スーパーボウルはアメリカの魂です!
累計で2700万人が新型コロナウイルスに感染し、46万人以上が死亡しているというアメリカは、世界でもっともコロナ禍に苦しむ国です。しかし、アメリカという国は苦しみながらも強い国です。屈することなく前進し、グレートでありつづけようとする心意気がある。第55回スーパーボウルの戦いを見る僕の心は強いアメリカが躍動する80年代へと引き戻されていきました。
ロサンゼルスに星条旗をたなびかせて行なわれた冷戦下のロス五輪。宇宙飛行士の姿で空を飛ぶロケットマンの降臨。スペースシャトル。カール・ルイス。スーパーマンそのもののようなマッチョな国を前に、これがアメリカなんだとドリームを見せられたあの時代。時は流れて2021年、アメリカは変わっていませんでした。このコロナ禍にあってもアメリカはアメリカだった。
今年のスーパーボウルが行なわれるのはタンパベイ・バッカニアーズの本拠地レイモンド・ジェームス・スタジアム。どのチームが進出するかわからないうちに開催地を決めるスーパーボウルのシステムにおいて、今年は戦う前からすでにひとつの偉業が成し遂げられていました。史上初めて、開催地を本拠地とするチームがスーパーボウルに進出したのです。
しかも、そこにはさらなる偉業が。NFLを制してこの舞台に進出したバッカニアーズを牽引する司令塔は、何とあのトム・ブレイディです。ニューイングランド・ペイトリオッツを率いて6度のスーパーボウル制覇を成し遂げたGOAT(グレート・オブ・オール・タイム)トム・ブレイディは今季からバッカニアーズに移籍し、移籍一年目にしてスーパーボウル進出という新たな歴史を作っていたのです。
これを迎え撃つAFCの王者は昨年のスーパーボウル覇者カンザスシティ・チーフス。こちらの司令塔は「日本の横浜にいた野球選手の息子」という豆知識でおなじみのパトリック・マホームズ。昨年のスーパーボウル制覇によって「いつかブレイディのような偉大な選手になるスーパースター」と位置付けられた新時代の旗手が、偉大なブレイディとスーパーボウルで直接激突することになろうとは。新旧QB対決、あるいは新旧GOAT対決。これぞ「夢」の対決です!
↓決戦を待つスタジアム!どちらが勝っても歴史となる試合!
今年は日本からの中継陣も現地には行かず、現地からの映像を東京のスタジオで見て解説するというスタイルのよう。コロナ禍でのスーパーボウルですからそれも仕方のないこと。スーパーボウルが行なわれる、そのこと自体が満足であり感謝です。しかし、現地からの映像を見た率直な感想としては、「アメリカ人、全然自粛する気がない…」「もうちょっとコロナらしくしろ…」「いつも通りじゃねぇか…」という身もフタもないものでした。
スタンドにはキャパシティの3分の1ほどに抑制した2万人あまりの市松模様ではない観衆が、ときに大歓声を上げ、熱狂の始まりを待っています。肩を寄せ合い、愛国歌・国歌を口ずざみ、前祝いのドリンクをあおっています。医療従事者への熱い感謝と、「屋根がないタイプのスタジアムだから大丈夫だろう…」という安心感を胸に。夕闇落ちる空に戦闘機がフライオーバーすれば、打ち上がる大砲のような花火。スタジアムの周辺でも「布マスクしているから大丈夫だろう…」という笑顔を見せる人々がお祭り騒ぎを生み出しています。
「なるほどぉ……」
「なるほどですなぁ……」
「そりゃ、うん、なるほどです……」
今ならば「スーパーボウルのチケットで犯罪者を誘い出して逮捕する」というアメリカンポリスの手法も、「通用しそう」と納得できます。彼らにとって、このイベントは国家的なものであり、絶対に欠くことができないものなのです。バイデン大統領も応援映像に登場したように、これはアメリカの魂なのです。「どんなことがあってもスーパーボウルは絶対にやる」という。苦笑いしつつ、僕はまた少しアメリカという国に憧れます。強いな。すごいな。さすがアメリカだなと。
↓アーメーリカ!アーメーリカ!ゴッドシェドゥヒズグレースオンズィー!
こりゃ、アメリカは東京五輪に来そうですな!
ほかは知らんが、アメリカは絶対来る!
