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清々しさの正体が分かった気がしました!

熱戦つづくラグビーワールドカップ。29日は日本時間早朝4時に日本代表とサモア代表の試合が行なわれました。起きたまま見るか、寝てから見るかという難しい二択。どちらにしても簡単ではないこの選択、「たとえこの試合で業務が壊れてもいい!」という少年漫画の主人公のような気持ちで僕は「起きたまま見る」を選択しました。その熱い期待が届いたか、日本代表は見事に勝利。次戦アルゼンチン戦が「勝てばベスト8」の大一番になったのでした!



イングランド戦から約2週間、一節試合間隔が空いたことで十分な休養を取れたであろう日本。ここからはサモア・アルゼンチン・日本でどのチームがベスト8へ進むかの直接対決を迎えます。2つ勝てばもちろん文句ナシですし、たぶん2つ勝つしか道はありません。ボーナスポイントだ引き分けのケースだのと考えていけばいろいろ可能性はありますが「勝って決める」のほうが迷いなく出し切れるというもの。ここから先は全部決勝トーナメントの気持ちで臨みたいところです。

そんな痺れる試合の前でもラガーマンというのは何とも爽やかな男ぶりです。日本代表のキャプテンとしてチームを先導する姫野和樹さんは自分たちについてくれたエスコートキッズをハグするのはもちろん、サモア代表のエスコートキッズとも笑顔の握手を交わしていました。これから生き残りを懸けた厳しい戦いが始まるけれど、戦いは試合の間だけで、始まる前と終わったあとは皆仲間。印象的な光景でした。

↓これはめちゃめちゃイイ写真!身体の大小はあっても「人と人」って感じがする!



入場してきた両チームの選手たち。流れるアンセム。サモア代表からは伝統的な戦いの舞踏であるシヴァタウが披露されました。猛々しい舞を前に、日本代表は肩を組んで正面から堂々とそれを受け止め、跳ね返します。これを見るたびに「日本も何か伝統的な戦いの舞を作っておけばよかった…」「信長とか誰か思いつかなかったんか…」「いつかタイムスリップしたら作るように言っておこう…」と思いますが、ないものは仕方ありません。試合のなかで「戦いの舞踏」をお見せしましょう。

迎えたキックオフ。日本は今大会好調のレメキさんをフルバックに入れてきました。さらに、スクラムハーフのポジションにはバイスキャプテンである流大さんではなく斎藤直人さんを入れてきました。コンディションの問題ということですが(※普通に歩いたり記念撮影しているので元気ではある模様)、流さん不在がどう出るか。チームの「総合力」が問われることになりそうです。

まずは陣地の奪い合いという感じになりますが、イングランド戦では課題だったキックでの陣地回復について、「ただ相手にボールを返すだけではなく、ちゃんと競れそうな距離に蹴る」ということを日本はしっかりとやっていきます。イングランド戦では散々にやられたラインアウトでも、今回は高さで勝っているので安定してボールを保持できています。基本的にサモア陣内で試合を進めてくれるので、見ていても安心感がある序盤です。

強烈な突破力が自慢のサモアを前にした押し合いでも負けてはいません。接点ではダブルタックルでしっかり相手を止め、自慢のスクラムはもちろん互角以上、モールではかなり長い距離を押される場面も見られましたが、ジリジリとゲインされるような感じはありません。夏のテストマッチでは敗れた相手ですが、今日はそのときとは違うぞという手応えです。

そして早速試合が動いたのは前半13分。マイボールスクラムで優勢に立った日本は、相手がスクラムの近くをケアしなければいけない状況のなかで、素早くボールを逆サイドへと展開します。レメキさんは今大会でたびたび見せていたキレキレのランを見せ、インゴールへと大きく前進します。最後はラックからの素早いボール出しで相手の隊列が整う前にラブスカフニさんがトライ!コンバージョンゴールも決まってまずは7-0リードです。

↓最後のラックからの球出しの速さと姫野さんのスクリーンが効きました!


反撃を狙うサモアはドライビングモールでの押し込みや、ノールック背面パスでのトライ奪取などを狙ってきますが、日本もしっかりと跳ね返します。互いの攻撃がトライには結びつかず、ペナルティゴールを1本ずつ取り合う展開で時間が経過していきます。しかし、そのなかで試合を動かしたのはまたしても自慢のスクラムでした。最初のトライとまったく同じように、マイボールスクラムで優勢に立ち、バックス陣が素早く逆サイドに展開、そこからレメキさんのランで大きく前進するという流れ。今度はさらに逆サイドへともう一度展開し、ボールサイドに寄ってしまう傾向のあるサモアのラインの穴を突きました。最後は大外で余っていたリーチマイケルさんに飛ばして、滑り込みながらトライ!芝の滑り具合と、相手が外に押し出そうと突っ込んでくるのを見極め、早めに滑り込むクレバーなトライでした!

