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中国に再・最接近した一味違う銀!

いつも通りの銀、定位置の銀、結果だけ見れば既視感も漂うおなじみの結果ですが、内容は一味違う「予感」に満ちたものでした。世界卓球2024女子団体戦、決勝に臨んだ日本代表は卓球界の覇者・中国に挑み、2-3で敗れました。しかし、0-3ではなく2-3です。世界ランク1位から3位を揃えた中国に2人が勝っての2-3です。金になり得る銀、この10年あまり決勝の舞台で相まみえてきた日本と中国ですが、ついに「勝利」を意識することができる戦いだったと思います。

2022年の世界選手権団体戦決勝では0-3の敗戦。2021年の東京五輪決勝でも0-3の敗戦。コロナ禍での長い断絶を挟んで2018年の世界選手権団体戦では伊藤美誠さんが1勝を挙げるも1-3での敗戦。2016年世界選手権と2014年世界選手権も0-3での敗戦。2016年リオ五輪では中国と当たる以前に準決勝で日本は敗れました。この10年の道のりは「中国と決勝で相まみえてきた」とも言えますが、勝負の真の力点は「中国と当たらずに決勝に行く」ところのほうにありました。過去10年の世界大会決勝で5度戦って「1-15」ではそれも致し方ないところ。

しかし、この日の戦いは初めて「勝利」を意識した戦いだったと感じます。初めて勝利を意識することができた戦いだったと思います。53年前に日本女子は卓球の世界王者になったのだと言われてももはやピンとは来ませんが、ついにそこに手をかける、再び接近するところまで来た、そう感じます。パリ五輪まで半年弱。まだ伸びる、まだ伸ばせる部分がある。日本チームには若さという大いなる伸びしろがあります。今より強くなることはあっても、弱くなることはないでしょう。「もしかしたら」があるかもしれない。そう思えるだけの戦いでした。たまには世界の卓球ファンも「中国以外」が勝つところを見たいでしょうが、それができるチームがあるとすれば日本だと思いましたね!


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迎えた決勝の舞台。この日登場したのは早田ひなさん、平野美宇さん、張本美和さんのパリ五輪団体メンバーの3人。ここまでの大会の流れそのままに平野さんを第3試合の1点使いとするオーダーです。張本さんを第1試合と第5試合に置いたあたりは、思い切って行ってこいといったところでしょうか。前日の準決勝では2ゲームを先取されたところから逆転を見せた粘りと修正力を見せていきたいところ。

ただ、中国はどこにも隙がない鉄壁の布陣。第1試合に登場した世界ランク1位・孫穎莎さんは前後の揺さぶり、回転量、強打、駆け引きどこを取っても多彩で、少しでも緩い返球になればすかさず仕留めにきます。張本さんもラリーでは非常に粘って持ち味を見せますが、攻守両方でサーブとレシーブで先手先手を取られた印象。強い中国のなかでもさらに別格といった強さでした。この負けは致し方ありません。

しかし、団体戦は1人で勝てるものではありません。第2試合、東京五輪シングルス金の陳夢さんを迎え撃った早田ひなさんは日本のエース格として奮闘。第1ゲームは不運な失点もあって落としますが、手を変え品を変え早田さんは打開を図ります。第2ゲーム以降は台の深くまで伸ばすロングサーブに突破口を見出すと、苦しい返球となったところを長身の左利きから繰り出す強打“ひなドライブ”で相手のバックハンド側を攻め立て、チカラで押し切る場面をたびたび生み出します。得点のたびにこぼれる爽やかな笑顔は現地ファンの心までつかんでしまうかのよう。

第2・第3ゲームを取り返した早田さんはどちらがランキング上位かわからなくなるような戦いぶりで会場を支配。第4ゲームに入ると早田さんは攻撃の姿勢をさらに強め、互いが台から離れて強打のラリーをつづけるという激しい打ち合いの試合に。ときに体勢を崩されながらも激しいラリーを勝ち切った早田さんは、長いデュースを14-12で制して勝利!しっかりと中国に食らいついていきます。

↓体勢が崩れてもそこからまた甦る!正面から中国勢に打ち勝って日本のエースが1勝!


五輪とは違いシングルス5戦で争う世界選手権。第3試合はこの試合だけの登場となる平野美宇さんと、中国の王芸迪さんとの対戦。強い中国勢のなかでも近年の対戦成績からすれば比較的与しやすいのではないかと見られていた王芸迪さんを相手に、平野さんは「下馬評の通りです」とでもいうような快勝劇を演じます。第1ゲームは序盤にやや王芸迪さんが試合に入り切れていなかった部分と、中盤に幸運なエッジボールなどがあって平野さんがリードすると、ゲーム終盤には相手サーブを強く返していわゆるリターンエースを決めるなどして、ゲームを通じて隙のない戦いで先取。

第2ゲームも引きつづき競った試合となりますが、どうやら今日の幸運の女神は平野さんのほうを向きっぱなしであるよう。王さんの回転が見えづらいサーブに対する苦しい返球がネットインで得点になるなど、何か起きたときは常に平野さんの都合のいい方に転びます。8-10と先にゲームポイントを許す場面もありますが、ここでもネットインで10-10のデュースに持ち込むと、逆転で第2ゲームを連取。つづく第3ゲームは王さんが3-7と序盤に走りますが、相手フォア側の台の外にまで沈んでいくような厳しいコースを攻め立てて連続得点を挙げると、同点そして逆転へ。ここ一番でまわり込んで繰り出すチキータの読み、思い切りも冴えました。第2ゲームにつづいてデュースとなったこのゲームも平野さんが制して日本2勝目!

