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スポーツエンターテインメントはスポーツが強み!

強いケツイを持ってお出掛けをしてまいりました。2025年11月11日、1年のなかで最大数の1が並ぶ1並びの日に、全国各地の映画館で実施された羽生結弦氏アイスストーリー2nd「RE_PRAY」のアンコール上映を見てきたのです。ド平日の11時始まりor18時30分始まりという企業戦士には若干の調整を擁する時間帯での上映でしたが、何としても行くという強いケツイがあれば何とかなるものだなと思いましたよね。逆に普段22時くらいまで働いてるのって、生きることに緩慢でダラダラやってるだけなんでしょうね…!




公演自体は2024年2月に行なわれたもので、すでにCS放送などもされたもの。この公演の録画映像は僕の自宅のHDDにもバッチリ残っていて、何なら今この場で指を伸ばせばデスクに置いたテレビで再生できます。つい2週間ほど前にもCSテレ朝チャンネルで同じ「RE_PRAY」の埼玉公演が放送されていたりもしますので、この2週間で急に初めて見てみたくなった人はさておき、希少性という意味ではそこまでの機会ではありません。

折からの物価高騰、進まない働き方改革、律儀にキッチリ47都道府県をカバーする体制…どれほどの人が集まるのだろうかと思いながら迎えたチケット発売日。すると、さすがというかやはりというか、全国すべてということではないものの、好調な売れ行きで次々に席が埋まっていき、大都市圏では続々と完売のスクリーンが生まれていきました。傾向としては、よりリッチでより上質な体験を求めて最新大型スクリーンに集中した感じでしょうか。おそらくは「1が並ぶから」という理由でセレクトされたであろうド平日の真昼間という上映日設定のネガティブ要素など無きがごとくです。

あまりに好調なもので「意外に世間は平日でも映画見てるのかな?」と思って、羽生氏完売劇場の別のスクリーンとか見ていくと前日時点でも売れてるの「2席」とかだったりして、思わずクリックして確かめたりしましたよね。「やっぱりこの白いほうが買える席で黒いほうが買えない席だよな」「じゃ、2席か」「別の映画は…こっちは4席」などとやっていると、よくぞこれだけの人々が47都道府県に分散しながら集ったものだと感心するやら誇らしくなるやらしました。

僕は会社業務との兼ね合い&利便性などを考えて、とある劇場の夜の回に参加することに。こちらは立地やら規模やらで選ばれにくかったのか完売とはなっていませんでしたが、スクリーン真ん前の良席は売り切れており、6割くらいの入りでしょうか。ただ、その時間帯その劇場では間違いなく「RE_PRAY」がナンバーワンの客入りでした。何せロビーで待っている人たちは皆グッズを持っていたり、青いパーカーを着ていたりするお仲間なのですから。もはや観衆全員羽生客の勢いです。

今年2月の「Echoes of Life」公演や3月の「notte stellata2025」が急に遠い昔に思えるような、久しぶりに薄っすらと感じる「公演前」のあの空気。もちろん公演現地とは違う映画館のロビーに過ぎないのですが、人が集い、これから楽しいことが始まるぞとワクワクしているあの空気がそよ風のように漂ってくることに、懐かしさと高揚感を覚えます。「高揚してきたぞ!」「よしポップコーン買おう!」「キャラメル味ください!」みたいな上機嫌でスクリーンインする僕。テンション上がり過ぎて阿修羅ちゃん前にポップコーン食べ終わってしまったのはハラペコ反省点ですが、まぁそれぐらい盛り上がっていたのでしょう。

公演の内容についてはもうあちらこちらで話題になり記録されておりますし、僕自身も何度もブログに書いているので、存分に各位振り返っていただければと思います。来年1月23日のワンツースリーの日にはBlu-ray&DVDも発売されますので、そちらで解説(答え)とともにご覧いただくのもよいでしょう。個人的には、何度も見てとうに知っていたことではありますが、やっぱりこの公演というかアイスストーリーというかスポーツエンターテインメントというか「コレ」は凄いものだなと再認識するような時間でした。結果知ってるのに手に汗握り、映画館ながら大きな拍手をして、心で勝利の喝采をあげるような時間でした。改めて「空前絶後・唯一無二」だなと思い、コレを体験できている昨今の幸せを噛み締め、永くこの時間がつづいてほしいなと祈りましたよね。明けないメンテナンスはないんだよ、と。

↓2時間半の上映は大きな拍手のなかで閉幕を迎えました!




