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史上最強馬とは一周まわって「ポニー」だった!

薄っすらと雨の降る寒空の東京で、史上最強馬による世界最高のレースが再び展開されました。第43回ジャパンカップ、どれだけ賞金を積んでももはや海外馬が参戦しようという意欲すらわかない感じとなった日本競馬「完全ホーム」の大舞台。もしも史上最強馬イクイノックスに彼のホームで勝てる馬がいるとしたら、それは日本競馬の馬しかいないだろうと思います。イクイノックスを止められる馬は世界に存在するのかを世界が確かめる、そんなレースでした。

そこに集った素晴らしいメンバーたち。イクイノックスに先着して日本ダービーを獲ったという事実がこの先も燦然と輝きつづけるだろうドウデュース号。後ろからは差せないとしても前から行ったらどうかな?を突きつけるタイトルホルダー号。デビュー以来いまだ3着より下になったことがない昨年の牝馬二冠スターズオンアース号。栄光目指して逃げつづけ、気づけば18億円余りを稼ぎ出したみんな大好きパンサラッサ号。そして、それら複数GIタイトルを持つ名馬たちのなかでもとりわけ大きな期待を集める打倒イクイノックスへの最後の刺客、今年の牝馬三冠、斤量54キロ、最強のお嬢さんリバティアイランド号。あまりにハイレベルな戦いが見込まれたためか、当初は9頭立てになるのではないかという情報もありましたが、最終的にはフルゲート18頭が名を連ねる状況となったことも含めて最高の舞台が整いました。

枠順もまた「ホントに抽選してます?」と聞きたくなるような理想的なもの。1枠1番にリバティアイランド、1枠2番にイクイノックス、2枠3番にタイトルホルダー、3枠5番にドウデュースという並びは「タイトルホルダー、イクイノックス、リバティアイランド、ドウデュース」の隊列を組んでチカラ勝負をしなさいと言わんばかり。少し離れた外からパンサラッサが上がっていくだろうことも含めて、「紛れ」という不安要素がまったくないレースが見込める格好です。

だからこそ、確信をもって馬券を購入することもできました。何度考えても、どう考えても、全馬がまともに走ったときにイクイノックスより前に馬がいるケースは考えられませんでした。パンサラッサとタイトルホルダーがいれば極端にスローになるはずがなく、1枠2番から出て3番手あたりにつければ前が壁になるはずもなく、後ろから差せる馬がいるはずもない。ゲートが上手くて、馬が賢くて、騎手もルメールさんです。どこにも死角はありません。何なら、ルメールさんがムチを落としたとしても、馬自身が「指示はないけど、ここで仕掛けます!」くらいのことはやりそうです。当てることはイージーと言ってもいい。儲けることはやたら難しいですが…!

↓パドックでは「リバティアイランドをマークする風のイクイノックス」という歴史的な場面を見ました!
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↓当てるだけならイージーなのですが、まったく儲からない馬券を「史上最強と知っていた」と示すために購入しました!
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↓返し馬ですら「一騎打ち」と見えてくる世紀の対決!

そして始まったレース。大歓声が起こるスタンド前からのスタートは、タイトルホルダーが若干立ち上がりそうな雰囲気があったもののキレイに決まりました。イクイノックス、リバティアイランドもまったく問題なく出ていきます。タイトルホルダーがいい出足で前に進出すると、外から勢いよくパンサラッサが駆け出していきます。大外8枠17番スターズオンアースも前目のポジションを狙って進出してきます。イクイノックスはハナを切るパンサラッサ、タイトルホルダーの後ろにつく3番手。リバティアイランドはイクイノックスを見るように4番手あたり。イクイノックスの後ろを誰が取るかを争った場面では、鞍上の川田騎手もその位置を狙ってきたディープボンドを一喝するなど譲らぬ構えです。そのリバティアイランドに競り掛けていくのはスターズオンアース。ある意味で、対イクイノックスではなく対リバティアイランドの最強牝馬決定戦と設定してきたか。ドウデュースは内ラチ沿いに走り、1コーナーでリバティアイランドの後ろに入りました。スターズオンアースの位置取り以外は事前の想定通り、理想的なチカラ勝負の隊列です。

