無死一塁の状況でセカンドにライナー性の打球が飛びポロリしたとき、中日ドラゴンズはどうすればよかったのかを検討する頭の体操。 : スポーツ見るもの語る者～フモフモコラム

カテゴリ:: 野球

2024年07月17日08:00

敵の故意落球より味方の脱力疾走を見ましょう！

夢のような三連休が終わり、社会人がグッタリするなか頭の体操的な野球パズルが出題されました。16日に行なわれたプロ野球東京ヤクルトスワローズVS中日ドラゴンズ戦でのこと。尾位攻防戦として実力伯仲の戦いを見せる両者は、初回に中日が3点を先制するもヤクルトが4点を奪って逆転するという流れで8回表まで駒を進めていました。

先頭の大島洋平さんが出塁して無死一塁とチャンスを迎えた中日。ここで打席には高橋周平さんが入りました。一塁走者には代走・尾田剛樹さんを送り、長打なら一気に生還を狙おうという構えです。しかし、ここで高橋さんの打球はセカンドへのライナー性の当たり。この打球に対してヤクルトのセカンド山田哲人さんは腰を落としてグラブで壁を作るような捕球体制に。

捕ったのか、捕っていないのか。ちょっとその場で見極めるには紛らわしいような動きののち、山田さんは一度グラブからこぼれたボールを拾って二塁に送球します。一方その頃、一塁走者は「フライアウトだ」という判断で一塁に駆け戻っていました。もちろんボールはショートバウンドですので（※二塁塁審もノーキャッチのジェスチャー）、二塁はフォースアウト。さらに一塁に転送して打者走者もアウトとなり、中日としては痛いダブルプレーとなったのでした。

これには中日・立浪監督もベンチから出てきて審判に何やら話し掛けずにはいられません。「山田うまいねぇ」と言ったかどうかは定かではありませんが、今のプレーに何か思うところはあったのでしょう。それを代弁するかのようにSNSでは「故意落球」がトレンド入りし、「やりやがったなぁ？」というムードが広がっていました。うーん、これは連休明けにちょうどいい感じの野球クイズではありませんか。「最終的にはどっちがどうなってもどうでもいい」というあたりも含めて、気楽に考えられそうです！

↓それでは、ここでクエスチョンです！中日はどうすればよかったでしょうか？

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まずSNSでトレンド入りする「故意落球」云々について。公認野球規則の5.09（a）（12）には故意の落球に関して以下のような記載があります。

0アウトまたは1アウトで、走者一塁、一・二塁、一・三塁または一・二・三塁のとき、内野手がフェアの飛球またはライナーを故意に落とした場合。ボールデッドとなって、走者の進塁は認められない。

【規則説明】内野手が打球に触れないでこれを地上に落としたときには、打者はアウトにならない。ただし、インフィールドフライの規則が適用された場合は、この限りではない。

【注１】本項は、容易に捕球できるはずの飛球またはライナーを、内野手が地面に触れる前に片手または両手で現実にボールに触れて、故意に落とした場合に適用される。

【注２】投手、捕手および外野手が、内野で守備した場合は、本項の内野手と同様に扱う。また、あらかじめ外野に位置していた内野手は除く。

もうひとつ似たようなシチュエーションで引き合いに出される「インフィールドフライ」については、公認野球規則の「本規則における用語の定義40」に以下のような記載があります。

INFIELD FLY「インフィールドフライ」――0アウトまたは1アウトで、走者が一・二塁、一・二・三塁にあるとき、打者が打った飛球（ライナーおよびバントを企てて飛球となったものを除く）で、内野手が普通の守備行為をすれば、捕球できるものをいう。この場合、投手、捕手および外野手が、内野で前記の飛球に対して守備したときは、内野手と同様に扱う。

審判員は、打球が明らかにインフィールドフライになると判断した場合には、走者が次の行動を容易にとれるように、ただちに〝インフィールドフライ〟を宣告しなければならない。また、打球がベースラインの近くに上がった場合には〝インフイールドフライ・イフ・フェア〟を宣告する。

インフィールドフライが宣告されてもボールインプレイであるから、走者は離塁しても進塁してもよいが、その飛球が捕らえられれば、リタッチの義務が生じ、これを果たさなかった場合には、普通のフライの場合と同様、アウトにされるおそれがある。

たとえ、審判員の宣告があっても、打球がファウルボールとなれば、インフィールドフライとはならない。

インフィールドフライと宣告された打球が、最初に（何物にも触れないで）内野に落ちても、ファウルボールとなれば、インフィールドフライとはならない。また、この打球が、最初に（何物にも触れないで）ベースラインの外へ落ちても、結局フェアボールとなれば、インフィールドフライとなる。

【原注】審判員はインフィールドフライの規則を適用するにあたって、内野手が普通の守備行為をすれば捕球できるかどうかを基準とすべきであって、たとえば、芝生やベースラインなどを勝手に境界線として設定すべきではない。たとえ、飛球が外野手によって処理されても、それは内野手によって容易に捕球されるはずだったと審判員が判断すれば、インフィールドフライとすべきである。インフィールドフライはアピールプレイであると考えられるような要素はどこにもない。審判員の判断がすべて優先し、その決定はただちに下されなければならない。

インフィールドフライが宣告されたとき、走者は危険を承知で進塁してもよい。インフィールドフライと宣告された飛球を内野手が故意落球したときは、5.09(a)(12)の規定にもかかわらずボールインプレイである。インフィールドフライの規則が優先する。

