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2023年10月23日08:00
騎手という人間が生み出した3馬身2分の1差の圧勝劇!
日曜日は競馬などを楽しんでおりました。3歳牡馬クラシック3冠の締めくくりとなる菊花賞です。今年は23年ぶりに皐月賞馬と日本ダービー馬とが並び立ったということで2強対決に注目が集まっていました。僕自身も「2強のどちらが勝ちますかね…」という見立てでレース予想などに取り組んでおりました。
しかし、フタを開けてみれば何と重賞初挑戦となるドゥレッツァ号が菊花賞を制覇。それも2着入線のダービー馬と、3着入線の皐月賞馬に3馬身差以上をつける圧勝です。ある程度の評価はしつつも、コースレイアウト的に不利であろうと思われた大外枠であったこと、これが重賞初挑戦という未知数の部分があったことで勝ちはないだろうと踏んでいたのですが、とんだ見立て違いでした。何とかワイド馬券で上位3点当てて賭け金微減で済んだものの、2強がそのまま連に絡んだなかでは惨敗といった感触のレースでした。
それを生み出したのは馬自体の強さはもちろんですが、騎乗するルメール騎手の神騎乗に要因があったことは、さすがにこのレースを見せられれば理解せざるを得ません。下手な騎乗などを見ると「騎手とかいう荷物が乗ってないほうが速いのでは?」と言いたくなる日もありますが、この菊花賞は間違いなくルメール騎手の手綱さばきによって生み出された圧勝劇でした。平凡な騎乗でも馬のチカラで勝ち負けはしたかもしれませんが、3馬身と2分の1の差はつかなかっただろうと思います。「何も考えずにルメールを買え」が正解のレースでした…!
↓スタート直後、「アーッ!」という声が漏れた桃色17番ルメール騎手の仕掛け!
まずこの菊花賞というレースの説明から。こちらのレース、クラシック3冠の締めくくりとして京都競馬場芝3000メートルの距離で競うレースです。皐月賞(2000メートル)、ダービー(2400メートル)と比べても距離が長いことで、スタミナ豊富な長距離ランナー(ステイヤー)が強いレース……と言いたくなりますが、実はそうではありません。現代の日本競馬は長距離得意のステイヤーなど求めておらず、レース数が多いマイル(1600メートル)前後の中距離レースをメインに、せいぜいがクラシックディスタンスである2400メートルくらいまでで強い馬を育てようとしています。
そのため、この菊花賞は「3000メートルなんて走ったことがないんだよね」という初心者馬が集い、「最後までスタミナもちますかね?」とおっかなビックリ走るレースとなっており、結果として「前半はジョギング程度で流し、最後に猛ダッシュで勝負を決める」という事実上の中距離レースになっています。勝利した馬の傾向でも、ダービー馬よりも皐月賞馬のほうが菊花賞での勝利との関連性が強く、最後の1000メートルダッシュに強い馬が勝つレース。卑怯者が集った校内マラソン大会のように、「みんなでゆっくり走ろうぜ!」からゴールが見えた瞬間に友だちを裏切ってダッシュするようなレースなのです。
そのため基本的には前目の好位につけるのが有利です。一番後ろからダッシュ大会になったらよほどの速さがなければ追い抜けませんので。ですので、位置取りが重要になります。そのときコース内側の枠に入った馬のほうが、コース外側の枠から内に寄ってくる馬よりも前に出やすいので当然有利なわけです。さらに、菊花賞の舞台となる京都競馬場芝3000メートルのレイアウトでは、スタート直後にコーナーがあるため、そこでポジションを上げ下げするのが難しく、何となく内枠の馬が前目につき、外枠の馬は後方から追走する展開になりがち。とまぁ、そんなことで「大外枠は不利」というのが定説となっております。
そんななか、大外8枠17番に入ったのがドゥレッツァ号とルメール騎手です。ルメール騎手はどういう考えでレースに臨んだか、レース後に調教師さんが明かしたところによれば、ルメール騎手からレース前に「静かな感じで競馬をするか、アグレッシブな競馬をするか」と聞かれたとのこと。調教師さんは「任せる」と応じたそうですが、このやり取りでルメール騎手には大きくふたつのプランがあったことがわかります。
静かな感じで競馬をするというのは、外枠発走なりの位置につけ、自分より少し内側の枠から出る1番人気・ソールオリエンスあたりをマークするということでしょう。中団から後ろくらいのポジションで道中を運び、最後にジワジワと上げてラストの勝負に挑むと。一方でアグレッシブな競馬をするというのは、思い切って前に行くという意味だったのでしょう。大外枠の不利を跳ね返していいポジションにつけるには、最初のコーナーに入るまでに思い切って前に出てしまえばいいわけで、それをやるぞということです。
