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メッシが、みんなと、夢を叶えてくれた!

感情が昂って、自然と涙が流れる、そんな試合を見ました。起きたまま見る夢でした。素晴らしい夢でした。2022年、サッカーワールドカップカタール大会決勝、アルゼンチンVSフランス戦。何もかもがすべて素晴らしかった。美しくて、残酷で、素晴らしかった。世界サッカーの英雄、史上最高の選手、リオネル・メッシがワールドカップを掲げるにふさわしい夢の試合でした。

今大会、もっとも強く見えたチームはフランスでした。すべてのポジションにワールドクラスのアスリートを抱え、チームとしても戦術としても洗練され、そしてエムバペという神剣を携えていた。あらゆる場所からゴールを決め、どんな守りをも切り裂いていくチカラは、どうやって止めればよいのかすらわかりませんでした。

多くの国の多くの人が「フランスに誰が勝てるんだ?」という問いをしたでしょうし、そのとき自国の代表の名前を挙げないわけにはいかぬという意地でもって「ウチ…かな…?」と答えるしかない、そんな強さでした。もしもこの決勝がこの組み合わせでなければ、世界のサッカーファンはフランスの素晴らしい強さに酔いしれてこの夜を終えていたでしょう。

しかし、今宵ばかりはそのままではいられなかった。

この決勝にリオネル・メッシが出る。おそらく最後のワールドカップとなるメッシが出る。いまだ手にしていないワールドカップを勝ち取るために、ここにメッシがいる。これまでの十数年に渡ってメッシが与えてくれた途方もない喜びに敬服し、感謝し、報いるために、どうしてもメッシに勝ってほしい。ただメッシに勝ってほしい。たとえ相手が最強のフランスであっても、このチームにはメッシがいる。メッシなら、メッシの夢を叶えるのではないか。祈りのような気持ちで迎える試合です。

↓世界の声がメッシのアルゼンチンを後押ししている!

「フランスとポルトガル以外は」だけど…!

なんかわかる、わかるよ…!


↓メッシ、夢を叶えてくれ!

メッシなら、メッシなら、何とかしてくれ!

メッシが勝つというみんなの夢を叶えてくれる!



始まった試合。その立ち上がりは少し意外なものでした。ボールを保持して攻勢をかけると目されたフランスはエンジンの掛かりが遅く、逆にスローペースでじわじわと試合を始めようとしていたであろうアルゼンチンのほうがごく自然な流れで主導権を握ってしまうという格好に。左サイドで先発起用されたメッシの盟友ディマリアは豊富な運動量とドリブルの技術でフランスの右サイドを翻弄し、守備ではフランスのエムバペを徹底マークしつつ、ペナルティアエリアには決して入れないという固い守備でアルゼンチンペースで試合は進みます。

アルゼンチンはひとりひとりのサッカー脳とでも言うか、自分の視野とテリトリーを広げ、ピッチを俯瞰するかのような判断が見事でした。相手にボールが入ると予測するや視野の外から飛んできてガシャンと奪取しますし、どこかにピンチがあると見るや自分のマークを捨ててもそれを潰しにいきます。ペナルティエリアに入られそうなときや、自分が抜かれたら大きなピンチになるときは、躊躇せず身体で止めにいきますし、球際での粘りと技術は粘着性の生き物か何かのようでした。体格や身体能力では上回るであろうフランスを絡め取っていました。これが南米のサッカーか、感服しました。

そして、当然のごとく試合は動きます。前半23分にはディマリアが倒されて得たPKをメッシが決めて先制。さらに前半36分にはメッシの素晴らしい展開から流れるようなパスがつながり、最後はディマリアが決めてアルゼンチンが2点をリードします。素晴らしい前半、神様からの贈り物のように思えました。ともに長くアルゼンチン代表を牽引してきたメッシとディマリアが、年齢を重ねてこんな素晴らしいワールドカップを迎える。最高の決着だ、そう思いました。その時はまだ。浅はかにも。

↓メッシがPKを決めてアルゼンチン先制!


↓今大会でも屈指のゴールでワールドカップを手繰り寄せた!


