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ラグビーは陣取り合戦だということを改めて学びました!

熱戦つづくラグビーワールドカップ、日本代表は予選プールの第2戦イングランド戦に臨みました。グループ内でも最上位のチカラを持つと見込まれ、過去の対戦では10戦全敗という相手。今度こその勝利を目指して挑んだ日本代表でしたが、12-34で敗れました。準々決勝進出には残るサモア戦・アルゼンチン戦での勝利が必要となります。非常に厳しい、しかし、そういう状況を乗り越えてこそ面白い、引きつづき痺れるような大会を堪能できること、楽しんでいきたいと思います。



この日も試合前には何故か長渕剛さんの「とんぼ」が鳴り響くなか、大一番に臨んだ日本代表。試合前練習を終えて引き上げる際の肩を組んで一団となる「舟」の陣形、ロッカールームでキャプテン姫野和樹さんを中心に心を重ねる円陣、そして日本出身ではない選手やコーチ陣も含めて大合唱し涙さえあふれる君が代。ひとつの塊となったチームは「準備万端」の佇まいでした。ハイパフォーマンスユニオンいわゆる「ティア1」に属する国同士の対戦に臨むにふさわしい、勇ましくて堂々たる姿です。格下の国が腕試しに来たのではなく、勝つためにここにやってきた、そういう顔、そういう意気込みです。

しかし、そんな日本を「本当にティア1か?」と試すように、この試合では不都合と不運とが次々に襲い掛かってきます。試合開始直後の39秒、相手が裏に蹴り込んできたボールを余裕をもって確保しようとした日本代表フルバックのマシレワさんが「インゴール内でボールをポロリとこぼして」ノックオンします。絶対に避けようと思って臨めばいくらでも避けようがあったノックオンでした。これにより日本は早くも「自陣5メートルラインでの相手ボールスクラム」というピンチを迎えます。イングランドの強力フォワード陣であれば、そのまま押し込んでしまうイメージすら沸くピンチです。

このピンチ、日本はスクラムでは互角以上に押し勝ちますが、その後の展開のなかでオフサイドの反則があり、ペナルティゴールにより3点の先制を許します。ボーナスポイント獲得を狙うなら「4トライ」を目指して攻撃してもいい場面ですが、まずは3点を確実に取るという選択をしたイングランド。ミスはあったものの、「スクラムで容易に押し勝てない」チカラを示してしっかりと相手を撤退させた、そんな立ち上がりとなりました。

その後、キックでの陣取り合戦の様相となる試合。イングランドはキックの精度が高く、そこに走り込む選手が大きく、競り合いのなかで「弾いて味方に落とす」ということを徹底してくるため、キャッチを狙う日本よりも先手先手の動きとなります。前半7分という時点でフルバックのマシレワさんが右足を痛めて交代することになった場面も、突き詰めれば「イングランドの高いキック精度により」「ドロップアウト(インゴール内での守備側のグラウンディング)をするハメになり」「マシレワさんがドロップキックをしたときに足を痛めた」というものでした。相手の精度によって、マシレワさんのスピードとラインブレイクという武器と、マシレワさんのハイボール獲得と蹴り返しのキックという防具を奪われ、フレッシュな選手を早々に1人失うことを強いられました。不運ではありますが、「不運が起きかねない状況を強いられた」ことも確か。ふぅー、さすがイングランド、手強い相手です。

そしてこのキック合戦のなかで見えてきたのが、ラインアウトではどうもかなりやられそうだということ。2メートルを超える選手を擁するイングランドに対して、日本は競り合いにいけないことも多く、またマイボールのラインアウトでも「ちょっと工夫をした」プレーを意識させられている模様。長身選手に素直に合わせるだけではなく、裏に飛ばすような構えをたびたび見せて素直な競り合いを避けるようにしています。日本が前半24分に奪われた最初のトライも、自陣インゴール付近でのマイボールラインアウトから高く投げて裏に抜けたボールをこぼし、それを相手に拾われてのものでした。「大きいは正義」という原則を改めて突きつけられるような試合です。

↓裏に抜けるプレーも含めて想定していた布陣だけれど、弾かれて、それをポロリしたところを拾われた!