実際のレースを見ると、ポンといいスタートを切ったドゥレッツァは、ルメール騎手の手綱によって加速し、コーナーに入るところで先頭に取りつきました。レース後のルメール騎手のコメントによれば「馬が元気だったのでフライングスタートをしました。すぐ前の方に行ったので逃げた方がいいと思いハナを切る判断をしました」とのこと。ポンと出て、馬が行きたがっていると察知して、迷わず先頭を取りにいったのであると。
【#菊花賞 結果&コメント】ドゥレッツァ圧勝!ルメール「馬が元気だったのでフライングスタートをしました」https://t.co/AoBp9fyWsS
— 東スポ競馬 (@tospo_keiba) October 22, 2023
これは「言うは易し行なうは難し」のレース運びです。脚質や性格の問題で「逃げるしかない」と思っている馬ならさておき、ドゥレッツァはここまで逃げたレースはありません。中団から前目で差す競馬で勝ってきています。ドゥレッツァが前に行った瞬間に若干のどよめきが上がりましたが、多くの人が「負けた」「終わった」と思ったことでしょう。何せこのレースは「ゆっくり走ろうぜからのダッシュ勝負」です。逃げ馬でもないものが前に行けば、「間違って勢いがついてしまった」「前半でバテて終わる」と思うのが自然です。馬はこの先ゴールまで、過去のどのレースよりも長い3000メートルあるなんてことは知りませんし、ゲームみたいにボタン操作で確実にスピードを上げ下げできるわけでもありません。一度勢いがつけば行ったきりでそれで終わり……と思うのが普通です。
しかし、ここからのルメール騎手のレース運びが見事でした。先頭を取り切ったあとはペースを緩め、縦長の隊列のなかで10番手あたりにつける人気馬と十分に距離を取ったまま、馬にひと息入れたのです。このレースの3000メートルを1000メートルずつに区切ったときのタイムが「60.4秒⇒64.1秒⇒58.6秒」という推移でしたが、前半ポジション取りのために少しチカラを入れたあと、4秒近くペースを落とし、最後に再びダッシュする中緩みのレースであることがよくわかります。
2020年にコントレイルが勝ったときは「62.2秒⇒62.6秒⇒60.7秒」という緩みのないペース推移だったため、ハナを切った馬は3番人気のバビットを含めてことごとく下位に沈みました。2021年にタイトルホルダーが勝ったときは逆に「60.0秒⇒65.4秒⇒59.2秒」という中盤ガッツリと緩むペース推移だったことで、タイトルホルダーは逃げ切り勝ちを果たし、後方追走の1番人気レッドジェネシスは13着となりました。ルメール騎手は自らハナを切ることで、「逃げ馬が逃げ切り勝ちをするときのようなレースペース」を自分で生み出したのです。初めて逃げる馬を、まるでゲームのように操って。
向こう正面で2000メートルに差し掛かるあたりではドゥレッツァとルメール騎手は3番手までポジションを下げていますので、先ほどの数値よりも実際はさらに緩んだペースで走っていたはず。それでも向こう正面の直線では1番人気・ソールオリエンスや2番人気・タスティエーラとは5馬身ほどの差をつけていますので、最後のダッシュ勝負への備えは十分でした。3コーナーから4コーナーにかけての手応えと位置取りから、ルメール騎手は勝利を意識しながらのラストとなったことでしょう。
最終的に、ハナを切った1頭であるリビアングラスが4着に粘り、早めに前に上がったサヴォーナも5着したことから、逃げ・先行が有利な前残りのレースであったことは明らかでしたので、最後の直線に入ったときのポジションで勝負はついていたなという感触。上がり3ハロンが、1着・ドゥレッツァ(34.6秒)、2着・タスティエーラ(34.8秒)、3着・ソールオリエンス(35.1秒)と「前にいるドゥレッツァのほうがラストが速かった」ので、同じ位置取りからでも十分に勝てるレースだったとは思いますが、この圧勝となったのはレース運び、騎手の腕だったなと思います。馬だけでも1着を取れる強さであったものを、騎手の好騎乗が圧勝劇に仕上げた。これでは負けるはずがありません。どうしてガッツリ買わなかったのか、こんなに強いとわかってたら買ってたのに、事前に教えてくれや、そんなことを言いたくなるくらいの見事な勝利でした!
