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東京五輪柔道男子66キロ級、決着!

試合ではなく死合。この戦いの勝ち負けが柔道家としての「死」をも意味するような決戦。二度世界を制した新世代の旗手・阿部一二三と、阿部の時代に沸く世間を自らのチカラで黙らせ、一度は東京の目前にまで迫った丸山城志郎。金メダルを獲るチカラを持つふたりが戦い、勝ったほうだけが東京五輪に出場できる、生と死を分ける決着戦が行なわれました。

コロナ禍によって無観客となった聖地・講道館は、まさしく現代の巌流島でした。ふたりの強者が誰に見せるためでもなく、己の最強を示すために戦う。見届けるのは講道館柔道の父、そして日本オリンピックの祖である嘉納治五郎氏。この残酷で尊い戦いを迎えるのに、これ以上ふさわしい舞台があるでしょうか。見守るこちらまで背筋が伸びる思いです。

↓互いの存在があったからこそ強くなれた、そう思える相手を見つけたふたりの戦い!


ふたりは互いの柔道人生の節目節目で遭遇し、その勝敗で大きく紆余曲折をしてきました。はじめて激突した2015年の講道館杯、新生・阿部一二三を下してリオ行きの可能性を摘んだのが丸山城志郎だったという、はじまりからして濃密な因縁。日本一を懸けて争い、世界選手権の代表を懸けて争い、世界のどの相手とするよりも厳しい戦いをふたりは日本で繰り広げてきました。通算対戦成績は阿部の3勝4敗、五分五分です。

2017年・2018年と世界選手権を二度制し、ほかの国ならすでに代表決定とも言えるだけの実績を残した阿部。阿部にストップをかけ、逆に2019年世界王者となって代表争いに逆王手をかけた丸山。丸山が勝てば代表争い決着となるはずだった2019年11月のグランドスラム大阪で、神業のような支え釣り込み足で逆王手返しを見せた阿部。「調整のためになるべく早く代表内定を出したい」という考えの柔道界にあって、このふたりは2019年を終えてもまだ横一線で競り合っていました。2020年に入っても。コロナ禍のなかでも。

5年にも及ぶ長い因縁は恋物語のようですらあります。この相手を倒すために、相手のことを思い、知り、理解し、そして裏切るための策を練る日々。「相手がいたから強くなれた」は真に心からの言葉でしょう。ひとりでも世界王者・金メダリストになっただろう選手が、ふたりで互いを高め合ってきたのです。どちらが勝ったとしても「ふたりだからこうなった」という極みがきっと生まれる。それは負けたほうの夢が「死」ぬからこその極みです。すべてを妥協なく行ない、すべてを出し尽くす。その「死合」の覚悟がもたらす極みです。

↓東京五輪よりも先に「すべてを懸けて臨む」戦いが始まる!

もう大晦日の格闘技決戦とか、これで終わりでよかろう!

これ以上の戦いは演じられない!



青の柔道着、阿部。白の柔道着、丸山。互いと、嘉納治五郎氏に礼をして始まった試合。ふたりはいわゆるケンカ四つで、阿部は丸山の左襟・右袖を狙い、丸山は阿部の右襟・左袖を狙うため、互いの手が交錯し、激しい組手争いとなります。ボクシングでのジャブの打ち合いのように手を出しては引っ込め、相手の手を払いのけては自分の手を伸ばすことの繰り返し。お互いがお互いの両袖を握って、膠着することもしばしば起こります。開始ゼロ秒から熱く激しい攻防です。

阿部は丸山の左半身から攻めかけていきます。丸山の左袖をつかんでの袖釣り込み腰の構え、あるいは右足を飛ばして出足払い。丸山が得意とする巴投げなどの捨身技を出させないように、重心を下げ、正面に入らず、遠めの間合いから技を出していきます。アウトボクサーが軽やかなステップでヒットアンドアウェーを繰り返すような動きです。

一方の丸山、決め手は得意の巴投げです。この技で阿部を頂点から引きずり下ろしたこともあります。ただ、捨身技をそう簡単に喰らうような相手ではありません。相手の正面に入り、密着した状態をどう作っていくか。ひとつのパターンとしてあるのは、内股で飛び込んでから反転して巴投げに入るという連続攻撃。しかし、このパターンは2019年のグランドスラム大阪で内股を透かされ、痛恨の敗戦につながりました。はたして今回はどう出てくるか。

序盤積極的に仕掛ける阿部と、チャンスをうかがう丸山。その待ちの姿勢に「指導」も出ますが、決して消極的な試合ではありません。得意技と組手の関係で阿部が先手を取ることが多いというだけで、その攻めを受け切ったあとには反撃を繰り出すチャンスがあります。「待ち」はあっても「逃げ」はない。あっという間に本戦の4分間が終わります。並みの選手ならこの4分間で何度も仕留められているような互いの攻めが、互いを知り尽くした強者によってすべて無効化されて4分間が終わった。1試合ぶんの時間を終えても、まだ様子見といった感触さえあります。何も起きていないのにすごい試合です。

ゴールデンスコア方式での延長戦。丸山が膠着状態から肩車を見せれば、阿部は遠めの間合いから大内刈りを飛ばす。丸山からは巴投げ、内股が。阿部からは背負い投げ、出足払いが。お互いが得意技を出し「それは知っている」とさばく。剣と剣がぶつかり合って激しく音を立てるが、お互いに手傷は負っていない…そんな時間が5分、10分、15分とつづいていきます。

戦いのなかで生じたものか丸山の額には擦ったような傷に赤い血が滲んでいます。阿部は試合途中で爪を剥がしたようで、左手の指先に血が浮かんでいます。その血は丸山の白の柔道着にいくつもの筋となって残る返り血のよう。身体には汗が流れ始めますが、体力気迫は依然として十分です。どこまででもこの試合がつづきそうな気配すら漂い始めます。

