12:31
眩しい、眩しい、32年ぶりの銅メダルです!

決着の瞬間、代々木第一体育館は金色の光に包まれていました。詰め掛けた12000人に及ぶ大観衆。スタンドの座席はビッシリと埋まり、外周の通路には立ち見客があふれる大入り。その手に握られた金色に輝くスティックバルーンが甲高い音を奏で、ライトの光をキラキラと反射させる。両手に黄金の光を携えた観衆が一斉に立ち上がると、さながらそこは金色の草原のよう。実りの時。歓喜の時。長い雌伏を経て、全日本女子バレーが甦った瞬間でした。まさに火の鳥のように。

眞鍋監督就任以降、着実に結果を残しステップアップしてきた全日本。iPadを活用した情報分析。男子選手を相手にしたレシーブ特訓。ブロックシステムの見直し。新戦力の発掘。華やかではあったけれども、どこか旧態依然とした数年間を振り払うかのように、世界標準へと追い上げを進めてきました。トリノ国際では優勝を果たし、ワールドグランプリではブラジルから勝利をおさめました。手応えを感じさせる戦いの数々。

そして、そんな手応えでガッシリとつかんだ世界選手権銅メダル。

バレーの国際大会はわりと頻繁に開催されているので、どれがどれやらという感じもしますが、この大会は間違いなく世界トップの権威ある大会。4年に一度という開催期間はもちろん、出場国の多さという意味では五輪をも凌ぐ規模の大会です。そこで日本は堂々の3位に入ったのです。メダルを分け合ったロシア・ブラジルからもセットを奪い、ブラジルにはあと一歩で再びの金星という戦いまで見せました。日本を下した瞬間、ブラジル選手たちがあげた雄叫びは本物でした。王者ブラジルも、それだけ苦しんでいました。メダルを奪い合うステージに本当の意味で日本が足を踏み入れた、そう言ってもいいでしょう。

偶然拾ったメダルではなく、日本が強くなったことを証明するメダル。

表彰式でコメントを求められた選手たちは口々に「みなさんの応援のおかげです」と語りました。試合直後の木村沙織も「みなさんの応援のおかげ…です?」と天然のサオリンに戻って笑いを取りました。自国開催だから獲れたメダル…そうした声も出るでしょうし、選手のみなさんも本当にそう思っているのかもしれません。でも、それは違う。勝ったのはあなたたちの力で、あなたたちのおかげで獲れた銅メダル。開場前から代々木第一体育館をグルリと取り囲むほどのファンを呼び寄せたことを含め、すべてあなたたちの実力です。自分たちの力を誇り、大いに胸を張ってほしいもの。多くのファンが一度も見たことのないそのメダルを、しっかりとみんなが見られるように。

ありがとう!おめでとう!全日本女子!

ということで全日本女子の歓喜の瞬間について、14日にTBSが中継した「世界バレー 3位決定戦 日本VSアメリカ戦」からチェックしていきましょう。



◆サオリン!サオリン!ミラクルサオリン!可能性は無限大だ!

世界バレー決勝ラウンドでのブラジルとの死闘。35-33までもつれた第2セットは代々木第一体育館に地響きさえ起こりました。敗れてなお希望を感じさせる戦いは、確実にバレーファンを刺激したはず。14日の銅メダルをかけたアメリカとの3位決定戦。開場前から渋谷口方面まで建物を取り囲む長蛇の列。バレー経験者とおぼしき長身の男性は「こんなの初めて見た…」と漏らし、何故か朝イチから来ているブラジルサポーターが奇声を上げる。ただならぬ盛り上がり、ただならぬ熱気が、全日本を応援するために会場を包み込んだのです。

17時から開始の日本VSアメリカ戦。アリーナから自由席の最後列までびっしりと埋まった座席。試合が始まるまではエグザイルファンがエグザイルの動向をチェックするのに必死だったりするものですが、この日ばかりは全員が試合に集中。特別席のエグザイルもUSAメンバーの芸名が若干アメリカ寄りなのが気になりますが、全日本応援で一致団結。これまでにWaTさんや松田聖子さんが見せてきた退屈な表情など微塵も見せません。