試合はチーフスのキックオフで、まずはバッカニアーズの攻撃から始まります。バッカニアーズの最初のドライブはパントで終わり、攻守入れ替わってチーフスの攻撃に。この試合の下馬評はNFL最強の攻撃力を誇るチーフスの攻めを、バッカニアーズがどう凌ぐかでした。その意味で注目となるチーフスの攻め。
しかし、チーフスの攻めには異変がありました。昨年のスーパーボウルでも味方を使うと見せかけて自ら走り込んでのタッチダウンなど、ランプレーでも輝きを見せていたマホームズの動きが鈍い。足の親指の怪我を負っているという情報はありましたが、どうもかなり影響のある怪我のよう。華麗なステップで相手をかわすどころか、ちょっとした一歩すら「遅い」と感じる動きの悪さです。
そしてチーフスにはさらなる難点が。攻撃時のオフェンスラインはQBを守る壁ですが、コチラも主力3人を欠いた陣容となっており、本来の位置から左右入れ替えて入っているような選手もいるような手薄さ。その影響は顕著で、バッカニアーズのディフェンスに容易にマホームズへのアタックを許してしまっています。動きが鈍いうえに壁が脆い。フィールドゴールで先制こそしたものの、チーフスの攻撃力にいきなり疑問符がつく立ち上がりです。
逆にバッカニアーズは守りではチーフスの狙いを的確に潰す「準備」を見せると、攻撃では真ん中をゴリゴリと割っていくランプレーでチーフスを押し込みます。それは「狙っても打てない豪速球」のようなもので、まずランを止められないことには試合の組み立ても何もありません。ランで押されるぞと警戒を高めれば、それをあざ笑うようにブレイディが裏をかいてパスを通していく。瞬く間に前進されると、最後はペイトリオッツ時代からの盟友グロンコウスキーへのパスを通してタッチダウン!
↓一度は引退しながらも「もう一度ブレイディとプレーしたい」と復帰&移籍してきたグロンコウスキーとのホットライン!
第2Qに入っても流れは変わらず。なかなか前進できないチーフスと、ポンポン進むバッカニアーズ。その流れに拍車をかけるようにチーフスには反則が次々に生まれます。プレー中の仕方ないものだけでなく、小競り合いのなかで苛立って手を出してしまうようなラフプレーまで次から次へ。その反則が非常に的確にチーフスの首を絞めていきます。
第2Q途中には、大きくパントで蹴り出す担当の選手が「スナップされたボールを落球する」「蹴り直しのパントでチョロッとしたミスキックをする」というまさかのミス連発をやらかしチーフスが試合の流れを完全に手放したうえに、返しのバッカニアーズの攻撃でも「インターセプトしたはずのプレーが自分たちの反則で取り消しになる」といった自滅的展開により、チーフスはズルズルと後退していきます。
さらには「何とかフィールドゴールの3失点で凌いだ」はずの攻撃まで、反則によってファーストダウン更新を許し、すかさず次のプレーでタッチダウンパスを通されるという悪夢のような展開に。ターンオーバーで自分たちの攻撃になるはずのプレーが反則でフィールドゴール3失点になった…と思った矢先にそれすらも反則によってタッチダウンになってしまうという「瓦解」とも言える失点は、「あ、こりゃアカン」と前半途中で思わされるものでした。
↓相手がガッカリしたところを一撃で殺しにいくブレイディとグロンコウスキー!
↓さらに前半終了間際には、チーフスが引き延ばした時間を利用してバッカニアーズが追加のタッチダウン!これで6-21!
第2Q残り1分でチーフスはフィールドゴールで3点追加し6-14に
↓
バッカニアーズは残り1分で追加点を取れたらいいなぁという攻撃を開始
↓
チーフスは守って守ってこのまま後半に入りたい…と思っているのかと思いきや!
↓
チーフスはタイムアウトを使ってプレーごとに時計を止める選択をし、「守り切ったあとに自分たちの攻撃時間を残そう」という欲をかく
↓
すでにタイムアウトが1つしか残っておらず、残り1分で攻め切るのは大変だなぁと思っていたバッカニアーズはニンマリ
↓
自分たちがプレーしたあとチーフスが時計を止めてくれるのでゆったりと攻められるバッカニアーズ
↓
すると第2Q残り18秒、ブレイディが一発で裏を取ろうとした長いパスに対して、チーフスはまたも反則を犯してしまう
↓
残り13秒、敵陣10ヤードからバッカニアーズの攻撃
↓
チーフスさらに反則で「自陣1ヤード地点」まで下げられる
↓
で、上の動画のタッチダウンパスを通されて6-21で前半終了
解散!解散!解散!
こんだけやらかしておいて、こっから逆転できるはずがない!
勝手に自分たちで下がっていってる!
「試合部分はもう終わったかな?」という気持ちで迎えるハーフタイムショー。今年はザ・ウィークエンドさんが自腹で7億円払ったという巨大ステージを組んでのパフォーマンスです。ステージではソーシャルディスタンスを保ったダンサーたちが、白いガウンをまとい、ガスマスクのような装飾をつけて踊っています。
ダンサーたちがマスクを外すとザ・ウィークエンドさんはバックステージに移動し、そこでは顔を白い包帯やネットで覆ったダンサーたちとのパフォーマンスを繰り広げます。日本のタイムラインが「変態仮面だ」「集団変態仮面」「ルパンのコスプレで変態仮面」とザワついていたことを本人は知っているのかはわかりませんが、「なるほど、アメリカだな……」と画面の前で僕も唸っていました!
