Shinjuku|クリアソン新宿 (@CriacaoShinjuku) June 15, 2025
チケット販売数 申し込みベースで
2️⃣6️⃣,0️⃣0️⃣0️⃣ 枚を突破しました🎫
当日券は #AゲートチケットBOX または #チケットぴあ で購入できます。
チケットはこちら ⏩ https://t.co/xvJGMxECGn#クリアソン新宿|#新宿の日 pic.twitter.com/ez4J3FsJnU
試合後にはサポーターへの挨拶やらフィールドウォークイベントやらもあり、キヅールはそこでも大人気&大活躍を見せておりました。一度は見ておきたかったキヅールを存分に見ることができ、郷里のチームの勝利も見ることができて大変よいお出掛けだったのではないかと思います。今回は残念ながら勝利を得られなかったクリアソン新宿も、「東京23区のなかでもっともJリーグに近い」「新宿から世界を豊かにする」「Enrich the world.」(※いずれもクラブ公式Xより)といった夢と野心を抱いて、引きつづき頑張っていただけたらいいなと思います。国立競技場をホームとする23区内のJリーグクラブ、あるほうが望ましいと僕も思っておりますので。大きな夢に向かって、これからも頑張ってください!
↓試合後には「クリアソン新宿」「行ってみたい」でたくさんの反響が観測されました!

意識高そうなSNSの反響ですね!
こんな反響があったら行きたくなりますもんね!
JFL然とした試合なら1万人は来ないわけで、そこは上手だなと思いました!