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堀米雄斗さん苦境の3年間の最後に大大大逆転!

これが連覇の難しさで、これがそれを乗り越えるスターの強さなのでしょうか。人間の「夢を叶えるチカラ」の凄まじさに僕は身震いしました。パリ五輪スケートボード男子ストリート、東京五輪金メダリスト堀米雄斗さんによる連覇。この連覇には「3年前強かった者が、3年後も強かった」などと、点と点を真っ直ぐつなぐだけでは言い表せない激動と興奮がありました。

↓堀米雄斗さんスケートボード男子ストリート連覇!


この3年間、堀米さんは苦しんでいました。怪我や不振が堀米さんを襲いつづけていました。そして技術・戦術的な部分ではルール変更によって苦境に立たされていました。東京五輪では「ラン2本、ベストトリック5本のなかで4本の得点」を合計する形式でしたが、現在は「ラン2本、ベストトリック5本を実施し、ラン1本+トリック2本の得点」を合計する形式になりました。ランよりもトリックを得意とする堀米さんは試合前半でゲームを作れず、その後の展開に苦しみました。ついにはオリンピックチャンピオンが大会で予選落ちするという経験もしました。パリ五輪を諦めかけた、苦しかった、たびたびそうクチにするような時間でした。

世界ランク上位に位置する顔ぶれから各国最大3人まで出場できるというパリ五輪予選において、堀米さんはずっと圏外にいました。これは「惜しい」とか「僅差で競っている」なんて話ではなく、かなりガッツリと下位にいました。ランキングポイントで言えば数万点(!)負けていました。そして、5月に行なわれたオリンピック予選シリーズ第1戦・上海でも17位に沈み、限りなく可能性がゼロに近づきました。世界ランキング11位、日本勢では5番手(※最大3人出場)という「圏外」の位置にいたのです。つい2ヶ月前まで。

それでもまだゼロではない可能性を追って挑んだ6月23日のオリンピック予選シリーズ最終戦・ブダペスト。堀米さんは勝負を懸けました。ランでは1本目に90.26点の高得点を出すと、ベストトリックでも1本目に「ノーリーフロントサイド180スイッチ5-0グラインド」で95.65点をマーク。そしてベストトリック3本目、堀米さんは大技「ノーリーバックサイド270バックサイドテールブラントスライド」をメイクし、97.10点の高得点。これでこのシリーズの優勝を手にし、大逆転で五輪代表の座をつかんだのです。優勝しても確実ではなかった切符を、文字通りもぎ取ったのです。

↓パリ五輪行きを最後の最後の最後に決めた!




堀米さんは前回金メダリストとしてパリ五輪に帰ってきました。長い低迷からようやく反転浮上してきた流れが本番で急にまた落ち込むはずがありません。予選を軽やかに突破すると、上位8人が競う決勝ラウンドでは、ラン1本目にフルメイクを決めて89.90点。ランの2本目は伸ばせませんでしたが、前半を終えて4位という好位置につけました。トップとは3.47点差。十分射程圏内です。

ベストトリックの1本目、堀米さんは「ノーリーバックサイド180スイッチ5-0グラインド」で94.16点をマーク。進行方向に背中を向けて飛び、トリック中のほとんどの時間で前を見ないというまったく危険や恐怖を省みないトリックで高い評価を得ました。ただ、このレベルではどの選手もここ一番の大技を出してきます。代表争いで鎬を削った白井空良さんも、最大のライバルであり第一人者であるナイジャ・ヒューストンさんも90点台の高得点を叩き出し、「もう1本」の勝負に持ち込まれます。



堀米さんがこの「もう1本」に選んだのは、パリ五輪行きをもたらしてくれた大技「ノーリーバックサイド270バックサイドテールブラントスライド」でした。しかし、ベストトリック2本目、3本目、4本目とミスし、得点は出ません。合計3本必要な得点がランと合わせてまだ2本しか出せていない。このままでは連覇はおろかメダルもなく7位入賞という形でパリ五輪を終えるというところまで追い込まれました。逆転1位には96.99点以上が必要でした。これは五輪の舞台では誰も出したことがないスコアです。前回金の堀米雄斗も出したことがない五輪新記録です。それでも堀米さんは挑みます。パリ五輪をつかんだ技を、メダル狙いではなく決めれば金に届き得る大技を、もう一度この土壇場で決めると。決められると。それを出すのだと。

そして挑んだ最後の5本目。堀米さんは自分の運命を託した大技を決めました。あのブダペストの最終予選のように大きく吠えてボードを蹴り飛ばしました。会場を支配しました。スケボーが技の難度とか完成度云々とかよりも上に「言葉にならないカッコよさ」を置く人間と人間のスタイルのぶつけ合いだとするなら、これほど評価すべきトリックはない、そう確信する一発でした。長い苦境を乗り越え、自分を信じた男の最高にカッコいい瞬間でした。スタンディングオベーションも当然です!

↓ここで決めなければ何もない、そんな「最後の1本」で決めたこの大技!


暫定トップを0.1点上回った!

最後の最後に金に浮上する大逆転!

この技が堀米さんを二度窮地から救い上げた!



これがスケートボードの世界だなと思ったのは、この大技で自分の順位がひとつずつ下がった選手たちが、にこやかに、讃えるようにこの光景を見ていたこと。そして、自分もそれを超えていくために果敢な挑戦に臨んだこと。勝ち負け以上に挑戦が愛され、挑戦した者にこそ勝利が与えられるべきというこの世界観。こういう世界だからこそ、これがゼロならゼロになるという最後の1本にも自分の最高の技を選べるのかなと思います。

結局その後、誰も堀米さんを超えることはできず、東京五輪の金メダリストがパリ五輪の金メダリストとなりました。点と点だけをつなげば「3年前強かった者が、3年後も強かった」というだけにも思える結果ですが、わずか2ヶ月前まで「3年前強かった者が、3年後は消えていた」になりそうだったのです。本人も他人もそう予感していたと思います。「パリに堀米はいない」と思うほうが自然な状態だったのです。しかし、最高の技でそれを引っくり返し、金に戻ってきた。そのドラマは信じ難いほどの奇跡でした。

表彰台に立つ堀米さんは、解放されたような笑顔でした。長い苦しみの時間、連覇を目指す者だけが体験する重圧、すべてから解き放たれたようにメダルの重さを噛み締めていました。今回の金は前回の金よりずっと重たい金だろうと思います。3年かけてじっくりと諦めに追い込まれてきたものを、信じる自分の技で跳ね返した「3年かけての大逆転」の金なのですから。「3本ミス」からの逆転でも十分に大逆転なのに、「3年苦境」からの逆転なら大大大逆転くらいあるはずですものね!

↓五輪予選から見ておいて本当によかったです!

そして、信じ切れずにごめんなさい!

ここまでの絵はとても2ヶ月前には描けませんでした!



五輪の舞台には、最高の技と最高の技が出揃っての決着がよく似合う!