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2019年12月22日08:00
新国立競技場は日本最高のスタジアムだと思う!
21日、新国立競技場に行ってきました。2014年の旧国立サヨナライベントで買った「未来の内覧会」のチケットを持ち、何故か内覧会と同じ日に設定された新国立オープニングイベントのチケットを持ち、一日で2イベント。丸一日を新国立競技場の視察に費やしました。
結論から言えば、新国立競技場は日本最高のスタジアムではないかと思います。
もちろんすべてが満たされているわけではありません。繰り返し訴えてきたように、僕は白紙撤回されたザハ案を推す立場であり、当初案に示された「夢」をいまだに夢想するものです。ザハ・ハディッド氏による独創的なデザイン。開閉式の屋根による全天候型スタジアム。座席下に設けられた空調で暑さ寒さと無縁の快適空間。さまざまな仕様、すなわち夢は「建設費が高い」の横槍で白紙に戻されました。
世界屈指の大都市である東京に、世界中から羨望される夢のスタジアムを建てて何が悪いのだ。納税者・都民のひとりとして僕は今また改めて強く主張します。あの場所に建てるべきは「第二味の素スタジアム」などでは断じてなく、世界でも類を見ない、唯一無二・史上最高のスタジアムであるべきだった。その考えに変わりはありません。それを作っていたなら維持費の心配など消し飛ぶほどの巨大な経済活動があの場所に生まれていたことでしょう。
実際に建てられたものは、まさしく「第二味の素スタジアム」のようなものでした。当初案がすべての項目で120点を目指したがために「高い」の横槍を受ける羽目になった反動で、すべての項目で80点を目指して建てられたようなスタジアムです。一言でいえば「普通」。特に悪いところもなく、特に驚くこともない、「まぁええんちゃう」という普通のスタジアムでした。一見すると。
唯一の特徴であるところの隈研吾氏が得意とする木の庇を据えたデザインも、近寄って見れば鉄筋コンクリートの躯体にすのこを貼りつけているだけで、木は飾りに過ぎないものです。「巨大な木造建築」ということでもなく、味の素スタジアムの外側に割り箸でも貼りつけた程度の差でしかありません。ある程度はオシャレであるが、無印良品くらいのオシャレさです。
↓まぁ、オシャレではあるが、すごくオシャレというほどではない…!

駅ビルがこんな感じだったらいいなぁ的な建物!
早朝7時半から並び、足を踏み入れた内覧会。夢はないことを確認しつつ、取り立ててマズイところもなく、「普通だなぁ」と思いながらアチコチを見ていました。飾り気のないコンコースを抜けて観客席エリアへの階段を下りていくと、緑の芝生と陸上競技用トラック。味の素スタジアムや日産スタジアムと大体同じような光景です。
椅子の幅と間隔、狭くはない。ドリンクホルダー、一応ある。座席の傾斜、一番緩い一層で20度だとのことで日産スタジアムよりは見やすい。屋根、それなりにせり出しており最前列でも風が弱ければ濡れずに済みそう。大型ビジョン、もっと大きいとよかったけれど解像度が高いので用は足りる。さまざまな項目で「80点」の評価を叩き出していきます。
↓小ざっぱりしたコンコースを抜けて座席へ。

↓陸上競技用トラックがあるので陸上競技使用では「最高」でしょうが、球技での使用感は「それなり」でしょう。

↓座席はこんな感じの跳ね上げ式で、固くも柔らかくもありません。

↓列の間隔はよくある程度の幅だが、前を通るとき「すみません」は必要。

↓ホームシアターが欲しかった人が妥協してスマホで映画見てる気分になる大型ビジョン。

↓木で飾られた屋根がまぁまぁ前のほうまで出ているが、絶対安心とまでは言えない。

80点、80点なんだよ、どれもこれも…。
「すげーーー!!120点!!」って言いたいのに…。
観客席以外の部分を見ていくときも、その想いは変わりません。売店の種類はやたらと多いけれど、売っているものは「球場のメシ」という感じですし、トイレにいたっては通常個室にウォシュレットがついていません。実際問題、球場でウンコするかって言われたらしないんですけど、新しいデパートみたいに全個室快適なウォシュレットがよかったなぁ…と率直に思います。
↓1階部分しか見られていないのですが、売店はやたらたくさんあります。

