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絶対に映してはいけない男子シングルス!

いやー、熱かった、激熱の戦いでした。世界ランキング1位のアルフィー・ヒューエットさんと世界ランキング2位の小田凱人さんの顔合わせとなったパリパラリンピック車いすテニス男子シングルス決勝は、まさに文字通りの「頂上決戦」でした。舞台となるローラン・ギャロスの歴史と伝統、その大会場を満たした大観衆の大熱狂、中継席ではこの種目の伝説的存在である国枝慎吾さんも見守っていました。すべてが極まっていました。

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そして、その舞台にふさわしい試合が、世界を魅了しました。まず第1セット、躍動したのは小田さんでした。立ち上がり4ゲームを連取し、まったく危なげない展開で6-2と第1セットを制しました。ヒューエットさんに故障が発生するというアクシデント&中断こそあったものの、それを差し引いても小田さんは強かった。圧倒的な自信と走力、強烈なウィナーと攻撃的な姿勢。この時点ではこのまま金メダルまで一気に突っ走れるだろうと思ったほど。

しかし、相手もまた頂点に立つ選手。過去の対戦成績も小田さんの7勝8敗となっており、ラクに勝てるはずもありません。一進一退の攻防となった第2セットではゲームカウント4-4からのセット終盤、ヒューエットさんが左右へワイドに展開するラリー戦で小田さんのサービスをブレークすると、つづくサービスゲームをキープして第2セットを取り返しました。小田さんは少しチカラが入っていたのか、リターンがオーバーする場面が見られ、やや不穏な落とし方となりました。



そして迎えた最終第3セット、そこで演じられたテニスは掛け値なしに熱く、面白かった。ルール上は2バウンドでの返球が認められている車いすテニスではありますが、相手の時間を奪うかのようにワンバウンド、あるいはボレーでバチバチのリターンを応酬する両者。小田さんがネットに出て攻撃を仕掛ければ、ヒューエットさんは小田さんの動きの逆を突いてパッシングを決めて見せます。パワー、スピード感、ハードワーク、見所しかない戦いです。まさに僕らが思っている「テニス」の面白さがそのまま表現されるような試合でした。

第1ゲームはヒューエットさんがいきなり小田さんのサービスをブレーク。第2ゲームは小田さんが強烈なリターンで負けじとブレークバック。しかし、第3ゲームで再びヒューエットさんがブレークすると、その「一歩リード」を活かしたままゲームはヒューエットさんペースで進行していきます。小田さんも観衆を煽りながら自分にペースを引き戻そうとしますが、なかなかそうはさせてもらえません。

そして、ゲームカウント3-5のヒューエットさんリードで迎えた第9ゲーム。追い込まれた小田さんは第2セット終盤のようにリターンが大きくなることがつづきます。得点は30-40となってヒューエットさんはブレークポイント…つまり金メダルポイントの場面を迎えました。あと1本で勝利、あと1本で敗北という決着の場面、優位にラリーを展開していたヒューエットさんは狙い澄ましたドロップショットを放ちます。小田さんは逆向きに動いており、コートに入りさえすれば間違いなく金メダルというショットでした。選択は決して間違っていなかったと思います。しかし、ボールはわずかにアウトになってしまった。

小田さんはこの時点まで「負ける」と感じていたそうです。しかし、このポイントが決まらなかったことで、心が甦りました。もっと歓声をくれと煽るように耳に指を当て、ここから本物の小田凱人が動き始めます。鋭いサービスの連打で粘るヒューエットさんを振り切ると、長いデュースの末にこのゲームを逆転で取り返しました。まるで勝利したかのように車いすの上でガッツポーズを見せた小田さん。先ほどまでの力みと弱気は消え失せ、自信の塊がコートに帰ってきました。

そこからのテニスは圧倒的でした。第10ゲーム、第11ゲームを連取してゲームカウントを6-5とすると、踊るようなパフォーマンスさえ見せました。そして迎えた第12ゲーム、3連続ポイントでトリプル金メダルポイントの場面を作ると、ひとつリターンがミスとなった場面でも小田さんは笑顔を見せていました。最後は相手のリターンが返らず、小田さんがこのゲーム、すなわちこの試合を制して金メダルを決めました。強く、華麗なそのテニス。真っ赤なシャツやヘアバンド、車いすを操作するための必然として片手バックハンドになるあたりも含めて、小田さんの姿がロジャー・フェデラーさんに重なって見えるような感覚さえ覚えました。車いすテニスの新時代が確かにここにありました!

