2014年02月20日16:52
おかしくって、涙が出そう!
人生とは上手くいかないものですね。不都合ですね。ただ、笑顔で終われたら。それだけでよかったのに。浅田真央はオリンピックで笑顔を残すどころか、表情すら奪われて、小さく震えていました。「何が起きたのか、自分でも、まだ、わからない」と絞り出す言葉。涙をこらえていたのか、涙も出ないのか。お互いに何を言ったらいいのかわからない日って、今日みたいな日のことなんですかね。何か、逆に、笑えてきます。
20日未明。夜明け前の日本に一段深い夜を呼び込んだ、ソチ五輪フィギュア・女子シングルのショートプログラム。浅田真央は、この大会を自身の集大成とする決意だった真央ちゃんは、55.51点で16位となりました。トップのキム・ヨナとは19.41点差。3位のコストナーとは18.61点差。あえて説明する必要もないでしょう。そういうことです。
信じられないスコア。信じられない順位。信じたくない物語。これが浅田真央のラストダンスなのか。これが真央ちゃんの結末なのか。何でしょう、これは。一体どこに描き直しを要求すればいいんでしょうか。描き直しを要求する相手はどこに。誰か描き直しを…。
真央ちゃんが選んだ最後のショートプログラム、ショパンの「ノクターン」。夜想曲と呼ばれるこの調べは、過ぎ去りし夜を想う心なのだそうです。華やかな宴を、愛の踊りを、銀色の星を、その名残を、明けゆく空の下で想う。そんな日の心なのだそうです。
美しい夜が終わってしまう。
もうそこまで朝がきている。
やり直したい昨日が遠くへ流れ。
こんなはずじゃない今日がやってくる。
そういう意味なのか。
真央ちゃんはいつもよりも、静かに、強張った表情で、その時に向かっていました。会場入り。場内の空気を確かめるように、ヘッドフォンで世界を切り離しながら歩く。最終グループ、ウォームアップの時間。トリプルアクセルの確認を繰り返す真央ちゃん。一度クリーンに決めると、そのあとは跳ぶ構えだけを何度も繰り返します。トリプルアクセル。トリプルアクセル。トリプルアクセル。3度、4度とその瞬間だけを何度も繰り返し、つかんだ感触を逃がさないように、手繰り寄せます。失くさないように、握り締めます。
直前に滑るは地元ロシアのソトニコワ。同じロシアのリプニツカヤに注目が集まる中、ロシア女王は華麗に舞います。躍動する演技と、湧き上がる大歓声。会心のジャンプに笑顔が弾け、手拍子が素晴らしい時間を演出していく。曲の終わりを待ちきれないかのように拳を振り下ろすと、歓喜の声を放つ。世界に向けた投げキッス。高得点に驚き、開いた口からは魂まで飛び出しそう。
これが真央ちゃんだったら。
こんな真央ちゃんを見られたら。
そう願っていた光景がそこにありました。
そして、願った光景がズレ出した先に、真央ちゃんはいました。
時計の針が12を指したあと1に戻るように、願った光景のすぐ傍にある、一番遠くの場所に…。
滑り出したノクターン。冒頭のトリプルアクセルは回転不足のまま着氷。真央ちゃんは転倒します。つづくトリプルフリップ。こちらも回転不足での着氷。最後のジャンプはトリプルループからのコンビネーションのはずが、単独のダブルループに。すべてのジャンプを失敗し、コンビネーションという要素が抜けました。
演技を終えたあと、小さく首を振った真央ちゃん。スタンドの日の丸から目を逸らすように、舞台裏へと戻っていきます。どうして誰も抱き締めてやらないのか。そのジャージで自分を温めろとでも言うのだろうか。迎える者のない帰還。真央ちゃんは急ぐようにキス&クライに向かいます。解説者の技術的なミスを指摘する声がやけに耳障りです。得点を待つ間も、確認したあとも、表情は変わりません。もうそれ以上曇れないほど、何もない顔になっていましたから…。
そして真央ちゃんは、立ち上がり、その場をあとにします。
泣くこともなく、むしろ淡々と。
真っ白なジャージと真っ白なリンク、真っ白な浅田真央。
これならいっそ、泣いてくれたほうがよかった…。
「明日がまだあります」
フリープログラムでトリプルアクセル2回成功、3回転ジャンプ6種類を織り交ぜ、合計8回の3回転を。そうだ、そうやって歴史に名を刻もう。金メダルがなくてもいいじゃないか。目にモノ見せてやろう。それこそ浅田真央の集大成だ。やってやろう!明日だ!明日!明日がある!
