2016年08月02日07:00
「事実報道」はお好きにどうぞ！
ちょうどいい機会なので、インタビュー記事というものについて持論をまとめたく思います。こんなことを考えた発端は、インターネット界隈で盛り上がっている「吉田沙保里ホテル代別3万円」の件です。何でも吉田さんが新しくマネジメントを委託した事務所が、個別取材に3万円のギャラを要求するようになったため、一部の記者がブーたれているというのです。
僕などは「えっ！吉田さんが3万円で呼べるの！？」「エスパー伊東でさえ20万円くらいとるのに！？」「吉田さんにいろんなユニフォーム着せてコスプレ撮影会したい！」と、軽く興奮してしまいました。システムについてもうちょっと詳しく伺いまして、交通費無料エリアとか、延長料金・オプションなどもぜひぜひ知りたいところ。今井メロさんが「3日で10万円」というノルマ設定だったそうですので、それに比べても十分に優良店と言っていいと思います。大衆向け！
しかし、世間とは難しいもので、「スポーツ報道の取材で金取るのか」と記者グループからはお怒りの声があがっているのだとか。単にケチな話かと思いきや、3万円が安いとか高いとかいう問題ではなく「報道に金銭を発生させない」というのが、報道屋の矜持なのであるといった建てつけでの主張である模様。なるほど、「払いたくても筋が違う」という話なワケですね。適当に「御車代」とかで3万渡せば現場解決という気もしますが、主張は主張として受け止めましょう。
まず大前提として言っておきたいのは、スポーツというエンターテインメントにおいて、マスメディアの存在は必要不可欠であるということ。スポーツは筋書きのないドラマと称されるように、ライブ・エンターテインメントです。もちろん名勝負総集編などの「コピー」によって後日流布されるものもありますが、主体となるのはやはり「ライブ」です。
そのライブを楽しむには、ごく限られた「現地組」をのぞけば、マスメディアによる放送・報道に頼らざるを得ません。朝日新聞とか毎日新聞とかじゃなくてもいいですが、どこかの誰かが「伝える」ことは必要不可欠です。もし、それを排除するならば、スポーツ・エンターテインメントは今よりも小さな規模でまとまらざるを得ません。そして、そのような状況であるならば、現在のような富や栄誉、環境は決して得られない。
川原でボール遊びをしても一銭にもならないものを、銭がとれる見世物に替えるのが小屋であり、小屋のキャパを超えた稼ぎを得る装置がマスメディアである。チケット収入、グッズ収入、広告収入、放映権収入の4本柱のうち、後半2つはマスメディア抜きでは成立しないもの。スポーツとマスメディアは共依存する互恵関係です。ケンカをすることに何の得もないし、最終的には仲良くしないといけない「仲間」です。
その意味で、選手側は大前提として「取材に応じる責務」があると僕は思います。程度問題として、「早朝に自宅に押しかけて」なんて無茶までを受け入れる理由はありませんが、よくあるメディア嫌い型の選手のように「アレもイヤ、コレもイヤ、無言、無視」はやはり間違っている。自分自身はもう十分に稼げるメドが立って何を拒否っても影響はなくとも、その成功を生んだ環境や、後進を育てるための種蒔きとして、トップには果たすべき役割があるのです。
名もなき無力な選手のことなど誰も見向きもしませんし、興味を持ちません。自分たちの競技に恵みをもたらすには、皆が関心を抱くようなトップ選手が、ときに客寄せパンダとなり、ときに世間のアイコンとなり、ときに道化となることは必要です。どんな選手も、過去の先人たちのそうした努力によって今がある。スポーツ報道は競技自体のため、選手自身のためでもあるのです。
吉田さんは、現代の日本アスリート界隈において、ナンバーワンと言ってもいいサービス精神を持った霊長類です。ワリのよくない細かい記事にも登場しますし、情報番組のどうでもいい小ネタコーナーにも嫌な顔せず対応します。「澤さんが結婚しましたよ！」「澤さんが妊娠しましたよ！」という、よく考えたら他人の家庭の無関係な話題についても、世間の要望を察して、丁寧に新規コメントを出してくる。