このまま勝てるのではないか、後半途中までそう思いました。むしろ時間を追うごとに思いは強まりました。アルゼンチンの守りは固く、フランスを完封していました。直前にフランスは熱発が多数出ていたとも聞きますので、さすがのフランスもカタール暮らしで体力を奪われたか、とも思いました。

しかし、そうではなかった。フランスは前半途中でキーパーソンであるジルーとデンベレを下げると、システム変更によってアルゼンチンの中央が固い守備をワイドに広げ始めました。中盤の枚数を薄くして、長いボールでの身体能力勝負を仕掛けてきました。ひとりひとりの距離を広く取り、アルゼンチンの絡みつくような守備や、次々に飛んでくるヘルプを無効化しました。

そして、図らずも前半の主導権をアルゼンチンに握らせたことで、フランスはフレッシュでした。投入される交代選手と、前半あまり仕事をできなかった攻撃陣は元気いっぱいで躍動を始めます。怖いフランスが帰ってきました。しかし、それでも2点あれば大丈夫だろう、2点のリードがあるんだぞ。そうやって勝ちを確信していた世界の観衆は、わずか1分で世界線を変更される瞬間を見ました。

後半35分、ディフェンスラインの裏に送り込まれた長いボールに単独突破を許したアルゼンチンは、エリア内で相手を倒してしまいPKを与えます。これをエムバペが決めてまず1点。そして直後の後半36分、ゴール前の浮き球に反応したエムバペはヘッドでそれを落とすと、着地後にすぐさま裏に走り、ワンツーのようにして抜けていきます。戻ってきたボールをダイレクトで隅に流し込む圧巻のゴール。試合を振り出しに戻すとともに、これで今大会の得点ランキングでもメッシを逆転しました。メッシの夢がすべて奪われそうな恐怖に震えました。何て選手だ!

↓PKを決めてまずは1点!


↓1分後に決めた同点弾!エムバペよ、何故立ちはだかるのだ…!


試合は延長戦に入りますが、完全にペースはフランスのものとなりました。アルゼンチンは耐える時間がつづき、前半戦のような完全に崩し切る場面はなくなりました。打つ手は乏しく、押されまくっています。ただ、それでも、まだメッシがいる。メッシがいる限り、どんな劣勢からでも何かが起きる。それは祈りを超えて信仰のような気持ちにさえさせる想いでした。これまで叶えてきた夢の数々を思えば、メッシの夢が叶わないはずがない。「はずがない」という想いだけでした。

その祈りにメッシはちゃんと応えてくれた。延長後半4分、幾多のピンチを乗り越えた先の攻撃で、メッシがボールを持つと、味方を使ってシュートチャンスを生み出します。そのシュートは決まりませんでしたが、相手GKが弾いたボールは走り込むメッシのもとにこぼれてきました。詰めた、入った。オフサイドは、ない!決まった!勝ち越し!延長後半で勝ち越し!

↓メッシのゴールでアルゼンチン勝ち越し!再び得点ランキングもトップに!




美しいラストシーンだと思いました。完璧だと思いました。これこそがサッカーの神様からの贈り物だと思いました。メッシがワールドカップを掲げるなら、きっとこんな試合だろうと納得しました。満足しました。しかし、そうではなかった。サッカーの神様はただひたすら試練を与え、試しを与えてきました。もういいだろう、もう勝たせてやれ、フランスは前回優勝したじゃないか。試合途中で泣きながら恨み節が漏れました。

この美しいメッシのゴールのあとに、再び立ちはだかったエムバペという壁。延長後半13分、ゴール前の混戦でボールがヒジに当たったということで得たPKをエムバペが決めて、再び試合は振り出しに。得点王の座もエムバペに。これだけ喜ばせてもらって、これだけサッカーを盛り上げてもらって、これだけのチカラを示して、なお試練を用意するのかと神様を恨みました。フランスに恨みはありませんが、とにかく何かを恨まずにはいられない、そんな気持ちになりました。

そして、もう神様ではなくメッシを信じることにしました。メッシなら、メッシなら、最後に必ずワールドカップを掲げてくれる。たとえ神様が敵だったとしても、きっとそこまでたどりつく。そう信じて120分の試合を終えたあとのPK戦に臨みます。まずフランスの一人目エムバペは、強く隅を狙ったボールで見事に決めます。一方アルゼンチンの一人目メッシは、短い助走からGKのタイミングを外し、緩いボールで決めてみせます。

互いに決め合った1本目ですが、メッシは勝負を賭けたなと思いました。エムバペが決めたPKは強く、速く、正確に蹴ってこそのゴールです。しかし、メッシが決めたゴールは強さや速さではなく上手さと勇気のゴール。「どうだい、PKを決めるなんて簡単だろう。ちょっと引っ掛けてやればいいんだ。難しいシュートなんかいらない。PKを決めるのは楽しいぞ」と仲間たちに示すかのような一本でした。自分が決めるだけでなく、仲間たちの重圧まで振り払うような一本でした。

これで流れは再びアルゼンチンのものになったか。2本目、フランスはGKにセーブされ失敗。アルゼンチンはディバラがド真ん中(!)を撃ち抜いてリード。3本目、隅を狙ったフランスは枠を外して失敗。アルゼンチンはしっかりと決めて2本リード。どうだ、さすがにもう終わりだろう。もうエムバペが蹴るチャンスもない。これで終わりだ。終わりだ。少年漫画の死闘の果てのように、何度も甦るボスを何度も倒すRPGの最終決戦のように、長く果てしない戦いは、アルゼンチンが4本すべてのPKを決めてついについに決着しました。メッシがワールドカップを手にする日が来たのです!

