答え合わせはいつも通り5年後くらいで!
他人の運命を他人が決めるタイプの「運命の日」。これほど緊張感のある分岐点を迎えるのはプロ野球志望の若者と死刑囚くらいかもしれません。彼らがどんな心境でこの日を迎えるのかは知りようもありませんが、きっと呪文みたいなものでも唱えて祈っているのでしょう。「ライガイデチュニド…ライガイデチュニド…ライガイデチュニド…ライガイデチュニド…」の祈り、果たして届くのでしょうか。
今年は阪神岡田監督の「ドラ1指名の事前公表をやめへんか」という提唱もあって、指名を事前公表した球団は2022年の9球団から4球団へと減少しました。確かに今年はコロナ禍を経て久々に有観客で迎えるドラフト会議です。チケットまで販売してお客様を入れる以上、本番のワクワクドキドキをお楽しみいただきたいというのはごもっともです。競合を下ろすために仕掛けるオープンリーチみたいな牽制は僕もいかがなものかと思います。「1位指名はもちろんアレですよ」「はい、うちは前々から決めていたアレです」「アレかアレです」などの言い方でも十分に記事は書けるでしょう。
ただ、こうも思います。「ハッキリ公表したほうが盛り上がる球団もあるよな」と。ドラフトを前に公表された中日ドラゴンズからのENEOS・度会隆輝さんへの1位指名予告は、すぐさまSNS上を駆け巡り「指名拒否」「球界の損失」をトレンド入りさせました。まさに他人の運命をもてあそぶ悪魔的悪趣味ではありますが、これによりグッとドラフトが盛り上がったことは否めません。犯行予告でこんなに世間を盛り上げられるのはルパンと中日しかいないのではないか。若者が流す涙の理由、確かめずにはいられない感じです!
↓逆に運命的なものを感じる過去記事だけど、「コメが好き」って話を人生で一度もしてない日本の野球選手を探すほうが難しいかもしれない!
さぁ、全国からライガイデチュニドの呪文が響くなか、今年もグランドプリンスホテル新高輪国際館パミール3F崑崙に集まったプロ野球12球団。曲名不詳のフゥゥゥフゥ〜みたいな音楽に乗って、先頭で立浪監督系中日ドラゴンズ会の皆さんが入場してくると、会場もグッと盛り上がりを見せます。つづく2番手で日ハム新庄監督がキラキラした鉄格子柄のスーツで入場してくると、もはや流れは完全にアレ。経済分野でのシノギが得意そうな方、リーゼント系の方、仁義なき地域の方、そして阪神と大阪の方。仲間入りの際には盃を深く懐におさめそうな面々は、はたしてどんな入札で人身(※闇組織風の言い方)を獲得するのか。今年は会場に多くのプロ野球ファンも集っているわけですが、何故かクジの箱のド真ん前に中日ドラゴンズファンの方が座っていたりするあたりも含めて悪魔的雰囲気がムンムンです。
そして迎えた一巡目の指名。宣言通りに中日が1位指名した度会隆輝さんには、ロッテ・DeNAも1位指名を行ない3球団が競合。名門花巻東高出身の右腕・西舘勇陽さんには日ハムと巨人が競合。そして、青学大の右腕・常廣羽也斗さんには楽天と広島が競合。さらに、国学院大の大型左腕・武内夏暉さんには公表済球団を含めてヤクルト・西武・ソフトバンクの3球団が競合することになりました。阪神は青学大の下村海翔さんを、オリックスは横山聖哉さんをそれぞれ一本釣り。現在のチーム力や指名巡などを加味した、戦略的な動きなども見える指名です。
注目の度会さんのクジ、ワイプで抜かれる度会さんは「絶対に感情を顔に出してはいけない」という自制心を強く持って、運命の行く末を見守ります。最初に引くのは中日・立浪監督。視聴者からは「あぁ、今は絶対に当たりクジが箱に入ってるんだよなぁ…」「頑張れ当たりクジ!」「若者の夢を守れ!全力回避!」と応援の声も上がります。立浪監督は右手でガッチリとクジをつかむと、度会さんはウンウンと頷きます。つづいてDeNA、そしてロッテとクジ引きが進み、いざ開封へ。大きく息を吐いて見守る度会さんに吉報を届けたのは…出身地&意中の球団・DeNA!三浦監督がガッツポーズを見せると度会さんはようやく破顔一笑し、その後、高校年代での指名漏れの想いなども甦ったか大粒の涙をこぼしました。よかった、本当によかった。クジが若者の希望に寄り添ってくれました!
↓こんなに泣いて喜んでもらえるなんて嬉しいじゃないですか!