パンサラッサが大逃げで飛ばし、前半1000メートルは57秒6という速いペースに。2番手タイトルホルダーの位置でも1000メートルの通過が60秒ちょうどぐらいでしたので、レースはしっかり流れています。レコードタイムを狙うならもう少しタイトルホルダーが押していってほしかったところですが、まぁこの辺は馬の状態もあるのでしょう。そのまま道中は大きく位置取りが変わることなく、同じような隊列で進んでいきます。引きつづき大逃げのパンサラッサは、最後の直線に入ってもまだ大差をつけています。場内では「まさか」を期待して大きな声が上がります。しかし、パンサラッサの脚色はだいぶ鈍ってきています。直線に入って残り400メートル、2000メートルまでを1分57秒7でカバーしてきたパンサラッサですが、さすがにこの距離で一杯か。もう後続は射程圏まで迫っています。

じょじょに後退するパンサラッサ、死力を尽くして粘り込もうとするタイトルホルダー、前を行く2頭は苦しくなってきました。しかし、イクイノックスはほとんど同じ位置を追走してきたとは思えない身軽さで並び掛けると、あっという間にタイトルホルダーをかわし、パンサラッサもとらえようという構え。その背後からはリバティアイランドも追走してきていますが、仕掛けたあとの反応、伸び、すべてに差がありました。2馬身、3馬身、グングン離れていきます。こうなるとリバティアイランドも前を追うというよりは、横にいるスターズオンアースとの勝負になってきます。競馬番組で「リバティアイランドの単勝30万円」を購入した藤浪晋太郎さんあたりは、もはや馬券を破ってもいいくらいの展開です。

残り200メートル手前で先頭に立ったイクイノックスは、さらに伸びるようにして独走し、残り50メートルでは後続の様子を横目で確認したルメール騎手が勝利を確信して「流し」ました。見せムチと肩ムチを数発繰り出しただけで、「まだ全力ですらない」という走りです。つづく2番手には前評判通りの強さを見せてこのメンバーを振り切ったリバティアイランド、3番手にはスタートからの仕掛け・位置取りが功を奏した格好のスターズオンアースが入りました。ドウデュースはスターズオンアースの外までまわしてから追い出した部分でのロスを埋めるに至らず4番手まで、5番手にはタイトルホルダーが粘り込んでこのメンバーにあってもレベルの高い地力があることを改めて示しました。上位にズラリと並んだ予想通りの名馬たち。紛れがあったわけでもアクシデントがあったわけでもなく、ましてやほかの馬が弱かったわけでもなく、存分に力量を発揮するチカラ勝負をやった結果として「ただただイクイノックスが圧倒的に強かった」、そんな圧巻のレースとなりました!

↓過去のどんな馬との対戦を想像しても、このペース・この位置取りから上がり最速を繰り出す馬に勝てる図が浮かびません!



↓残り50メートル、後方を確認して「流し」にかかるルメール騎手とイクイノックス!
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↓ゴール後、戻ってきた大観衆にガッツポーズで応えるルメール騎手とイクイノックス!
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レース後、騎乗したルメール騎手は「ポニーみたいですね。誰でも乗れます」と語りましたが、まさにポニーのような強さでした。馬自身が賢く、行けと言えば行き、待てと言えば待つような動かしやすさがあります。スタート直後の位置取りのやりやすさ、ムチを見せるだけでグンと加速する反応のよさ、レースの終わりまでしっかり強さを出す隙のなさ、ゲームのように操縦できる馬です。そのように調教してきた努力は当然あるわけですが、「いくら言っても言うことを聞かない馬」もいるもの。その点でイクイノックスは走る能力が高いだけでなく、馬自身が競馬を知っていて競馬が上手い。だからこそ、今回のように前につけてもそのまま掛かってしまうことがありませんし、後ろに控えて一気に差してくることもできます。展開による「紛れ」を、騎手の判断と合わせて限りなくゼロにすることができます。

