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9回超えたら獅ぬマン!

突然ですが皆さんはどの超人が好きでしょうか。やはり第58代キン肉星大王・キン肉マンでしょうか。それとも仮面の貴公子・ロビンマスクでしょうか。あるいは悪魔将軍こと完璧超人始祖・壱式ゴールドマンでしょうか。そうした並みいる人気超人のなかでもやはり僕の好みにビビッと来るのはファイティングコンピューターことウォーズマンであります。シンプルでカッコいい見た目、半分機械の身体のロボ超人という悲哀、ベアークローなるどう考えても反則の凶器、パロ・スペシャルという誰もが真似した(真似できた)必殺技、魅力しかない超人と言っても過言ではありません(オジサン向けの話がもう少しつづきます)。

そんなウォーズマンのグッと来る設定のひとつが「30分しか戦えない」というもの。これは「あらゆる超人を30分で倒してきたため、いつの間にかコンピューターが30分で相手を倒すことに特化してしまい、試合時間が30分を超えるとコンピューターがぶっ壊れる」という自作自演八百長みたいな設定です。この設定を導入して以降、しょっちゅう30分超えの戦いをして全身から煙を噴いているのですから、そろそろコンピューターのほうもお時間延長に慣れればよさそうなものですが、そんな道理はゆでたまご先生には通じません。「そろそろ噴かすか」と先生が思えば、そこが30分。この時間制限によってウォーズマンは幾多のピンチと名勝負を生み出してきたのです。

趣味の話が長くなりましたが、それと似たような「時間制限つき球団」が野球界にもいるのです。バレるのは時間の問題だった一平の話ではもちろんなく、我が埼玉西武ライオンズこそがその「時間制限つき球団」です。27日の福岡ソフトバンクホークス戦において、我が埼玉西武ライオンズは延長10回サヨナラ負けを喫し、「延長戦14連敗」を記録したのですが、これは2リーグ制導入以降ワースト記録だと言うのです。戦いが30分を超えたら煙を噴く超人のように、我が埼玉西武ライオンズは「試合が9回を超えたら獅ぬ」球団だったのです。何か、そういう設定だと思って見たら、9回超えるだけでワクワクしてきますよね!「ゲエエエ!もう9回を超えてる!」「ラ、ライオンズは確か…」「うむ、延長になったらライオンズは獅ぬのじゃ!」って感じで!

↓27日の今季5度目の延長サヨナラ負けも実に美しかった!




しかもこの14連敗は「引き分けを挟まず」、文字通りの14連敗です。ライオンズの9回サヨナラ勝ちでスコアに「X」がついたりすることはチョコチョコあるにもかかわらず、キレイに14連敗。相手の拙攻で引き分けになることだってたまにはありそうなものなのに、キレイに14連敗。これがわざと負けているのではないとしたら、やはりライオンズは「時間制限つき球団」であると言わざるを得ないでしょう。ライオンズの悲しいファイティングコンピューターは延長に入ったら自動的に負けるようにプログラムされているのです。

これでライオンズは4月に月間4度のサヨナラ負けを喫したとのことですが、「前月最終日の3月31日にもサヨナラ負けしている」ことを鑑みれば、まだまだこの記録は伸ばしていけそう。12球団でも指折りの先発陣と、チーム打率1割台に乗ろうかというグロい打線、4月で早くも甲斐野央さんをぶっ壊してしまった救援陣の崩壊は、まさに延長負けするために生まれた球団であるかのようです。「連続延長戦負け記録伸ばせるか…?」「西武負けるよね?ねぇ負けるよね!?」「負けないはずがない!西武を信じろ!」と両軍のお客さんが固唾を飲んで見守ることになる大延長戦は、野球観戦の新たな魅力にもなるもの。何なら延長に入るところで一回照明落として、カルミナ・ブラーナでも流したらいいんじゃないでしょうか。お客さんもすごい得した気分になりそうですよね!

↓いっそ延長に入った瞬間にギブアップの握手を求めるとかも、潔くてカッコイイかもしれない!



どうせなら球史にその名を遺したいもの。連続延長戦負けのプロ野球記録は1リーグ時代の1940年から1941年に朝日軍(のちの松竹ロビンス/1940年の球団名はライオン軍)が記録した17連敗(4分を挟む)だそうです。これは十分に射程圏内…というか、記録更新はほぼ間違いないと言ってもいいでしょう。「言うてもまだ14連敗でしょ」みたいに思っている方は、ライオンズが最後に延長戦で勝った2023年5月16日の日本ハム戦を振り返ってみていただければと思います。

あの試合、延長12回のライオンズの攻撃は先頭打者が出塁し無死一塁となりました。つづく打者は送りバントをしたのですが、これはピッチャーが捕球する失敗バントになります。二塁に送ればタイミング的にはアウトでしたが、ここで二塁への送球が暴投となり、センターまでボールが抜けていったのです。そして、そのボールをセンターの江越大賀さんが「まさかの後逸」。一塁から走者が生還し、これが決勝点となりました。

それ以前の2023年3月31日のオリックス戦と、2023年4月30日の楽天戦でライオンズは延長負けを喫していましたので(※2023年5月12日に延長引き分けあり)、「送りバントの守備で暴投して、さらにセンターが後逸」のピタゴラスイッチがなければライオンズはすでに(引き分け含めて)延長戦17連敗、悪くても16連敗には到達していたはずなのです。この2年間で18度の延長戦を戦い、「送りバントの守備で暴投して、さらにセンターが後逸」の試合以外は勝ちがない時間制限つき球団が、どうしてこの先勝ちましょう。延長=獅、あと4回延長戦をやればそこでプロ野球記録は更新されるはず。延長戦負けのプロ野球記録は、我が埼玉西武ライオンズがいただきます!

↓ライオンズの記録更新を止めたいのなら、これぐらい勝手に負けることですね!




いやー、それにしてもコロナ禍が落ち着き、思う存分野球をやれる日常が帰ってきてよかったなと改めて思います。2020年の延長10回打ち切りルールや、2021年の延長戦なし・9回打ち切りのルールであったなら、ライオンズが時間制限つき球団であることは気づかれないままだったでしょう。現時点の成績だって「8勝10敗5分/勝率.444」とかいう可もなく不可もなくの目立たない範囲におさまっていたはず。それではせっかくの設定も活かされません。

プロ野球はエンターテインメントですから、勝つことだけでなく負けることも商品のうちです。負けるのが悪いのではなく、真に悪いのは「つまらない」ことです。その意味では、負けの記録を意識できるのはとてもハッピーな状態です。勝てば普通に面白く、負けても記録への挑戦を楽しめるのですから。はたしてライオンズは球史にその名を遺すことができるでしょうか。最短なら5月1日にも誕生する新たなプロ野球記録にどうぞご期待ください!

↓ポジティブな記録は大谷さんに任せた!ネガティブな記録はライオンズに任せろ!


僕もこの延長負けのひとつに現地で立ち会った生き証人でした!誇らしい!