……なんて、言えないです。いやもう、何も求めたくない。
どうしてほしいかと言ったら、ただ笑ってほしい。笑顔で帰ってきてほしい。でも、どれだけ会心の演技、歴史的な演技をしても、真っ白く震えていた真央ちゃんが笑顔で戻ってくるような気がしない。完璧なら完璧なほど、一日前の悪夢を、それこそ夢であってほしいと蒸し返してしまうような気がします。
もう十分楽しみました。もらうものはすべてもらいましたし、たくさんの思い出もあります。「挫折から立ち直る姿」も結構前から見てきました。何度も見てきました。強いことは知っています。何度も再確認するまでもありません。そういうのはYoutubeとかで見られます。今、それを世間にもう一度示して笑顔で戻ってこいなんて…言えない…。言いたくない…。
真央ちゃんにはもう何も求めません。フリーは文字通り自由に、やりたいことをやりたいようにぶつけてほしい。それがトリプルアクセル連発でも、気の抜けた演技でも構わない。辛ければ休んでも構わない。ただ、何があっても、今度は笑顔で迎えてあげたい。リンクから上がる瞬間、そこに抱きしめる腕がなかったとしても、スタンドから、日本から、手を伸ばしてあげること。真央ちゃんに笑顔がなかったとしても、スタンドから、日本から、これまでもらった全部の笑顔を返してあげること。
微笑みがえし。
見ている僕らが笑っていたら、それが心からの笑顔であったなら、真央ちゃんの顔に映って跳ね返ってくるかもしれない。そういう気持ちで、僕は今夜のフリーを見守るつもりです。今朝は真央ちゃんと一緒に無言になってしまいました。反省します。真央ちゃんが受けたショックより、僕らが受けたショックは遥かに小さく、ノーカウントと言ってもいい程度のものなのですから。今こそこれまでの笑顔をお返ししなくては。
どうしてほしい、はない。
こうしてあげたい、はある。
真央ちゃんが驚くほどの拍手で。信じられないくらいの笑顔で。金メダルか何かを獲ったのかと錯覚するようなハイタッチで。これがお別れなんて嘘みたいに思える「お帰りなさい」で。迎えてあげたいなぁと思うのです。
もしかして、涙の意味まで変えるくらいの笑顔で。
人生とは上手くいかないものですね。不都合ですね。ただ、笑顔で終われたら。それだけでよかったのに。浅田真央はオリンピックで笑顔を残すどころか、表情すら奪われて、小さく震えていました。「何が起きたのか、自分でも、まだ、わからない」と絞り出す言葉。涙をこらえていたのか、涙も出ないのか。お互いに何を言ったらいいのかわからない日って、今日みたいな日のことなんですかね。何か、逆に、笑えてきます。
20日未明。夜明け前の日本に一段深い夜を呼び込んだ、ソチ五輪フィギュア・女子シングルのショートプログラム。浅田真央は、この大会を自身の集大成とする決意だった真央ちゃんは、55.51点で16位となりました。トップのキム・ヨナとは19.41点差。3位のコストナーとは18.61点差。あえて説明する必要もないでしょう。そういうことです。
信じられないスコア。信じられない順位。信じたくない物語。これが浅田真央のラストダンスなのか。これが真央ちゃんの結末なのか。何でしょう、これは。一体どこに描き直しを要求すればいいんでしょうか。描き直しを要求する相手はどこに。誰か描き直しを…。
真央ちゃんが選んだ最後のショートプログラム、ショパンの「ノクターン」。夜想曲と呼ばれるこの調べは、過ぎ去りし夜を想う心なのだそうです。華やかな宴を、愛の踊りを、銀色の星を、その名残を、明けゆく空の下で想う。そんな日の心なのだそうです。
美しい夜が終わってしまう。
もうそこまで朝がきている。
やり直したい昨日が遠くへ流れ。
こんなはずじゃない今日がやってくる。
そういう意味なのか。
真央ちゃんはいつもよりも、静かに、強張った表情で、その時に向かっていました。会場入り。場内の空気を確かめるように、ヘッドフォンで世界を切り離しながら歩く。最終グループ、ウォームアップの時間。トリプルアクセルの確認を繰り返す真央ちゃん。一度クリーンに決めると、そのあとは跳ぶ構えだけを何度も繰り返します。トリプルアクセル。トリプルアクセル。トリプルアクセル。3度、4度とその瞬間だけを何度も繰り返し、つかんだ感触を逃がさないように、手繰り寄せます。失くさないように、握り締めます。
直前に滑るは地元ロシアのソトニコワ。同じロシアのリプニツカヤに注目が集まる中、ロシア女王は華麗に舞います。躍動する演技と、湧き上がる大歓声。会心のジャンプに笑顔が弾け、手拍子が素晴らしい時間を演出していく。曲の終わりを待ちきれないかのように拳を振り下ろすと、歓喜の声を放つ。世界に向けた投げキッス。高得点に驚き、開いた口からは魂まで飛び出しそう。
<動画:ソチ五輪・フィギュアスケート女子SP2位(ソトニコワ)>
http://www.gorin.jp/result/FSFSW010/index.html?bctid=754231475002
これが真央ちゃんだったら。
こんな真央ちゃんを見られたら。