「色んなアイスショーが終わる」と業界的な心配の声もあがる昨今ですが、終わるのには終わる理由があり、終わらないのには終わらない理由がある、そんなことを思います。そもそもまず大前提として「アイスショーが存在している」時点でこれはもう大変な偉業というかすごいことだと僕は思っています。終わるのを嘆くとか案ずる以前に、「ある」こと自体がすごいことなんだよと。

この世界にはさまざまなエンターテインメントがあります。スポーツもそのひとつですが、映画やテレビに動画配信、舞台芸術、音楽ライブ、テーマパーク、ゲーム、SNSなどなど人間が楽しむための出来事や場所はたくさんあります。ライバルは数限りなく存在し、時間とお金を奪い合っています。そのなかでスポーツエンターテインメントが持つ強みは、「鍛え上げた肉体と技能」が生み出す、その場でリアルに行なわれる即興の「勝負」にほかなりません。

映画がスタントマンとCGを駆使してようやく実現するようなことを、あるいはゲームがモニターのなかで疑似的に表現するようなことを、アスリートが自らの肉体でその場でやってみせることに、ほかのエンターテインメントが絶対に勝てないスポーツのストロングポイントがあるのです。人間が「勝負」を見て楽しむ生き物である限り、人間と人間が生身で戦うスポーツエンターテインメントは決してなくならないし、誰にも脅かされることはないでしょう。AIがどれだけ発達したとしても、泥にまみれ汗と涙を流しながら死闘を演じることはできないのです。それを見られる機会はスポーツエンターテインメントにしか存在しない。

そのとき、一般的・旧来の意味においての「アイスショー」はスポーツエンターテインメントが持つ一番のストロングポイントを十分に活かしていないタイプの催しです。競技会のように体力・技術の上限を追求するわけではなく(ですよね?)、選手間の順位付けをするわけでも過去の自分を超える演技を目指すわけでもない(ですよね?)。言うなればサッカーの国際親善試合とかプロ野球のオールスターゲームのように、ほかのところで名を挙げたスターたちがリラックスした状態で華やかなプレーをするのを見て楽しむ、そういう催しです。それはそれで楽しいものですが、サッカーだって野球だってそれを一年中やれるわけではありません。年に一回と限るとか、いろんな国をメッシさんが転々としながら試合するとか、たまに見るのはいいよねくらいの話です。

その意味で一般的・旧来の意味においてのアイスショーは「肉体・技能」部分の薄まり具合と「勝負」の不存在によってどうしたって競技会を超えるものにはなり得ず、オリンピックという高い頂点がある前提で、そこで生まれたスターをまとめて見られる貴重な機会として成立していたと思うのです。そして、その構造はほかのエンターテインメントとの競合においては一番の強みを活かせないということであり、そのなかでフィギュアスケートがアイスショーという催しを長きにわたってつづけてこられたのは、それ自体が偉業だと僕は思うのです。競技自体が備えるダンス・舞踏に通ずる美しい動作や、音楽と一体なって演じるという建付け、氷の上というキラキラした素敵な雰囲気などが相まって、スポーツらしさを薄めても十二分に面白いものになっていた、それはもうすごいことだと。体操、新体操、アーティスティックスイミング、空手形、似た性質の競技はほかにもありますが、アリーナクラスの規模感で勝負ナシの公演を年に何度もやれる競技がどれだけあるでしょう。「始まらない」がデフォルトであり、「終わる」を嘆くのは贅沢というか、まだ下を向いているような段階ではないはずです。

では、こうしたなかでアイスショーが興行・生業として今後も末永く成立していくにはどうしたものかと考えると、音楽ライブを念頭に歌い手を招いて共演するとか、バレエや歌舞伎を念頭にストーリー性を持たせるとか、あるいはエンタメならエンタメと振り切って「ふれあい」を増やすとか幕間のトークショーやお楽しみゲーム大会にチカラを入れるとかいろいろアイディアは浮かびそうですが、これらはやっぱり少しズレていると思うのです。「もっと楽しいオールスターゲームをやる」ことを考えるのは結構ですが、本当に必要なのはスポーツエンターテインメントがスポーツであることだと思うのです。そこで対抗しないで、どうやってほかのエンターテインメントと競い合っていくのかと。生まれたときからバレエやってる生粋の踊り手や、ヒット曲満載の音楽ライブからどうやって時間とお金を奪うのかと。アスリートなんだから、スポーツやるしかないでしょう。トンカツ屋は美味いトンカツを出すことが大事なのであって、付け合わせのポテサラが絶品であるとかはオマケでしかないのです。

