でかい!速い!強い!上手い!
いきなりやってきた大勝負。パリ五輪開幕に先立ちスタートしたサッカー女子の競技で、日本のなでしこJAPANが初戦に臨みました。対戦相手は昨年のワールドカップを制し、現在世界のなかで圧倒的な強さを見せるスペイン。「無敵艦隊」の呼び名が煽りではなくリアルに通じる世界女王です。
しかし、日本も負ける気などありません。いやむしろ「勝っている」気持ちです。昨年のワールドカップでスペインに唯一の黒星、それも4-0という大勝での勝利を挙げたのがほかならぬ日本です。言うならこれは真の世界一決着戦。お互いにお互いを倒さずにはいられないという因縁の顔合わせです。
↓日本のスタメンは「スペインを倒した」精鋭と10代の若者とが融合!
↓熊谷キャプテンは「怖気づくような子はいない」「のびのびやってほしい」と若者の成長に手応えを感じている様子!
会場となるスタッド・ドゥ・ラ・ボージョワールは1998年フランスワールドカップで日本代表がクロアチア代表と戦った思い出の地。26年前に流した悔し涙が時を超えてなでしこの後押しをしてくれるのではないか、そんな巡り合わせも感じます。スタンドの観衆はやや日本側が優勢か。能登半島からやってきたと思しき子どもたちの姿も勝利への意志を一層強めてくれるでしょう。
凛として入場してきたなでしこたち。国歌斉唱では男子の試合につづいてカメラワークがいまひとつで、日本のスタメンをしっかり舐めることができません。君が代を歌い終えたあと、長谷川唯さんが少し目元を拭ったように見えたのですが、それが涙なのか汗なのか確かめられなかったのは惜しまれます。
そして始まった試合。ボールを持って攻勢に出るのはスペイン。中盤で攻撃のタクトを振るうアイタナ・ボンマティさんとアレクシア・プデジャスさんのバロンドールコンビや、中央で構えて日本の守備に常に恐怖を与えるサルマ・パラリュエロさんは「個」としての強烈な迫力を放っています。日本はある程度押し込まれることは覚悟のうえで、4-4-2の形でよく整えられた守備ブロックから、なるべく高い位置でボールを奪ってカウンターにいきたい狙いです。
序盤は日本選手の動きも元気いっぱいで相手にしつこくアタックをかけられています。それが功を奏して前半2分には高い位置で奪ったところから裏に抜け出した藤野あおばさんがGKと1対1でシュートを放つ大チャンスも。しかし、ここはGKに防がれて得点ならず。うーん、どことなく1998年ワールドカップでの中山雅史さんの決定機を思い出すような場面でした。
そして迎えた前半11分。日本はDFラインから長いボールを裏に送ると、スペインのGKが飛び出してきてヘッドでクリアしようとしますが、これが後ろに浮いてしまいます。そこに詰める日本の選手たち。田中美南さんが先に落下点に入り、「GKが飛び出して無人のゴールに流し込めば先制点」という場面を作りかけますが、ここは後ろから倒されてゴールはならず。
ひとつ惜しい場面を逃したあとのフリーキック。日本は長谷川唯さんと藤野あおばさん、ふたりの名手がボールのそばに立ちます。ボールをセットしたのは藤野さん。おそらく蹴るのは藤野さんですが、長谷川さんが最後まで集中するポーズを作り「私が蹴ります」の煙幕をモクモクと立ち込めさせます。そしてその煙幕のなか藤野さんが蹴ったボールは、壁の外から鋭く曲げてゴールの隅へ!スペインGKも手には当てますがとても弾き返せる強さではありません。スーパーゴールで日本先制!
↓スペインの背筋を「また日本かよ…」と凍らせる衝撃弾!
これで火が点いたのはスペイン。地力十分、時間も十分。1点では焦ったり慌てたりはしてくれません。むしろ圧力を強めて日本のゴールに迫ってきます。スペインはひとりひとりのサイズも大きく、懐が深い。足を伸ばしても届きませんし、身体を押しても崩れません。さらに全員のボールまわしが正確無比で、まるでゲームのように狙った場所に狙った球質でボールが送られます。ちょっとズレてくれれば刈り取れるのですが、どうしても取れない場所に送られてしまいます。
それでも日本は二度・三度とアタックする覚悟を持って、何度かわされても次の選手がカバーし、またポジションを直しては再アタックをします。しかし、どうしても取れない。どうにもこうにも取れない。前半22分には日本の守備が個で剥がされたところから、最後は抜け出したボンマティさんに決められてしまいました。日本のGK山下さんも手には当てたものの惜しくも止められず、同点に。
その後もスペインの攻勢に押し込まれる日本。押し込みながらもバランスを崩すわけでもなく、ひたすら大きくて速くて強くて上手い押し込まれ方なので、ちょっとボールを取り返してもスペイン側に大きな崩れはなく、すぐさま追い込まれるor苦しくて日本がボールを蹴ってしまうという格好に。何とかボールを失わずにつなごうと、リスクを覚悟でGKからしっかりつなぐことで相手を剥がそうと試みるも、つないでいる間にピンチになることも多く、いかにも苦しい。
結局、前半はその後日本の目立ったチャンスもなく1-1で終了。前半40分にはエリア内でシュートを撃たれ、からくもGK山下さんが足でセーブするという危ない場面もありました。これだけ押し込まれて同点なら上々とも言えますし、後半どうしていこうかと少し思案する感じも。ハーフタイムでの戦術変更が注目される折り返しとなりました。
↓さて、ここからどうするか、後半に期待です!