↓中国勢を相手にストレート勝ち!53年ぶりの金メダルに王手です!



あとがない中国は第4試合で再び登場の世界1位・孫穎莎さんが早田ひなさんにストレート勝ち。第1ゲームは2-11と圧倒されるなど、ここは孫さんに意地を見せられた格好です。ただ、勝負は最後の第5試合に持ち込まれました。中国で一番の選手に2敗しても、まだ日本に金の可能性が残っている。こんな場面はとんと見た記憶がありません。さしもの中国も「勝ち」と「負け」の両方を考えずにはいられないでしょう。

勝負の第5試合を託されたのはチーム最年少15歳、世界選手権代表は初となる張本美和さん。急に「53年ぶり」の重たいバトンを託された格好にはなりましたが、パリ五輪で日の丸を背負う選手に何が重たいの何が重たくないのもありません。託されたものはすでに重たく、しかし、それを背負うチカラがあると認められたからこそそこにいるのです。勝てば世界一、勝てば金、ついに中国と本当の世界一決定戦をやれるところまで来ました。

張本さんは相手の王者ゆえの固さを突くように、第1ゲームの立ち上がりからしっかりと攻撃意識を見せていきます。得意のバックハンドで臆さず攻めて得点を重ねるなどいい調子。国際映像はお兄さんである男子代表の智和さんと、会場にいるお父さんと、ベンチでうんうんと頷く伊藤美誠監督を1球ごとに抜き、「世界一」への予感を中継にも漂わせてきます。第1ゲーム先取の段階では日本応援団は早くも最高潮。SNSでオーダーに文句を垂れていた輩も沈黙しました。伊藤監督の勝利への指示も上機嫌で止まらないご様子です。

…しかし、そこからは陳夢さんもさすがの東京五輪金メダリストという粘り腰。試合序盤には張本さんのボールを見切れずに空振りするような場面もあったものが、試合のなかでじょじょにアジャストし、形勢をひっくり返していきます。特にサーブ&レシーブの攻防では、陳夢さんのサーブに対応できない場面と、逆に張本さんのサーブを強烈なリターンでブレイクされる場面など「1球」で仕留められる場面が見受けられるようになってきます。技術そのものというよりは、読みとか勝負勘とか経験の部分での差でしょうか。「嫌だな」というタイミングで的確に嫌なことをしてくる決断と、高い実行力、それによってコチラの打つ手を封じてくる試合運びはさすがでした。

第3ゲーム終盤に8-6と一瞬リードした場面でひとつかふたつ先に行けていれば、もしかしたら結果も違ったのかなとは思いますが、勝負所を逃がさないのも強者の条件。第2・第3ゲームを取り返した陳夢さんを前に、張本さんは少し表情も曇りがちになり、首を傾げる場面も増えていきました。第4ゲームもシーソーゲームの展開とはなりますが、最後は陳夢さんが競り勝って勝利。日本はまたしても金メダルとはならなかったものの、「いつもの銀」ではなく「惜しくも銀」だった、「2番手以下で最上位」なのではなく「世界一を争った」、確実にそう言える試合でした!

↓いやー、一瞬このまま勝てるかと思いました!惜しかった!


↓この10年あまりの時間で、試合中に「中国に勝てるかも」と思ったのは初めてな気がします!



↓「まずは監督」と呼び掛けられて一瞬「アタシか?」という反応を見せる伊藤美誠さん、もちろん違いますよ!


こんだけアドバイスしてこんなにいい戦いになると、パリ五輪で伊藤監督のアドバイスがないのが少し不安になりますね!

リザーブ向いてないとは聞きましたが、監督が向いてないとは聞いてない!



「昔、日本は卓球世界一だった」というのは知識としては知っているものの、生まれてこの方、実感としてそう思ったことはありません。基本的に世界一の座にあるのは中国で、中国が世界一でないときもその大半は有り体に言えば「中国が中国に負けた」というもの。女子団体戦は特にそうでした。しかし、その牙城に半世紀ぶりに手が届こうとしている。日本で育った卓球が、中国を倒せるところまで迫ってきている。まだまだ可能性は高くないとは言え、あり得る範囲までやってきた。そんな興奮を覚える決勝戦でした。今回は惜しくも銀とはなりましたが、この世界選手権での惜敗があったからパリで勝てた、そう振り返れる試合になってほしいと思います。結局、五輪で負けたら「負けたな」って思うんですから、ココで学んで五輪で勝つ、その順番のほうが気分がいいと思いますしね!


この試合を見たあとでは「負け前提」で挑む気には、もうならないです!