つづく西舘勇陽さんのクジでは日ハム・新庄監督が何度もクジを触ってはモタモタ選んでいます。あとで話を聞けば「ハンコを押したところの厚みが0.02ミリ厚いと思って、右手でこう触って、クジを触って、左が厚かったんですよ」とのこと。新庄監督はクジを胸に押し当て、巨人・阿部監督がションボリするのを待って史上初の「クジ未開封で当てる」盲牌みたいなストーリーを完成させる狙いだった模様。まぁ、もっとも、その手にガッチリつかんだのはハズレクジのほうだったことで(※厚くなかった)、事前に言っていた「右手から金粉が18メートル出ている」の話を含めて、ただのアヤしい勧誘の人みたいになってしまいましたが……!
↓クジ引いてるだけなのにめちゃめちゃ面白いのズルイ!
さぁ、つづいては我が埼玉西武ライオンズもクジに参加した武内夏暉さんのクジです。ヤクルト・高津監督、西武・松井監督、ソフトバンク・小久保監督がクジを開くと、「よっしゃ!」と声を上げたのは西武・松井監督!武内さんがニヤリとしていたのは「やった!」の喜びというよりは「アチャー」の苦笑いだったりするのかなと思いますが、まぁ、監督が「よっしゃ!」と叫んでくれるくらいのオファーであるという点は素直に喜んでもらえればと思います。当方はポスティングにもFAにも協力的な、「入りたくないけど出やすい球団」ですので、真のチカラがついた頃には真の希望が叶うでしょう。西武界隈でも名将松井の声が広がり、今季の成績については許された雰囲気です!
↓松井稼頭央監督がニッコニコで寄ってきたら内心がどうであれ「まぁ、ええか」ってなるとは思います!
そして2球団競合の常廣羽也斗さんのクジ。楽天・今江監督は左で、広島・新井監督は右で、それぞれ人生初のクジに臨みました。見事当たりを引き当てたのは新井監督!「ゲンを担ぐことはしません。チカラで引こうと思ってました」とまるで剛運マンみたいな口ぶりで喜びを語る新井監督を前にしては、「いやいや、引いたときにはもう1枚しかクジ残ってないんで…」「緊張も何もないというか…」「CSでサイン出すときはもっと緊張してください」などと言える空気ではありません。「廣」の字が結んだ縁、大事にしてください!
↓指名されたほうもこんなリアクション見たら笑うしかない!
その後、ハズレ1位として各球団指名を行ない、そこでも再び亜細亜大・草加勝さん、大阪桐蔭高の前田悠伍さんで競合が発生。立浪監督のインタビュー待ち棒立ち事案を経て、さらにその先のハズレハズレ1位でも東洋大・細野晴希さんに競合が発生するなど、実にクジ引きを7回もやるクジ好きにはたまらないドラフトとなりました。昨年はクジ2回の平和なドラフトでしたが、今年はその分まで取り返すかのような悪魔的ドラフト。どちらがいいのかは難しいところですが、盛り上がったことは間違いありません。まぁ、久々の有観客ですし、それなりに希望も叶ったようなので、よかったのではないかなと思います。
そして、これは毎年の繰り返しですが、ドラフトはどんな結果であっても「大成功」です。本当に運命が分かれるのはこの先の日々であって、このクジではありません。この運否天賦を良縁とし、振り返ってみても「大成功だった」と思えればそれでよく、そうできるかどうかはこれからの球団とご本人次第。そこをどう乗り越えて、どう花開いていくのか。その未来を楽しみに、5年後くらいにまたこの日を振り返れたらいいなと思います。ということで各球団の採点&寸評です。
度会さんのクジでは立浪監督がガッチリとハズレクジをつかむも、ハズレ1位のクジではロッテを振り切って草加勝さんとの交渉権を獲得。その後は内野手を2選手上位で指名し、「昨年も支配下で内野手を3選手指名したがとにかく二遊間が欲しい…」「立浪みたいなショートはおらんものか…」「育てるのは一旦諦めて新しいのを獲りたい…」という切実さをうかがわせる指名に。そんななか3位で指名した辻本倫太郎さんは「笑顔」がトレードマークで中日の補強ポイントにもバッチリマッチング。この笑顔で明るい未来を作ってくれると信じよう。
↓最大の補強ポイント「笑顔」を埋める大型新人で100点ドラフト!
二度のクジに敗れたのち、ハズレハズレ1位で東洋大・細野晴希さんを指名。その後は支配下で野手4人を指名する勝負のドラフトとなった。とにかく「かっとばせ」という高身長強フィジカルの大型素材を集め、未来に向けての礎を築こうとするかのよう。そんななか5位指名の星野ひのでさんは「史上初のひらがな入り名前の選手」とのことで、「ははーん、登録名は『ひので』だな?」という気配も。なお、2位指名の進藤勇也さんの「(北海道のイメージは)すぐに風邪を引きそう」と4位指名の明瀬諒介さんの「(お祝いのタイの船盛りに)生ものが苦手」には、北海道での就職に向けてもうちょっと言い方を工夫してもらいたい伸びしろを感じた。
↓美味しい魚をたくさん食べて身体が強くなりそうです、的な方向でお願いします!
