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2020年09月13日12:30
大坂なおみさん、いろいろなものに勝って全米制覇!
三度目のグランドスラム、またも大坂なおみさんがやってくれました。一時の後退を乗り越えて再び世界の頂点へ立つ全米オープンの制覇は、過去二度のグランドスラム優勝とはまた意味合いが違うものでした。新鋭のチャレンジャーが勢いに乗って頂点に立つのとは違う、始まる前から強者と認められた者がその通りの戦いで立つ頂点というのは、一段上の重みがあります。「優勝を狙い、ライバルにつけ狙われて、なお勝った」という重みが。
決勝の相手はこちらも元“女王”のビクトリア・アザレンカ。母となり、人生を積み上げて再び頂点へ戻ろうとする選手です。どちらが勝っても「復権」と呼べる三度目のグランドスラム制覇。ともに好調で迎える一戦は、今大会の前哨戦であったウエスタン&サザンオープンでの大坂さん不戦敗をやり直す「現時点最強」を決めるにふさわしい一戦となりました。できることなら両方を勝たせてあげたいようなシチュエーションですが、勝つのはひとりだけ。その厳しさもまたいい。
無観客で行なわれている全米オープン、アーサー・アッシュスタジアムにともに黒いマスク姿の大坂さんとアザレンカが入ってきます。観客はいないけれども再びこの舞台に帰ってこられたという喜びをマイクを通じて世界に語りかける両者。むしろこの無観客が集中力を高めてくれそうでさえあります。
立ち上がり、第1セット第1ゲームは大坂さんがいきなりサービスゲームを落としての始まりとなります。大坂さんは強いサーブから振り回していく押し気味のプレーではあるものの、サーブの率は低く、ダブルフォルトなどもあって詰め切れず。つづく第2ゲームも大坂さんはリターンに苦しみ、ラブゲームで落とします。苦しい第1セットとなりました。
無観客のコートに響くアザレンカのフォゥーという声と、大坂さんのボールがネットにかかるズシャッという音。とかく音が注目される無観客試合ですが、音でも大坂さんは押されていきます。第3ゲームこそ何とかキープするものの、アザレンカの懐の深い強打で左右に動かされ、第5ゲーム・第7ゲームとこのセットだけで3つのブレークを許します。何とゲームカウント1-6で第1セットを落とすことに。
↓大坂さんは立ち上がり固い感じ!それでも苛立つ様子はなく第2セットへ!
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— WOWOWテニス (@wowowtennis) September 12, 2020
全米オープンテニス 第13日
第1セットハイライトをお届け🌟
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女子シングルス決勝
大坂 なおみ vs. ビクトリア・アザレンカ
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タオルを被ってベンチに座る大坂さん。落としたものは仕方ないとして切り替えていけるかどうか。大事な第2セット第1ゲームはアザレンカのサービスから。ネットにかかったアザレンカのボールが大坂さんのコートに落ちるなど、運もアザレンカに味方しています。第1ゲームをアザレンカがキープすると、第2ゲームで大坂さんはまたもブレークを許してこのセットも苦しい。スタンドで見守るコーチも目を閉じて堪えるような表情です。
ただ、これでアザレンカも「よし」となってしまったたでしょうか。試合の主導権をつかんだことで第2セット頭から垣間見えていた固さがじょじょに表に出てきます。アザレンカサーブの第3ゲーム、デュースまでもつれたところからこの試合抜群の決定率を誇っていたアザレンカのファーストサーブが入らず、セカンドサーブからの攻防を大坂さんが制してブレークバック。この試合で初めて大坂さんがブレークしました。
ひとつのポイント、ひとつのゲームで流れが変わるから個人競技というのは面白いもの。常に戦うのは自分自身であるぶん、立ち直るのも崩れるのもまた自分自身が要因です。ブレークバックでキッカケをつかんだ大坂さんは苦しんでいたサーブがズバズバと決まり始めて本来のプレーを取り戻していきます。第4から第6ゲームは互いにキープしあう展開ですが、大坂さんサービスの第6ゲームはサービスエース3本を含むラブゲームでの奪取。こうなると「キープはできる」という余裕が出てきます。
そして、この試合全体の趨勢を決定づけた第7ゲームへ。アザレンカがダブルフォルトで最初のポイントを落とすと、アウト、アウト、アウトとエラー連発でこのゲームを落とします。大坂さんが「奪った」というよりはアザレンカが「落とした」という格好のゲーム。大坂さんはもはやベンチでタオルを被る姿はなく、スタンドに目をやってうなずくようなしぐさ。無観客ではありながら「あ、大坂さんの試合になった」と空気からも伝わってくるかのようです。
大坂さんは第7ゲームでさらにブレークすると、第9ゲームは長いデュースを制して奪取。デュースの応酬のなかでアザレンカの厳しいサーブをズバッと返してリターンエースとした際には、ここまでで一番の「カモーン!」が飛び出しました。音の主導権も奪い返して、勝負はファイナルセットへ!
↓完全に大坂さんの試合になってきた!