迎えた後半、日本は少し守備の形を変えてきました。前半は中央のセンターバック2枚がパラリュエロさんを怖くて放すことができず、結果として常に両サイドが孤立する格好になっていました。そこを補うべく中盤からひとり最終ラインに落として、守備時は5-4-1の形に変更してきました。
これで最終ラインは埋めたものの、とは言え横幅60メートル以上あるサッカー場です。5バックでも選手の間は均等割りで10メートルほどはあるわけで、人間が通れないはずがありません。スペインは正確な技術と的確な動きで、日本がラインを埋めたことをさして苦にもしていない様子。むしろ、日本は相手最終ラインへのプレッシャーは基本的にかけられない形となったことで、中盤まではほぼフリーパスで抜けられてしまいます。これで前半以上のワンサイドゲームとなり、日本は自陣から出ることさえ苦労するように。ときおり田中美南さんが身体を張って相手をブロックし、ボールキープを見せますが、そこから次につなげるのがまた難しい。
後半7分にはゴール目の前からシュートを撃たれるも、倒れていた南萌華さんにたまたま当たってピンチを逃れる場面が。後半13分にはこぼれ球に反応したボンマティさんにエリア内でシュートを撃たれる場面が。後半17分にはクロスを蹴る前にゴールラインを割ったはずなのに主審がプレーを止めず、ゴール前で混乱が起きてヒヤッとする場面も。日本もよく耐えていますが、ちょっと反撃の糸口が見えません。
そうこうするうちにアクシデントが。後半21分、日本の清水梨紗さんが守備時に足を滑らせ、その際にヒザを痛めてしまった模様。清水さんはピッチに倒れて動けず、すぐにベンチにダメだというサインを送っています。しかもその際、日本はボールを蹴り出し、清水さんがまだピッチ内に倒れているというのに主審はスローインで試合を再開させたのです。先ほども副審の旗が見えていなかったようですし、ちょっと視野の狭い主審かもしれません。
これで日本は交代を余儀なくされ、高橋はなさんを投入し、最終ラインの配置も変えることに。それが影響したということではありませんが、ついに望まない形で試合が動いてしまいます。後半29分、日本の右サイドでフリーになったマリオナ・カルデンティさんが味方にボールを預けたあとするするとエリア内を横切り、日本が捕まえ切れずにいる間にボールを受けてシュート!これが決まってスペインが逆転します。
その後はスペインも少し試合を落ち着かせ、日本が前掛かりになったことでやや日本が押し返しますが、「前に進めない」という状況は大きく変わらず。アディショナルタイムに入ってカウンターのチャンスになりかけた場面も主審にボールが当たるという不運(※この日2回目/視野が狭い)があって、同点弾にはつなげられません。ワールドカップの再現といかず、なでしこJAPANは1-2で初戦を落としました。
↓自分が当たってちょっとロスしたのに、最後の攻撃をやり切らせてくれないなんて!そりゃ解説の矢野さんも一言言いますわな!
アンフェアというわけではないもののストレスフルな主審でした!
それを差し引いてもスペインは強かったので結果はしょうがないですね!
いやー、お強い。マジでお強い。これはちょっとどうやったらいいかわからないくらいスペインはお強かった。この負けはしょうがないかなと思います。ただ、それでも1-2。負けのなかでは最善と言えるスコアですし、ワールドカップの再現じゃありませんが、今度はここから日本が全部勝っていく展開というのもない話ではありません。
次戦はブラジル、女子サッカー界のレジェンドであるマルタさんはこれが最後の国際舞台だと言いますので、しっかりと勝って日本が新たな時代の旗手となりたいところ。金メダルを目指してここに来たのですから、スペインだろうがブラジルだろうがどこかで勝つつもりなのは変わりません。負けは許されないブラジル戦、勝って先へと進んでもらいましょう!
↓敗戦の直後ですが「落ち込んでいるヒマはない」とすでに気持ちを切り替えている熊谷キャプテン!
負けた場合の想定も含めてイイ準備をしてきたようですね!
グループステージは3戦で2勝すれば十分です!
決勝でやるときは疲労でグッタリしているスペインを日本が倒す展開に期待!