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総合力で上回った日本の勝利!

まさに危機一髪でした。27日に行なわれた男子サッカーのロンドン五輪アジア最終予選・シリア戦。ともに2連勝で勝点6同士ながら、総得点で1上回ったシリアが首位に立つ状況。日本は先にホーム戦を消化し、来年の2月に再度シリアと対戦するという流れは波乱の予感十分。ホームで首位に立つことができなければ、何となく敵地では引き分けでゴマかされ、そのあとは手を出すこともできず逃げられる…なんてシナリオも想像できたところ。

実際試合展開は厳しいものでした。前半終了間際に日本が先制するも、後半30分に追いつかれ、時間がどんどん過ぎていきました。引き分けなら依然としてシリアが首位。向こうの思惑どおりになる寸前です。あのチャンスが惜しかった、あのプレーが勿体なかった、あの判断は何なんだ、後悔するポイントが山のように思い浮かびます。

しかし、追い詰められた日本は後半41分に再び勝ち越し、ドラマティックな展開で勝利をおさめることができました。勝つべくして勝ったというよりは、助かった、よかったという安堵を覚える試合。それはまるで、サッカーの神様が「日本勝てよ」と幸運をおしつけてきたような不思議な感覚。特に得点の場面。この予選でたびたび「おや?」なプレーを披露してきた比嘉クンから、驚きのナイスクロスが飛び出したときには、僕の口からも阿部サダヲさんばりの「エーーーーッ!」が飛び出したもの。

ピッチの上ではさしたる優位は築けなかったかもしれません。香川や宇佐美などこの年代の中心選手を欠く影響がないとは言えないでしょう。ただ、上手くいかなければいかないなりに、人がいなければいないなりに、誰かが出てきて仕事をしてしまうのが国の総合力というもの。苦しんだこの2戦に大津を招集し、見事にヒーローとなってしまうあたりが日本の底力。アジアの中で上位に立つ国としてのしぶとさです。

スタジアムの観客もそうです。GK権田が「国立を満員にしてください」と呼び掛け、実際にスタジアムを埋めてみせる日本。一方でシリア側の数少ないサポーターは、国内でつづく反政府デモに対する政府側の弾圧の軋轢をうかがわせるように、遠い日本のスタジアムで延長戦を開始。現行のシリア国旗と反政府側が掲げる緑の旧国旗。2つの旗のどっちを掲げるかで揉めてしまうではありませんか。揉めごとがあれば、それだけサッカーに注ぐエネルギーも削がれるというもの。幸運を押しつけにきた神様にも、「まぁ日本かな」と思ってもらえるような雰囲気があったのではないでしょうか。2月に同じ試合をしたら負けそうな気がしないでもないですが、それはまた2月の話。準備を整えて、しっかりと決着をつけてきてもらいたいものです。

ということで、2011年を気持ちよく乗り切ることができた、「ロンドン五輪アジア最終予選 日本VSシリア戦」をチェックしていきましょう。



◆1点取って、1点取り返されて、1点取って勝った…そんな試合です!


国立競技場に集った2万5000人の観衆。満員にしてほしいと呼び掛けたGK権田も「2万5000人であんなに満員に見えるんですね」と驚くような入り具合。シリアのために解放されたブロックがガラガラで、もともと使う予定のなかったスタンド上段が開いているだけで、実質的には満員御礼状態。事前の記事では「盛り上がりはさっぱり」「選手たちのPR不足は否めない」「いっそホームで苦杯をのめば盛り上がるかも…」なんて煽りもありましたが、十分盛り上がっているではありませんか。

入場してきた日本選手も予選の大一番にむけて集中力を高めます。国歌吹奏の段になって「どっち向くの?」「腕どうする?どうする?」「じゃ胸に当てる感じで」という打ち合わせを始めるシリアと、自然に肩を組む日本。準備段階では日本が半歩リードしているような感触です。マイクが拾ったGK権田のジャイアンばりの君が代に対して、スタンドから「ストップ権田」のメッセージが掲げられた場面では、「先の先まで読んでいるな」と観衆を含めた日本サッカーの底力を再確認させられます。

↓どうでもいいけど、エスコートキッズが寒そうで不憫です!


大人:「選手のみなさんは寒いんでコート着てください!」
大人:「坊やはダメだよ。朝日新聞のロゴが隠れちゃうだろ」
大人:「子どもは風の子、元気な子!」


そして始まった試合。日本側は前の試合から中盤を少し変更しつつ、基本は同じ形でのスタート。開始早々に大迫がキックオフゴールを狙ったシュートを放つなど、「点を取って勝つ!」「ただし得点へのイメージは特にない!」といった攻める意識を感じさせます。シリアも極端に下がるようなことはなく、10番のアルスーマを中心に攻めの姿勢。長身で足元も上手い10番を相手に、日本DFが苦労する場面も多く見られ、さすが首位決戦という様相。「勝って五輪に行く」という気持ちがぶつかり合う好ゲームの予感が漂います。

