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超えることなどないと思っていた虚構を超えた!

試合終了のあと、会場の観衆たちは大合唱していました。流れるのは映画「THE FIRST SLAM DUNK」のエンディングテーマ「第ゼロ感」。「不確かな夢叶えるのさ」というサビのフレーズにつづけて轟く「オーオオ オーオー!」の大合唱。映画のなかでは主人公側である湘北高校が、最強の座に君臨する山王工業に対して逆転への反撃を開始するときに、湘北メンバーと観衆の心の高まりに合わせるように流れていました。いけ、走れ、撃て、勝て。大歓声が心に火をつける、そんな歌として共有されました。

あの歌が、あの虚構が、このチームにはよく似合う。格下の立場であっても自分たちに自信を持ち、世界の強豪を倒すためにやってきたこと。とっておきの飛び道具で、苦境をひっくり返してきたこと。チビの生きる道はドリブルなんだと、スピードとクイックネスで世界の壁をすり抜けてきたこと。どうしても苦しいとき、それでもアイツならアイツなら何とかしてくれると仲間たちが信じるエースがいたこと。頑健な土台となってチームを支える大黒柱がいたこと。そして、諦めたらそこで試合終了だと知っているから、誰もが最後まで絶対に諦めなかったこと。虚構のなかで描かれた「日本バスケにもこんなチームがあったらいいのにな…」が、ついに現実に現れた。「第ゼロ感」が似合うチームを現実の日本が手にした。誰もがカッコよくて、誰もが最高でした。君が好きだと叫びたい!

↓男子バスケ日本代表、ワールドカップで初めての3勝!48年ぶりに自力で五輪出場権獲得!パリ行き決定!


↓この物語はパリ五輪でつづきが描かれる!まさか男子バスケが団体球技で最初の五輪切符を獲るとは!


試合前、僕は刻一刻と動く状況に応じて、細かい計算を重ねていました。日本はどうなったら五輪に行けて、どうなったら五輪に行けないのか。検討を重ねた結果、「カーボベルデに17点差以上で負けたらパリ五輪はナイ」と覚悟しました。勝てばもちろん100%で決まるパリ行きですが、これだけの劇的勝利を重ねてきたのに、まだ普通に敗退の道が見えていることに震え上がりました。この美しい勝利が、ぬか喜びになったらどれだけの落胆になるだろう。怖くなりました。勝てばいい、勝てば問題ない、勝ってくれ、もう一度祈るように試合を見守りました。

迎えたティップオフ。日本は最初の攻撃でジョシュ・ホーキンソンさんがファウルを受けます。今大会、ずっと苦境を支えてきてくれたホーキンソンさんのフリースローが2本決まって、日本は幸先のいい立ち上がりです。返しの相手の攻撃にダブルチームを仕掛けるなど、今日の日本は「第4クォーターのような戦いが何故最初からできないのか」という課題に向き合うように初っ端からガツンといきました。

しかし、カーボベルデもさすがの強さです。コートのなかでもひときわ大きい2メートル21センチのタバレスさんがゴール下を支配し、ポートボールでもやっているかのようにボールを受けてはさばき、味方の得点を生み出していきます。そして、カーボベルデはスリーポイントの本数も成功率もなかなかのものがあります。ヘッドコーチも第1クォーターからヘッドコーチチャレンジを使ってくるなど、向こうも最初からガツンと主導権争いにきたでしょうか。結局第1クォーター終えて17-19とリードを許す格好に。「負けてもまだ大丈夫」な試合であるとは言え、17点差など離されるときはあっという間の点差です。大丈夫ではあるが、まだまだ安心はできない、そんな立ち上がりです。

↓渡邊雄太さんのダンク!バスケットカウントでアンドワン!盛り上がっていきたい!