自身の著書『明日へのタックル！』でも、レスリング協会伝統の姿勢として「マスコミ全面協力」を宣言しています。マイナー競技であるレスリングを何とかして報じてほしい、そのために練習公開日を必ず設け、囲み取材の時間も必ず設け、ネタになりやすいような寒中特訓や滝修行、陶芸体験など珍しい場面を積極的に提供しているのだと。
負けた日も、大事な人をなくした日も、語るべきことを語る。
それはマイクやカメラの向こうに、未来のレスラーや、ファンがいることを知っているから。
吉田さんに関して言うならば、基本的にスポーツ報道の範囲において、吉田さんの個別インタビューなど必要ないはずです。大会前・大会後の適切な時期に練習が公開され、囲みではあっても自由に質問できるわけですから、試合本体を含めて必要な材料は全部採れるはず。そのうえで、イベント仕事などにおいて恋愛話や結婚観も気軽に聞けるのですから、「社会の公器として報じるべき内容」はそれで十二分なはずです。
一番最低限の取材対応としては「出場大会での公式会見のみ応じる」というパターンになるわけですが、吉田さんは常にガバッガバです。自由に実をもいで食えるミカンの木のように、いつでも好きなだけネタが採れる。3万円払わなくてもスポーツ報道が十二分にできるだけのネタを提供してくれているのですから、その3万円はスポーツ報道を超えた先の話を指していると考えるべき。決して、スポーツ報道の取材に金を要求しているものではない。
私見ですが、インタビュー記事には安易な意識のものが多いのではないでしょうか。結局、インタビュー記事はラクなのでしょう。話を聞きさえすれば、自分の頭を使う必要はなく、そのわりに読者のウケはいい。だから、すでに回答済みの質問や、同じ話を何度もさせられることになる。読者を代弁して「くだらない質問」をするのも報道の一部かもしれませんが、くだらない質問をするには、くだらない質問にふさわしい手法があるでしょう。一流のタレントがあえて記者役となって質問する、とか。スポーツ報道記者が本当に聞きたいことを煮詰めて煮詰めて煮詰めた「熟慮の依頼」であれば、「回答済みのくだらない質問」になるはずがない。
他紙と違う記事を載せたいというのは人情としてわかりますが、同じものを見て違うことを書いてこそ、その記事の価値も生まれるというものでしょう。「今日は吉田のシャンプーの香りが違う」とか、「今日の吉田のタックルはお通じがない日のソレだ」とか、「練習場に落ちた汗の味はいつもよりも鉄分の不足を感じた」など、同じ材料で違うものを見ることができるなら、個別取材がなくても独自性は打ち出せるはずです。
↓聞きたいことの大半は、この公式動画でまとまってるだろ！
どうせ「リオで四連覇」って言ってもらいたいだけなんだから、使い回しでお願いします！
同じ話をするだけの個別取材はなくてOK！
それでも、どうしても、話を聞きたいならば、それは「事実報道」とは一線を画した「コンテンツ」としてとらえるべきでしょう。単なる試合の意気込みや反省の弁を事実として紹介するにとどまらない、哲学であったり、物語性を持つようなものとして。
そのとき取材者は「共同著者」とならねばならない。スポーツ選手の自伝などもそうですが、アレは選手が自分でパソコンをカタカタやるわけではなく、「構成」と呼ばれるインタビュアー兼ライターが、選手に話を聞き、考えを引き出し、まとめていくものです。ですので「構成」を担当した人には相応の印税が支払われることが通例であり、例えば長谷部さんの印税「は」全額寄付されたことになっている大ベストセラー『心を整える。』でも実際問題としては……それはまぁいいや。
「共同著者」である聞き手は、質問によって語り手を刺激し、心の奥にあったものを引き出していくのです。単にネタを取りに行くのではなく、掘り起こす。質問に質問をぶつけ、答えを過去の言葉と照らし合わせ、語り手自身も気づいていなかった本当の気持ちを、やり取りの中で見つけていく作業。それこそがインタビュー。一方的に「私はよくわかってませんので、答えを教えてください」なんてのはインタビューとは言えません。ただの質問攻めです。
