08:00
「共に、前へ」の心で!

15日に配信された「能登半島復興支援チャリティー演技会〜挑戦 チャレンジ〜」はご覧になりましたでしょうか。羽生結弦氏の演技そのものを新たに見守る機会としては久しぶりのような感覚もあり、僕も15時からの配信を楽しみに待ち受けておりました。もっとも十分に建付けを理解しておらず、ライブ配信なのかどうかも明確には承知していないくらいの感じでしたが、翌日の報道など見ましてようやく全体像に理解が及んできました。





会場となったのは現地にあるスポーツセンターのリンクで、そこに羽生氏のほか無良崇人さん、鈴木明子さん、宮原知子さんの出演者が集いつつ、ネットワークで能登高校書道部の皆さんと輪島・和太鼓虎之介の皆さんをつないでの公演となっておりました。会場内には被災各県から招待された子どもたち(&保護者さん)の姿が少数見受けられたほか、大型のモニターが置かれておりパブリックビューイング会場の様子も映されているようでした。

会場には大掛かりな照明・演出の設備はなく、カメラやマイクの台数にも限りがあるようでした。そもそもいわゆるスタンドというか観客席がなく、あくまでも少数の関係者が見守れるだけの環境です。聞けば現地では通年のアイスリンク自体がなく、冬季に運営されるリンクを通例よりも前倒しで氷を張って今回の開催に漕ぎつけたのだと言います。その意味では、ショーアップされた大型公演とは趣が異なるものです。

しかし、それがすごく心安らぐような公演でした。

オープニング、明るい照明のもと輪島・和太鼓虎之介の皆さんによる能登國切籠祭に乗せて滑り出した4名のスケーターたち。衣装はこのイベントのチャリティーTシャツです。光の演出や特殊効果は用いず、和太鼓と選手たちの滑り、そこに重ねるエッジの音で演目を作っていきます。そこにはチャリティーとしての性質上なるべくコストをかけず寄付額を増やしたいという前提がありつつも、単純なコストだけではない、この公演の精神性のようなものを僕は感じました。そして、その後つづいたのが輪島・和太鼓虎之介の皆さんの演奏であり、能登高校書道部の皆さんのパフォーマンスであったことにも、同じような精神性を感じました。

それは「共に、前へ」の心です。

現地に行くこと、現地でできることでやること、現地の人と共にやること、それが何よりも大切にされていたのだろう、そんなことを思いました。世のなかにはいろいろな形のチャリティーがあります。もっと大規模にニューヨークや東京ドームで何かを行なって、大きな収益を寄付として届ける形もあるでしょう。現地に素晴らしいパフォーマンスやエンターテインメントを持ち込むことで、元気を出してもらうという形もあると思います。ただ、今回はそういう形ではなく、自ら立ち上がり歩き出そうとしている人に、これからそういう心持ちを目指そうとしてる人に、そしてまだそんな気持ちには至れない人に歩み寄って寄り添い、最初の、小さな、元気や勇気を一緒に掘り起こしていくような、そんな想いを僕は感じました。言葉にすれば「共に、前へ」とでも言うような。

公演全体でも特に印象的だった演目のひとつが能登高校書道部と和太鼓奏者の今井昴さんによる書道パフォーマンスでした。ニュースなどで聞いた校舎や生徒・関係者の方々の被災の様子と、笑顔と元気と輝きがあふれるパフォーマンスと、それが太鼓と紙と墨と筆と身体で行なわれるという形式とが、素朴であるぶん力強く、天災にも負けない人間の強さを感じさせてくれたような気がしたのです。たとえ天災が来たとしても、人間からすべての太鼓と紙と墨を筆を奪うことはできないでしょう。すべてが奪われてもすぐさままた(最高の品質ではないにしろ)作り出すことができる自然の恵みなわけですから。そうして記されたメッセージの全体像を見たときに、またその言葉が強く、たくましく、輝くばかりなのです。完成品は実際の映像で見てもらうのがよいですが、そのなかに比較的小さく書かれた「私は負けない」の文字を見ると、今もまた思い出して涙が出てくるのです。羽生氏を見ようと見始めたはずが、若者の輝きに心惹きつけられてしまい、心の「主役」さえも持っていかれんばかりに眩しいのです。

それでいいし、そうあるべきなのだと思いました。遠くからお金や物資を届ける形や、楽しいもの元気が出るものを持ち込む形も素晴らしいけれど、一番大切なことはそこにいる傷ついた人たちが自らを癒し、自らのチカラで再び輝くことだろうと思います。そうでなければ「復興」ではないのですから。現地でやること、現地のものでやること、現地の人と共にやることを通じて、彼ら彼女らもまた「主役」となり、世界のスケーターたちと併走しながら自らを輝かせていく機会なのだと思うと、見始めたときよりも一層の意義を感じながらの鑑賞となり、襟を正すような気持ちになりました。あぁ、そうか、一緒に立ち上がり、一緒に踏み出すために肩を貸しに来たのだ、そう思いました。「届ける」ことも目的ではあるけれど、何よりも手を握り、肩を貸しに来たのだと。そして、これを見せたかったのだと。




