サッカー日本代表のパリの灯は消えず!
いやー、背筋が凍るような厳しい試合でした。パリ五輪出場を目指すU-23サッカー日本代表が、アジアに与えられた「3.5枚」の切符獲得を目指しているU-23アジアカップ。負けたら終わりの準々決勝は開催国カタールとの対戦でした。フル代表は2大会連続でアジアカップを制しているアジア最強国の一角カタールと、負けたら終わりの一戦を戦うというシチュエーション、熱い、熱過ぎる戦いです。
しかし、そのシチュエーションほどには盛り上がりを見せていない国内。この日はNHK総合での生中継がありましたが、「国営放送の気持ちで一応やります」くらいの構え。直前ギリギリまで夜ドラ「VRおじさんの初恋」を放送し、23時キックオフの試合を23時から中継開始するというドラマ配慮型中継です。煽りVTRも国歌斉唱もなく、VRおじさんがイチャついたLINEを送信した場面からいきなりカウントダウンに切り替わってキックオフするという、激し過ぎる始まり。
その激しさは試合にも連鎖したのか、まだ実況と解説が「相手は5バックでしょうか…?」みたいな選手の並びを確認している段階でいきなり試合は動きます。開始わずか2分、カタールから日本にプレゼントのようなパスが渡ると、カタールはそこに慌てて詰めていくでもなく、ゆるゆると進出する日本の山田楓喜さんの動きを見送るばかり。そして山田さんが左足を鋭く振り抜くと、逆を突かれたゴールキーパーは動くことすらできないままゴールにズドン。まだ頭のなかで「えっ?VRおじさん次回はお泊りなの?」と困惑している間に、日本の先制点が決まりました!
↓これは、どうも、ありがとうございます!決めた山田さんもナイス!
しかし、ここから試合はなかなかにハチャメチャな動きを見せていきます。まず前半24分、カタールは両サイドを大きく使う攻撃から、長いクロスをゴール前に送ると、そこに飛び込んだ19番のラウィさんが素晴らしいヘッドで同点弾を叩き込みます。放送席からも「あのクロスからこんなにすごいヘッドが飛ぶとは思わなかった」と感嘆の声が漏れるほどの美しくて強い弾道。さすがアジア最強国の一角・カタールと、こちらも背筋が伸びたもの。
↓このヘッドは敵ながらお見事でした!
同点になってさぁここからが本番だ…と睨み合うわけですが、熱いシチュエーションと激しいぶつかり合いのなかで、じょじょに試合はヒートアップしていきます。そして、互いにイエローをもらい合う展開のなかで迎えた前半41分、試合を大きく動かす出来事が。何と、カタールのGK・アブドゥラーさんがエリアから飛び出してヘディングでクリアをしようとジャンプしたとき、走り込んでくる日本選手にライダーキックを放ってしまったのです。
まぁ好意的に解釈するならヘディングするときに身体をねじった勢いで足が伸びたのだろうとは思います。また、サッカーでは飛ぶべきタイミングで飛ばなかったりすると、飛んでいる相手に下から当たるのは危ないということで「飛んでいないほうの選手がファウル」を取られたりすることもあります。決して「喰らえ怪人!」の気持ちのキックではなく、不幸な接触ではあったのでしょう。しかし、どのタイミングのどういう接触であろうが、さすがにライダーキックを放てばファウルです。主審のインカムにもVARから「ライダーキックでしたよ」という連絡が入ったのでしょう、ビデオを改めて見直しますとカタールのGKは一発レッドカードに。カタールは残り時間10人での戦いとなったのです。
↓これはやっとんなぁ!やっちまっとんなぁ!アブドゥラーキーック!
こうなれば当然日本は数的優位を活かして得点を奪い、きっちりと勝ち上がりを決めたい、決められるだろうと思うところ。日本は前半にイエローカードをもらっていた松木玖生さんを後半頭から藤尾翔太さんに交代するなど、早めの積極的な動きを見せていきます。ところが、思い通りにいかないのがサッカー。後半4分、カタールにフリーキックを与えると、これが再び見事なヘッドで得点につながります。滅多に見られないほどの美しくて強いヘッドが、2本とも決まってしまうまさかの展開。負けたら終わりの一戦で「残り40分ほどで、負けている」状態になってしまったのです。
その瞬間、ざわわっと背筋が凍るような気持ちに。負けたら終わり、と理解して臨んだ試合ではありますが、何となく心のどこかで「でも最後はいけるんでしょ?」と思っていました。アトランタ五輪で重たい扉をこじあけ、まだ五輪に出ただけなのに国民的ヒーローが生まれた熱狂の時代から約30年。7大会にわたってずっと五輪に出つづけてきた日本男子サッカーが五輪に出られないなんてイメージは、正直なところありませんでした。頭では理解していても、何となく、何とかなっちゃうんだろうと思っていたのが本心です。
しかし、そんなことは、ないのか?
もしかしたら、五輪に、行けないのか?