↓若干珍しいのはスイートポテト屋「らぽっぽ」とか。

↓福島県楢葉町から出店のすいとん屋とか。

↓旧国立名物のカップスターから鞍替えしたカップヌードル屋(300円)とか。

なんか、ほんとテナントまで駅ビルみたいな物件ですね!
いっそ地下鉄延伸で直結させて、駅ビルにしたらいいんじゃないかしら!
↓トイレの個室には何とウォシュレットなし(※一部の多目的トイレはウォシュレットつき)!しかも1階のトイレは大個室が1トイレに2個のみ!

↓トイレ内に謎のアイランド手洗いが設置してあります!(※普通の手洗いや鏡も写ってないだけで別にありますよ)

ここで手を洗うと、小便器の周辺が常に水しぶきで濡れてて「全部オシッコに見える」現象が発生!
ダメじゃないんですよ、全然。すごくよくはない、ってだけで。何の問題もありませんし、十分に快適です。夢を見過ぎていたぶん少し寂しいだけで。この物件に対して文句を言う人は、自分で好きなのを建てればよいと思います。相撲取りが「この会場の地面はコンクリートですか…土がいいなぁ…」ってボヤいていたら、「土、持ってくれば?」って言う感じで。個別の文句は無視すればいいと僕は思います。普通に快適な物件でした。
実は、視察のなかで「なんだろなー?」と思ったものがいくつかありました。ひとつは「カームダウン・クールダウン」という部屋でした。扉には「気持ちを静めるための部屋です」と書いてあり、なかには椅子が2脚とエアコン、そして時計。ただそれだけの1畳ほどのスペースです。無知で恐縮ですが、僕は「なんだろなー?」と思ったのです。
↓気持ちを静めるための部屋…だそうです。

↓確かに気持ちは落ち着きそうだが…。

今ってこういうのがあるんですかね?
僕が会社のトイレに1時間こもってるみたいな話?
で、いろいろ教えてもらいましたところ、自閉症や発達障がいなど感情のコントロールが難しい人のためにこういう部屋があるんだそうです。すでに成田空港などでは導入されているそうで、ユニバーサルデザインにおいて広まりつつあるものだとか。音や光、視線などを遮って気持ちを落ち着かせるために、あえて何も置いていない部屋があると有効なのだと言います。「この部屋が必要なんです!すごくいい!」という反応もいくつかいただきました。なるほど、いいものなんですね。やりますね、新国立競技場。
そして、もうひとつ「なんだろなー?」と思ったのが、やたらと車椅子の方を見かけたことです。野球やサッカー、相撲、バレー、フィギュアスケート、音楽コンサートなど数万人規模の催しには何度も行ったことがありますが、それに比しても多いなと。オープニングイベントだから招待でもされているのかなと思うほど、自分の肌感覚よりもずっと多い車椅子ユーザーを見かけることに「?」となっていたのです。
実際問題、新国立競技場の車椅子席は国内最大級に多いのです。パラリンピック会場としても使用される関係から、もともとの要求仕様のなかに「オリンピック時は総座席数の0.75%、パラリンピック時は総座席数の1.0〜1.2%を車椅子席にせよ」というものがあるため、6万席の新国立競技場はオリンピック時に500席(0.83%)、パラリンピック時は750席(1.25%)の車椅子席が設けられる仕様になっています。これは、これまで国内最大規模と言われていたパナソニックスタジアム吹田の344席(0.86%)を上回るもの。
ただ、量的に多いこと以上に「実際にこんなに来るものなんだ」というインパクトのほうで、僕は「?」となっていたように思います。車椅子席は埋まっていないことのほうが普通でしょう。それなのにこの日はやたらとたくさんの車椅子ユーザーが訪れ、席を埋めていました。その「稼働率の高さ」のようなものが普段と違うように感じさせたのだろうと。
そのとき、実は「本当はいつも来たかったんじゃなかろうか」と発想が逆転したのです。「本当はいつも来たかったのに、来られなかった」理由が実はあって、それさえ解消されたなら本当は来たいと思っている人がこんなにたくさんいたのかもしれないぞと。不自由がない人でも雨が降ったらスタジアムに行きたくなくなるでしょう。そんな感じで、「絶対不可能ってことではないが、行く気が失せる」ようなものが日本社会にはたくさんあるんじゃないのかと。
そういう目で新国立競技場を見ると、ガラリと違う景色が見えてきます。
先ほど見た小ざっぱりしているだけのコンコースは日本のスタジアムの感覚においてはやたらと広いでしょう。無駄に広いでしょう。でも、これだけ広いから僕はたくさんの車椅子ユーザーとすれ違ったのに、ヒョイと避けられたのです。すれ違えなくて詰まってしまい、お互い気を悪くすることも一切なく。無駄に広いんじゃなく、意味があって広いのです。
そして、数がやたらと多い車椅子席はこのコンコースの端にあり、入場後はノー段差で到達できる場所です。車椅子席には車椅子を置く場所はもちろん、介助者が隣に座れるよう「あらかじめ」椅子が備え付けてあります。柵には「立見禁止」の表示。そして、車椅子席を守るように、建物を支える柱が少し後ろに設置してあります。「何となく、柱のあるラインまでが通路と認識される」ように。これって、よく見る車椅子席の「通路の端をガムテープで区切りました」とは全然違うでしょう。
↓車椅子席には介助者用のイスがあらかじめある!