それだけに、その後のスケーターたちの演目に入る段では少しの緊張感も覚えました。ここからもう一度、自分たちの演技でしっかりと肩を貸せるだけの存在感を見せなければ公演が美しくまとまらないでしょう。その重圧をチカラに変えていくスケーターたちはさすが「世界」の選手たちです。ホッケーサイズよりもさらに小さいと思しきリンクでも雄大に勇敢に演じた無良さんの「燦燦」、そこに「愛の賛歌」をつなげて「愛燦燦」のメッセージを贈り返した鈴木さんの演技と構成力、大切な人を失った人への思いを聖歌に重ねるように演じた宮原さんの「Stabat mater dolorosa」。いずれもそれぞれの思いが言葉ではなく演技で届くような、言葉ではなく演技だから受け止めやすくなるような、柔らかな演技たちでした。スポーツのチカラを柔らかく重湯にしたような、しみわたるエールでした。

そして、羽生氏は祈りの演目の代表格でもある「春よ、来い」を披露しました。普段なら照明を落として暗闇のなかで演じる「春よ、来い」だけに会場全体が明るいなかでの演技は新鮮でもあり、ピアノを爪弾く細やかな所作までも明滅なく見えてありがたくもあるよう。まるでリンク…大地を鎮めるかのように長く低く身体全体で巡ったハイドロブレーディングや、子どもたちの前でしっかりと放った花びらのような氷の粒も、この日ならではの思い出となるものでした。いい演目を生み、育ててきたのだなぁと改めて噛み締めるような時間でした。優しくて、温かく、次の春…「新春」には少し心が固まる瞬間もあるかもしれませんが、春を待つ気持ちが動き出してくれたらいいなぁと思う演技でした。

その後、公演はフィナーレの4名共演によるMrs.GREEN APPLEの「ケセラセラ」へ。ミセス好きの羽生氏の選曲ということではないとのことですが、企画サイドもその辺りの背景はご承知なのではないでしょうか。僕も企画の立場なら「ミセス見たいです」は言いそうな気がします。ファン目線で見守る者としても貴重な機会を得られて嬉しい限り。その演技は元気で明るく、鈴木さんなどは本当に笑顔いっぱいで(※途中何かに爆笑してた説)、ケセラセラの言葉の意味通りに、哀しみも痛みも今はどうしようもないこともどうしたらいいかわからないことも、「なるようになるさ」と吹き飛ばしてくれるようです。ケセラセラとは不思議な感覚のいい言葉ですね。たとえそこに絶望しかなかったとしても、「なるようになるさ」は間違いにならない、そんな希望の言葉でもあるのですから。たとえ「明日なんて来ない」と思う日であっても「なるようになるさ」は言葉通りの真実なのですから。

楽曲中盤から登場した羽生氏が熱唱しながら演じていることや(※想定内)、自分のところだけ明らかに表現している音と振り付けが3倍マシマシであること(※想定超え過ぎ)には、ここまでのどちらかと言うと「祈りを捧げる」的な静謐なムードが一気に元気なお祭りに転じていくような効果も感じました。ちょっと自分でやる前提のところだけ凄過ぎて、「あ、コレ本人肝入りの振り付け…!」「本人以外こうはしてこない…!」「ひとりオーケストラ…!」ってなりましたからね。とにかくいいものを見させていただき、ありがたい限りです。大いに楽しませていただきました!

↓素晴らしい演技たちをありがとうございました!


公演後も能登高校の皆さんからの質問などに応じつつ、実り多いチャリティー演技会は終了しました。どれも本当にいい質問…今悩んでいることや取り組んでいることがよくわかり、そして真剣であることが感じられる質問ばかりで、いい出会い、いい機会だったなぁと観衆としても嬉しくなりました。一生懸命何かに取り組んでいる人たちの出会いは本当にいいものです。「元気や勇気を届けてくださり感謝しています」という能登高校の皆さんからの締めくくりの言葉にも、「皆さんの姿でこちらも元気や勇気をもらいました」と返したい。皆さんもこの演技会の主役でしたし、しっかり並び立つ存在だったと思います。届けた・受け取ったではなく、一緒に進んだ、そんな思い出にしてもらえたらいいなと思います。

個人的にも、実態としては「楽しい有料配信番組を見た」だけなのですが、それが何かのお役に立つのだということで嬉しく思います。負担感のないフリーライドなのに恐縮ですが、「能登に気持ちを届けた」ということで、少しいい人気分を味わおうと思います。どこかで機会があれば、名目「元気を届ける」で実態としては「楽しく遊び歩いた」みたいなこともできたらいいなと思います。誰かがですね、「ツアーを開催することにした」とかですね、行くべき強い理由と揺るぎない日程を定めていただけるとパワフルに話が進むような気もするのですが、それも含めて機会を探っていきたいと思います。「いつでもいい、いつか」だとどうしても計画がグダグダになるので、「ここしかない、その日」でビシッと行けるといいなと思う次第です。21世紀美術館とかにも足を伸ばしたいので、優先度タカメでお願いできますと幸いです!

↓楽しい演技会を見ているだけなのにちょっといい人を気取れるというありがたさ!

まだご視聴されていない方は次の3連休の予定として、いかがでしょうか!

「高校生の眩しい青春に泣く」「ケセラセラの限界突破に挑む羽生氏」「終盤はほぼチャリティーコンサート状態」の3本でお楽しみください!



「スポーツのチカラ」が柔らかく広がる素敵なチャリティー演技会でした!