本当に、五輪に、行けないのか?
震える手で祈るポーズを作りながら「サッカー負けたらバスケとバレー見るんだ…」と震える僕の脳裏には走馬灯のように今大会の記憶が甦ってきました。初戦の中国戦で西尾隆矢さんがいらないヒジ打ちで退場になり、この試合もまだ出場停止中であること(←長いな)。安定感あるプレーぶりとビッグセーブを見せたGK小久保玲央ブライアンさんが「ザイオン」をトレンド入りさせたこと(←もちろん悪い意味でだぞ)。「負けたら準々決勝でカタール戦」とわかっていた韓国戦で大胆なターンオーバーを敢行した末に、セットプレーの1点に泣いた大岩采配のこと(←もちろん大岩剛がトレンド入り)。「松木」を連呼しながら松木玖生さんを讃えていた松木安太郎さんのこと(←元気そうで結構)。そのすべてが消えていくのか。このチームの冒険はここで終わるのか。
初めて「日本が五輪に行けない」を現実として感じました。後半22分にコーナーキックから木村誠二さんがゴールを決めて同点に追いつくまでの20分弱ほどの時間は、さして長くはない時間でしたが、何十年かぶりの危機感を覚える長くて悪い夢の時間でした。何となくパリ五輪に行けるんだろうと思っていた自分にも、ようやく火が点くような時間でした。もしかしたらこの時間はチームにとっても、日本にとっても必要なものだったのかもしれないなと思います。何となくではなく、絶対に行くという意志をもう一度確認するための時間として。
↓相手が倒れて1人外に出ている隙にコーナーキックを蹴って決めた!11人対9人の数的優位を逃さない勝負師のゴール!
セットプレーで得たリードを守り切るプランは崩れたカタール。ひとり少ないなかで5-4のブロックを作り、何とかPK戦まで粘ろうと懸命にゴール前を固めてきます。日本は右に左に展開しながらアーリークロスを放り込みつづけます。決して効率がいい攻めではありませんが、クロス、跳ね返す、数的優位を活かして回収する、クロス、跳ね返す、数的優位を活かして回収する…と無限につづく地獄。解説の太田宏介さんは「ジャブを打ちつづけろ」を決めゼリフにすることを決意したようで、ボクシングのトレーナーみたいにジャブジャブ言いつづけます。
交代のカードを切って耐えるカタールと、交代のカードを切って攻める日本。カタールは数的不利を耐えるために懸命に動きますが、体力の消耗は激しく、隙あらばピッチに倒れ込みます。倒れては起き上がり、ケンケンしながら守備に戻り、ひとつクリアしてはまた倒れる…カタールはもはや前に出てくるチカラはなさそうです。あとは日本が決められるのか、決められないのか、だけ。延長戦までかけて勝ち越し点を決められなければ、日本はきっとPK戦で負けるでしょう。そういう流れの試合です。はたして日本にこじ開けるチカラはあるのか。
そして迎えた延長前半11分、日本の社会人が「明日仕事なんだよ〜」と嘆きながら見守る真夜中に、今大会いいところがなかった点取り屋が、ついに大事なゴールを決めました。スタメンに起用され、延長前半まで実質120分程度を走りつづけてきた細谷真大さんがゴール前の狭いところでパスを受けると、出足の鈍いカタールのDFを背中で弾き飛ばして貴重な勝ち越し点!この世代のエースが、やっと決めた!
↓この世代のエースと呼ばれる男が、ようやくエースの仕事で決勝点をゲッツ!
もうカタールにチカラは残っていません。チカラは残っていませんが、負けたら終わりなのですから前に出ないと仕方がありません。日本はその状況を理解して、遠くで遠くで緩やかにボールを回し、カタールを引きずり出す動きも見せました。ジャブの連打のあとはアウトボクシングという嫌らしさが頼もしい。そして延長後半7分にはコーナーキックからさらに突き放すゴールも決め、これで勝負アリ。最後に大岩監督が前に出過ぎたか何かでイエローカードをもらっていたのはご愛敬でしたが、厳しい試合を勝ち抜いてパリ五輪に王手です!
↓素材重ねとけ感は否めないコラージュですが、公式からもお祝いをいただきました!
これでパリ五輪まであと1勝。劇的な勝利にチームは沸いているでしょうし、細谷さんは目覚め、準決勝には西尾さんも帰ってきますので、ここからさらに上がることはあっても下がることはないでしょう。難敵カタールを退け、もはや五輪の切符は半ば手のなか。あとはしっかり握って持って帰るだけです。一時はどうなることかと思いましたが、逆にこれぐらいヒヤヒヤするほうがよかったのかもしれませんね。ハチャメチャ試合で心配されながらも何やかんやで行くところまでは行く、ジーコイズムみたいなものを久々に感じました!ハチャメチャのままパリまで行っちゃってください!
「自分たちで難しい試合にする」劇場型の代表として、次戦も期待しています!