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2024年12月17日08:00
あのスキームは牧田式FAっては呼ばないんですね!
昨今日本プロ野球界を賑わせている上沢直之さんの移籍の件について、ポスティングとFAについては一家言ある埼玉西武ライオンズ界隈の一員の立場から僕も持論など述べさせていただきたいと思います。あらかじめ言っておきますと全方位的にカチンとくる内容となっているかと思われますので、「上沢の野郎!」「ソフバンは悪!」「山川より悪質!」などと怒りに震えている皆さまは、その刀鍛冶みたいに一日中何かを叩きつづける作業に速やかにお戻りいただき、トンテンカンテンやっていていただければ幸いです。
まず、僕はこの移籍に対しての何の苛立ちも腹立たしさも憤りも感じておりません。我が埼玉西武ライオンズとは無縁の話(←仮に獲りに行ったとしても獲れてねぇだろな的な諦観を含む)という点もありますし、ごく自然な成り行きで行なわれている普通の移籍話でしかないという認識ですので、そもそも何の悪感情を抱くいわれもないのです。これがもう少し前の話で、自球団に直接かかわることであれば多少のやるせなさくらいは覚えたかもしれませんが、それも今となっては何の感情もありません。この上沢式FAだの、有原式FAだのと呼ばれているスキームについて、我が埼玉西武ライオンズはすでに2019年オフに通過をしているからです。
話は遡って2017年、我が埼玉西武ライオンズ恒例の年末の恩赦の時期を迎えるにあたり、ひとりの模範囚が華々しくアメリカへと亡命を図りました。当時侍ジャパンにも選出されていた牧田和久さんです。牧田さんは西武での先発あるいは中継ぎとしての活躍と侍ジャパンで得た自信、国内FA権を得たことでの「出る自由」を確定させた周辺事情などを背景に、2017年オフにポスティングシステムでのメジャー挑戦を表明し、球団の容認のもとサンディエゴ・パドレスへと移籍しました。当時、牧田さんの移籍を後押しすべく西武側へ支払われる譲渡金は当初の設定の半額にまで下げられ、50万ドル(約5750万円)だったと言います。
↓翌年からの2連覇の時期に頼れるリリーフがいたら…と思わなくもありませんが、夢を追うのは止められませんよね!
牧田「感謝」パドレスへ 西武が譲渡金半額に値下げ https://t.co/pFqoGXui9h #牧田 #パドレス #西武 #譲渡金 #半額 #MLB #日刊スポーツ
— 日刊スポーツ (@nikkansports) January 8, 2018
しかし、ご存知のように牧田さんのアメリカでの挑戦は大きな成功とはなりませんでした。2018年は27試合に登板を果たすも、翌年はメジャーでの登板はならず、日本への帰国を決断するに至ったのです。その際、古巣としてダメ元で名乗りを上げた西武を含めて阪神・楽天とによる3球団での争奪戦が行なわれ、最終的に牧田さんは東北楽天ゴールデンイーグルスへの入団を決めました。西武は絶対にイヤだったのだとしても、阪神という穏当な選択肢もあったなかでの同一リーグ・楽天入りというのは、前年オフに楽天への移籍を果たしていた浅村栄斗さんの件での感情的なこじれもあって、西武界隈にドロドロした闇を生み出したものです。
当時「牧田式FA」などと言われたかどうかは記憶が不明瞭ですが、過去事例を現在に照らすなら「上沢式」とか「有原式」ではなく、この「牧田式」あるいはロッテから日米往復を果たした西岡剛さんの事例に基づいて「西岡式」などと呼ばれてしかるべきなのではないかと個人的には思います(※牧田さんは国内FA権を所持しており多少状況に差があるとは言え、メジャーを経由した結果人的補償等の回避はできているわけで)。まぁ、「西武からは当然出るだろ…」「恩赦された囚人がもう一回律義に戻ってくるわけなかろう…」「あの僻地から動かない西武が悪い」などという世間様の第三者的な判断によって、そのときは今のような悪認定はされなかったのかなと思います。ただただ西武界隈だけがウジウジしていた、そんな一件だったのかなと。
その経験を踏まえて一言申し述べるならば「ざまa…」ではなくて、これもまたひとりひとりの人生であり、その決断は本人(と家族)だけができるものであるということです。その先にどんな未来が待ち受けているかはわかりませんが、そのときどきで本人がベストと思える後悔のない選択をしているのならば、それがほかの誰かにとっては面白くなかったり、ほかの誰かにとってはデメリットになるイレギュラーな動きだったりしたとしても仕方ないのです。牧田さんや有原さんや上沢さんは自分(と家族)の人生「だけ」に責任があるのであって、それ以外のことは知ったことではありません。日ハム界隈の心の傷は自分で癒す、もしくは耐えるしかないのです(※基本癒えないので)。西武がずっとそうしてきたように。
