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壁にぶち当たれ、そして打ち砕け!その石頭で!

競泳ではプールの壁にタッチする場面が数多く見られます。折り返しのターンで、ゴールする際どい勝負の場面で、選手たちは壁をグッと押しています。その押し具合やタイミングがメダルの色をわけることもあるだけに、選手たちは最後の最後のタッチまで神経を使って競技を行なうのです。

自由形や背泳ぎではクイックターンという、水中で回転しながら足でプールの壁を蹴る方法が主流。バタフライと平泳ぎでは両手でタッチする決まりとなっているので、ターンの際のタッチは手で行ない、その後進む向きを変えています。どちらの方法にせよ、プールでのターンには誰もが一度は憧れるもの。憧れをこじらせた結果、クイックターンの練習をして溺れたという人も多いのではないでしょうか。

最後のタッチ勝負はコンマ1秒の世界。有名な逸話では、ソウル五輪で金メダルを獲った鈴木大地さんが、最後のタッチで競り勝つため爪を伸ばしていたというものが有名です。背泳ぎだと手が大きく弧を描くように動くところを、最後のタッチだけ壁に向かって真っ直ぐ手を伸ばし、爪を突き立てるようにタッチしたという鈴木さん。水掻きとしても活用する大事な爪ですが、爪を折る覚悟で壁に突き立て、そして金メダルを獲得したわけです。泳ぎだけでなくタッチでも激しい勝負が行なわれているんだ…僕も感心したものです。

しかし、パラリンピックの舞台には「爪が折れても構わない」程度の覚悟は吹き飛ぶような、壮絶な鉄人がいました。それは男子100メートル平泳ぎで銀メダルを獲得した中村智太郎さん。中村さんは生まれつき両腕がなく、5歳のときに「溺れないため」にスイミングを始めたそうです。何かその時点で、困難にぶち当たる気まんまんという感じがしますが、溺れないどころか才能は見事に開花。アテネでは銅を獲得し、アジア記録も樹立するなど世界トップクラスのスイマーとなったのです。

そんな中村さんが、日本に衝撃を与えたタッチ時の覚悟。なるほど、幾多の困難にぶち当たりながらも突き破ってきただけの男だと思わされる、壮絶な覚悟を中村さんは決めていたのです。壁にぶち当たり、壁もしくは自分が粉砕されるような壮絶なヤツを…。

ということで、中村さんが銀メダルを獲得した、ロンドンパラリンピック競泳男子100メートル平泳ぎをチェックしていきましょう。



◆鉄人泳法での戦いなら北島康介などプールの藻屑となる!

パラリンピックにおける競泳は、障がいの度合いによってクラス分けこそされるものの、基本的にはオリンピックと同じです。違いとしては、視覚障がいの部門において、タッチが近づいていることを選手に教えるために、係員が棒で水面を叩くことくらい。水面をバシャバシャ叩いて「もうすぐ壁だぞー」と教えるわけです。

しかし、目で見て判断している選手でも神経を遣う部分を、見えない状態でこなすのは難しいもの。棒の叩き具合や歓声による聞こえづらさ、本番を迎えた緊張などがあれば、ミスが出ても仕方ない部分です。

↓ターン直後にミスが出たりするなど、やはりターンは難しい模様!
競泳男子100メートル自由形(視覚障害S11)で、開会式で日本選手団の旗手を務めた木村敬一(東京都)は5位だった。

木村はターン直後、浮き上がったところで左側のレーンに接触してしまうミス。5位に終わったが、自己ベストを更新。「素直に喜びたい」と笑顔だった。

http://www.nikkansports.com/sports/news/f-sp-tp0-20120901-1009757.html

難しいもんだな…。

目が見える選手でも、壁を見やすいように色変えたりするんだもんな…。


↓競泳女子100メートル背泳ぎで金メダルを獲得した秋山里奈さんも、コースをそれて危うく逆転されそうな場面が!
http://cgi4.nhk.or.jp/olympic/common2/player/news/view.cgi?params!!3,NW605513,1.001

あの竿がもっと長ければずっとバシャバシャやって「真っ直ぐ」がわかるのにな!