そう願っていた光景がそこにありました。
そして、願った光景がズレ出した先に、真央ちゃんはいました。
時計の針が12を指したあと1に戻るように、願った光景のすぐ傍にある、一番遠くの場所に…。
滑り出したノクターン。冒頭のトリプルアクセルは回転不足のまま着氷。真央ちゃんは転倒します。つづくトリプルフリップ。こちらも回転不足での着氷。最後のジャンプはトリプルループからのコンビネーションのはずが、単独のダブルループに。すべてのジャンプを失敗し、コンビネーションという要素が抜けました。
演技を終えたあと、小さく首を振った真央ちゃん。スタンドの日の丸から目を逸らすように、舞台裏へと戻っていきます。どうして誰も抱き締めてやらないのか。そのジャージで自分を温めろとでも言うのだろうか。迎える者のない帰還。真央ちゃんは急ぐようにキス&クライに向かいます。解説者の技術的なミスを指摘する声がやけに耳障りです。得点を待つ間も、確認したあとも、表情は変わりません。もうそれ以上曇れないほど、何もない顔になっていましたから…。
<動画:ソチ五輪・フィギュアスケート女子SP16位(浅田真央)>
http://www.gorin.jp/result/FSFSW010/index.html?bctid=754248339002
そして真央ちゃんは、立ち上がり、その場をあとにします。
泣くこともなく、むしろ淡々と。
真っ白なジャージと真っ白なリンク、真っ白な浅田真央。
これならいっそ、泣いてくれたほうがよかった…。
――ちょっとまだ私たちも気持ちの整理がつかないんですけれども、この雰囲気の中での演技はどうだったですか?
真央:「そうですね、自分でも、終わってみて、まだ何も、わからないです」
――まだ明日ありますから、みんな変わらず応援しています。楽しみに待っています。
真央:「はい、そうですね。明日は自分のフリーの演技ができるようにしたいと思います」
<動画:浅田真央インタビュー(フィギュア女子シングルショート後)>
http://www.gorin.jp/result/FSFSW010/index.html?bctid=754248337002
「明日がまだあります」
フリープログラムでトリプルアクセル2回成功、3回転ジャンプ6種類を織り交ぜ、合計8回の3回転を。そうだ、そうやって歴史に名を刻もう。金メダルがなくてもいいじゃないか。目にモノ見せてやろう。それこそ浅田真央の集大成だ。やってやろう!明日だ!明日!明日がある!
……なんて、言えないです。いやもう、何も求めたくない。
どうしてほしいかと言ったら、ただ笑ってほしい。笑顔で帰ってきてほしい。でも、どれだけ会心の演技、歴史的な演技をしても、真っ白く震えていた真央ちゃんが笑顔で戻ってくるような気がしない。完璧なら完璧なほど、一日前の悪夢を、それこそ夢であってほしいと蒸し返してしまうような気がします。
もう十分楽しみました。もらうものはすべてもらいましたし、たくさんの思い出もあります。「挫折から立ち直る姿」も結構前から見てきました。何度も見てきました。強いことは知っています。何度も再確認するまでもありません。そういうのはYoutubeとかで見られます。今、それを世間にもう一度示して笑顔で戻ってこいなんて…言えない…。言いたくない…。
真央ちゃんにはもう何も求めません。フリーは文字通り自由に、やりたいことをやりたいようにぶつけてほしい。それがトリプルアクセル連発でも、気の抜けた演技でも構わない。辛ければ休んでも構わない。ただ、何があっても、今度は笑顔で迎えてあげたい。リンクから上がる瞬間、そこに抱きしめる腕がなかったとしても、スタンドから、日本から、手を伸ばしてあげること。真央ちゃんに笑顔がなかったとしても、スタンドから、日本から、これまでもらった全部の笑顔を返してあげること。
微笑みがえし。
見ている僕らが笑っていたら、それが心からの笑顔であったなら、真央ちゃんの顔に映って跳ね返ってくるかもしれない。そういう気持ちで、僕は今夜のフリーを見守るつもりです。今朝は真央ちゃんと一緒に無言になってしまいました。反省します。真央ちゃんが受けたショックより、僕らが受けたショックは遥かに小さく、ノーカウントと言ってもいい程度のものなのですから。今こそこれまでの笑顔をお返ししなくては。
どうしてほしい、はない。
こうしてあげたい、はある。
真央ちゃんが驚くほどの拍手で。信じられないくらいの笑顔で。金メダルか何かを獲ったのかと錯覚するようなハイタッチで。これがお別れなんて嘘みたいに思える「お帰りなさい」で。迎えてあげたいなぁと思うのです。
もしかして、涙の意味まで変えるくらいの笑顔で。
明日発売のNumber846号はソチ五輪直前総力特集「浅田真央 ラストダンス」。集大成となる最後の五輪で、天才スケーターはどんな演技を見せてくれるでしょうか。表紙はこちら⇒ #numberweb pic.twitter.com/00r8FryNA3
? Number Web編集室 (@numberweb) 2014, 1月 29