2023年09月22日08:00
これからも全身全霊で羽生結弦を貫き通します!
文章で見るのと、声で聴くのとで話の印象というのは結構変わります。よくラジオの書き起こし記事などでありますが、かなりキツイ発言のようになっている話も、実際にラジオの音声で聴くと印象が異なるもの。例えば「死ね!」という発言があったとき、文字だけ読むと大変な脅迫のように読めますが、その発言をしたシチュエーションや声色、話の流れによっては親しい友人同士の笑い話だったりもします。その意味で、文字と声とはまた情報量が違うものだなと思っております。
そんな体験をさせてくれたのが、ANA公式YouTubeチャンネルに投稿された「『ANA×羽生結弦』一問一答インタビュー!」なる動画です。内容としては、よくある、有名人が質問のラッシュに答えるというものです。この手の応答をする機会の多い羽生氏は、いつも通り、真摯に、誠実に、テンポよく回答していきます。普段から自分の人生をよく考え、かつ嘘のない人ならではの対応です。僕のような素人がやると大抵の質問で「ん…?」と今初めて答えを考え始めるわけですが、人生を深く生きている人はこうしたときの回答の厚みが違うよなと感嘆するわけです。
↓早速ですが、一問一答は各位でご確認ください!
羽生氏の回答は全般的に、今を肯定し、自分を肯定し、後悔や自己否定のない輝ける生き様を体現するようなものでした。第1問の「タイムトラベルできるなら?」という何でもアリの質問で「3歳。物心がついた頃」という回答が出てくる段階でまず輝いています。おそらくは「3歳からもう一度自分をやり直すことができたらもっと頑張れる」的なニュアンスがあるのでしょう。くぅー、立派。僕が同じ質問をされたら、まず「自分が記憶している儲け話(競馬等)で一撃がデカイのはどれだ?」から検討し、「無一文で身体だけ過去に戻るパターンだったら種銭はどうする?」を考え、「知り合いからお金借りられる程度の時期がいいな。5年前がギリ」みたいな検討になるでしょう。3歳は…ぶっちゃけもう面倒くさいですかね…。いきなり志の違いを見せつけられました。
「特別な能力を持てるなら?」の質問に少し考えてから「イメージした姿をすべて体現できたら嬉しい」と答えるなんて、どんな人生を歩めばそうなるというのか。僕なら「明日の株価がわかる能力」とか「不老不死不病でどんな怪我でも再生する」とかそういう回答を0.1秒でする場面なのに。少し考えてからの回答となるあたり、逆に「そういう能力」のことを考えたことがナイんだなって感じも、また打ちのめされるようです。「望んだ相手を遠距離から爆破」とか「10秒程度時間を止めて動ける」とか「指さした相手が自分に惚れる」とかそういう欲まみれの能力じゃないヤツを希望する人っているんですね…。
そんな思考をしている刹那のつづけざまの質問で「永遠に生きられるなら何をして生きたい?」と問われ、「永遠に生きられないような発明をする」「際限がない自由ってとても退屈だと思う」ときた日には、心の死体が蹴り飛ばされるような気分になりました。こっちゃぁ「不老不死不病でどんな怪我でも再生する」とか言ってるのに「際限ない自由は退屈」とのことですよ…。「だからこそ幸せを感じる」「辛さがあるから幸せを感じると3.11から思っている」「終わりがない命だったら幸せをこんなに感じることができない」とのことですよ…。試してみたいので一度「永遠の命(不老不死不病でどんな怪我でも再生すると解釈)」と「際限ない自由」をください…。とりあえず独裁者暗殺して国ごと乗っ取ってみますので…(※腕力が変わらない場合、牢屋に入れられてバットエンドになりそう)。
「この方、今の人生にめちゃめちゃコミットしてる…」