僕はそのとき、当然あるべき作業として「原稿の確認」を求めたい。
話を聞いて書いた記事が、本人の思っていることとまるで違うなんてこともよくありますが、それは確認の不足にほかなりません。囲み取材でみんなが聞いた話なら、ひとりやふたりが悪意と偏見に満ちた切り取り方をしても、ほかの記事で是正されるでしょうが、個別取材ではその記事一本しかないわけですから、語り手の確認を経ずに出されたら困る。読者としても困る。本人が追認する記事でなければ、作り話と大差ないじゃないですか。
「原稿の確認」は記事のクオリティアップのためにも必要な行為のはずです。会話の中で浮かび上がった新事実を、改めて文章で読み返したとき、また語り手の中に発見があるはずなのですから。「少し時間が経って、もっと自分の中の真実が見えてきた」という貴重なブラッシュアップを得られるのは、原稿の確認のタイミングです。
そりゃあもちろん、「ココはカット」とか検閲が入ることもあるでしょうが、検閲されるようなことを原稿に残している時点で、語り手との意志疎通に失敗しているのですから、その記事はどうせ大した記事ではないのです。本人が語りたくないことも含めて、ともに掘り起こし、新たに光を当て、一緒に整理することができたなら、それは敬意を持って受け入れられる原稿になるはず。
レスリングで前人未到の偉業を成し遂げようという偉人と、一緒にその哲学や物語を書こうというんなら、それぐらいできないとそもそも釣り合わないでしょう。スポーツニュースのインタビューより、異業種のトップランナーとの茶飲み話のほうが得てして面白いのは、「つり合い」がとれているからです。分野は違えど、世界最高峰で悩み・苦しんでいる人同士だから、興味深いコンテンツにもなる。
もしそういうことを一緒にやろうという志ある書き手がいるなら、相応の気持ちで個別取材に応じましょう。単に「金メダル獲ります！」みたいなコメントが欲しいだけなら、公式取材日にまとめてお願いします。事務所の思惑はともかくとして、「囲みはOK、個別は有料」というのは、「報道」と「コンテンツ作り」の明確な線引き。「3万円」というお金は、プロとプロが仕事としてやるんだという「契」のようなものとしてとらえたい。
「吉田沙保里のエッセイ」（※要・構成者）の原稿依頼料が3万円という建てつけの話だと考えれば、何故新聞記者がご立腹なのか、僕にはまったく理解ができません。新聞にだって連載コラムとかはあるでしょうに。本来なら試合後や公式取材日に聞くべきだった話を、あとで自分の都合がいいタイミングで聞こうとしたら有料だと言われて、それでカチンとくるのは筋違いだと思います。聞くべき日に、ちゃんと聞きましょう。
↓聞き忘れたことは、大抵が本とかに載ってると思います！
本人も通りいっぺんの質問には、同じような話するって！
最初の本と2冊目がまったく同じ話とかだったりするじゃない！
ノムさんの本とか大体「野村ノート」じゃないですか！
究極的には、お互いにとってどんなやりがいがあるかという話になっていきます。金の問題じゃないと思うのです。タダでも話したい相手はいるし、どんなに無理をしても会いたい人はいる。お金じゃなくて競技の普及のためのアピールや、イベントの告知のために記事を作ってもらいたいときもある。それが「3万円」って話になるようなら、乗り気じゃないんだなと察するくらいの人間力は持っていたいもの。強く何かを感じたとき、「この人に聞いてもらいたい」と思われるような聞き手なら、事務所とかギャラとか関係なく電話の一本もくるでしょう。語り手側からの歩み寄りがないというのは、「お察し」ということなのです。
試合について深い洞察力をもって語るのは、タダだと思いますよ！
ちょうどいい機会なので、インタビュー記事というものについて持論をまとめたく思います。こんなことを考えた発端は、インターネット界隈で盛り上がっている「吉田沙保里ホテル代別3万円」の件です。何でも吉田さんが新しくマネジメントを委託した事務所が、個別取材に3万円のギャラを要求するようになったため、一部の記者がブーたれているというのです。