↓メダルの色は分かれましたが、両者の競演こそが金メダルだった、そう思います!


車いすのタイヤを外してコートに倒れ込んで見せた小田さん(※パリ五輪でのジョコビッチさんのような)。試合後のインタビューでは「ヤバイ、カッコ良過ぎる俺!」から始まり、「俺はずっと勝てると思ってたマジで!」「俺は今日勝ったことで確定したことがある!」「俺はこのために生まれてきた!」「金メダル獲るために生まれてきました俺は!」と名言を連発。最後はカメラにキスして終わるという大暴れで、竜巻のように世界を席巻しました。その姿はきっと「憧れ」を生むものだったろうと思います。苦労した人が頑張っていて偉いなんてことではなく、自分もこうなりたい、こうやって輝きたいと思うような姿でした。

多くの人は車いすテニスに挑む機会はないかもしれませんが、決して少なくはない人が足に不自由を抱えて車いすに乗っているこの世界において、そうした人の「憧れ」となる選手がいることは素晴らしいと思います。車いすに乗ってはいるけれど、世界を魅了し、スターとなる人生はちゃんとあるのです。この頂上決戦は、多くの人を楽しませ、多くの人の希望となるような試合だったと思います。長い人生の暗闇を希望を持って進むための道標、それが「星(スター)」なのだと改めて思いました!

↓途中まで「負けると思ってた」って自分で言ってるのに、その15秒後に「俺はずっと勝てると思ってた」って言い出した小田さん!


「チョー気持ちいい!」以来の大物感!

そのまま突き進んでいってください!



そのような素晴らしい熱戦にあえてひとつ足りなかったものを挙げるとすれば、やはり日本側の中継体制でしょう。大会中には小田さん自らがSNSで自身の試合のテレビ放送がないことを嘆いていました。世界トップの実力を備え、メディアにも積極的に露出し、CMでも毎日見かけるような「金メダル本命候補」の試合なのに、なかなか取り上げてもらえないという現実。日本には国枝慎吾さんというレジェンドがおり、女子の上地結衣さんも今大会2冠となったように、車いすテニス大国と言ってもいいはずの日本でも十二分の体制にはなっていないのが現実です。

この決勝戦も、地上波での中継こそ決まったもののNHKEテレのサブチャンネルで行なうという扱いでした。明らかに不鮮明な画質と、チャンネルサーフィンしただけでは気づきづらい放送形態。試合終了後からメインチャンネルに切り替える一部の録画機殺しのようなガチャガチャ移動(恒例)も含めて、もうひとつ何とかならなかったのかなと残念に思いました。

この点では「NHKが放映権を独占しているので…」「NHKのチャンネルにも限りがあり…」というメディア側の理論も漏れ聞こえてきますが、それは解決できる程度の話です。NHKがパリパラリンピックの放映権を独占していることは事実ですが、サブライセンスを買えばほかの局だって中継できるのです。実際この大会でも、競馬専門チャンネルであるグリーンチャンネルが馬術のサブライセンスを買って中継を行なっていましたし、車いすテニスを含めて一部競技をケーブルテレビ上のチャンネル「J:テレ」で録画中継しています。パラリンピックの放映権は「買える」のです。買う気があれば買えるのに、買わなかっただけなのです。実際、まったく同じ枠組みであった東京パラリンピックでは民放各局が1種目ずつを中継していたわけです。買えるんですよ。買う気があれば。基本的にメダルマッチは深夜帯なんですから、編成の不都合もないはずなのに買わなかっただけのことです。東京では一歩前進したようにも思いましたが、今大会はまた一歩後退したのかなと思います。

コンテンツとしては文句なしで素晴らしいものだったと思います。地上波ゴールデンタイムの中継であったとしても、日本を魅了するような熱戦だったと思います。車いすテニスに限らず、そうした場面が今大会もたくさんありました。日本のメディア(の上層部)にもっと「目利き」がいれば、熱くて面白いスポーツエンタテインメントをもっともっと届けられただろうと思います。パラリンピックやパラスポーツの面白さが、東京パラリンピックを経た日本であるならば、もう少し認められていてほしかった…そう思います。ホント、試合はすごい面白かったんですけどね!

↓Google Pixelに公式配信の英語実況を自動で日本語に吹き替える機能とかあるといいんですけどね!

YouTubeで見られるっちゃ見られるんですけど、テレビがいいんですよね!

実況と解説とゲストがいて、視聴者みんなで盛り上がれるから!



小田さんには当面「Eテレで生中継だったよ!」だけ伝えるようにしますかね!