大学・社会人を軸に即戦力投手を上位で指名。ハズレ1位での指名となった専修大・西舘昂汰さんは巨人から1位指名を受けた西舘勇陽さんを念頭に「じゃない方」からの脱却を誓うなど意欲的。一般ファンにとっては、まだどちらもどちらでもないところではあるので、早期の活躍でぜひ「我こそ西舘」を確立してもらいたいところ。なお、確立の暁にはいろいろなことがほじくり返されるので、もしツイッター(X)などをやっているようなら、今のうちにいいね等は全部消しておくのをオススメする。もしくは「ニセアカウントに気を付けてください!こっちが本物です!」みたいな転生を試みるパターンでもOK。
注目の左腕・武内夏暉さんを見事にクジで引き当てたほか、2位でも期待の右腕・上田大河さんを指名するなど、充実の指名。「補強ポイントは外野だよな!」「外野ひとりも決まってないもんな!」「外野候補の時点で3人思い浮かばないんだよね!」という素人意見など意に介さず、支配下で6名投手を指名する超絶投手王国ドラフトを敢行し、「打つ方は何とかする」という熱いPL魂を感じることに。複数の選手が「素直に嬉しい」というコメントを残している点には、「普通に美味しい」という言い方と同様の若干引っ掛かる感じもしなくはないが、ともに優勝・日本一をつかむために頑張っていってもらいたい。
育成4位では埼玉武蔵ヒートベアーズの金子功児さん、育成6位では群馬ダイヤモンドペガサスの奥村光一さんを指名するなど「勢力圏」を大事にする姿勢を見せるあたりも抜かりなかったが、勢い余って懇意にしている徳島インディゴソックスさんからは育成合わせて3名を指名してしまった。「プロ1部球団に選手を抜かれるプロ2部球団が、今度は独立リーグから選手を抜く立場にまわった」と言われると困るが、まぁ、うん、選手の希望を尊重していくしかないと思う。
↓うん、いい笑顔!大人って感じがしますね!
西舘勇陽さんをクジで引き当てたほか、社会人から投手・野手をバランスよく指名する手堅いドラフト。育成に時間のかかる高校生は1人も指名せず、阿部新監督就任初年度、優勝はさておきCSまで逃すわけにはいかないという強い意志を感じる指名となった。阿部監督は相当な手応えを感じたようで、普通なら「100点」とか「80点」とか言っている監督の自己採点コメントで驚異の「3000点」の自己評価を叩き出した。「はらたいらか」「麻雀の感覚で言ってます?」「来年3万2000点とか言わなきゃいいが」と驚いたので、コチラの採点も3000点にしておいた。
↓1位指名インタビューでも何度も振られたのに「最高でーす!」は言ってくれなかった!
2度のクジに敗れるも、ハズレハズレ1位で桐蔭横浜大・古謝樹さんを指名。3位にはドラフト特番でも大きく特集された日當直喜さんを指名し、「マーさんにそっくり!」と話題に。ご本人も楽天ファンのようなので、まさに相思相愛の出会いとなった。6位の青学大・中島大輔さんの指名では、「同学の常廣羽也斗さんへの広島・新井監督からの1位指名の挨拶」とたまたまタイミングが重なったことで、新井監督から祝福を受ける場面も。いい出会いになりそうな予感がする日となった。
↓新井監督、引きが強過ぎるだろwww
とにもかくにも度会隆輝さんの交渉権を獲得してくれたことで、プロ野球民の12分の10くらいがホッとした。涙と鼻水が流れ出る大歓喜の表情と、「小学校や中学校の夢の欄に欠かさずベイスターズに入ってプレーをすると書いていたので、入団が決まって感動した」というコメントを見るにつけ、クジの神様への圧倒的感謝がやまない。投手・野手バランスいい指名で、あとはバウアーさんの残留を決められれば満点のオフ。
↓5位指名の石田裕太郎さんもベイスターズファンとのことでこの喜びよう!
武内夏暉さんのクジは外れるも、ハズレ1位で大阪桐蔭高で甲子園優勝&U18日本代表でW杯優勝の前田悠伍さんを指名。例年のように支配下・育成合わせて15人の大量指名を行なうも、ソフバン的独自路線というよりは普通のドラフトといった感触。近年のドラフトがあまり上手くいっていないという自己評価なのか、なんかこうもうちょっと遊び心が欲しいというか何というか…。そんななか、育成3位では高校BIG3と呼ばれた233発トリオから唯一、地元九州ということもあってか佐倉俠史朗さんを指名。入口はどこでも結果を出せば道が開けるのがプロの世界。夢は大きく三冠王だ!