↓集団変態仮面によるスリラーみたいなパフォーマンス!
なお、ザ・ウィークエンドさんはこの格好を愛用しているとのことです!
飲酒運転防止を訴える運動なのだとか!
さすがに変態仮面ではないと!
後半に入って第3Q、少しはチーフスも変わってくるだろう…と思われたものの、変わらず。前半と変わったかなと思うのは、よりバッカニアーズのディフェンスに押し込まれ、マホームズが追いかけ回されるようになったこと。スナップしてマホームズにボールが渡ると、それを追いかけるようにバッカニアーズのディフェンスが迫り、マホームズが逃げるように下がり、さらにディフェンスが追いかけていくという、まるで「追いかけっこ」のような試合となります。
ズルズル下げられてから仕方なくパスを投げるため、ファーストダウンを取るのでさえ30ヤードくらいのパスを通さないといけないという状態。第3Q早々にバッカニアーズがタッチダウンでさらに得点を追加したことも厳しいものの、自慢の攻撃力がまったく機能しないというほうがより厳しいチーフス。本来のチカラであれば「残り10分20点差」からでも奇跡の逆転を起こし得るチームであるところが、この日は「それはナイ」という動きで奇跡の気配すらありません。
↓逆にバッカニアーズには「弾いたボールを空中でキャッチする」というスーパーインターセプトも飛び出す!
バッカニアーズがここから20点差を追いかける展開ならまだわからないが、その逆はまったくなさそう!
やることなすことチーフスは上手くいかない!
↓本日の試合を象徴するような「マホームズ追いかけっこ」をどうぞ!
「ボールを持った赤の15番を追いかけまわす遊び」みたいだなwww
こんだけ追いかけられて、それでも「あわや」を投げるのだからマホームズもすごいwww
奇跡どころか、ついに第4Qまでチーフスはひとつのタッチダウンも奪えずにきてしまいました。バッカニアーズは試合を終わらせにかかり始め、時計を積極的に進めていきます。早くバッカニアーズの攻撃を止めて、自分たちの攻撃に移りたいチーフスですが、これがなかなか止まらない。4分、5分、ずっとバッカニアーズが攻撃しつづけます。あまりに気分がよくなったのか、バッカニアーズは試合中にピースサインし始めたりします。
↓「勝ったでーーーーーー!」「カチーーーン!」
レギュラーシーズンでピースサインをやられたので、そのお返しをしているという場面です!
根に持ってますよ!
もはやバッカニアーズの勝ち確定の状況である試合ですが、試合時間残り1分33秒でチーフスの攻撃をバッカニアーズがインターセプトで止めると「完全に」試合は終わりました。残り時間、バッカニアーズはプレーをせずに時計を進めるだけ。プレーを切っては抱き合い、時計を進めては抱き合い、ついにはチーフスとも抱き合い始めたバッカニアーズ。下馬評を覆す大勝によってバッカニアーズがスーパーボウルを制し、QBトム・ブレイディは「どのチームよりも多い、7回目のスーパーボウル制覇を個人で達成」という新たな伝説を作りました!
↓ペイトリオッツ6回、スティーラーズ6回、カウボーイズ5回、49ers5回、トム・ブレイディ7回!
チーフスはまったくいいところのないスーパーボウルとなりましたが、少し気の毒な部分もありました。本拠地での開催となるバッカニアーズは万全の体制であったのに比べ、チーフスはギリギリまでチーム施設で過ごし、前日に現地入りするという「コロナ対策モード」での移動でした。「開催地が本拠地」というまったくの偶然ではある要素が、コロナ禍によってアドバンテージとして効いてしまったかなという点は否めません。
それでも、そういったことは理由とせず、しっかりと戦ってしっかりと負けたチーフスもまた立派。怪我などもあって不完全燃焼ではあった新旧QB対決ですが、とにもかくにも「やる」ことはできた。こんな状況でもスーパーボウルをやり、新たな伝説を作ることができた。歴史の1ページを記すことができた。それはアメリカの人たちの喜びであるだけでなく、遠く日本の僕にも勇気となる出来事でした。
アメリカはスーパーボウルをやった。
こんな状況でもスーパーボウルをやる方法を考え、尽力した。
「どうにかしてできるようにする」の心意気はここにもあった。
負けていられないなと思います!
アメリカのみなさん、夏には元気にお会いできるよう東京も頑張ります!