否応なく気づきますよね、「あぁ、自分は、可能ならば今の人生をリセットしてやり直したいんだ」と。転生したら自分の能力がチートで通じる無双の世界を求めているんだと。丸ごとやり直すのは面倒ではあるけれど、強くてニューゲームという感じで今の経験と知識を備えたまま無双できるなら、早速そうしたいと思っているわけです、僕は。しかし、羽生氏は違うわけです。今の人生、限りある生命のなかで、締め切りに追われることでやる気が出る自分を自覚し、限りあるがゆえ振り絞れる全力で今を生きようとしているわけです。
仮に記憶と経験ナシである日突然時間だけ3歳に戻ったとしても羽生氏は「羽生結弦」になるでしょうが、僕はどうなるかわからんなと思わされました。ほんの少し不運につまずいたら、もうそれで際限なく堕落していく可能性もあるよなと。何せ、「不老不死不病でどんな怪我でも再生する」という先送りを希望する人間ですからね。本当にやりたいことがある人は不老不死なんて言わないですからね。もっと具体的な、やるべきことのための能力をもらいたいでしょう。決定的な徳の差を感じずにはいられません。
唯一、「あ、おぬし、このテーマ人生で考えたことがないな?」という隙らしい隙を見せた「無人島に3つ持っていけるなら何?」という質問も「ナイフ、マッチ、水」という、まさに自己肯定の極みのような答えです。これって、自分で何とかするっていう意志ですよね。自分のチカラで困難を切り開いていくことが当たり前の人の答えですよね。心理テストじゃありませんが、この回答だけでも自分を信じ、自分の未来を信じている姿がありありとうかがえます。
僕などはこの回答に「マッチじゃなく何度でも着火できるキャンプ用のファイアースターターを持つべき」とか「水なんか持ってどうする。島にあるもので海水を蒸留できる装置を組むべき」とか「長期滞在用の装備がナイフしかない。あとは短期脱出用の装備。思考が中途半端で手ぬるいぞ」とかツッコミを入れながら(※謎のウエメセ)、質問に「手で持てるもの」みたいなルールがないのを逆手に取って「船、燃料、運転手」と0.1秒で回答できるくらいには思考が研ぎ澄まされているのです。「もし船に燃料がすでに入っている前提でよければ、代わりに積載量いっぱいの金(※カネじゃなくてキン)をください」まで回答の備えはあるのです。まぁ、その回答を0.1秒でした場合、何らかのフォロワーみたいなものが一気に減りそうですが…。
↓無人島に持っていく船はコレでいいですよー!
ホワイトデーに恋人がYAMAHAのプレミアムなボートで迎えに来た、に使っていいよ
— ヤマハ バイク (@yamaha_bike) March 14, 2018
名称 EXULT43
発売日 2018年6月1日
メーカー希望小売価格例 149,364,600円(消費税抜き)
(本体147,000,000円+法定安全備品他価格2,364,600円)
※平水・限定沿海仕様https://t.co/iOHoHlxEOS pic.twitter.com/4gBCGL17Wk
その後、「宝くじが当たったら?」という質問に「細々と靴のメンテナンスに使います」という、当たってても当たってなくても関係ないような回答を平然と返した羽生氏は、いよいよ質問の終盤へと向かっていきます。「生まれ変わるなら何になりたい?」には「羽生結弦」と返し、「幼い頃の夢は?」に「オリンピック2連覇」と返す、後悔もたらればもない人生賛歌の果てに、ほとんどフリー質問というかシメの言葉をもらいたいだけの質問「ファンのみなさんに伝えたいこと」で突如として考え込み始めた羽生氏。「えーっと……」「うーん……」「そうだな……」とつぶやいてうつむくと、都合20秒ほど考えます。そして、これまでのどの質問よりも長く考えた末に、羽生氏は「これからも全身全霊で羽生結弦を貫き通します」とだけ答えました。
ANAさんの一連の動画はおそらく同じ日に撮影されたもので、投稿日からすれば8月2日より前に撮られたものです。8月4日よりも前の収録です。撮影の時点では「実はこのあと」と言うこともできず、かと言って「この動画が投稿される頃にどうなっているのか」はわからず、ただどういう未来に向かっていても誠実で嘘のない「いつ誰が聞いたとしても、そう答えるほかにない」ような回答をしなければいけないとハッとしたのでしょう。