↓大きくて強くて賢くてそこそこ足が速い!リーチマイケルという万能選手を手にすることのありがたさよ!


かなり厳しい角度からのコンバージョンもしっかり決めて日本が17-3と大きくリード。さらにこのトライに至る過程で相手のスクラムハーフが関係ないところでタックルをしてしまったことで10分間の退場となりました。「これはもう1トライ、さらには4トライでのボーナスポイントもいけるか?」と浮ついた気持ちになりますが、ここから試合は混沌としていきます。相手の退場中の前半37分に、今度は日本も堀江翔太さんが「相手の頭に当たってしまった」ということで10分間退場となります。さらに今大会から導入されているTMOバンカー(※レッドカードで一発退場かどうかを8分間かけて審議する)に問われました。

スローVTRを見る限り、堀江さんは故意に頭に当たりにいったわけではなく、上半身から腕あたりをつかみにいったプレーに見えましたが、審議の結果が出るまではどうなるかわかりません。さまざまなプレーの要と言える堀江さんの退場で、日本にはやおら暗雲が立ち込めてきます。人数が同数に揃ったこともあって、サモアはグッと元気を取り戻し、前半終了間際にはラインアウトからのモールでインゴールまで押し込まれました。同じ人数でも「フォワードが欠けた日本」と「バックスが欠けたサモア」のミスマッチを突かれました。むー、浮ついた気持ちは完全に消えていきました。

前半最後には堀江さんの代わりに何故かリーチマイケルさんがラインアウトのスロワーをつとめ、「日本が最後に攻撃して終わり」と思ったものを逆に「サモアに最後の攻撃機会を与える」というドタバタした場面も生まれました。「何でお前が投げるんだ!」とジョセフHCからは怒られたと言いますが、僕は逆に感謝したいくらいです。その勇気と責任感、そして堀江さんら普段スロワーをつとめている選手の投げるボールはキレイな回転ですごく捕りやすいんだなというのがよくわかったことに対して。堀江さん!真っ直ぐ投げるだけでも結構難しいんですね!真っ直ぐ投げてるだけだと思ってました!

↓これはジョセフHCも怒るわwww何だこの球質wwww

一番手前に投げてるのに、その短い距離でボールがバインバインしてるwww

次行こうとしたらダブルタックルで止めようwww



迎えた後半。審議の結果、堀江さんはレッドカードにはならなかったものの、サモアの退場者は先に試合に復帰し、日本だけがひとり少ないという時間がしばしつづきます。ようやく堀江さんが復帰してイーブンになったかと思いきや、今度は再びサモアに退場者が。日本の突破に対して肩から当たりにいき、タックルが首に入るという格好になってしまったのです。TMOからの呼び掛けでスローVTRを見ると、これは一発退場でもまったくおかしくないという当たり方。もし退場なら日本は俄然優位に立つことになりますが、はたして。

日本は相手だけがひとり少ないこの時間帯を老獪に活かしました。このタイミングでフレッシュなフォワードを投入し、人数の優位と元気さの優位を盾に、ラインアウトからのモールでトライを決めたのです。「効きそうなタイミングでいいアイテムを使う」感じの上手なプレイング。コンバージョンキックはハズレますが、これで日本は22-8とさらにリードを広げます。さぁ、3トライ目も決まってボーナスポイント獲得も見えてきました!

↓キャプテン姫野さんのトライ!


この点差に加え、先ほどのサモアの退場者は審議の結果レッドカードとなり、サモアはひとり少なくなりました。さらに日本はマイボールスクラムで得たペナルティゴールを決めて、25-8と17点差に広げます。2トライ2ゴールしても追いつかない点差です。もうイケイケドンドンの展開です。その後も後半21分に松島幸太朗さんの突破から相手陣内深くまで一気に攻め込んだ場面、後半23分には松島さんの独走トライ(に見えたが日本にノックオンがあり取り消し)の場面など、4トライ目で試合を決定づけられそうな場面が幾度も訪れます。

ただ、その勢いというか浮つきがチームの集中力を削いでしまったかもしれません。あまりに上手くいったので僕も浮つきましたし、チームにも「勝ったな」という思いは広がったでしょう。「ぬるい」とは言いませんが、必死になるほどの状況ではありませんでした。それは逆に、負ければもうベスト8は事実上ないサモアの必死さを際立たせました。サモアはひとり少ないということを感じさせず、むしろ圧力を強めると、後半25分には追撃のトライを決め、日本がペナルティゴールで再び28-15と突き放したあとの後半38分にはさらにトライを決めて28-22と迫ってきました。

