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一撃で期待に応え、不安を打ち消した歴史的「金」!

もう終わってしまうのか、そんな寂しさが少しずつこみ上げてくるパリ五輪の日々。しかし、そんな寂しさも日本選手団の大活躍による嬉しさで「寂しさがこみ上げる前に忘れる」ことができているのは嬉しい限り。大会18日目は「初」がこれでもかと並んだサプライズの一日となりました。

飛び込み種目では初となる飛び込み男子10メートル高飛込での玉井陸斗さんの「金を争った」銀。こちらも日本勢「初」となる近代五種男子での佐藤大宗さんの銀。そして陸上フィールド種目では「初」となる女子やり投げでの北口榛花さんの金。お家芸であるレスリングや卓球団体戦でもしっかりメダル獲得を果たしてくれ、これで自国開催を除けば日本勢の金メダル獲得個数&メダル獲得数は史上最多となりました。

大会最終日にもすでに「受け取り確定色決定待ち」となっているメダルがありますので、記録をさらに伸ばしていくこともほぼ間違いありません。東京五輪を目指した強化の日々は、レガシーとなってしっかりパリにも受け継がれたのだ…そんな思いで感無量です。もうちょっと日本勢に優しい大会であったなら、もっともっといけたんですけどねぇ!

↓スポーツクライミングも、もうちょっと優しくしてくれればねぇ…!

森さんにリード1位の金あげてください!

そしてルートセッターは「スタート地点で意味なく選手を振るい落とす」という興ざめなコースにしたことを猛反省してください!



それらの喜びのなかでもやはりこの日は陸上女子やり投げの北口榛花さんでしょう。大会前から世界陸上の女王として「金」を期待されてきた北口さん。しかし一方で、北口さんは前評判ほどに「金」確実な候補ではありませんでした。今シーズンの記録を見渡せば、北口さん以上の記録を出している選手が5人もいます。北口さんと同じ65メートル台まで広げれば北口さん含めて全部で7人。北口さんの安定して記録を残すチカラは傑出していましたが、「本物の一発」が出てきたときは跳ね返せないかもしれない、そんな危うい本命候補でした。

戦いぶりの面でも、金を取った世界選手権を含めて北口さんは最後の1投で大逆転というパターンが多く、素晴らしく勝負強い一面を持ってはいるものの、やはりその展開では苦しいところ。理想としては先に好記録を出して、他選手にプレッシャーをかけて力みを引き出し、試合を支配したいところです。相手にリラックスした状態で気持ちよく投げさせていては何が起こるかわかったものではありません。そんな不安要素を北口さんは跳ね返せるのか、期待と心配を胸に見守ります。

入場してきた北口さんはとっても素敵です。メイクもバッチリ決まっていますし、髪飾りもオシャレ。耳にはピアスなのかイアリングなのか金色のアクセサリーも輝いています。やりを投げに来たわけではありますが、ドレスに着替えればそのまま祝勝パーティーにでも行けそうな正装感です。そういう部分も含めて「いい準備」をしてきたことが伝わってきます。心が行き届いています。

そして、北口さんはさまざまな期待と不安に対して一発で満点快投を出して見せました。全体のなかで4人目で登場した北口さんは、1投目で65メートル80センチのシーズンベストを出してきたのです。65メートルを投げれば金メダルが見えてくるだろうと想定していた記録を文字通りの「一撃」です。この日は大逆転の北口ではなく、一撃の北口でした。試合の流れをいきなり支配しました!

↓1投に懸ける集中力を、今日は最後ではなく最初に発揮した!


この1投で他選手は俄然苦しくなりました。金を取るには自分の限界を超えるような会心の投擲が必要とされます。出そうと思って出せる記録ではなく、出そうと思えばむしろ難しくなるような記録です。2投目、3投目と投擲を重ねても65メートル台はおろか、64メートル台にも他選手は伸ばしてこれません。3投終えて2番手の記録は南アフリカのファン・ダイクさんの63メートル93センチ。3番手はチェコのオグロドニコバさんの63メートル40センチ。どちらかと言えば伏兵だった顔ぶれが上位に進出してきており、逆にメダル争いの強力なライバルと見込まれていたコロンビアのフルタドさんはメダル圏内にも入れず、オーストラリアのリトルさんは4投目以降にも進めませんでした。

↓インターバルではカステラを美味しそうにいただきました!

テレビ見てるオッサンと同じポーズですが、リラックス&身体を整えています!

オッサンも同じポーズと顔でテレビ見ていますが、一緒にしないでください!



その後、スタジアム上空ではかなりの風が吹き始めます。やり投げの方向に対して向かい風となっているようで、記録が出づらいコンディションに。疲労や焦りもあってか、各選手3投目までの記録を伸ばしていくこともできなくなりました。もしもいつものように「逆転の北口」の試合展開であったなら、非常に心理的にも追い詰められる形になったことでしょう。やはり勝負は先行逃げ切りに限ります。

そんな悪コンディションのなかでも北口さんは警戒を緩めることなく、5投目に全体2番目の記録となる64メートル73センチを投げて改めて全員を圧倒すると、金を決める最終第6投へと向かいます。ファウルや50メートル台の低調な記録がつづき、もちろん誰も北口さんを超えてはいきません。そして、北口さんの最終6投目を残して、誰も記録を更新するものはいなくなりました。北口榛花さん日本女子史上初の陸上フィールド種目での金メダルです!

↓歴史的な金をありがとうございます!


決着後、北口さんのもとにはライバルたちからも温かい祝福が寄せられました。コーチのもとに向かって喜びを分かち合っていると、そこには銅メダルとなったチェコのオグロドニコバさんがやってきました。自身も初の五輪メダルを獲得したオグロドニコバさんは、セケラックコーチと抱き合って「チェコファミリー」としてこの金と銅を互いに祝いました。

2019年から単身チェコに渡り、セケラックコーチに師事した北口さん。セケラックコーチは国内ではジュニア選手の指導などをしており、いわゆる代表監督的な存在ではなかったそうです。もっと大きなトレーニングセンターも、もっと高名な指導者もたくさんいたと言います。しかし北口さんは、やり投げの基本を教えてくれる指導者が自分には必要だという考えで自らセケラックコーチにアプローチし、やり投げ大国チェコの教えを基礎から吸収してきました。その行動力、決断力、考え方が北口さんを飛躍させ、セケラックコーチにとっても大きな大きな夢となった…人の「縁」の不思議さというものを感じます。お互いに「まさかそんな話が」と思うような出来事が、「まさかそんなことが」と思うような夢につながったのですから。「まさかオリンピックチャンピオンになろうとは」という。

日の丸をまとった北口さんがようやく本来の明るく楽しく元気な姿を見せてくれたのは、優勝者だけが鳴らすことができる鐘を打ち鳴らしたときでした。すべての重圧から解放されたかのように、北口さんは跳び跳ねながらジャカジャカジャカジャカと鐘を乱打しました。その喜びようがとても嬉しく、こちらまで楽しくなりました。なお、大会後その鐘はノートルダム大聖堂に据えられるそうですが、ノートルダムの鐘を商店街の福引の鐘みたいにジャカジャカしただなんて、おめでたさも歴史的ですね!

↓1等の景品は金メダルとポスターです!おめでとうございます!


↓それでもまだ「70メートル投げたかった」「悔しい」と向上心は尽きない!


東京世界陸上でも日本勢に金をもたらしてください!

そのときは70メートルでお願いします!



メインスタジアムで日の丸を揚げ、君が代を鳴らしてくれて感謝です!