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プリンス・オブ・アスリート岡慎之助!

パリ五輪大会11日目、日本のプリンスがまたしてもとてつもないことをやってくれました。体操競技を締めくくる競技最終日、体操ニッポンの新たな旗手・岡慎之助さんが種目別鉄棒と平行棒でメダルを獲得したのです。しかもその色は金と銅。これで岡さんは団体・個人総合と合わせて金3個・銅1個という、かの内村航平さんでも成し遂げたことのない五輪での3冠+αを達成しました。日本の選手が体操で3冠以上を達成するのは加藤沢男さん以来52年ぶりのことだとか。まさに歴史的偉業でした。

ここまでの大会全体を見渡しても、メダル個数のランキングで言えば、全体1位のレオン・マルシャンさん(競泳/フランス)の金4個・銅1個を最多として、トーリ・ハスケさん(競泳/アメリカ/金3個・銀2個)、モリー・オキャラハンさん(競泳/オーストラリア/金3個・銀1個・銅1個)、シモーネ・バイルズさん(体操/アメリカ/金3個・銀1個)、サマー・マッキントッシュさん(競泳/カナダ/金3個・銀1個)につづく全体第6位に位置しています。全部の選手のなかで6位です。

今後陸上で複数の金を獲得する選手は出るでしょうが、主要競技を代表するという選手という意味では、競泳からはマルシャンさん、体操からはバイルズさんと岡さんという形で、パリ五輪の主たるアスリートのひとりとして岡さんは歴史に刻まれることになるでしょう。何十年後に振り返ったとしてもハイライトで映像が流れるような、そんな存在としてです。すごいことをやってのけたものです。日本に帰ってきたら世界が変わっていてビックリするでしょうね!

↓これから「金メダリスト」としての暮らしが始まりますよ!頑張ってください!



体操種目別決勝、この日行なわれた平行棒と鉄棒には日本から2選手ずつが進出していました。平行棒には岡さん(予選3位)と谷川航さん(予選8位)、鉄棒には岡さん(予選5位)と杉野正尭さん(予選3位)が出場します。事前の見立てとしては、平行棒は鄒敬園さんという偉大な選手がいるため金は極めて難しく、完璧な演技なら銅に届くかもという感触。鉄棒は難度で言えば岡さんなどはかなり低めの構成ですが、ほんのちょっとの角度のズレや握りなどでEスコア減点となる項目が非常に多いため、「美しい体操」であれば十分に勝負ができる種目です。落下もあり、着地でも転倒があり得ますので、有り体に言えば「やってみないとわからん」状態でした。

先に行なわれたのは平行棒。1番手のコフトゥンさんがDスコア7.000という異次元の構成から、いきなり15.500点という高得点をマーク。これは岡さんや谷川さんの構成では完璧に実施しても届くかどうかという得点です。ただ、2番手で登場の中国代表のエース張博恒さんは、団体戦・個人総合とつづいた疲労と重圧の影響か動きに精彩を欠き15.100点という得点に留まりました。ここを超えていければメダルも、という現実的なラインが見えてきました。

そのラインがプレッシャーになったわけではないでしょうが、後続の選手にはミスが目立ちます。身体の状態が十分でなかったり、演じ急いでしまったり、倒立を決め切れなかったり。あるいは日本の谷川さんのように完璧を求めるあまりに、倒立姿勢でバランスを崩し、棒上を移動してしまうというこれまで見せたことがないような大きなミスが出てしまったり。メダルラインを超えていく選手がなかなか生まれません。結局、最初の2人を超えたのは6番手で登場した大大大本命の鄒敬園さんのみ。波乱含みの展開となりました。

そして8番手の最終演技者として登場したのは岡さん。鄒敬園さんの16.200は現実的に出せない得点ですが、銅メダルラインの15.100点は普段の演技で十分に超えられる射程圏内です。ここで岡さんは日本のイズムを受け継ぐように、美しい倒立の姿勢からひとつひとつの技をキレイに決めていきます。最後の着地もしっかりと止め、予選と同等のクリーンな演技でまとめました。Eスコア8.800という高い評価をもらってトータル15.300点。見事3位に食い込みました!

↓予選とまったく同じスコアで「狙い通り」の演技!


「取れたらいいな、取れるかも」くらいの見立てであった平行棒でメダルを獲得した岡さんは、五輪の重圧などまるでないように、さらなる飛躍を見せます。男子の最終種目となる種目別鉄棒、1番手で演技した台湾の唐嘉鴻さんが本来のチカラを出し切れず13点台に留まるなか、2番手で登場した岡さんは軽やかに、美しく宙を舞います。振り上がりの倒立からアドラー1回ひねりはやや角度ずれるも、アドラーひねりは倒立も美しく棒上で決まります。手放し技はコールマン、伸身トカチェフ、トカチェフと難度はそこまでではありませんがバーのキャッチを含めて実施は美しい。その後のいわゆる「チェコ式」と呼ばれる連続技では最後のケステの部分の倒立がやや遅れるも大きな問題はありません。閉脚シュタルダーを挟んであとは下り技を残すのみ。後方伸身2回宙返り2回ひねり下りからの着地は「吸いつく着地」でズバッと決めました。アテネ団体戦の冨田洋之さんや、リオ団体戦の内村航平さんを思わせる、王者の着地です。この大舞台で、「金」の可能性をも含んだ素晴らしい演技を見せました!