↓柱が後ろにあるので、何となく侵入を許さない感じに!
↓しかも、通常座席から「2段」高い位置に車椅子席がある!

これなら通常座席の人が立ち上がっても邪魔じゃない!
「行く気が失せる要因」がたぶん減ってる!
そうした視点で見ると、トイレ問題も違うものが見えてきます。僕が主に視察した1階部分もそれなりにトイレはあるのですが、それとは別にひとつくだった地下1階に大規模なトイレがあったのです。「なんだ、1階だけだとちょっと混みそうに見えたが、これがあるなら大丈夫じゃないか」と思いました。そして同時に、何でこの規模のトイレを1階部分につけなかったの?と思いました。1階のトイレには大の個室が2つしかなかったぞと。
そして、これも逆であると気づきました。1階のトイレを減らしたのではなく、1階にはなるべくたくさん多目的トイレをつけたんだと。「多目的トイレでないと不都合な人」がそのフロアにはたくさんいるから。そして階段を降りられる人は1フロア下りて、好きなだけウンコでもオシッコでもしろということなのだと。
つまり、コッチが間違っていたのです。
「なんだろなー?」と思った部分は、コチラが至っていない部分だったのです。
新国立競技場はおそらく全部80点のスタジアムです。自分に影響があるところは全部80点ですから、何もかも80点のはずです。同じ調子で、ユニバーサルデザインという面でも「80点」のはずです。ただ、その80点に「なんだろなー」と思った僕は、60点とか50点とかあるいはもっと下であった。60点とか50点で「済んだ気」になっていたけれど、実はそれではまだ「行く気が失せる人」がいて、80点まで上げればもっとたくさんの人が来られるスタジアムになるのだ、と。
スタジアムにとって一番大切なことは何か。
椅子が固いとか柔らかいとか、ビジョンが大きいとか小さいとか、メシが美味いとかマズイとか、いろいろ要求はあるでしょう。でも、一番は「試合が見られる」ことですよね。「見づらい」もイヤだけれど、「そもそも行けない」「困難が多すぎる」というのが日本のスタジアムの現実だったりするんじゃないでしょうか。できているところもあるだろうけれど、「できていないのが標準」だったりするんじゃないでしょうか。
新国立競技場はそうしたユニバーサルな部分でも「普通に」80点くらいのスタジアムなのではないかと思うのです。立地だけでも日本最高を名乗る資格があると思っていましたが、量・質をともなって「みんなが試合が見られる本当の意味で普通のスタジアム」なのだとすれば、これは文句なしで日本最高と言っていいでしょう。夢はないかもしれないけれど、見る気が失せる部分を先に対処したということであれば、順番としてもそれでいいと思います。僕にとって「120点」でも、ほかの誰かにとって「0点=試合が見られない」スタジアムであるなら意味がないですからね。
↓視察を終えたあとのオープニングイベントでは、キングカズ、嵐、ボルトなどを見ました!