僕などは「えっ！吉田さんが3万円で呼べるの！？」「エスパー伊東でさえ20万円くらいとるのに！？」「吉田さんにいろんなユニフォーム着せてコスプレ撮影会したい！」と、軽く興奮してしまいました。システムについてもうちょっと詳しく伺いまして、交通費無料エリアとか、延長料金・オプションなどもぜひぜひ知りたいところ。今井メロさんが「3日で10万円」というノルマ設定だったそうですので、それに比べても十分に優良店と言っていいと思います。大衆向け！
しかし、世間とは難しいもので、「スポーツ報道の取材で金取るのか」と記者グループからはお怒りの声があがっているのだとか。単にケチな話かと思いきや、3万円が安いとか高いとかいう問題ではなく「報道に金銭を発生させない」というのが、報道屋の矜持なのであるといった建てつけでの主張である模様。なるほど、「払いたくても筋が違う」という話なワケですね。適当に「御車代」とかで3万渡せば現場解決という気もしますが、主張は主張として受け止めましょう。
スポーツ報道は誰のためのものなのか
まず大前提として言っておきたいのは、スポーツというエンターテインメントにおいて、マスメディアの存在は必要不可欠であるということ。スポーツは筋書きのないドラマと称されるように、ライブ・エンターテインメントです。もちろん名勝負総集編などの「コピー」によって後日流布されるものもありますが、主体となるのはやはり「ライブ」です。
そのライブを楽しむには、ごく限られた「現地組」をのぞけば、マスメディアによる放送・報道に頼らざるを得ません。朝日新聞とか毎日新聞とかじゃなくてもいいですが、どこかの誰かが「伝える」ことは必要不可欠です。もし、それを排除するならば、スポーツ・エンターテインメントは今よりも小さな規模でまとまらざるを得ません。そして、そのような状況であるならば、現在のような富や栄誉、環境は決して得られない。
川原でボール遊びをしても一銭にもならないものを、銭がとれる見世物に替えるのが小屋であり、小屋のキャパを超えた稼ぎを得る装置がマスメディアである。チケット収入、グッズ収入、広告収入、放映権収入の4本柱のうち、後半2つはマスメディア抜きでは成立しないもの。スポーツとマスメディアは共依存する互恵関係です。ケンカをすることに何の得もないし、最終的には仲良くしないといけない「仲間」です。
その意味で、選手側は大前提として「取材に応じる責務」があると僕は思います。程度問題として、「早朝に自宅に押しかけて」なんて無茶までを受け入れる理由はありませんが、よくあるメディア嫌い型の選手のように「アレもイヤ、コレもイヤ、無言、無視」はやはり間違っている。自分自身はもう十分に稼げるメドが立って何を拒否っても影響はなくとも、その成功を生んだ環境や、後進を育てるための種蒔きとして、トップには果たすべき役割があるのです。
名もなき無力な選手のことなど誰も見向きもしませんし、興味を持ちません。自分たちの競技に恵みをもたらすには、皆が関心を抱くようなトップ選手が、ときに客寄せパンダとなり、ときに世間のアイコンとなり、ときに道化となることは必要です。どんな選手も、過去の先人たちのそうした努力によって今がある。スポーツ報道は競技自体のため、選手自身のためでもあるのです。
 | 価格:1,296円 |
吉田沙保里さんは稀代のサービス霊長類
吉田さんは、現代の日本アスリート界隈において、ナンバーワンと言ってもいいサービス精神を持った霊長類です。ワリのよくない細かい記事にも登場しますし、情報番組のどうでもいい小ネタコーナーにも嫌な顔せず対応します。「澤さんが結婚しましたよ！」「澤さんが妊娠しましたよ！」という、よく考えたら他人の家庭の無関係な話題についても、世間の要望を察して、丁寧に新規コメントを出してくる。
自身の著書『明日へのタックル！』でも、レスリング協会伝統の姿勢として「マスコミ全面協力」を宣言しています。マイナー競技であるレスリングを何とかして報じてほしい、そのために練習公開日を必ず設け、囲み取材の時間も必ず設け、ネタになりやすいような寒中特訓や滝修行、陶芸体験など珍しい場面を積極的に提供しているのだと。