そして選ばれなかった者は、選ばれなかった自分を省み、今度は選ばれるように、自分を変えていくことしかできないのです。メジャーに行くよりもこの球団にいたい、ほかの球団ではなくこのチームで勝ちたい、そう思ってもらえていない時点で球団・チーム・ファンの側も「実力不足」なのです。その「実力不足」は去就が不明瞭ななかで球団設備を使わせてあげたり、イベントに出演してもらったりした持ち出しのない程度のリターンでは埋められなかった、ただそれだけのこと。「金に目がくらんだ」などと揶揄する人もいるでしょうが、金という誰が用意しても質的な差がない万能の誠意で負けているのであれば、その時点で負けなのです。金を用意するのが一番簡単なのに、その金の段階で負けるのであれば、話にもなりません。繰り言はせめて「金で勝ってから」にしていただきたいもの。金で負けておいて相手をなじるのは「得点数では負けているけど好プレー連発だったから勝ちにならんか?」とか言い出したのと同じ世迷言の類です。実力不足でメジャーで通用しなかった選手と、実力不足で選手に選ばれなかった球団とは、それぞれ自分を省みながら、明日が少しでもよくなるように頑張っていくしかないのです。どうかそれぞれ頑張っていただければと思います。
↓どこの球団に入ろうが上沢さんの人生なので、上沢さんの勝手です!
【ソフトバンク 上沢直之と基本合意】https://t.co/KMyjju7Rlz
— Yahoo!ニュース (@YahooNewsTopics) December 15, 2024
このように僕が選手寄りの立場に立つのは、そもそもの始まりの時点で僕らは選手に対して大きな借りがあるからです。戦力均衡を図るために、どんな僻地の貧乏・古民家・老朽設備球団であってもプロを名乗っていさえすれば、日本一、いや世界一の才能を持った選手をも自球団に迎えられるというドラフトなる理不尽制度。あれを必要悪として皆が認めてやっている以上、選手に対して「好きなところに行けるタイミングでも好きなところに行っていいわけではないぞ」などとは言えないなと思うわけです。選手は基本的に一度その「自由」を球界に捧げているのです。運よく望み通りの球団に入るケースもときにはあるとは言え、一度「自由」を手放してそこにいるのです。
そう言うと「FAで自由を取り返してから出て行けばよい」という返しが当然来るのでしょうが、自力で自由を奪還するまでの刑期が長過ぎる、時代と合わない、メジャー移籍によるメリットを勘案したときに選手に対して不当に不利益が大きい、そのように僕は思っております。自分のチカラがメジャーに通じるのではないかと思っている選手がFA権を持ってメジャーに挑むには、現行制度では最短で9シーズンかかります。18歳からトッププロとしての活躍を休みなく果たしても27歳です。大卒22歳からのスタートであれば、どうやっても30代を迎えて体力が下降線に入ってからの挑戦となります。
これで「もらえるもの」がドッコイドッコイなのであればまだしも、メジャーで成功すれば1ケタ上の報酬が手に入るのです。そして、そこそこの割合で成功するぞということがもうわかってきているのです。イチローさんや大谷翔平さんのようになれるケースは稀でしょうが、リーグナンバーワン級の投手や球界最高クラスの打者であれば、100億円程度を手にすることはもはや非現実的な話ではありません。「全盛期に行ければ100億円」というドリームを、戦力均衡のため、育ててくれた日本の野球文化への恩返しのため、という浪花節で我慢させるのはもう限界なのではないでしょうか。アメリカの大学に進学した佐々木麟太郎さんや、今季のドラフト候補に挙がりながら直接メジャー入りを目指すという森井翔太郎さんのように、日本でも広く名を知られた期待の選手が直接アメリカを目指すというのも、その理不尽が限界にきていることの兆候だろうと思います。
そのときに、日本球界にできることは、まず理想的な道としては真正面からメジャーの報酬とメジャーのレベルとメジャーの雰囲気にわたりあって勝つことです。これはまぁ無理だと思うので、この道は捨てましょう。そうでなければ、日本球界に一度は身を置いていただき、日本プロ野球に足跡を残した「日本の選手」としてメジャーで成功してもらえるよう、本人の希望と折り合う範囲を探ることくらいしかないのです。大谷翔平さんや佐々木朗希さんは放っておけば最初からメジャーに行って、メジャーで勝手に成功したでしょうが、それを「大事に育てるから」「時が来れば出すから」ということで説得し、日本球界に一度籍を置いてもらったことがどれだけプラスになったでしょうか。日本プロ野球の誇りや自負、日本の野球人気を守るのに、どれだけ効果があったことか。「ワシが育てた」とも言えない選手がアメリカで大成功していたら、それはそれは惨めな気分になったことでしょう。