いやー、よかったボルトと嵐!
生ボルトと生嵐、最高でした!
結局、箱は入れ物でしかありません。豪華な箱もいいけれど、中身のほうが大事です。そして、中身がよければ箱も立派に見えます。ラグビーワールドカップ日本VSスコットランド戦、球技がクソ見づらいと言われる日産スタジアムでの観戦でしたが、素晴らしい観戦体験でした。生涯忘れられない試合になりました。新国立競技場、嵐の登場でめっちゃ上がりました。嵐が歌ってくれたことで、その場所ごと素晴らしく輝いた気がしました。
旧国立があんなに愛されたのは、東京五輪という夢があそこで行なわれたからでしょう。新国立もきっとそうなります。ここで生まれる世界最速の男や、ここで催される開閉会式の祝祭が、箱ではなく中身として「夢」を刻みつけるはずです。その夢を見たい人が、ひとりでも多く、できることなら見たい人が全員見られることを心から祈ります。そういうスタジアムであってほしいし、それが最優先だろうと思います。だって、みんなで見るのが一番楽しいもの!
僕は新国立競技場を気に入りました!「普通にいい」スタジアムです!
21日、新国立競技場に行ってきました。2014年の旧国立サヨナライベントで買った「未来の内覧会」のチケットを持ち、何故か内覧会と同じ日に設定された新国立オープニングイベントのチケットを持ち、一日で2イベント。丸一日を新国立競技場の視察に費やしました。
結論から言えば、新国立競技場は日本最高のスタジアムではないかと思います。
もちろんすべてが満たされているわけではありません。繰り返し訴えてきたように、僕は白紙撤回されたザハ案を推す立場であり、当初案に示された「夢」をいまだに夢想するものです。ザハ・ハディッド氏による独創的なデザイン。開閉式の屋根による全天候型スタジアム。座席下に設けられた空調で暑さ寒さと無縁の快適空間。さまざまな仕様、すなわち夢は「建設費が高い」の横槍で白紙に戻されました。
世界屈指の大都市である東京に、世界中から羨望される夢のスタジアムを建てて何が悪いのだ。納税者・都民のひとりとして僕は今また改めて強く主張します。あの場所に建てるべきは「第二味の素スタジアム」などでは断じてなく、世界でも類を見ない、唯一無二・史上最高のスタジアムであるべきだった。その考えに変わりはありません。それを作っていたなら維持費の心配など消し飛ぶほどの巨大な経済活動があの場所に生まれていたことでしょう。
実際に建てられたものは、まさしく「第二味の素スタジアム」のようなものでした。当初案がすべての項目で120点を目指したがために「高い」の横槍を受ける羽目になった反動で、すべての項目で80点を目指して建てられたようなスタジアムです。一言でいえば「普通」。特に悪いところもなく、特に驚くこともない、「まぁええんちゃう」という普通のスタジアムでした。一見すると。
唯一の特徴であるところの隈研吾氏が得意とする木の庇を据えたデザインも、近寄って見れば鉄筋コンクリートの躯体にすのこを貼りつけているだけで、木は飾りに過ぎないものです。「巨大な木造建築」ということでもなく、味の素スタジアムの外側に割り箸でも貼りつけた程度の差でしかありません。ある程度はオシャレであるが、無印良品くらいのオシャレさです。
↓まぁ、オシャレではあるが、すごくオシャレというほどではない…!