↓上位指名でなくてもいい、その心意気やヨシ!
常廣羽也斗さんを1位指名してからの新井監督の一連の大暴れはドラフト史に残るものだった。指揮官としての評価は一旦置くとして、「いい人」という点では疑いようもない名将。2位では「広陵」高出身の高太一さんを指名し、5位では「赤」塚健利さんを指名するなど、各方面に響く充実のドラフトだった。3位の滝田一希さんに関しては、ドラフト前に出ていたお母さまを亡くされたという記事のなかでのエスコンフィールドでバイトをして家計を支えたというくだりにあった「バイト先や球団の職員は、自分がドラフト候補だということを知らない」という言葉に胸が詰まった。ぜひ、エスコンフィールドのバイト仲間をビックリさせてほしい。
↓ま、基本的にはみんなバイト先ではドラフト候補だと知られていないだろうが…!自分から言わない限り…!
度会隆輝さん⇒草加勝さん⇒細野晴希さんと三度クジ引きに敗れ、ハズレハズレハズレ1位で明大の上田希由翔さんを指名。この指名には、のちに西武で2位指名を受ける上田大河さんが「おっ俺だな」と恥ずかしい感じになってしまい、近い将来の上田因縁対決にも期待を持たせるものとなった。さらに2位では最速159キロの右腕・大谷輝龍さんを指名。三度クジを外せばさすがに「理想通り」とは言えないだろうが、吉井監督の自己評価でも「プランA#で100点満点」と納得のドラフトとなった模様。
↓3位の木村優人さんは「気になっていた球団」というオシャレな表現で指名を喜ぶ!
獲得した選手をしっかり侍級に育て上げ、今季の「アレ」をつかんだドラフト巧者は、青学大・下村海翔さんを一本釣り。「公表止めようって自分のためじゃん」「言わないほうが得なヤツじゃん」「11球団に先に言われたら言わなきゃいけない空気になって困るってだけじゃん」と岡田采配にまたしてもしてやられた他球団の想いはいかがなものか。2位で最速159キロの右腕・椎葉剛さんを指名すると、3位では仙台育英で全国制覇を成し遂げた甲子園の星・山田脩也さんを指名し、ドラフト特番で「東海大相模からの転入」エピソードで大特集された百崎蒼生さんを4位で指名するなど、現実と夢とを両方追うようなドラフトに。高校生大型ショートをまとめ取りする格好となったが、「二遊間は何人いても困りませんからね」的なことなのだろう。
↓もちろん自己評価は100点とのこと!
1位では単独指名で上田西高・横山聖哉さんの交渉権を獲得。その後、4位指名までが高校生という「ウチは今めっちゃ強いから」が全面にあふれる未来を見据えたドラフトになった。1位・横山さんが校内の新聞委員会(女子)に取り囲まれて取材攻勢を受ける姿には、早くも将来のオリ姫受けの予感も。緊張から「バッファローズ」と連呼してしまったのもカワイイ要素でいけると思う。4位の報徳学園高・堀柊那の「パ・リーグで対戦してみたいピッチャーはいますか?」「パ・リーグってどっちですか?」もカワイイ要素でいけると思う。カワイイは正義だ。
↓もうすでにオリックス感出てる!
↓バッファローズ連呼はカワイイ要素!
↓パ・リーグってどっちですか?もカワイイ要素!
とまぁ、今年も各球団めでたく100点満点のドラフトとなりました。ひとつ3000点があることも加味すれば、平均342点の大大大成功。球団側は全選手「自分が希望して」獲得する選手なわけですから、100点満点の気持ちで若者たちを大切に育てていってもらいたいもの。相手があることなので、全員が活躍できるわけではありませんが、「自分のチカラはすべて引き出した、これが生涯最高」と思えるところまではしっかり導いていってほしいなと思います。
5年前の我が方のドラフトを振り返ってみれば、1位の松本航さんは安定してローテーションを守ってくれているのはもちろん、6位森脇亮介さん、7位佐藤龍世さんといったあたりも、手術があったりだとか移籍&復帰という紆余曲折があったりはしていますが、しっかりと存在感を見せてくれた5年後でした。順位は期待感の表れではあるものの、活躍は順位と連動しているわけではありません。今日の気持ちが本当に合っているかどうかは、時間をかけて感じていくもの。出会いを喜び、未来に期待し、見守っていきたいと思います。それではまた5年後くらいに気持ちの答え合わせをしましょう!
↓若者たちの未来に輝かしい幸あれ!
他球団の選手であっても、夢を叶えることは素晴らしい!
すべての選手に、おめでとうございます!
2023年ドラフトは「新井の年」という間違った覚え方をしてしまいそうです!