●第1セット
そして始まった試合。アメリカはセッターに腹が気になるバーグを起用するも、トム・シコラの鉄壁の守備は健在。驚異的な打点を誇るフッカーなどさすがの顔ぶれ。日本のスタメンは竹下・木村・井上・山口・江畑・山本・リベロに佐野で、竹下が前衛ライトからスタートする布陣。

日本は昨日の激戦の疲労かメダルへの重圧か動きに精彩を欠きます。トスとアタッカーの動きが合わず、ムリに返しているような攻撃。2度目のテクニカルタイムアウト前後には連続失点。日本のタイムアウトを含め何度も修正を試みますが流れは変えられず一気に11-18と7点ビハインド。江畑がシャットアウトされるなど日本のスパイクはとにかく決まらず、決定率で10%台という有様。

もはや第一セット奪取は絶望的ですが、日本はこの先のセットを見据え、とにかく流れを変えて「いい形でセットを落とす」ことに集中。荒木を投入し、山本にBクイックを打たせるなどセンター線から変化を起こそうとします。が、流れを変えるまでには至らず結局18-25と大差での決着。会場もどんよりとした空気に包まれます。


●第2セット

立ち上がりから井上のスパイクアウト、木村のシャットアウトなどで連続4失点。「こりゃアカン…」と思ったところでラッキーな事件が。アメリカのゴーグル選手・アキンラデオがブロード攻撃を連続アウト。日本のクロスをしっかり閉めて、ストレート打ちを誘うブロックが功を奏したか序盤で幸運な追い上げができました。0-4スタートから6-8でのテクニカルタイムアウトなら上出来です。

タイムアウト明けには、山本がおとりに飛んで山口が打つダブルクイックを決めていい感じのリスタートをはたすも、木村のスパイクがネットを越えず、江畑のストレート打ちもアウトになるなど、引き続きスパイクが決まらない苦しい展開。木村頼りの日本の攻撃、その疲労感が重くのしかかります。

しかし、ここで眞鍋監督の頭脳的奇襲が火を吹きます。8-11の場面で江畑に代わって石田をピンチサーブで起用。ブラジル戦からベンチ入りした石田は第4セットの重要な場面での痛いサーブミスを含め、前戦ではピンチサーブのみでの起用。ここも当然1本集中の場面かと思われましたが、サイドアウト後もそのままコートに残り、ライトからバックアタックでポイント奪取!アメリカも日本のファンも「えっ!?」と驚いた石田の連続アタック。さらに井上のブロードを連発すると、アメリカのデータは大混乱。これまで日本のトス回しを読みきったかのように安定したブロックを見せていた守備網が乱れていきます。

↓全日本女子、本日のラッキーアイテムは石田瑞穂!

1









今日は頼むぞ!迫田のぶんまで!


そして、もっとも得点が狙える竹下サーブのローテではついに14-13と逆転。竹下は伸びるサーブ、落とすサーブなど前後の揺さぶりをまじえアメリカの守備陣を攻め立てます。背こそ低いものの、レシーブ・トスアップ・サーブ・インサイドワーク…背丈以外の部分での竹下の存在感はやはり別格。長い雌伏の時代、パワーと高さに敗れるたび竹下は「日本の弱さの象徴」とされてきました。歴代の監督が大型セッターを探し求めてきました。それでもいつもコートにいたのは竹下。その意味がこの試合で見えた気がします。

サーブから相手の守備を崩していく、日本のサーブVSアメリカのレセプションというこの日の戦いの構図が明確になったこのセット。一旦はアメリカに追いつかれながらも日本が25-23で1セットを奪い返しました。


●第3セット
石田がそのままコートに残る形でスタート。竹下サーブのローテで連続ポイントを奪い、日本がリードする立ち上がり。しかし、アメリカもトムのサーブから連続ポイントですかさず追い上げ。流れが行き来するシーソーゲームは終盤まで続きますが、日本が石田を下げて守備固めの井野を投入したあたりから攻撃枚数が足りなくなり、じわじわと点差がついていくことに。結局このセットは21-25で落とし、日本あとがなくなります。


●第4セット
このセット、日本はスタメンで荒木を起用。ここまであまり出番がなくフレッシュなエリカ様の肉体は、この土壇場で躍動。第1セットで手応えをつかんだ布陣を、この大事な場面で採用すると、荒木はそれに応えてクイック・サービスエースなどで点差を広げていきます。

↓サービスエースを決めたエリカ様はこの表情!
2









やったなキャプテン!