インフィールドフライが宣告されたときに妨害が発生した場合、打球がフェアかファウルかが確定するまでボールインプレイの状態は続く。打球がフェアになれば、野手の守備を妨害した走者と、打者がアウトになる。打球がファウルになれば、野手の守備を妨害した走者だけがアウトとなり、その打球が捕球されたとしても、打者は打ち直しとなる。

【注】インフィールドフライは、審判員が宣告して、初めて効力を発する。

定義を読む読まないはさておき、先の動画のケースはまずインフィールドフライではありません。シチュエーションが「無死一塁」ですので、そもそもインフィールドフライが宣告される条件にはありません。打球も適用外のライナーですし、審判ももちろんそんなことは言っていませんので、本件に関してはインフィールドフライのことは忘れてしまって大丈夫です。

つづく本丸の「故意落球」ですが、こちらは状況によっては適用される可能性がありました。が、こちらも関係ありません。動画をよく見ればわかるように山田さんは打球をショートバウンドでキャッチしています。故意落球は「わざと捕らなかった行為」に対して適用されるものではなく、「一度触って落とした行為」に対して適用されるもの。ショートバウンド捕球はそもそも故意落球の適用対象ではありません。

最大限の悪意を持って見れば「突っ込めばライナーで捕れそうな打球なのにわざと足止めたろ山田！」「でも、ショートバウンドに見えたか見えないか不安で一回ポロリして確定させたろ山田！」「きったねぇぞ山田！」と野次れるかもしれないとは思いますが、それも「雨で足元が悪いなかでギリギリのプレーでした」と言われたら追及のしようがありません。

もし抵抗するとすれば、中日側からリクエストをして「今のはショートバウンドしてないですよね？」と打者走者のフライアウトを主張するくらいですが（※故意落球の有無ではなくアウト・セーフを問う）、仮に最初のショートバウンドはなかったとしても一連の動作でポロリしていることは明らかですので、これは立浪監督も黙って引っ込むしかありません。

↓先に中日がこのプレーやってますし、山田さんもアレがギリギリだったんですよ！きっと！

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で、最初のクエスチョン「中日はどうすればよかったでしょうか？」ですが、皆さまの頭にはどんな答えが浮かんでいるでしょうか。「立浪監督をぶっ飛ばす」「立浪監督を今すぐ休養させる」「立浪監督にお金を渡してどこかに行ってもらう」などの答えが並んでいる頃合いでしょうか。あるいはバットを振り回しながら落下点付近に突っ込むといった物騒な答えもあるでしょうか。もしかしたら「西武の試合でも見て落ち着く」といった方もいるかもしれません。

答えが出そろったところで正解発表ですが、この場合の正解は「一塁走者は一塁にバック、打者走者は全力で一塁まで走る」です。

まずあのシチュエーションであの位置にライナーが飛んでしまったら、一塁走者にできることはほとんどありません。もし今回のようにショートバウンドしたら頑張って二塁に行くほかありませんが、よほど相手がヘマをしない限り二塁でフォースアウトでしょう。それなら「ライナーバック（ライナーなら帰塁）」の基本通りに相手がライナー捕球することに期待して一塁付近で様子を見るのがいいでしょう。

一番問題というか、対応の余地があったのは打者走者です。高橋さんは最初からフライアウトと決めつけ、一塁まで脱力疾走をしています。高橋さんが打ったあと、実際に一塁に転送されるまでの時間は動画での実測で4.5秒強ありました。高橋さんは左打者で一塁到達までの距離が短く、過去の映像などでも4.5秒未満で一塁に到達した内野安打がいくつも見られます。今回のシチュエーションでも「高橋さんが一塁に全力疾走していれば打者走者はセーフ」だったと思われます。山田さんのプレーは確かに「やってる」感じはなくはありませんが、これがダブルプレーになったのは中日が「やっちまった」あるいは「やるべきことをやらないでしまった」と言うべきでしょう。

そもそも先のルールにおいてもインフィールドフライの適用対象から「無死あるいは一死一塁」や「無死あるいは一死一・三塁」が除外されているのは、その状況からフライくらいの時間が掛かる打球で「わざと落として併殺」を狙おうとしても基本的に無理だからです。今回も同様で、速いゴロでも併殺を取るには素早いプレーが求められるのに、緩めのライナーでしかも野手が一回ポロリしているのに打者走者がアウトになったのは「脱力疾走」だからにほかなりません。

まぁ、長いシーズンですので「常にすべての可能性を追い求めたりせず、ある程度決め打ちプレーの省エネ野球でいこうや」というチーム内の申し合わせなどあるのであればそれはそれでチームの哲学かなと思いますが、そんな野球をしていては背中に埼玉西武ライオンズの足音が聞こえてくるだろうと思います。たとえ実力では勝っていても、その実力を発揮しないでくれたら弱いチームにも勝機は生まれるのですから。

中日さんにはプロ11球団の誇りを胸に、全力プレーでこれぞプロというところを見せていただきたいもの。中日さんが強ければ強いほど、我が埼玉西武ライオンズとしても「ウチは中日さんには勝ち越してますからな」という小さな誇りを胸にこれからの長い暗黒を生き抜いていけるというものですから。頑張れ中日ドラゴンズ、戦え中日ドラゴンズ、「西武があんなだし、もう1個減らしてプロ10球団1リーグ制で再編しよう」勢力に負けるな！

↓中日さんが頑張ってくれると、こちらとしても救われるので頑張ってください！