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全米オープンテニス 第13日
第2セットハイライトをお届け🌟
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女子シングルス決勝
大坂 なおみ vs. ビクトリア・アザレンカ
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そしてファイナルセット。第1ゲームは大坂さんがドッシリと構え、アザレンカを左右に動かしまくる「コートの支配者」といった様相でサービスゲームをキープ。キープ、キープで互いに譲らず第3ゲームまで進みますが、大坂さんのほうがサービスゲームでの優位を見せています。サクッとキープする大坂さんと、苦労して苦労してキープするアザレンカとでは明らかに圧力が違います。今にも崩れそうな均衡です。
第3セット第4ゲーム、アザレンカのサービスゲームを大坂さんは積極的に前に出るプレーで攻めのブレーク。つづく第5ゲームは3ポイントを落とした状態から大坂さんが耐え凌いでキープ。絶好のブレークチャンスを逃したアザレンカは天を見上げます。やや勝負が見えてきたか。終盤はブレーク合戦となるも、尻上がりに調子を上げる大坂さんは、要所でサーブが決まり、相手の厳しい返球をさらに厳しい場所へ返していく女王のプレー。ポイントを落としても、笑顔でそれをリセットする落ち着きも備えています。
ゲームカウント5-3と大坂さんリードで迎えた第3セット第9ゲーム。最後は長いラリーを制して、大坂なおみさん二度目の全米、そして三度目のグランドスラム制覇。決勝までくれば必ず勝つ、という「決勝3連勝」の勝負強さでいろんなものを全部吹き飛ばしてみせました。いろいろなものとの長い戦いを制した疲労感と安堵を見せるようにコートに寝転ぶ大坂さんの姿は、心から「お疲れ様でした!」と労いたくなるものでした!
↓決めた!勝った!大坂なおみさん全米オープン優勝!
Another one.@naomiosaka wins her second #USOpen title, defeating Azarenka, 1-6, 6-3, 6-3. pic.twitter.com/wNR3iOSRtF
— US Open Tennis (@usopen) September 12, 2020
まぁ、とかくこの大会、そして最近の大坂さんに関してはテニス以外での戦いがクローズアップされてきました。この日も入場時のマスクには「TAMIR RICE」と記され、米国で警察官らの行為によって命を落とした黒人犠牲者の名前をまとっての入場でした。大坂さんの勝利が見えてきた第3セット中盤には、スタンドに掲示された「Black Lives Matter」の文字を映しながら大坂さんへとカメラを向けるような中継映像も見られ、人種差別との戦いのほうがより注目された向きもあります。
これについてはさまざまな主張があるでしょうし、賛同・反対の両方の立場があり得るとは思います。人種差別を是とするような主張まではさすがにないでしょうが、個別の事象への賛否や、あるいはこうしたアピールをすることに対するスポンサー企業などからの反応はさまざまでしょう。もちろん絶賛もあるでしょうし、逆に遠ざかるような動きもあるだろうなと思います。
ただ、そうしたコート外での喧噪というものが、逆にコート内のことへと集中できる要因でもあったように思います。コート内に持ち込まれるのはラケットとボールだけ。戦うのは対戦相手だけ。それはスポーツと政治との関係性でもあります。さまざまな国、さまざまな主張があり、コート外ではバチバチやり合っているけれども、試合は「それとは別の話」であるという。反目し合っていても、試合は試合として楽しもうじゃないかという。
そしてスポーツの素晴らしいところは、どのような主張を背負っていたとしても、勝者は勝者であるということです。黒人でもアジア系でも強い者が勝ち、勝った者が讃えられる。それは差別とは一番遠いひとつの「理想」を示すものだと思うのです。「そもそもプレーする機会を与えない」とか「いろんな嫌がらせをする」とか「ルールを決めているのは大体白人」とか理想に現実が追いついていない部分はあるにせよ、少なくともこの試合に関して大坂なおみさんが黒人そしてアジア系であることは勝敗とは関係なかったはずです。
スポーツは肌の色という価値感がチームの勝利とは結びつかないことを教えてくれるものであり、同時にそうした人種の違いはそれぞれに違う素晴らしさを備えるという意味で「多様であることの価値」を示してくれるものでもあります。黒人には黒人の強みがあるし、白人には白人の強みがある。もちろんアジア系にもそのほかさまざまな人たちにも。全部の競技を眺めれば、全部それぞれに違うし、それぞれに必要であるという答えしか出てこないのがスポーツが示す多様性の価値です。
それはそれ、これはこれ。
それもいいし、これもいい。
スポーツという舞台がコート外の主張によって侵されることなく保たれていくことは、少なからずいい方向に世界を進めていく助けとなるものだろうと僕は思います。勝者のカッコよさ、敗者の潔さ、国籍の手前にある人種のさらに手前にある「人間」というものを、そのほかの要因を持ち込ませずに感じることができる貴重な舞台こそがスポーツなのですから。そんな舞台を、これからも大切にしていきたいものだなと改めて思います!
強い選手を「同じ国の人だ」という親しみを持って応援できることに感謝!
冷静な分析が出来る所が好きです。
あっ、試合は冷静でしたね。
グッズが絡むとヘンタイなだけで。
マスクの件は、まるで有名人は色々な主張をしてはいけないと言う日本の伝統?からか、叩く人も多くて
大丈夫かと心配していましたが、その声を
優勝という実力で叩き返すという痛快な主張で終わって。
大坂さんのテニスの実力と脚の故障を言い訳にしない
メンタルの強さと試合の流れを読み切る冷静なテニス脳。全てに乾杯!