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全日本女子バレー、世界の銀!

日本を含めて世界に熱狂を広げたバレーボール・ネーションズリーグ2024の女子の部が決着しました。全日本女子は主要国際大会では実に10年ぶり、2014年のワールドグランプリ以来となるメダル、銀メダルを獲得しました。それは単に10年ぶりということではなく、2010年世界選手権銅に始まり、2012年ロンドン五輪銅、2013年ワールドグランドチャンピオンズカップ銅、2014年ワールドグランプリ銀という栄光の時代…端的に言えば「木村沙織の時代」とでも言うべき時代への郷愁を終わらせ、ついに新たな時代を切り開いたという感慨深い瞬間でもありました。

あの眩しい時間のあと、心のどこかでいつも「木村沙織2世」を探していたような気がします。何でもできて、華があって、チームを勝利に導く大エースをどこかで欲していた気がします。不健全で失礼なことだとは思いつつも、春高バレーで新たな才能が輝くたび「木村沙織2世になるのでは?」と期待してしまうようなところがありました。そして、その申し訳ない心の動きを、この10年あまりにわたって何度も何度も何度も繰り返し繰り返し向けてしまっていた相手が、現在の全日本女子をキャプテンとして牽引する古賀紗理那さんでした。

その古賀さんの胸に銀のメダルが掛かったとき、自分自身もようやくそのよからぬ心の動きを鎮めることができたような気がしました。そこにいるのは誰かの2世などではなく唯一無二の古賀紗理那さんであり、隣に並ぶのはそれぞれが唯一無二の石川真佑さんであり、唯一無二の黒後愛さんであり、はじめからそうだったのだと。そして、唯一無二のチカラを上手に束ねれば、ちゃんと世界のメダルにも届くのだと。単なる銀メダルではなく、未来に向かう全日本女子バレーの礎となるような銀だった、そんな気がしました!

↓銀メダルおめでとう!ありがとう!最後まで金を争った銀でした!


昨年のワールドカップ(という名前のパリ五輪予選)で切符を獲れなかったとき、率直に言えば大きな驚きはありませんでした。「残念だけれど、順当な範囲だな」と。何となくの皮算用を重ねながら、よほどのことがなければ五輪には世界ランキング要件でいけるだろう、ただしその先は厳しい戦いになるだろう、そんなことを思っていました。日本にはどうしたってサイズがありません。ここ一番で決め切るチカラも止めるチカラもありません。まともにぶつかれば打ち砕かれるだろうと思いました。真鍋監督がマッハやらジェットやらを言い出しときも「MB1」とか「ハイブリッド6」とかと同じく、手札が少ないときの苦肉の策をカッコいい名前で前向きに表現するアレだろうと思いました。

しかし、同時に意外だった点もありました。五輪の切符を逃した全日本女子は平然として前向きでした。勝てば五輪という最後のブラジル戦でフルセットまでもつれた末の敗戦には、多少なりとも落胆はあったのでしょうが、いつも漂っていた謎の悲壮感のようなものが感じられませんでした。負けた、さぁ次だ。そんな切り替えの早さと言うか、落ち着きと言うか、現在だけを見つめるようなチームの在り様に、たくましさを覚えました。特に、誰よりも自分を責めてしまいそうなキャプテン古賀さんが、すぐさま切り替えて前を向いていた姿が印象的でした。

そして迎えたパリ五輪の切符を懸けたネーションズリーグ2024。すでに切符を手にした国には「ここで手の内をさらす必要なし」とメンバーを落としてくるような向きも見られましたが、多くの国は引きつづき全力で世界一を争っていました。すごい高さ、すごいパワー、世界の強さを見せつけられる瞬間は幾度もありました。しかし、そうした強さを「見せつけられながら」日本は勝ち上がっていきました。当時世界ランク1位に位置した初戦トルコ戦のフルセットでの劇的勝利。ポーランド、ブラジル、アメリカなどには敗れたものの8勝4敗でファイナルラウンドに駒を進めると、準々決勝で中国を、そして準決勝ではそのタイミングで世界ランク1位に位置していたブラジルをフルセットで撃破。銀メダル以上を確定させるとともに、近年何度もフルセットまでもつれながら敗れつづけてきた因縁の相手ブラジルをとうとう倒しました。ずっと叩きつづけてきた壁が、ついに崩れたような気がしました。

↓ブラジルは強かった!本気だった!けれど、勝ったのは日本だった!




その戦いぶりは決勝を迎えても変わりませんでした。決勝で相まみえるのは、このタイミングで世界ランク1位に位置するイタリア。勝ち負けでランクが都度上下する仕組みとは言え、よくもまぁ日本の前に毎度世界ランク1位が立ちはだかるものです。ただ、この1位は成り行きでそうなったということではなく本当に強い1位です。身長193センチ、最高到達点344センチという男子並みのサイズと高さを誇る世界屈指のオポジット・エゴヌさんを擁する攻撃と、ブロックと守備とが連動する固い守りと、競り合いのなかで発揮される粘りと集中力、あらゆる面で日本より上なのでは?とさえ思う相手でした。

日本はエゴヌさんに少しでも高さをぶつけようというローテーションで第1セットに臨みましたが、エゴヌさんは止められず、しかも自分たちの良さも出せずでいいところなく第1セットを17-25で落とします。つづく第2セットも17-25の大差で落とし、見ているコチラの雰囲気としてはすでに「絶望」でした。ブロックの上から打たれるスパイクの雨嵐と、打っても打ってもワンタッチを取られ、それを世界屈指のリベロ・デジェンナーロさんが拾うというディフェンスの前に、勝ち筋がまったく見えませんでした。