それでも前半は体力面も集中力も十分ですので互角に渡り合って見せた日本代表。チリ戦ではすべてのキックを決めた「リキヤ100%」松田力也さんが前半15分、前半23分、前半32分と3本のペナルティゴールを「すべてド真ん中」で成功させ、前半終了間際の段階で9-10というスコア。まさに狙い通りのゲームプランで、このまま終盤戦まで持ち込んでいければ、体力・集中力といった部分での勝ち負けは十分に見込めるところでした。それだけに前半終了間際の失点はもったいなかった。残り時間を考えれば、ボールを保持して相手にもう攻撃チャンスを与えないよう時間を使いながら攻撃していってもよかった場面でしたが、難しいプレー選択から相手に再び攻撃の機会を与え、最後は相手にペナルティゴールを許す格好となりました。

そのときの反則も仕方ない反則というよりは、オフサイドラインをしっかり意識して、ラックのたびに都度都度オフサイドラインまでしっかり戻るという意識があれば犯さずに済むようなもったいない反則でした。これについては「俺だな」と自覚のある選手は次戦までにしっかりと意識を改めてほしいところ。「前へ」の意識は大切ですが、身体まで先に出てしまっては本末転倒です。「絶対に防ぐという意識があればいくらでも防ぎようがあった」と言える最初のインゴールノックオンからの3点と最後の余計な3点、その6点がなければ9-7とリードして折り返す展開もあり得ただけに試合運びの部分で惜しい前半戦となりました。

↓キックはよかったですよ!今後の戦いでも必ずチカラになるド真ん中100%のキック!



迎えた後半、ここでまた日本には難しい状況が発生します。前半から脇腹を押さえて倒れるような姿を見せていたプロップの具智元さんが交代で退いたのです。3番はスクラムでもっとも圧力が掛かる要のポジション。日本の強みであるスクラムにピリッと亀裂が入る交代でした。

そして、日本には大きな不運も起きます。日本がペナルティゴールで12-13の1点差に迫り「ここからいくぞ」とモメンタムを上昇させていたところに冷や水を浴びせるように、「相手がパスをキャッチしそこねて弾いたボールが、他選手の頭に当たって前に飛び、それを再び相手に拾われ、日本がノックオンだと思っている間にトライされた」という不運&セルフジャッジのコンボのような悪夢的失点が生まれてしまったのです。

すでにイングランドがひとつ手で弾いていたという部分、次の選手が頭で弾いたものが都合のいい場所に飛んだという部分、日本がセルフジャッジで足を止めてしまったという部分、ピタゴラスイッチのように不都合が連鎖して決まったトライ。いよいよ増してきた日本の勢いがこれでガクッと削がれてしまいました。人数的にはまだ守備が残っていただけに、セルフジャッジの部分が悔やまれます。チリ戦でもまったく同じように「ノックオンだと思い込んで足を止める」という場面がありましたので、そこはチームの課題として解決しないといけないでしょう。

↓ビデオを見ると、ノックオンでは…ないですね…!しっかりボールを追った相手が偉い!


その後、日本にもトライのチャンスが訪れます。折からの暑さもあってイングランドの動きが少し鈍ってきた時間帯でした。ウィング松島さんの6人抜きに始まり、後半から入っていたライリーさんのラインブレイクで相手インゴールまで10メートルほどに迫りますが、パスを回すなかで痛恨のノックオンが起き、日本の攻撃は途切れます。雨の影響もあってか、とにかくノックオンが多かった日本。ハンドリングエラーで流れを失い、そうしたエラーがイングランドの得点につながっていったというこの試合を象徴するようなプレーでした。まさに「ミスで流れを手放す」というヤツです。

その後は、ジリジリと引き離されていく日本。後半26分には日本陣内深くでのマイボールスクラムからの展開でトライを奪われます。マイボールスクラムからボールを出すキックをミスしてキャリーバック(※守備側が自陣インゴールに持ち込む)するハメに追い込まれ、そこからの相手ボールスクラムでペナルティをおかし、アドバンテージ中の思い切ったキックパスがトライにつながるという厳しい形でした。日本はフォワード陣のメンバー交代によって前半のような互角以上のスクラムを組めなくなっており、この試合で明らかに優勢なポイントだったスクラムでも押し負けました。小さな亀裂が広がって大きな亀裂となった、イングランドの圧力が日本をついに上回った、そういう感触のプレーでした。