そんな膠着状態のなか、先に動いたのは丸山。この試合の策か、釣り手争いを繰り広げている阿部の右手を狙った逆の一本背負いを見せます。この動きにはビクッと大きく反応して防御する阿部。丸山は一本背負いを意識させておいて、得意の内股へとつないでいく構えか。負けじと阿部も捨身技・隅返しで丸山を跳ね上げようという動きも。

互いの得意技を「それは知ってる」で無効化しあうなかで、「これは知ってるかな?」も用意しないといけなくなる。すなわちそれは互いにレベルが上がっていく戦いであるということ。最後の決め手は互いの得意技だとしても、それを活かすための崩しや工夫が積み上がっていく。濃密な戦いです。濃密だから長くなるし決着がつかなくなる。ついに試合は20分を超え、中継するテレビ東京は十分に用意したはずの放送枠におさめることができなくなりました。

↓試合の最初から最後までYouTubeで無料配信をしていたのに、地上波中継を打ち切ったことを謝罪するテレ東の潔さ!

1試合4分の競技で延長16分まで中継したんだから、しょうがないですよね!

サッカーだったら「アディショナルタイムが6時間あった」みたいな話ですよ!



延長17分を過ぎたところで、丸山に大きなチャンスが訪れます。たびたび出足払いや大内刈りを繰り出してきた阿部の右足を外から刈って倒そうとする新手の仕掛けを見せたのです。大きくバランスを崩し、たまらず反転して逃れる阿部。「イヤアアア!」と道場に響く大きな声。あるいは勝負を賭けた一手だったか。足への攻めはほとんど見せてこなかった丸山が仕掛けたここぞの技でしたが、ここは阿部の反応が勝りました。

そして迎えた延長19分30秒過ぎ。あるいは体力的な部分でそろそろ決着の時と感じていたのか、丸山は激しい組手争いのなかでスッと自分の右手を差し出します。それはまるで「つかめよ」と言わんばかりでした。どういう意図なのかはわかりかねますが、僕はそれを「柔道で決着をつけよう」というサインだと受け止めました。組手争いを無限にやってもいいが、引き手を取らねば互いに技は決まらないだろう、ならば組手十分で「技の勝負」をしようじゃないか、という誘いなのかなと。まるで決着の前の「握手」のように見えました。

丸山は右手を差し出す。

阿部がそれをつかむ。

互いに不十分と見て千切れる。

しかし、また丸山が右手を差し出す…。

その繰り返しのなかで阿部が下から引き手を深く取ると、すかさず右足から小外刈りを仕掛けます。こらえる丸山と、つづけざまに大内刈りで二の矢を放つ阿部。一歩引いてかわす丸山と、さらに再びの大内刈りで三の矢を放つ阿部。深く入った阿部の大内刈りを、逆に小外刈りで返そうとする丸山でしたが、丸山が捨身で掛けてくる体重を、阿部は身体をねじって押し込むようにしてさらに押し返しました。丸山の背中は畳についたか……判定は技あり!

最後に引き手を取ってからわずか3秒。その刹那に数多くの攻防があり、24分の死闘に決着をつける技が決まりました。無言で畳を去る丸山と、号泣する阿部。すごい試合でした。すさまじい試合でした。24分に柔道家としての年月を凝縮するような試合でした。これが五輪の決勝なら、どんなにか名勝負として語り継がれたことでしょう。もはやこの試合の前では五輪すら「普通」の試合に感じられるほどです。

↓この試合はフルで見る価値がある!歴史に大きくは残らない現代最高の一戦!


「ひとシーンも忘れられない試合になった」という勝者・阿部の言葉がすべて!

24分に20年あまりの時間が流れる、走馬灯のような試合でした!

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あえて決着の理由を挙げるなら「反応」だったと思います。体力、技術、気力、この勝負にどちらかの敗因を見つけ出すことはできません。ただ、試合の端々において阿部の「反応」は丸山の柔道を凌駕していました。決まったかと思う技を驚異的な反応とボディバランスで逃れ、丸山の投げ技を別の投げ技でカウンターして潰し、最後の最後で返し技をさらに返して押し込んでしまう。阿部の「超反応」はふたりをわけるスペシャルな能力だったなと思います。それは研究とか鍛え方とではない、「強い」としか言いようがないような差だったなと。

そうやって「強い」ほうが勝つ試合になったのは尊いことだったなと思います。柔道にはときに「指導」による決着などもありますが、この試合が技による完全決着であって本当によかった。チカラを出し尽くし、技を出し尽くした果てに、強いほうがが勝って終わってよかった。そうでなければ摘み取られた夢が報われません。自分が負けたのではなく、相手が勝ったのなら、それはもうしょうがないことですから…。

さぁ、次は東京五輪。五輪とは言っても、世界一のチカラを持つ柔道家・丸山城志郎が徹底した研究と対策のもと、柔道人生を懸けて立ちはだかるほどの壁はないでしょう。この試合に勝っておいて、東京五輪で魔物に食われるようなことは考えられませんし、また赦されるはずもありません。ふたりの世界一の柔道家が「死合」に臨み、ひとりの夢が潰えた。生き残ったほうは、相手のぶんまで背負って勝つ責務があります。この試合が真に「東京五輪柔道男子66キロ級の決勝戦だった」と歴史に遺させてほしい。そう語り継ぐことができる試合を、東京五輪でしてほしい。

全試合一本での完全なる金メダル。

阿部一二三さんには、それを強く望みます!


この試合をやった選手が、東京五輪で負ける姿など想像できません!