6点差は1トライ1ゴールで逆転の僅差です。日本はもはやボーナスポイントを狙える状況ではなく、残り2分あまりを上手く消化して逃げ切りを図る構えに。ホーンが鳴るのを待ちわびたように、最後はボールを獲得した途端に蹴り出して、試合をクローズすることを選ばされました。「ボーナスポイント獲得で完勝」と浮ついた気分はどこへやら、冷や汗混じりの辛勝となりました。

↓いやー、危なかった!ボーナスポイント獲得を狙う余裕などナシ!


互いに苦しい試合でしたが、試合後は互いを讃え合う両チーム。座り込むサモアの選手に日本の選手たちが声を掛けにいく姿も印象的でした。これだけ退場者が出たあとであれば、競技によってはひと悶着あってもおかしくないところですが、まさにノーサイドという清々しい時間でした。この清々しさこそがラグビーの魅力であり、ラグビーで強くなるための真髄だなと思います。

ラグビーでは誰もが審判を尊重し、その判定に敬意を払います。もちろん「?」と思う瞬間もあるでしょうが、それを表に出さないように皆が努めています。その結果「審判と戦う」ようなことにはならず、審判にもしっかりと公平に見極めようとする姿勢や、丁寧に説明しようとする姿勢が保たれます。ビデオ判定員も常に正しい判定をしようと目を光らせ、「それぐらい流しても」と思うほどの反則でも「チェックチェック」の声を掛け、立ち戻って裁き直します。前半20分にあった「ラインアウトの人数が攻撃側のサモアが6人なのに、日本は7人入ってたぞ」というペナルティなど、ほぼ試合に影響ないような場面でしたがしっかりと裁かれました。このフィールドでは「正しさ」が欺かれたり、損をすることがないように全員が努めているのです。

その結果として頻繁に生まれるペナルティはスコアにも直結しますし、陣地回復にも大きく貢献します。ときには退場者を生んで試合の趨勢を大きく変えることも。ペナルティが試合の勝敗を変えると言ってもいいくらいで、ペナルティをせずに戦うことはちょっと強いとかちょっと速いなんてことより遥かに重要なのです。どれだけ強くて速くても、1ペナルティでキックを与えて大きく陣地を挽回され、2ペナルティでキックを決められたらもう3点。守備の途中でペナルティを与えれば、相手はリスクなしで大胆な攻撃を仕掛けられる大チャンス。清く正しくプレーすることは、何よりも強い武器であり、何よりも重要な盾となる、それがラグビー。だからこそ、勝っても負けても、なるほどこれは勝ったほうが強かったなと清々しく納得できるのでしょう。

そういう意味では日本ラグビーが強くなり、こうやって盛り上がりを見せるということにも納得感があります。自慢じゃありませんが日本の社会というのは、世界にいろいろある社会のなかでも「正しさ」や「規律」が大切にされているほうだと思います(※杓子定規過ぎる部分もあるが)。誰も来ていなくても赤信号なら停止するようなお人よしの集まりなのです、我々は。それを生き馬の目を抜くような国の人が見れば「バカか」と思うのかもしれませんが、そうやって規律を守ることで、安心や安全を守っている社会なのだと思います。そのことはちょっと強いとかちょっと速いとかよりも深いところで、日本ラグビーというものを支えていると思うのです。規律、遵法精神、反則を犯さずに戦う土壌がこの国の社会にはあります。

そのことがこの僅差の勝負を分けたかなと思います。首へのタックルでレッドカードをもらってしまうか、反則になりそうな状況ではタックルにいかずに踏み留まることでペナルティを避けるか、そのほんのわずかな違い。熱く激しい勝負のなかだからこそ、それをも上回る規律があるというのが、日本ラグビーの強さであり、愛される理由でもあるように思う試合でした。その点で、最後に追い詰められた時間にペナルティを連発していたのは、まだまだ規律修業不足だったかなと思います。苦しいときこそ正しくプレーする、そんな強い「規律」で次戦には臨んでもらいたいもの。勝てばベスト8、さらにはその先の夢が見えてきます。清く正しく美しく強く、夢に向かって駆け上がってもらいたいものです!

↓プレイヤーオブザマッチにはキレキレのレメキさんが選ばれました!

キッズとの握手で始まり、キッズとの握手で終わる!


次戦アルゼンチン戦は8日の夜8時、眠くない時間に見られることに感謝!