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そんな揺蕩う勝負の流れをここぞでグッと引き寄せるチカラが、今大会の日本にはありました。トム・ホーバスHCが明確な指針として示した「スリーポイント」で勝つというチカラ。スラムダンクの三井寿のように、格下のチームが苦境をひっくり返す切り札を、日本は持っていた。当たりの日とハズレの日がある切り札ですが、同じ切り札を何枚か持っていればひとりくらい「当たりの日」が出てくるもの。フィンランド戦では河村勇輝さんが、ベネズエラ戦では比江島慎さんが、そしてカーボベルデ戦では富永啓生さんが「極大当たり」を引いてくれた。

河村さんやホーキンソンさんが順調に得点を重ねて逆転、そしてリードを築くなかで、その攻勢を決定づけるようにコートに仁王立ちした富永さん。すでに第1クォーター最後にスリーポイントを1本決めていたところに加えて、スリーポイントもう1本、さらにスリーポイントもう1本、おまけにスリーポイントもう1本。ここまで4本放って4本決める「成功率100%」を叩き出し、一気に日本はリードを広げます。そして、この人のスリーポイントが決まると日本が沸きます。とうとう気づきましたよね、僕らはスリーポイントが好きなのだと。豪快なダンクもいいけれど、美しい放物線を描いてシュパッとネットと擦れる音だけがする「スウィッシュ」がとりわけ好きなのだと。このチームは強いだけでなく、好みなのだと。まさしく「swish da 着火 you」なのだと!

↓ケイセイ100%が日本の心に火をつけた!


第2クォーター終えて50-37、13点差の大きなリードを築きました。その勢いは第3クォーターに入ってもつづきます。カーボベルデの反撃を十分なリードを保ったまま凌ぎつつ、ホーキンソンさんは自陣ゴール下から相手のゴールまで自ら運んでバスケットカウント・アンドワンで3点プレーを決めてみせ、富永“ケイセイ100%”さんは今日5本目と6本目となるスリーポイントを成功。ホーキンソンさんと富永さんが第3クォーター時点で20点を超える大量得点で、一時は20点差をつける試合運び。「16点差負けまで大丈夫」と思っているなかで20点リード、これなら第4クォーターで1点も取れなくてもパリに行けそうです!

↓ゴール下でリバウンドを取ってから相手のゴールへ自分で攻めていく!何という献身、何という万能!


「もう大丈夫だ」と内心で緊張が緩んだ第4クォーター、漫画のようなことを起こしてきたチームが漫画のようなことを始めます。急に、何故か、まったく点が入らない。完全に決まったと思ったシュートもことごとく落ち、何と、第4クォーター「7分14秒間」にわたって日本は1点も取ることができませんでした。「第4クォーター1点も取れなくても大丈夫だろ」とは言いましたが、それは冗談であって、本当に1点も取らないとは思いもしませんでした。負けたら五輪が消えるわけではないものの、負ければ最後の試合が終わるまで切符は確定しません。23時過ぎまで?確定を待たないと?喜べない?それは辛い!

気づけば点差はグングン詰まり、73-68の5点差になっています。もう完全に射程圏です。現実的に逆転が起きる範囲です。ホーバスHCは静かな声で選手を落ち着かせようと努めています。ようやく日本が得点を動かしたのは残り2分46秒、相手がくれたテクニカルファウルでのフリースローでした。相手は判定を巡って少しフラストレーションが溜まっていたところもあり、そうした苛立ちが生んだテクニカルファウルでした。助かった。相手のヘッドコーチが第1クォーターの「わりとどうでもいい」ところで使ったヘッドコーチチャレンジも、こうなってみるとありがたかった。

しかし、その1点では相手の勢いを止めるには至らず、さらに点差が詰まって一時は3点差にまで迫られます。もう「1プレーで逆転」まであり得る範囲です。そんな最後のピンチを花と添えるかのように、今大会のMVPに最後の活躍の機会が巡ってきました。5試合ほぼ出ずっぱりで、ビッグマンの少ない日本のインサイドを支えてきたホーキンソンさん。怪我をしても、疲れ切っても、ファウルで退場となっても、ホーキンソンさんがいなくなってしまえば日本代表はバスケにならなかったでしょう。守備面だけでも欠かせない存在であるのに、守ったあとの反撃でもよく走り、よく決めました。ゴール下から決めるだけではなく、スリーポイントもいくつも決めましたし、フリースローは正確無比でした。