駅ビルがこんな感じだったらいいなぁ的な建物!
知っている範囲のオシャレです!
早朝7時半から並び、足を踏み入れた内覧会。夢はないことを確認しつつ、取り立ててマズイところもなく、「普通だなぁ」と思いながらアチコチを見ていました。飾り気のないコンコースを抜けて観客席エリアへの階段を下りていくと、緑の芝生と陸上競技用トラック。味の素スタジアムや日産スタジアムと大体同じような光景です。
椅子の幅と間隔、狭くはない。ドリンクホルダー、一応ある。座席の傾斜、一番緩い一層で20度だとのことで日産スタジアムよりは見やすい。屋根、それなりにせり出しており最前列でも風が弱ければ濡れずに済みそう。大型ビジョン、もっと大きいとよかったけれど解像度が高いので用は足りる。さまざまな項目で「80点」の評価を叩き出していきます。
↓小ざっぱりしたコンコースを抜けて座席へ。

↓陸上競技用トラックがあるので陸上競技使用では「最高」でしょうが、球技での使用感は「それなり」でしょう。

↓座席はこんな感じの跳ね上げ式で、固くも柔らかくもありません。

↓列の間隔はよくある程度の幅だが、前を通るとき「すみません」は必要。

↓ホームシアターが欲しかった人が妥協してスマホで映画見てる気分になる大型ビジョン。

↓木で飾られた屋根がまぁまぁ前のほうまで出ているが、絶対安心とまでは言えない。

80点、80点なんだよ、どれもこれも…。
「すげーーー!!120点!!」って言いたいのに…。
観客席以外の部分を見ていくときも、その想いは変わりません。売店の種類はやたらと多いけれど、売っているものは「球場のメシ」という感じですし、トイレにいたっては通常個室にウォシュレットがついていません。実際問題、球場でウンコするかって言われたらしないんですけど、新しいデパートみたいに全個室快適なウォシュレットがよかったなぁ…と率直に思います。
↓1階部分しか見られていないのですが、売店はやたらたくさんあります。

↓若干珍しいのはスイートポテト屋「らぽっぽ」とか。

↓福島県楢葉町から出店のすいとん屋とか。

↓旧国立名物のカップスターから鞍替えしたカップヌードル屋(300円)とか。

なんか、ほんとテナントまで駅ビルみたいな物件ですね!
いっそ地下鉄延伸で直結させて、駅ビルにしたらいいんじゃないかしら!
↓トイレの個室には何とウォシュレットなし(※一部の多目的トイレはウォシュレットつき)!しかも1階のトイレは大個室が1トイレに2個のみ!

↓トイレ内に謎のアイランド手洗いが設置してあります!(※普通の手洗いや鏡も写ってないだけで別にありますよ)

ここで手を洗うと、小便器の周辺が常に水しぶきで濡れてて「全部オシッコに見える」現象が発生!
この手洗い、いる?
ダメじゃないんですよ、全然。すごくよくはない、ってだけで。何の問題もありませんし、十分に快適です。夢を見過ぎていたぶん少し寂しいだけで。この物件に対して文句を言う人は、自分で好きなのを建てればよいと思います。相撲取りが「この会場の地面はコンクリートですか…土がいいなぁ…」ってボヤいていたら、「土、持ってくれば?」って言う感じで。個別の文句は無視すればいいと僕は思います。普通に快適な物件でした。
しかし、その考えは僕の狭い了見の範囲での「普通」で、新国立競技場の「普通」は一段上でした。
実は、視察のなかで「なんだろなー?」と思ったものがいくつかありました。ひとつは「カームダウン・クールダウン」という部屋でした。扉には「気持ちを静めるための部屋です」と書いてあり、なかには椅子が2脚とエアコン、そして時計。ただそれだけの1畳ほどのスペースです。無知で恐縮ですが、僕は「なんだろなー?」と思ったのです。
↓気持ちを静めるための部屋…だそうです。