日本は中盤の展開が好調。やはり相手が多少なりとも攻めてくれるとやりやすいのでしょう。ボールを自由に持てる扇原が左右に広く展開しつつ、機を見て1トップの大迫に縦のボールを入れるなど、いい組み立てを見せます。前の試合ではあまり機能しなかった右サイドからの攻撃も、思い切って右SB酒井宏が攻め上がるスペースを空けておくことで、攻め上がる回数が増加。「1対1なら酒井宏が勝つだろう」という信頼感は、さすが「Jリーグ首位・柏」の原動力。

両チームがゴール前を行き来するような試合。日本は組み立ては上手くいくもシュートを撃てなかったり、ようやく撃ったと思えば当たり損ねたりとフィニッシュの部分がもうひとつ。逆にシリアは組み立ての部分は個人能力にお任せな感が強いものの、セットプレーなどからゴールを狙ってくるボールは鋭く、GK権田がかろうじて防ぐ場面も。

そんな中、日本がペースを握ったのは前半30分すぎ。中盤での細かいパスが連続してつながり出し、前半37分には扇原→大津→大迫→東→山口とダイレクトパスの連続でシリアDFを切り裂く攻撃も。シュートこそ撃てませんが、この攻撃を何回かすれば得点できるだろうという雰囲気が出てきました。

そんな安心感からか、ピッチ解説の名波さんは放送席のセルジオ越後さんからの呼び掛けをガン無視。「ナナミ!」「ナナミさん!」「ナナミ…」という寂しそうなお年寄りの哀愁を全国に放映。中継カメラもベンチで控える永井が大アクビする場面を放映し、「フワァーァ」「もう俺の出番はないな」「シリアも大したことはなかったわ」と余裕の試合状況を表現。

↓そして先制点が生まれたのは前半45分!



右のショートコーナーから濱田!

「大人しい闘莉王」という感じで、守備・攻撃両面で活躍!


後半に入ると同点に追いつこうとシリアはさらにペースアップ。ちょっと無理目なところまでボールを追いかけまわしたり、試合のテンポを上げてきます。日本もいなしてかわす大人のサッカーをすればよかったのでしょうが、売られたケンカは買うぞとばかりに応戦。相手のゴール前で殴り合い、コッチのゴール前で殴り合い、ルーズボールの競り合いでは頭突き・平手打ち・ローキックの応酬。引き続きスタンドで揉めていたらしいシリア体制派VS反政府側の争いのように、バチバチと火花を飛ばします。

後半15分にスルーパスからGK権田と1対1の場面を作られ、酒井宏が必死に戻ってブロックした場面。後半24分にいいミドルシュートを撃たれるも、GK権田がファインセーブで逃れた場面。ピンチの連続。さらに後半26分には相手DF2人をかわした大迫が決定的な場面を作るも、走り込んだ東と山田の「俺の前に出せ!」というアピールをはねのけてシュート!「えぇっ…無視かよ…」と思った東と山田でしたが、相手GKが弾いたボールを東が詰めたところで、今度は山田の華麗なケツブロックが炸裂。「えぇっ…お前かよ…」という東クンのイラッ。「当てるなよ…」という山田クンのムッ。「ちゃんと決めろや…」という大迫からの半端ない視線。ものすごい勢いで日本に不穏な空気が立ち込めてきます。

↓そして、ついにやらかしたのが後半30分!


エエエエエエェェェェェェ…こんなん破られたらキリないぞ…。

闘莉王がいたら味方をブッ飛ばしたあとに、自分にキレるレベルだわ…。


しかし、これで終わらないのが日本のしぶとさ。遠くドイツから帰ってきた「チャラ男」が、いや「何かを持ってる」という意味での「モテ男」がチームを救います。このままかと思った後半41分、左サイドをオーバーラップした比嘉クンがこの日一番のナイスクロス。あまりの美しさにスローモーションのように見えたナイスクロスは、多くの観衆から「85分フラフラしても残り5分で1本のナイスクロスを送る仕事師」「って、めっちゃ非効率やん…」「す…ご…い…ま…ぐ…れ…」というため息を誘うレベル。

↓比嘉クンのナイスクロスに飛び込んだのは大津!



大津:「比嘉からいいクロスがくると感じていた(キリッ)」
比嘉:「まぁまぐれっちゃまぐれなんで(キリッ)」

何かヘンに息の合った二人だなwwww

このチームの左サイド、クラブ帰りのナンパコンビみたいwww


結局この1点を守り切って日本は勝利。2月のアウェー戦に余裕を持ってのぞめることになりました。何となく偶然の感が強い勝利ではありますが、比嘉クンが試合後インタビューで堂々と言い放った「まぐれっちゃまぐれ」というフランクなぶっちゃけぶりには、清々しささえ感じました。そうです、予選は結果がすべて。まぐれだろうが何だろうが、勝ったものが本大会へ進むのです。次回も相手のまぐれよりコッチのまぐれが数多く飛び出すよう、ピッチにひざまずいてお祈りしながら戦いたいものですね。



どうせ本大会では別のチームになるので、今は勝ちさえすればOKです!