しかし、それほどの差を見せつけられながら、日本は食い下がりました。第3セット、序盤で差をつけられることなく競り合いの展開に持ち込むと、マッハ・ジェットと呼ぶ早いバックアタックを繰り出してリードを築き、そのわずかな点差をサイドアウトで保ったまま日本がこのセットを取り返したのです。引きつづき相手のスパイクはブロックの上から飛んできますし、コチラのスパイクはブロックに引っ掛かりつづけますが、何度も攻撃を作り直し、何度も拾い直す日本。「一回では決まらない」ことを全員が理解しているかのように、1点を取るために労を惜しみませんでした。相手は一発でズドンと取るラクな点数がたくさんあって、コチラは何度も何度も攻めてようやく1点になるというメンタルが削られる戦いを、セット奪取までやり切りました。

第4セットは再び序盤で差をつけられ、20-25で落とした日本ですが、絶望的な第1セット・第2セットのあとに一矢報いた第3セット、そして再び絶望を突きつけられながら下を向くことなく、最後まで勝つために何ができるかをやりつづけた第4セットの全日本は本当に「強い」チームでした。「下を向いてしまいそうだ」と思う場面を笑顔で乗り越え、「引きずってしまいそうなミスだ」と思う場面で平然と次のプレーに向かう全日本女子は、勝ってもおかしくない戦いぶりでした。最後まで勝つかもしれない雰囲気がありました。少なくとも「自分から負けを認めて、負けに向かって突き進む」チームではなかった。相手のほうがチカラが上であることは認めるとしても、ほんの少しのチャンス…紙一重のインアウトであるとか、相手の思わぬミスであるとか、ちょっとしたアクシデントであるとか、何か「運」が向く瞬間があれば、それをつかめそうなチームでした。

敗れたあとの整列の早さと勝者を祝福する穏やかな笑み。自分と仲間を讃えるハイタッチ。そうした振る舞いのひとつひとつが、「このチームは強いな」と実感させられるものでした。絶望的な相手の強さを前にして絶望してしまわない、そういう種類の強さを持っているチームだなと。高さやパワーは譲ったとしても、もしもほかのものが決め手になる試合展開・状況に持ち込むことができたなら、結果はわからないなと思えました。正直に言えば少し前まで「ないだろう」と思っていたメダルの可能性さえも感じるほどに。

↓この日はイタリアが最後まで強かったけれど、必ず負ける相手ではないと実感しました!


↓ベストアウトサイドヒッター賞に「私?」とアクションしつつ、堂々と受賞した古賀さん!

全世界で一番かと言われたらそうではないかもしれない!

でも、自分はこの大会においてはそれに値すると自分を認めることができる!

そんな強さと成熟を感じる場面でした!



来るパリ五輪、もしかしたら日本に風は吹いているかもしれません。組み分けの結果、日本はブラジル、ポーランド、ケニアとともにB組に入りました。ケニアはおそらく全出場国のなかでも力量は下のほうですので、勝利が計算できるでしょう。ポーランドとブラジルには2敗の可能性もありますが、ブラジルとは戦うたびにフルセットまでもつれていますので、ありそうな範囲のちょっといいほうで見積もれば「2勝1敗」「ブラジル戦はフルセット勝ちで勝点2に留まる」、悪いほうで見積もれば「1勝2敗」「ブラジル戦はフルセット負けで勝点1奪取」というのは現実的な範囲。もちろん理想は3勝ですが。

他グループの状況に目を向ければ、A組は開催国のフランスがかなり苦しく、アメリカとセルビアが上位を分け合うなかで、どこまで中国が食い下がれるかといったところ。C組はイタリアがかなり強そうで、そこに対抗するトルコ、追いすがるドミニカ、そしてオランダという構図。いずれも3勝・2勝・1勝・0勝でキレイな決着となりそうです。決勝トーナメントに進む国は「各グループの上位2ヶ国+グループ3位のなから2ヶ国」ですので、日本はケニア戦の勝利でグループ3位以上を確保しつつ、さらに勝利あるいは勝点を積み増して他グループの3位に競り勝てば、準々決勝進出は十分に射程圏と言えるでしょう。

しかも今回は合計3グループでの順位を横並びで比較し、「各グループの1位が全体1位〜3位」「各グループの2位が全体4位〜6位」「各グループの3位から上位2つが全体7位〜8位」でそれぞれ準々決勝に進みますので、上手くすれば強豪国のなかで日本が一番競り合えそうなブラジルと準々決勝でもう一回対戦する可能性があります。今回のネーションズリーグでの勝利を追い風に、グループステージではブラジルに競り合いつつ負ける形でブラジルを最上位に押し上げ(※ポーランドには自力で勝ってもらう)、準々決勝で対戦したときには逆に競り勝つようなことができれば、ベスト4以上の何が起きるかわからない戦いまで粘り込めるかもしれません。

なかなか厳しい戦いだろうとは思いつつも、このネーションズリーグのようにどんな相手でも下を向かずに戦いつづけられるのなら、何かが起きても不思議はないと思いました。そんな期待感を覚えた状態でパリ五輪に向かえること、とても嬉しく思います。全日本男子に大きな注目が集まるパリ五輪ですが、男子だけでは終わらない大会になるかもしれない、なってほしい、心からそう思います!

↓「日本は本当に小さくて、そういうチームがこういうところに立てるっていうところで私たちは私たちのことを本当に誇りに思ってます」という等身大の強さ!

相手の強さと自分たちの小ささを認めたうえで、なお自分たちを誇りに思える強さ!

いい心持ちで五輪に向かってくれそうです!



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