沢尻エリカ、宍戸江利花(アジャ・コング)に並ぶ日本3大エリカ様に昇格だ!


中盤には14-9と大量リード。「お見合い」で失点する悪い場面もありましたが、荒木・石田というこの日のラッキーガール(ガール…?)がしっかりと立て直し、第4セットも日本が奪取。セットカウント2-2で勝負は最終第5セットへ。


●第5セット
アメリカはローテをいじってトムのサーブからスタート。勝負をかける采配でもあり、上手くいっていないということの証明でもある「変化」を起こしてきます。一方、日本は荒木をスタメンで起用するなど第4セットの勢いをそのままに、アメリカを攻め立てていきます。

そして、このセットで輝いたのは日本の大黒柱、どの試合も常に日本の中心にいた女神・木村沙織。レセプション数・スパイク数ともチームナンバーワン。日本のバレーは単純に言えば木村が拾い、竹下が上げて、木村が打つという組み立て。休みなく戦い続けてきた肉体は悲鳴を上げ、決勝ラウンドではジャンプの高さも目に見えて落ちていました。しかし、それでも頼られ、それでも決めるのがエース。

木村の卓越した技術は、ロシアのガモワやブラジルのシェイラとは違った意味で驚愕の連続。無理な体勢でも手首のコントロールで、すさまじく深いクロスから、ブロックアウトを狙うストレートまで打ち分ける巧みさ。レシーブ・トス・ブロックもこなし、サーブでも得点源となるオールラウンダーぶり。しかもかわいくてオッパイがデカイ。この選手の登場・成長なくして、日本の銅メダルはなかったでしょう。流れを失いかねない大事なポイント、ここで決めたい大事なポイントを何度木村が拾ってきたか。木村が得点を決めたあとの「きむーらさおり!」のコールが何度会場に響いたか。

木村は第5セット序盤に2連続サービスエースで、大きな大きなリードを築きます。15点で決まる第5セットは序盤にリードしたチームが圧倒的に有利。銅メダルサーブと言っても過言ではないこの2点で、日本はメダルへと疾走。

↓サオリンはボールにキッスで愛情を込める!

3









うぉぉぉ!ボールになりたい!

もしくは僕のボールを貸したい!


↓得点を決めたサオリンのテンションは最高潮!
4









うぉぉぉ!その笑顔を抱き締めたい!



順調に得点を重ねる日本。木村、木村、木村と3本のスパイクを放ちもぎ取った10点目。アメリカのブロックを跳ね除けた11点目。アメリカの攻撃をブロックで止めた13点目。深いクロスでアメリカの守備を崩し、返球させなかった14点目。木村が次々に奪う得点。コートの女神の降臨に、勝利を確信した大観衆。

そして最後のポイントも、もちろん木村沙織から。竹下のディグから佐野がアンダーで上げたボールを打ち抜くと、アメリカの手を弾いたボールはコートの外へ。全日本が、木村沙織が、32年ぶりのメダルをその手にしたのです。

↓やった!決めた!全日本女子歓喜の銅メダル獲得!


おめでとう!!!!!!!!!

ありがとう!!!!!!!!!


涙、涙の選手たち。枯れた表情を崩さなかった竹下の目にも、エリカ様の目にも、そして日本のエース木村沙織の目にも。大きな雄叫びを上げた木村沙織は、夢心地の中で天然ボケ少女・サオリンに戻っていきました。マイクを向けられたサオリンは「みなさんの応援のおかげ…です?」と会心のボケ披露。会場を大きな笑い声で満たしたのでした…。

↓サオリン:「みなさんの応援のおかげ…です?」
5









違うよ!キミたちの、特にキミのおかげだよ!

大きくなったな!きっとみんな喜んでいるぞ!


素晴らしい銅メダルを、素晴らしい戦いを見られて、本当に幸せでした!