↓Dスコアは5.900と低めも、Eスコアは8.633と高い得点が出ました!


これも予選とまったく同じスコア!

予選も決勝も変わらない安定感!



振り返れば最大の勝負所だったのはつづく3番手のアンヘル・バラハスさんの演技でした。バラハスさんは団体戦も個人総合もなく、この種目別に懸けてきた選手。手放し技では開脚シュタルダーから伸身トカチェフにつなぐピアッティを見せ、さらにカッシーナ、コバチからコールマンの連続技と高い難度で組んできました。ただ、握りはギリギリでその後の車輪もグラグラと揺れる感じで美しさはそこまでではありません。その実施の部分でしょうが、Dスコアは6.600と岡さんを0.700上回る構成ですが、Eスコアが伸びずトータルでは14.533と岡さんと同じ得点に。この場合、体操では「Eスコアが高いほうが上位」ですので、岡さんはトップを守りました。

この14.533という得点、予選の順位で言えば5位のスコアです。しかし、体調十分の初日に予選で演じるのと「金」を狙って最終日の決勝で演じるのとではワケが違います。このあとの演技者は本来のチカラを十分に出せず、姿勢の大きな乱れや落下、着地時の転倒など「採点を待つまでもなく14点台中盤はナイ」とわかるような演技がつづきます。日本から登場の杉野正尭さんも十二分に上回ることができる得点だったのですが、大技ペガンのキャッチで片手が離れてしまうと、つづくカッシーナでは流れに乗れずに落下となり、メダル争いには加われませんでした。中国の張博恒さんも着地で大きく踏み出してしまい14点台にも乗せられません。最後の演技者まで終えても岡さんの得点を超える選手はついに出ず、何と何と岡慎之助さんが「団体・個人総合・種目別」の3冠となる金メダルです!

↓いやー、取っちゃった!


この金メダルが生まれた背景には、体操ニッポンが長年追い求めてきた「美しい体操」があったことは間違いありません。ほかの選手にミスがつづくなか、岡さんが唯一予選と同様の「普段の」チカラを出せたという点もそうですが、同点となったときの順位を分けた高いEスコアでの実施というものが、文字通り金と銀の色を決めました。

世のなかのあまたの競技で「タイブレーク」という同点の際にどうするかの取り決めがありますが、それは競技ごとの哲学によってさまざまです。同じ採点競技でも、フィギュアスケートであればショートプログラムはTES(技術点)、フリープログラムではPCS(演技構成点)、総合ではフリーの順位で決めるという形ですし、飛び込みでは同点の場合は引き分けとする取り決めです。決着がつくまで延長戦をするものもあれば、得失点差で決めるとか、総得点で決めるとか、セット率で決めるとか、くじ引きで決めるとか、やり方はさまざまです。さまざまですが、勝敗の内容において「より何を大事にするか」という哲学がそこにはあるのだろうと思います。

そして体操においてそれは「Eスコア」だった。

考え方次第では「Dスコア」を上位に取ることだってあり得るでしょうが、体操はそうではなかった。

完璧にできる技を美しく実施してこそ価値がある。

イチかバチかの成功ではなく美しく仕上げてこそ認められる。

そういう体操の価値観にしっかりと則った演技を追求した体操ニッポンの姿勢と、自ら生み出した幾多の王者が見せてきた「美しい体操」によってそうした価値観を確固たるものとしてきた歴史とが、この際どい勝負を「金」へと導いたのだろうと思います。着地ひとつとっても、乱れによる減点は言うて0.100点とか0.300点とかなわけですが、その点数以上の価値を着地に感じ、吸い付く着地を追い求めてきたようなことがこの金につながっているのだと僕は思います。「美しい体操」という価値観を広めてきたからこその金なのだと。

岡さんは今後、「美しい体操」の継承者として世界の体操界からの期待を大いにかけられる立場となるわけですが、ぜひこれからも美しさを追求していってもらえたらと思います。ひとりだと何かと大変かもしれませんが、日本には橋本大輝さんのように同じ期待と重圧を背負って進む選手もいるわけですので、楽しく楽しくやってもらえたらと思います。ロス五輪もその先も楽しみになるプリンスの登場に、世界の体操界にとっても希望あふれるパリ五輪となりました!

↓未来へのワクワクが止まらない王者と王者の讃え合い!

ひとりじゃないって素晴らしい!

期待も重圧も苦しみも喜びも分かち合えそう!

ふたりならきっともう大丈夫ですよね!

僕らが懸ける期待が伝説級のものであったとしても!



銀座パレード(※開催希望)ではメダルをガチャガチャさせてくださいね!