↓アルゼンチン優勝だーーーーー!!


メッシの夢はみんなの夢でした。全員とは言いませんが8割、いや9割くらいの人はメッシのアルゼンチンを勝たせたい、勝ってほしいと見守っていたのではないでしょうか。それは観衆だけでなくほかならぬ選手たち自身もそうだったのではないかと思います。メッシが初めてワールドカップに挑んだのが2006年。それから16年余りの年月はまさしくメッシの時代(※ポルトガル方面からの反論は許容)であり、メッシに無数の喜びを与えてもらった時間でした。

その人の夢を叶えたい。夢を見せてくれた人の夢も叶ってほしい。アルゼンチンの選手たちがまさにその想いで一丸となりました。自分のプレースタイルもプライドも一旦置いて「メッシのために」という強い連帯を生みました。一緒にピッチに立ったディマリア、残念ながら病気で引退となったものの現地に駆け付けたアグエロ、ベンチにはアイマールやアジャラやサムエルがいる、長い時間の結晶のようなチームになっていました。

だからこそ、決着はPK戦までもつれたのかなと思いますし、試合途中には恨みさえ抱いたサッカーの神様も、あえてそういう結末を与えたのかなと今は思います。戦術メッシと呼ばれるようなメッシがひとりで勝つようなサッカーではなく、みんながメッシを支え、メッシもみんなを活かすチームとなったアルゼンチンではありますが、延長後半のゴールは「みんながメッシを押し上げた」ところまででした。みんなの思いがメッシの手をワールドカップに届かせましたが、あまりに美し過ぎて「メッシの優勝」となるようなゴールでした。

でも、その先のPK戦、メッシは一番手で蹴り、今度はみんなを引き上げました。押し上げてもらった場所までみんなを引き上げ、ワールドカップはこの先にあると、仲間に最後の決着を委ねたのです。自分が最後に決めるのではなく、みんなの手を引いてあとを委ねたのです。それに応えるようにGKのマルティネスが今大会で何度も見せたビッグセーブを再び見せました。仲間たちがPKを次々に決めました。メッシに始まり、メッシがつなげて、みんなでつかんだ。そんな優勝でした。世界中の人が見たいと願った夢をメッシとアルゼンチンが叶えてくれた。

メッシが勝ったのではなく、

メッシとみんなが勝った。

メッシがワールドカップを掲げるなら、こういう結末がよかったのだ、そう思いました。メッシが世界最高の選手であることは今さら証明するまでもなく誰もが認めるところですが、メッシが世界最高なだけではなく、メッシが率いたチームが世界最高であることを示すことのほうが、より困難で、より美しかった。これが最高の決着だったのだ、そう思いました。メッシがみんなを勝たせ、みんながメッシを勝たせる、そんな決着が!

↓大会最優秀選手はもちろんメッシ!笑顔のメッシ!


↓授与されるまで待ちきれずにワールドカップにフライングキッス!


↓メッシがワールドカップを掲げる日が、来た!

ありがとう!ありがとう!

「メッシが夢を叶える」というみんなの夢が叶いました!

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最後に、フランス代表にも感謝を。強かった、怖かった、すごかった。何度も机を叩き、もう止めてくれと叫びました。メッシがワールドカップを掲げない日が来ていたら、自分も床に崩れ落ちていたと思います。ただ、そうならなかったから言えることとして、これぐらい強い相手でないとメッシが掲げるワールドカップはメッシにふさわしい輝きを得ないよな、と思います。勝って当然の相手ではなく、極めて困難な相手を乗り越えたことで、メッシがワールドカップを掲げるにふさわしい試合、満ち足りた夢となりました。世界の喜びなど知ったことではないかもしれませんが、この喜びのいくばくかは強いフランスがいてくれたからこそのもの。この素晴らしい夢を描いてくれたすべての人、その中心の大きな存在として、フランスに感謝を捧げて今大会を終えたいと思います。試合をしてくれて、ありがとう。これがスポーツの素晴らしさだなと思います。どれだけ分断された世界でも、素晴らしい夢を見るには強い相手が必要なのですから。

素晴らしいワールドカップでした!

2002年を特例で除外すれば、マイベストワールドカップでした!

すべての人にありがとうございます!


日本が強くて、メッシが優勝して、判定がフェアで、最高の大会でした!