よく言われる「ポスティングは球団の権利」論も僕はまったく違うと思っていて、もはやポスティングは切らざるを得ない交渉カードなのだろうと思います。「時が来れば必ず認めるから」という約束は、ドラフトの理不尽と海外FAまで9年という刑期に耐えて世界一の素材に入団してもらうための説得材料であり、1億にも満たない年俸で完全試合とかをやらされることへの我慢代であり、そんな「メジャーと比べればタダ働き」みたいな状況をプロ処世術のレッスン代と割り切って球界・球団・ファンと円満な関係を築いてもらうことへの感謝状みたいなものなのです。初手でポスティング容認の話がなければ選手は「直接メジャーに行くだけ」であり、本当に恐れるべきは「直接行く」ことが当たり前になって、世界一の才能が「日本のプロ野球選手」ですらなくなってしまうことです。もとは日本人で日本の野球文化で育った人でも、日本プロ野球を経由しなければ心情的には「アメリカのメジャーリーガー」です。そうなってしまうことが一番日本の野球のためにならない、僕はそう思います。
もはや、これだけの選択肢と可能性が現実に存在するなかで、囲い込みなどできるはずもありません。メジャーでは基本的に6シーズン働けばFAになります。FAとなった選手が移籍する際も、それ自体に対して旧球団への補償が発生することはなく、クオリファイング・オファーと呼ばれる旧球団からの再契約の申し出を断っての移籍の場合はドラフト上位(1巡目ではなく)の指名権を失う・得るという形での補償となります。あれだけの数の球団が完全ウェーバー制でやるドラフトですので、選手にとってもどこが指名権を得ようが失おうが、もともと運任せみたいなものでありますので、FA移籍によって新たな悲しみの人事が生まれることもないわけです。「入り」は完全に運任せだけれど、「最短6年」で自分の未来を選べるようになる、これなら全盛期を自分の希望通りに過ごせそうな気がしますよね。理不尽と自由のバランスが日本のやり方よりも遥かによいと僕は思います。
メジャーと同じだけの金を払うでもなく、
メジャーと同じ移籍の仕組みを用意するでもなく、
選手が手にした「自由」にさえ難癖をつける。
それはちょっともう難しいのではないかと思います。
どれだけ球団とファンが野球を愛し、望もうとも、プロ野球が成立するためには人生を捧げて球投げと棒打ちをやってきてくれた選手が存在しなければままなりません。彼らが捧げてきた人生に感謝をするならば、ちゃんと100億の夢を見られるようにしてあげたうえで、「100億はナイ」とわかった段階では有力な選択肢として日本プロ野球を前向きに選べるような魅力アップに努めていくことが必要なのかなと思います。上沢さんの件も、ちゃんと夢を見て、ちゃんと破れて、でもその挑戦心に報いるだけのオファーが届いて、もう一度日本で野球をやることを前向きに決められたのなら、大いに結構じゃないですか。前所属の球団にとっては少し寂しい気持ちもあるかもしれませんが、頑張れよと笑顔で見送ってあげたらいいじゃないですか。そして、手を振り見送ったあと、「ポスティングは容認しない!と宣言しても選手のモチベーションが下がらない球団になろう…」と我が身を省みながら、どうにもならない惨めさに悶えたらいいんじゃないかと思います。まぁ、そもそもすでに別れたあとの選手なんですから、自分のところに戻ってくるのが当然みたいな勝手なカンチガイ、しちゃいけないんですけどね。もう別れてるんですから。別れたあとヨリを戻すくらいなら、別れないのが普通ですからね。責めるべきは相手ではなく甲斐性のない自分です。埼玉西武ライオンズ界隈の一員として、僕はそのように思うものであります!
↓「田澤ルール」みたいな嫌がらせを考えるのは止めて、魅力アップに努めましょう!
当会は、2008年当時から、“田澤ルール”の独占禁止法上の問題を指摘し続けてきました。今回、公正取引委員会が「独占禁止法違反の恐れがあった」との見解を公表したことを非常に評価しています。
— 日本プロ野球選手会 (@JPBPA_Press) November 6, 2020
プロ野球の田沢ルールは「独禁法違反の恐れ」 公取委:朝日新聞デジタル https://t.co/fEu9xnZSce
↓上沢さんはちゃんと夢を追ってメジャーにたどり着いて、納得したんだと僕は思いますけどね!
「俺はメジャーよりこの球団がいい」と選手に思わせるような努力をしましょう!
「マイナーで3年くらい泥すすったら夢破れたと認めてやる」とか言わないで!
僕が世界一の才能なら「日ハムはすぐ出してくれそう」なので好印象です!