負けた日も、大事な人をなくした日も、語るべきことを語る。
それはマイクやカメラの向こうに、未来のレスラーや、ファンがいることを知っているから。
吉田さんに関して言うならば、基本的にスポーツ報道の範囲において、吉田さんの個別インタビューなど必要ないはずです。大会前・大会後の適切な時期に練習が公開され、囲みではあっても自由に質問できるわけですから、試合本体を含めて必要な材料は全部採れるはず。そのうえで、イベント仕事などにおいて恋愛話や結婚観も気軽に聞けるのですから、「社会の公器として報じるべき内容」はそれで十二分なはずです。
一番最低限の取材対応としては「出場大会での公式会見のみ応じる」というパターンになるわけですが、吉田さんは常にガバッガバです。自由に実をもいで食えるミカンの木のように、いつでも好きなだけネタが採れる。3万円払わなくてもスポーツ報道が十二分にできるだけのネタを提供してくれているのですから、その3万円はスポーツ報道を超えた先の話を指していると考えるべき。決して、スポーツ報道の取材に金を要求しているものではない。
私見ですが、インタビュー記事には安易な意識のものが多いのではないでしょうか。結局、インタビュー記事はラクなのでしょう。話を聞きさえすれば、自分の頭を使う必要はなく、そのわりに読者のウケはいい。だから、すでに回答済みの質問や、同じ話を何度もさせられることになる。読者を代弁して「くだらない質問」をするのも報道の一部かもしれませんが、くだらない質問をするには、くだらない質問にふさわしい手法があるでしょう。一流のタレントがあえて記者役となって質問する、とか。スポーツ報道記者が本当に聞きたいことを煮詰めて煮詰めて煮詰めた「熟慮の依頼」であれば、「回答済みのくだらない質問」になるはずがない。
他紙と違う記事を載せたいというのは人情としてわかりますが、同じものを見て違うことを書いてこそ、その記事の価値も生まれるというものでしょう。「今日は吉田のシャンプーの香りが違う」とか、「今日の吉田のタックルはお通じがない日のソレだ」とか、「練習場に落ちた汗の味はいつもよりも鉄分の不足を感じた」など、同じ材料で違うものを見ることができるなら、個別取材がなくても独自性は打ち出せるはずです。
↓聞きたいことの大半は、この公式動画でまとまってるだろ！
どうせ「リオで四連覇」って言ってもらいたいだけなんだから、使い回しでお願いします！
同じ話をするだけの個別取材はなくてOK！
 | 強く、潔く。夢を実現するために私が続けていること / 吉田沙保里 【単行本】 価格:1,404円 |
選手自身が新たな自分に気付いてこそ、話を聞く意義がある
それでも、どうしても、話を聞きたいならば、それは「事実報道」とは一線を画した「コンテンツ」としてとらえるべきでしょう。単なる試合の意気込みや反省の弁を事実として紹介するにとどまらない、哲学であったり、物語性を持つようなものとして。
そのとき取材者は「共同著者」とならねばならない。スポーツ選手の自伝などもそうですが、アレは選手が自分でパソコンをカタカタやるわけではなく、「構成」と呼ばれるインタビュアー兼ライターが、選手に話を聞き、考えを引き出し、まとめていくものです。ですので「構成」を担当した人には相応の印税が支払われることが通例であり、例えば長谷部さんの印税「は」全額寄付されたことになっている大ベストセラー『心を整える。』でも実際問題としては……それはまぁいいや。
「共同著者」である聞き手は、質問によって語り手を刺激し、心の奥にあったものを引き出していくのです。単にネタを取りに行くのではなく、掘り起こす。質問に質問をぶつけ、答えを過去の言葉と照らし合わせ、語り手自身も気づいていなかった本当の気持ちを、やり取りの中で見つけていく作業。それこそがインタビュー。一方的に「私はよくわかってませんので、答えを教えてください」なんてのはインタビューとは言えません。ただの質問攻めです。
僕はそのとき、当然あるべき作業として「原稿の確認」を求めたい。