後半41分にはボーナスポイント獲得を狙うイングランドにこの日4つ目となるトライを許し、最終スコアは34-12となりました。日本は「4トライ」「7点差以内での負け」で得られるボーナスポイントも得られず、見事に負けました。イングランドは派手さはないものの、大きくて、強くて、ミスが少なく、キックの正確さが際立っていました。後半26分のトライなども前半に日本が同じようなプレーを試みたときよりも遥かに正確なキックパスでしたし、陣地を取るためのひとつひとつのキックが「ここにいったら理想的」というところにキッチリ送られました。2度のインゴールドロップアウトを始めとして、イヤーなところにボールを蹴り込まれて、イヤーなプレッシャーを受けつづけた試合でした。お見事だったなと、率直に認めるしかありません。

ただ、相手の強さを認めつつも、もう少し日本がやれそうだったのは収穫でもあり惜しまれるところでもあります。後半途中まではスコア的にも互角の展開に持ち込みましたし、日本の失点はミスが起点となるもの揃いでした。相手は強くて上手かったけれど、日本の自滅がそれを強調した面は否めません。そして、運にも見放されたなと思います。前半20分に松田さんが相手キックにチャージした場面で、こぼれたボールが自分たちのほうにバウンドしていたら。後半2分のキックがレメキさんのほうにバウンドしていたら。後半16分のヘディングの場面、こぼれた方向が日本選手が「思わず拾いたくなる」場所だったなら。楕円球の跳ねる角度で「ラッキー!」と言いたくなる場面がなかったのは、スコアの差につながった部分かなと思います。「やられた」が半分、「やっちまった」が半分の半分、「ツキに見放された」が半分の半分。その意味で「完敗」とは呼びたくない、そういう試合だったと思います。

↓過去10戦全敗の側が、ミスをして、運が向かないのであればこんなもんでしょう!


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そうした運だったりミスだったりがスコアに反映されるのは、結局は「陣取り」次第です。相手陣内で起きたことであれば、ヘディングがたまたま相手につながっても何ということはないのです。その陣地を取り合う手段として、走ってゲインするのか、キックで前進するのか、という陣取り合戦のなかでプレー面では両方ともイングランドが優勢でしたし、日本はもっと丁寧に意図があるキックを蹴ることができただろうと思います。味方が優位に走り込める場所に、しっかり高く蹴る。相手がカウンターできない場所に蹴り込む。タッチに出すときも少しでも遠くで出す。単純ですがキックのあとに自分たちのボールになるか相手のボールになるか、どの位置で仕切り直しになるかで陣取りは全然違ってきます。ぶつかり合いには体格なども効いてきますが、キックをどこにどういうボールで蹴るかは自分たち次第です。そこは「決勝でもう一度当たるかもしれない」ということを念頭に突き詰めていってほしいもの。

最近の各種世界大会での日本代表には「予選リーグでは互角以上の戦いをできた気がする相手が、決勝トーナメントで真価を見せて上回られる」みたいな事例がつづいています。ラグビーでは逆に、日本が決勝トーナメントで真価を見せるような尻上がりパターンでいけばいい。今回は日本に追い風が吹く要素がなかっただけに、再戦があれば「もっといい試合」になるだろうと思います。そのためにもこのあとのサモア戦、アルゼンチン戦で勝つことが重要です。どの道、サモアとアルゼンチンに勝たねば決勝トーナメントはないのですから、状況が悪くなったわけではありません。「日本、サモア、アルゼンチン」のなかで1位になるかどうかの予選プールです。試合後の選手たちの様子を見れば、この敗戦を引きずったりうなだれたりすることはなさそうですので、期待して見守っていきたいもの。日本は少し試合間隔が空きますので、再び元気いっぱいとなって勝負の後半戦に臨んでもらいましょう!

↓そして試合後、怪我のマシレワさんに代わって山中亮平さんが帰って来ることが決定!

ラグビー人生第3章をスタートしたはずの男が、仲間に請われて第2章に舞い戻ってきた!

「心強い戦友(とも)」が戻ってきたら、漫画なら勝つフラグ!期待しかない!



これだけ運に見放された試合があるなら、運が全部コッチを向く試合もある!