↓確かに気持ちは落ち着きそうだが…。

今ってこういうのがあるんですかね?
僕が会社のトイレに1時間こもってるみたいな話?
で、いろいろ教えてもらいましたところ、自閉症や発達障がいなど感情のコントロールが難しい人のためにこういう部屋があるんだそうです。すでに成田空港などでは導入されているそうで、ユニバーサルデザインにおいて広まりつつあるものだとか。音や光、視線などを遮って気持ちを落ち着かせるために、あえて何も置いていない部屋があると有効なのだと言います。「この部屋が必要なんです!すごくいい!」という反応もいくつかいただきました。なるほど、いいものなんですね。やりますね、新国立競技場。
そして、もうひとつ「なんだろなー?」と思ったのが、やたらと車椅子の方を見かけたことです。野球やサッカー、相撲、バレー、フィギュアスケート、音楽コンサートなど数万人規模の催しには何度も行ったことがありますが、それに比しても多いなと。オープニングイベントだから招待でもされているのかなと思うほど、自分の肌感覚よりもずっと多い車椅子ユーザーを見かけることに「?」となっていたのです。
実際問題、新国立競技場の車椅子席は国内最大級に多いのです。パラリンピック会場としても使用される関係から、もともとの要求仕様のなかに「オリンピック時は総座席数の0.75%、パラリンピック時は総座席数の1.0〜1.2%を車椅子席にせよ」というものがあるため、6万席の新国立競技場はオリンピック時に500席(0.83%)、パラリンピック時は750席(1.25%)の車椅子席が設けられる仕様になっています。これは、これまで国内最大規模と言われていたパナソニックスタジアム吹田の344席(0.86%)を上回るもの。
ただ、量的に多いこと以上に「実際にこんなに来るものなんだ」というインパクトのほうで、僕は「?」となっていたように思います。車椅子席は埋まっていないことのほうが普通でしょう。それなのにこの日はやたらとたくさんの車椅子ユーザーが訪れ、席を埋めていました。その「稼働率の高さ」のようなものが普段と違うように感じさせたのだろうと。
そのとき、実は「本当はいつも来たかったんじゃなかろうか」と発想が逆転したのです。「本当はいつも来たかったのに、来られなかった」理由が実はあって、それさえ解消されたなら本当は来たいと思っている人がこんなにたくさんいたのかもしれないぞと。不自由がない人でも雨が降ったらスタジアムに行きたくなくなるでしょう。そんな感じで、「絶対不可能ってことではないが、行く気が失せる」ようなものが日本社会にはたくさんあるんじゃないのかと。
そういう目で新国立競技場を見ると、ガラリと違う景色が見えてきます。
先ほど見た小ざっぱりしているだけのコンコースは日本のスタジアムの感覚においてはやたらと広いでしょう。無駄に広いでしょう。でも、これだけ広いから僕はたくさんの車椅子ユーザーとすれ違ったのに、ヒョイと避けられたのです。すれ違えなくて詰まってしまい、お互い気を悪くすることも一切なく。無駄に広いんじゃなく、意味があって広いのです。
そして、数がやたらと多い車椅子席はこのコンコースの端にあり、入場後はノー段差で到達できる場所です。車椅子席には車椅子を置く場所はもちろん、介助者が隣に座れるよう「あらかじめ」椅子が備え付けてあります。柵には「立見禁止」の表示。そして、車椅子席を守るように、建物を支える柱が少し後ろに設置してあります。「何となく、柱のあるラインまでが通路と認識される」ように。これって、よく見る車椅子席の「通路の端をガムテープで区切りました」とは全然違うでしょう。
↓車椅子席には介助者用のイスがあらかじめある!

↓柱が後ろにあるので、何となく侵入を許さない感じに!
↓しかも、通常座席から「2段」高い位置に車椅子席がある!