↓勝ったルメール騎手はウマ娘CMのタップダンスで上機嫌!
GIはルメールさんだけ買ったほうが当たる気がするわ!
なるほど、いい馬の騎乗を頼みたくなるわけです!
個人的な反省点としては、いろいろ迷い過ぎてしまったなと思います。ソールオリエンス、タスティエーラの2強が強いことはわかっていたのに、当てたいという気持ちが強くなり過ぎたことで、いろいろ手を広げてしまいました。1番トップナイフも買ってましたし(※スタート直後に故障)、6番リビアングラスも前残りがあるぞと買ってましたし(※4着)、8番サヴォーナも前残りがあるぞと買ってましたし(※5着)、11番サトノグランツも前走好走で買ってましたし(※10着)、12番ハーツコンチェルトも好位粘りがあるぞと買ってましたし(※6着)、もちろん17番ドゥレッツァも買っていましたので、当てても儲からないほど散らばった予想になっておりました。
皐月賞とダービーを見れば、同じところからダッシュすれば2強より前に出る馬はいないとわかりそうなものなのですから、軸にするほど信じるでもなくサトノグランツまで手を広げたのはやり過ぎでした。のちに公開されたジョッキーカメラで見ると、サトノグランツはスタート直後のポジション争いのなかでタスティエーラに内から出られて位置取りを下げており、その時点でもう厳しかったかなと思いました。
その観点で言えば、ルメール騎手までではないにせよ2着したタスティエーラのモレイラ騎手も見事な騎乗でした。スタート直後のポジション争いでは一歩先に自分の行きたい場所に入り込みましたし、最後の直線での追い比べでも外に出せないと見るや狭い隙間を狙って一気に入り込みました。素早い判断と思い切りで内に包まれた分のロスを生みませんでした。改めてこの菊花賞というのは、どういうレースをイメージして、どこにどう位置取るかという騎手同士の争いが重要なのだと感じさせられるレースだったなと思います。騎手は荷物ではなく大事なブレインなんですね…。
その観点で言えば、ルメール騎手までではないにせよ2着したタスティエーラのモレイラ騎手も見事な騎乗でした。スタート直後のポジション争いでは一歩先に自分の行きたい場所に入り込みましたし、最後の直線での追い比べでも外に出せないと見るや狭い隙間を狙って一気に入り込みました。素早い判断と思い切りで内に包まれた分のロスを生みませんでした。改めてこの菊花賞というのは、どういうレースをイメージして、どこにどう位置取るかという騎手同士の争いが重要なのだと感じさせられるレースだったなと思います。騎手は荷物ではなく大事なブレインなんですね…。
↓24秒頃にポジション取られて叫ぶ川田騎手(サトノグランツ)の声!ラストの直線ではずっとモレイラ騎手(タスティエーラ)の声が!
最後ずっとヴァアアアって叫んでますね!
それやると速くなるヤツなのかは知りませんが!
と、今回もまた「ルメールを買え」「海外ジョッキーを買え」「あとは適当に人気馬を買え」という身も蓋もない学びを得ましたが、今後に向けても大いに収穫となるレースでした。菊花賞だけではなかなか判断しづらいところではありますが、ドゥレッツァは相当な強さと見受けましたので、次の出走機会にはしっかり買っていきたいと思いました。できれば、古馬とゴチャ混ぜになって、タスティエーラ、ソールオリエンスらも混ざって人気が割れるような感じだといいなと思います。あと1回くらいは、美味しいオッズで買えそうな気がしますからね!
「長距離は騎手で買え」という格言、現代でも変わらないなと思いました!