「逃げるか、追い込むか、どっちか」という極端な競馬をする必要もありませんし、「ある程度溜めを作りたいので道中は前に馬を置いて、最後は紛れが起きないように大外ぶん回し」なんてロスの大きい走りをする必要もありません。このスピード、このペースの3番手追走から最後上がり最速で突き放せる馬にもとより「紛れ」などあるはずがありませんが、どんな位置どんな展開になったとしても必要な走りができるという点で、「ポニー」とは言いえて妙だなと思います。

道中の直線をパトロールビデオで見るとよくわかりますが、向こう正面では追走する馬が掛かってしまっている様子が見えます。最後の直線では、先頭を行くイクイノックスはムチを入れなくてもチカラを出してくれるので、まるでゲームのように真っ直ぐ駆けてくるのに対して、後続の馬は右ムチを入れれば左に行き、左ムチを入れれば右に行き、その蛇行する走りを鞍上が調整するように走っています。蛇行分のロスはそこまで大きくはないものの、走りの完成度という点でもイクイノックスが一枚も二枚も上だったなと感じる場面でした。どうやったらこの馬に勝てるのか、世界のホースマンに聞きたいくらいですね!

↓馬に乗っている人の頭についたカメラの映像だとは思えない、まったく酔わないポニーの走り!



↓タイトルホルダーのジョッキーカメラは「パンサラッサ鑑賞」には最高の位置取り!



そんな史上最強馬はどこまで走ってくれるのか、気になるのはむしろそちらの話題のほうでしょうか。陣営は「これが最後のレースかも」という可能性を否定はしませんでした。来年もまた走ってくれるのか、有馬記念をラストランとするのか、あるいは実はこれがラストランだったのか、未来の可能性を決めかねている様子。現実的に考えればイクイノックスの「種牡馬としての」評価を上げるようなレースは、もう世界のどこにもありません。これからの日本競馬のこと、いや世界に広がるその血によって進化する世界の競馬の未来を思えば、怪我をさせるようなリスクを負ってまで成すべきことは何もない、それは真っ当な判断だろうと思います。

もし、仮にそうなったとしても、「走る」ことに関してはもう存分に見させていただいた、そう思います。確かにイクイノックスはクラシック三冠はひとつも制していませんし、凱旋門賞という夢への挑戦も今のところありません。取れなかったトロフィーはあります。しかし、そういうトロフィー集めをコンプリートしていないこと以外は、歴代のどんな「幻」と戦わせたとしてもイクイノックスが最強であろうと思います。どの馬のどういうレースならこれより前に行けるかのイメージがある人は、ぜひ発表してほしいと思います。それぐらい圧倒的な、異次元の走りをこの目で見られたことを一生の自慢とできるような、そんなレースを天皇賞・ジャパンカップと連続で見させていただきました。だから、仮にこれが最後であったとしても、新たに抱いた「幻」は未来の名馬と堂々と戦っていけると思います。おそらくは連戦連勝で。

たまたまではありますが、まだ2戦目のイクイノックスを競馬場で見て、あまりによく見えたことから馬券を買って、驚くような強さに未来を予感した、あの出会いを幸せに思います。「強い馬だ」と先に知ってしまってからでは、ここまで素直にその強さを受け入れることができず、ついつい穴を狙ってはハズレ馬券をつかんできたことでしょう。イクイノックスの出るレースをイクイノックスから買う、簡単そうで難しい決断をつづけられているのは、幸せなことだなと思います。

「イクイノックスのほうが上だった」

しばらくは、そう言いつづけるイクイノウエオジとなって、未来の競馬を見守っていくことにしたいと思います。

これより上かも?と思わせる馬に生きているうちに出会えるのか、本当にそんな日はあるのか、半信半疑で進んでいきたい、そんな一頭だなと思いました!

↓イクイノックスが2歳の頃に撮った写真は、自慢の一枚ですね!
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「あれ現地だった自慢」のレース、サイレンススズカの秋天から更新します!