流れ作業で答えるならば「いつも応援ありがとうございます」「これからも一生懸命頑張ります」「ひきつづき応援よろしくお願いします」あたりになるわけですが、「応援してくれているかな?」とか「何を頑張ると言えばいいんだろう?」とか「ひきつづき、かな?」とか自問自答が繰り広げられたのだろうと思います。もしかしたら、SNSで厳しく諭される「黙って去れ」といった言葉の通りに「黙って去った」人や、今まさに乱れる心を抱えながら自分を責めている人もこの言葉を耳にするかもしれない。そこまで思いを馳せたなかで紡ぎ出したのが「これからも全身全霊で羽生結弦を貫き通します」だったというのが、その日の収録現場では伝わらなかったかもしれませんが、一番重くて一番大きな答えだったのだろうと思います。
「これからも全身全霊で」つまり「これまでもそうだったように」
「羽生結弦を貫き通す」つまり「過去も現在も未来も同じ羽生結弦である」
「いつも」とか「これからも」とか「ひきつづき」と呼び掛けることはできないかもしれないけれど、自分にできること・やるべきことをこれまでもやってきたし、これからもつづけていきますという誓いをしたのでしょう。これが恋愛関係であるなら「あなたを愛し続けます」くらいの誓いなのだろうと思います。ただそれはあくまで自分自身の誓いであり、「あなた」に受け入れられるのかはわからないけれど…という覚悟もはらんでいるのでしょう。「黙って去る」人に呼び掛けて止めることはできないけれど、そこで誓っているのです。私は私で、これまでもこれからも、ここにいるのです、と。そして、これが私のすべてです、と。「黙って待つ」そんな姿だなと思います。
8月4日のお報せと基本的には同じで、もしかしたらこの言葉がベースになるものだったのかなと思います。言葉の数は少ないけれど、考え込む姿や、それまでの受け答えとの対比や、意を決したような表情や、言い終えたあとの「これ以上つづく言葉はありません」と言うような目は、より雄弁に、よりわかりやすく、気持ちを伝えるものだったように思います。「読む」のと「聞く」のとはまったく違う、そのぐらいいろんな情報が載った言葉でした。
これまでいろんなことがあったけれど、貫き通してきたものは変わらないのであれば、お互いに何も変わらないでいいのではないか、そんなことを思います。きっと、変わりつづける世界のなかで、お互いに変わりつづけながら、ただし貫き通してきた結果が今なのだろうと思います。黙って去るのもいいし、黙って待つのもいいし、黙って寄り添うのもいいし、黙って貫き通すのもいい。今までと同じで、別にいい。そんなスッキリとした気持ちになるような一問一答でした。大っぴらに言えない気持ちがあったとしても、それは誰しもが抱える自由のひとつだと思いますしね。貫き通す、その気持ちでいきたいと思いました!
↓貫き通すってのは、もちろんそういう意味ではないですよ!
日本記者クラブでの記者会見で、 #羽生結弦 選手が寄せた揮毫(27日、東京都千代田区で)=高橋美帆撮影 pic.twitter.com/NJ9Wm8Dq5X
— 読売新聞写真部 (@tshashin) February 28, 2018
目指す未来に向かって、ひたすらに進んでいく!
道は曲がりうねって、周囲の景色が変わったとしても!
単純過ぎるかもしれませんが「会って話す」って大事なことなんだなと思いました!
なんか、フモさんの文章には突っ込んだりニヤニヤすることはあったけど…
今日は朝から目から滝が出現してしまいました…ナイヤガラ級のやつが…
同じように思い願っている同士がたくさんいますね。
的確な文章で綴ってくださり、ありがとうございました。
これからも全身全力全霊で。