話を聞いて書いた記事が、本人の思っていることとまるで違うなんてこともよくありますが、それは確認の不足にほかなりません。囲み取材でみんなが聞いた話なら、ひとりやふたりが悪意と偏見に満ちた切り取り方をしても、ほかの記事で是正されるでしょうが、個別取材ではその記事一本しかないわけですから、語り手の確認を経ずに出されたら困る。読者としても困る。本人が追認する記事でなければ、作り話と大差ないじゃないですか。
「原稿の確認」は記事のクオリティアップのためにも必要な行為のはずです。会話の中で浮かび上がった新事実を、改めて文章で読み返したとき、また語り手の中に発見があるはずなのですから。「少し時間が経って、もっと自分の中の真実が見えてきた」という貴重なブラッシュアップを得られるのは、原稿の確認のタイミングです。
そりゃあもちろん、「ココはカット」とか検閲が入ることもあるでしょうが、検閲されるようなことを原稿に残している時点で、語り手との意志疎通に失敗しているのですから、その記事はどうせ大した記事ではないのです。本人が語りたくないことも含めて、ともに掘り起こし、新たに光を当て、一緒に整理することができたなら、それは敬意を持って受け入れられる原稿になるはず。
レスリングで前人未到の偉業を成し遂げようという偉人と、一緒にその哲学や物語を書こうというんなら、それぐらいできないとそもそも釣り合わないでしょう。スポーツニュースのインタビューより、異業種のトップランナーとの茶飲み話のほうが得てして面白いのは、「つり合い」がとれているからです。分野は違えど、世界最高峰で悩み・苦しんでいる人同士だから、興味深いコンテンツにもなる。
もしそういうことを一緒にやろうという志ある書き手がいるなら、相応の気持ちで個別取材に応じましょう。単に「金メダル獲ります！」みたいなコメントが欲しいだけなら、公式取材日にまとめてお願いします。事務所の思惑はともかくとして、「囲みはOK、個別は有料」というのは、「報道」と「コンテンツ作り」の明確な線引き。「3万円」というお金は、プロとプロが仕事としてやるんだという「契」のようなものとしてとらえたい。
「吉田沙保里のエッセイ」（※要・構成者）の原稿依頼料が3万円という建てつけの話だと考えれば、何故新聞記者がご立腹なのか、僕にはまったく理解ができません。新聞にだって連載コラムとかはあるでしょうに。本来なら試合後や公式取材日に聞くべきだった話を、あとで自分の都合がいいタイミングで聞こうとしたら有料だと言われて、それでカチンとくるのは筋違いだと思います。聞くべき日に、ちゃんと聞きましょう。
↓聞き忘れたことは、大抵が本とかに載ってると思います！
吉田沙保里著「迷わない力」まもなく発売です。霊長類最強女子の考え方がビジネスパーソン向けに優しく書いてあります。ぜひ書店でお買い求めください！ pic.twitter.com/YCnKkKSdtD
— プレジデント社書籍編集部 (@President_Books) 2016年7月22日
本人も通りいっぺんの質問には、同じような話するって！
最初の本と2冊目がまったく同じ話とかだったりするじゃない！
ノムさんの本とか大体「野村ノート」じゃないですか！
 | 価格:1,404円 |
究極的には、お互いにとってどんなやりがいがあるかという話になっていきます。金の問題じゃないと思うのです。タダでも話したい相手はいるし、どんなに無理をしても会いたい人はいる。お金じゃなくて競技の普及のためのアピールや、イベントの告知のために記事を作ってもらいたいときもある。それが「3万円」って話になるようなら、乗り気じゃないんだなと察するくらいの人間力は持っていたいもの。強く何かを感じたとき、「この人に聞いてもらいたい」と思われるような聞き手なら、事務所とかギャラとか関係なく電話の一本もくるでしょう。語り手側からの歩み寄りがないというのは、「お察し」ということなのです。
試合について深い洞察力をもって語るのは、タダだと思いますよ！
このニュース見た時からフモさんが3万払ってインタビューすれば良いと思っていました 