「5試合ほぼ出ずっぱり(※カーボベルデ戦は40分フル出場!)」の選手が「フリースローをチームダントツの45本獲得し40本成功(88.9%)」というのは、激しいゴール下の競り合いのなかでも自分はファウルをおかさず、攻撃では果敢にシュートを放って相手のファウルを受けてきたということです。大和魂と言いたくなるような、侍と呼びたくなるような、美しい戦いぶりでした。どれだけの消耗があるか計り知れませんが、そのチカラと献身がなければ日本はパリ五輪には行けなかったと思います。日替わりのヒーローは何人も生まれましたが、毎日ヒーローはホーキンソンさんただひとりです。

試合時間残り49秒、ホーキンソンさんは相手ゴール下の密集地帯で何人もの壁が立ちはだかるなかでシュートを決めると、ファウルで得たフリースローも決めて再び点差を5点に広げます。そして、残り15秒では今大会の日本代表を象徴するかのように「ジョシュ・ホーキンソン」が「スリーポイント」を決めるという形で、点差を9点に広げました。もう勝った、もう間違いない。日本はゆったりとボールを保持すると、最後の5秒は「抱き合って喜ぶ」ことに使いました。今大会3勝目、そしてパリ五輪出場決定、目指していたすべてを手にする最高の大会の有終の美を飾りました!

↓何て美しい大会なんだ!この5試合を見られて本当によかった!

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河村さんは保持したウィニングボールを涙のような雄叫びをあげる渡邊雄太さんに渡しに行きました。渡邊さんには日の丸も届けられました。「このチームでパリ五輪に行けなければ自分は代表を去る」と背水の陣を敷いて、自らの全身全霊を絞り出してきました。NBAで5季戦ってきた日本の大黒柱が、誰よりも熱く、誰よりも本気でこのチームを勝たせようとしてきました。その背中がみんなを引っ張り、みんなを支えてきました。みんなが認めるリーダーがいて、その人が誰よりも本気だったことが、このチームを強く熱くした要因だったと思います。強いキャプテンシーがあったから、どんなときも崩れなかった。

スタンド総立ちで大合唱する「第ゼロ感」の中央でヒーローたちが見せる笑顔は、日本バスケ界が生み出した最高の瞬間だったかもしれません。大会が始まる前、世間的な注目は低く、燃えているのはバスケ界だけでした。あのフィンランド戦、あの劇的な試合は「終わったあとで気づかれる」ような具合でした。あの1勝だけで終わっていたら、結局パリ五輪を逃していたら、あの試合は苦い記憶にさえなっていたかもしれません。「あんないい試合をしたのに」と。しかし、物語は動き出しました。スラムダンクが描かなかったさらに先へ。あの素晴らしい勝利のあとで、嘘のようにボロ負けして終わるのではなく、さらに素晴らしい戦いがあるかもしれない未来へ向かってつながりました。つづきが見たい。パリでつづきが見たい。その前にBリーグで彼らを見たい。

「バスケットは…好きですか?」
「大好きです」
「今度は嘘じゃないっす」

そんなやり取りが、日本という大きな舞台で交わされた気がしました。

バスケット、面白くて、熱くて、好きです!

ありがとうアカツキジャパン、朝日を見せてくれて!

↓その名の通りのアカツキがここに!







↓勝ったら「第ゼロ感」を流して大合唱は恒例にしたいですね!


この大会を、この代表を、後押しするための公開期間だったような気がします!

日本バスケのテーマソングを生み出してくれてありがとうございます!



でもこれはまだ「旅路の最中」!パリ五輪で描かれる未来に期待です!