これなら通常座席の人が立ち上がっても邪魔じゃない!
「行く気が失せる要因」がたぶん減ってる!
そう言えば駅から車椅子席まで段差なく来られるし、「行けない理由」がたぶん減ってる!
そうした視点で見ると、トイレ問題も違うものが見えてきます。僕が主に視察した1階部分もそれなりにトイレはあるのですが、それとは別にひとつくだった地下1階に大規模なトイレがあったのです。「なんだ、1階だけだとちょっと混みそうに見えたが、これがあるなら大丈夫じゃないか」と思いました。そして同時に、何でこの規模のトイレを1階部分につけなかったの?と思いました。1階のトイレには大の個室が2つしかなかったぞと。
そして、これも逆であると気づきました。1階のトイレを減らしたのではなく、1階にはなるべくたくさん多目的トイレをつけたんだと。「多目的トイレでないと不都合な人」がそのフロアにはたくさんいるから。そして階段を降りられる人は1フロア下りて、好きなだけウンコでもオシッコでもしろということなのだと。
つまり、コッチが間違っていたのです。
「なんだろなー?」と思った部分は、コチラが至っていない部分だったのです。
新国立競技場はおそらく全部80点のスタジアムです。自分に影響があるところは全部80点ですから、何もかも80点のはずです。同じ調子で、ユニバーサルデザインという面でも「80点」のはずです。ただ、その80点に「なんだろなー」と思った僕は、60点とか50点とかあるいはもっと下であった。60点とか50点で「済んだ気」になっていたけれど、実はそれではまだ「行く気が失せる人」がいて、80点まで上げればもっとたくさんの人が来られるスタジアムになるのだ、と。
スタジアムにとって一番大切なことは何か。
椅子が固いとか柔らかいとか、ビジョンが大きいとか小さいとか、メシが美味いとかマズイとか、いろいろ要求はあるでしょう。でも、一番は「試合が見られる」ことですよね。「見づらい」もイヤだけれど、「そもそも行けない」「困難が多すぎる」というのが日本のスタジアムの現実だったりするんじゃないでしょうか。できているところもあるだろうけれど、「できていないのが標準」だったりするんじゃないでしょうか。
新国立競技場はそうしたユニバーサルな部分でも「普通に」80点くらいのスタジアムなのではないかと思うのです。立地だけでも日本最高を名乗る資格があると思っていましたが、量・質をともなって「みんなが試合が見られる本当の意味で普通のスタジアム」なのだとすれば、これは文句なしで日本最高と言っていいでしょう。夢はないかもしれないけれど、見る気が失せる部分を先に対処したということであれば、順番としてもそれでいいと思います。僕にとって「120点」でも、ほかの誰かにとって「0点=試合が見られない」スタジアムであるなら意味がないですからね。
↓視察を終えたあとのオープニングイベントでは、キングカズ、嵐、ボルトなどを見ました!

いやー、よかったボルトと嵐!
生ボルトと生嵐、最高でした!
結局、箱は入れ物でしかありません。豪華な箱もいいけれど、中身のほうが大事です。そして、中身がよければ箱も立派に見えます。ラグビーワールドカップ日本VSスコットランド戦、球技がクソ見づらいと言われる日産スタジアムでの観戦でしたが、素晴らしい観戦体験でした。生涯忘れられない試合になりました。新国立競技場、嵐の登場でめっちゃ上がりました。嵐が歌ってくれたことで、その場所ごと素晴らしく輝いた気がしました。
旧国立があんなに愛されたのは、東京五輪という夢があそこで行なわれたからでしょう。新国立もきっとそうなります。ここで生まれる世界最速の男や、ここで催される開閉会式の祝祭が、箱ではなく中身として「夢」を刻みつけるはずです。その夢を見たい人が、ひとりでも多く、できることなら見たい人が全員見られることを心から祈ります。そういうスタジアムであってほしいし、それが最優先だろうと思います。だって、みんなで見るのが一番楽しいもの!
僕は新国立競技場を気に入りました!「普通にいい」スタジアムです!