まぁ、その場合は係員のオッサンに世界レベルの腕力が求められそうだが…。

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と、視覚障がい部門の難しさを踏まえて本題です。

視覚ではなく運動機能に障がいを抱える中村さんの場合、別に棒でバシャバシャやる必要はありません。ただ、一体どうやってターンするのかは謎。平泳ぎでは両腕でタッチするのが決まりですが、中村さんはまさにそこに不便を抱えています。手でタッチするわけにはいかないのです。かといって、「じゃ足でもいいです」というわけにもいきません。クイックターンは明らかに速くて有利ですからね。

ていうか、そもそも論としてどうやって平泳ぎをこなすのか。平泳ぎはブリーストストロークというくらいで、胸の前で水を掻くのが特徴。しかし中村さんはまさにそこに不便を抱えています。謎は深まるばかり。

よく考えれば答えはひとつしかないのですが、その答えに思いいたっても「いやあ、まさか」「それで銀メダルなんて獲れるの?」「無茶すぎる」と逡巡してしまうような中村さんの泳法。これこそ鉄人と呼ぶにふさわしい泳法ではないでしょうか。

↓鉄人・中村智太郎さんが銀メダルを獲得した鉄人泳法!
http://cgi4.nhk.or.jp/olympic/common2/player/news/view.cgi?params!!3,NW605507,0.033

ええええええええwwwwwwwww

いや、ほかにもうちょっと何かなかったのかwwwwwww

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決勝の舞台、5コースで泳ぐ中村さんはキックによる推進力で後半追い上げるスタイル。横にはしっかりと腕で水を掻く選手もいる中で、明らかに中村さんは不利です。さらに不利…というか有利不利じゃなく「無茶しやがって」なのがタッチ。中村さんは50メートルのターンで、何と壁面に向かって頭をゴツン!したではありませんか。普通に考えると、その時点でプールの底に沈んでしまいそう。

しかし、中村さんはプールに沈むこともなく後半に向けてますます加速。中団から上位に上がり、2位争いをしながらレース終盤へ。鈴木大地さんが「爪が折れてもいい」と思った最後のタッチ。「マジで?」「2回目はいくら何でも無茶すぎる」「もう爪ごときで自慢するの恥ずかしいやん…」という戦慄の中で、中村さんは再び頭でゴツン!したのです。

もはや、もともとの障がいよりも、ゴツンしている頭が心配になってくる鉄人泳法。中村さんはこの鉄人泳法でどれだけの練習を積み重ねてきたのでしょう。何千回、何万回とゴツンしてきたのでしょうか。僕はそれだけの回数の頭突きをこなす人間を、少林寺の修行僧以外知りません。鉄人泳法での戦いなら北島康介さんでも中村さんには及ばないでしょう。多分、50メートルのターンで北島さんは「何も言えない…ブクブクブクブク…」状態に陥るでしょうから…。

↓メダルを獲得した中村さんは、NHKの取材に対して喜びを語った!
中村:「直前まで足の張りがありまして思うようにいかなかったんですけれども、試合当日足が軽くなって、泳ぎやすくなりましていい結果になりました」

中村:「いつも国際試合では天井を向いて『自分ならできる、信じる』という言葉を言い聞かせて、試合に臨んでいます」

中村:「自分の思いどおりのレースはできたんですけれども、自己ベストではないので満足はしてないです」

中村:「まだ自分の自己ベストは出ていないので、もう一回挑戦して、センターポールに日の丸を揚げたいと思います」

中村:「前回の北京大会では5位で苦しいときもあったんですけれども、その翌年も両足手術でブランクがあったので、今大会ではメダルを獲るという強い想いが自分の中にはありました」

中村:「メダルを獲るしかないという想いが一番強かったです」

中村:「(チームの)みんなからはおめでとうという祝福の言葉をいただきました」

中村:「(競技が終わったので)早く日本に帰って焼肉を食べたいです!」

中村:「4年後のことは考えてないんですけれども、とりあえずゆっくりしたいです」

「ありがとうございます」「でもまだ満足していません」「焼肉食べたいです」「ゆっくり休みたいです」って、メダリストインタビューの模範解答みたいになっちゃったwww

そんなことより「頭痛くないですか」を聞いてくれwww

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中村さんの言葉にあった「センターポールに日の丸を」。これはロンドン五輪で競泳の選手団が掲げたスローガンです。オリンピアンと同じ気持ちでパラリンピアンも大会に臨んでいるのだ…そんな矜持を見た想いです。今回は銀メダルということで、センターポールに日の丸を揚げることは叶わなかったわけですが、チャンスがあれば4年後に悲願を果たしてもらいたいところ。その暁には、改めて「頭痛くないですか、痛いですよね」の質問をぶつけてみたいものですね。


4年後は日の丸を揚げたセンターポールにゴツン!をお願いします!