競技会よりもすごい演技、より完成された演技、競技ルールを超越する演技、誰かと戦うのでなければ自分と戦って自分を超えるような勝負、そこにこそ一般的・旧来のアイスショーと一線を画し、さらなる成長・発展をうかがうための展望があると僕は思います。「競技会>アイスショー」という関係ではなく、「アマチュアスポーツ<プロスポーツ」の関係になるような展望が。もしよりよい演技のために「音楽は生演奏がいいな」「歌い手と共演したほうがいいな」という進化があるならそうすればいいですし、プログラム単体ではなく公演全体をひとつに束ねるストーリー性があったほうがいいなと感じるならそうすればいいですし、ふれあいもトークもどんどんやればいいですが、すべては最終的に「肉体・技能」「勝負」をより際立たせてこそです。

その点で、昨夜見た「RE_PRAY」であったりのアイスストーリーはすごいもので見るべきものだなと思います。そのままオリンピックで演じられてもいいような技能を駆使しつつ(4回転もバンバン決めるぞ)、ひとりで2時間超10演目超を演じるという競技会時代を遥かに超える肉体の酷使に挑み(同じことできる人歴史上にいるかな?)、過去の自分を超えようとプログラムごとに息を乱し倒れ込みながら熱演し(過去映像見ると今が明らかに上手い)、五輪2連覇の世界的スターが五輪以上の全身全霊で(立って笑ってるだけでもお客来るだろうに)、より高度に演出された勝負を演じるのですから(あの6分間練習から破滅の流れ超アガる)。演出・映像・音楽・照明どれも掛け値なしに上質でカッコよく(MIKIKO先生ありがとうございます)、ストーリー部分は中毒性があるというか何度も見て何度も考察して自分のなかに何かが広がっていくような不思議な魅力がありますし(哲学)、グッズもデザインよくて普通に欲しくなりますし(本音/いつも厳選してるつもり)、何もかもが「プロスポーツ」なんですよね。周辺エンタメ部分全部満たしているのはプロとして当然で、肝心要のスポーツ部分が今まで以上にすごいわけですから、これは見たくもなるというもの。見場のよさや人柄にも惹かれて「推す」ほどになったファンならなおのこと遠征&通い詰めともなるわけです。

オリンピックという素晴らしい思い出はあるけれど、今次に見たいのは新しいアイスストーリー。

そういう風に「アイスショー」が言われるようであれば、そういう風に言われる「アイスショー」がスタンダードになれば、日本には世界に名だたる素晴らしい選手がたくさんいますし、魅力的な会場も優れた演出家・音楽家もいますし、世界のなかでも熱心な競技ファンがたくさんいるわけですから、浮き沈みはあるにせよひとつの文化としてアイスショーは長くつづいていくのではないでしょうか。オリンピックで生まれたスターをお披露目する縮小再生産であれば、よくも悪くもオリンピック次第になるでしょうが。

幸い、昨今は日本フィギュアの黄金時代を作った選手たちがそれぞれ独自の公演を立ち上げていろいろな取り組みをしていますので、そこから新しいプロスポーツとしてのフィギュアスケートが盛り上がっていく過渡期なのではないかと思います。まぁ「You、アイスストーリー見なよ」で全部解決ってできたらいいのかもしれませんが、いかんせん箱を歴戦のファンが真っ先に埋めてしまうので、文化として成立させるにしては新規が入れる機会がないのが悩ましいところです。初手が映画館ってのも誰か誘ってくれる友だちでもいないと踏ん切れないでしょうし、CS放送ってそもそも気づかないパターンもありますからね。いっそ歴戦のファンでも全部はついてこれないぐらい各地を転々とする大遠征ツアーとかですかね。振り切ったぶんだけ会場周辺の人が集まれる感じの。アイスストーリー「SEIMEI」(アイスストーリー演出でフルのSEIMEIが見られる陰陽師の討魔物語)とかで大遠征なんてアリかもですね。できるかどうかの演者負担は一旦置くとして。

と、メンテナンス期間なのに先々のことを考えてしまうような夢膨らむ時間になった今回の上映。

自分で思っている以上に待望だったらしく、終演後テンション上がってラーメン食べて、家で「RE_PRAY」と「Echoes of Life」見ましたよね!

1並びの日、大いに楽しみました!ありがとうございます!



現地はさらにすごいので映画館初見勢はぜひ現地へどうぞ(券次第)!