今年も学生たちから元気と勇気をもらいました!
皆さま、あけましておめでとうございます。昨年は能登半島地震や航空機事故などとともに始まった新年でしたが、今年は今のところ昨年よりはおだやかな幕開けとなったようで、個人的にも「身の回りの平穏」という小さくて大きな幸せを噛み締めているところです。今年も一年間、穏やかな時間が流れ、生きていることを存分に楽しめるような日々になればいいなと思います。皆さまもどうぞ健やかにお過ごしください。
そんな新年の始まりの恒例行事として、日本に元気や勇気を湧き上がらせてくれるのが東京箱根間往復大学駅伝競走…箱根駅伝です。酒と煩悩にまみれたダラけた正月気分を「午前8時には起きねばならない…」という意気込みで律してくれる箱根駅伝は国民の目覚ましと言ってもいい、そう思います。好天にも恵まれ、今年も素晴らしい走りで国民に「さて、自分も」と思うキッカケを作ってくれた学生諸君には大いに感謝したいもの。新年から走ってくれて、ありがとうございます!
今年は1区から大きな盛り上がりがありました。連覇を狙う優勝候補の青山学院大を中心に、強豪・駒澤大学、大学駅伝3冠&初優勝を狙う國學院大学らが睨み合うなか、ポーンと飛び出したのは中央大学の吉居駿恭さん。お兄さんであり元箱根のランナーでもある大和さんも1区を2年次に大逃げして1区期間記録としたことがありますが、まさにそのお兄さんを尊敬するような超えようとするような独走です。SNSでは「パンサラッサ」だの「ツインターボ」だのとそれぞれの思い入れのある大逃げ型の競走馬の名前が並び、その果敢な独走ぶりを讃えています。
結局1区はそのまま吉居さんが押し切って、2位以下に1分30秒差以上をつけるという格好に。各校とも追って追えないことはなかったのでしょうが、先頭との差以上に他校との差をまずは意識したでしょうか。まさしく競馬の大逃げのように、強豪が後方の集団で睨み合う展開は、結果として中央大の往路2位という躍進を生んだかなと思います。勇気が思惑を上回って、大きなごほうびを呼び込んだ…そんな走りでした。こういう姿にもまた「自分も勇気をもって頑張ろう」という気持ちにさせられます。
↓レース後には「これ敬語でいいんですかね?」と兄弟の会話をテレビで始めた吉居兄弟!
つづく2区はまさに歴史的な区間となりました。各校のエースたちが集った豪華布陣となるのは例年のことですが、走りまでも「豪華」そのもの。史上最強の留学生とも呼ばれた東京国際大のイエゴン・ヴィンセントさんが2021年に作った1時間5分49秒の大記録を、何と3選手が超えていくというハイレベルなレースになりました。同じ東京国際大から先輩超えを果たしたリチャード・エティーリさん、今年も権太坂に朝日を昇らせた青学大の黒田朝日さん、そして創価大の吉田響さんはいずれも1時間5分台として大きくチーム順位も上げてきました。
それだけではなく後続のランナーもいずれもが素晴らしい走りで、参考記録である関東学生連合も含めて全ランナーが1時間8分台まででゴールしました。10分台以上はもちろん9分台もいないという全選手による快走は、技術・知識の向上はもちろんですが、日本の学生たちのこの日を目指した努力と鍛錬の日々を垣間見るような思いです。1位になれるとかなれないとか、区間記録を更新できるとかできないとかだけではなく、自分を自分で超えていくような努力の姿が思い浮かんで、こういう姿にもまた「自分も頑張ろう」という気持ちにさせられました。見ているだけで元気とやる気があふれてくる、素晴らしい行事です。
↓あのヴィンセントさんをも集団で超えていった!
3区、4区と走りを進めるなかでジワジワとチカラを見せてきたのは優勝候補の青学大。もともと往路には相当な自信があったようで、一部メディアにおいては「往路で負けたら原メソッドの終焉」とまで言い切ったとも聞きます。3区では中央大の本間颯さんが区間賞として再び突き放すも、4区に配置された青学大のエース・太田蒼生さんは区間賞のお返しで先頭との差を一気に45秒差まで詰めてきました。さぁこれで往路の勝負は5区山登りへ。「山での逆転」もありそうな白熱の展開です。
↓太田さんは区間賞(納得)よりも婚約(速っ!)のほうに注目が集まる余裕の走りでした!
そして迎えた5区。青学大はここに前回大会で従来の区間記録を更新した(※その後さらに上回られる)若林宏樹さんを配置しており、万全の構え。前半で先頭の中央大をとらえると、そのまま突き放し、最後は区間記録を更新する1時間9分11秒でのフィニッシュ。ほぼ同じコースで走った81回大会での山の神・今井正人さんの記録1時間9分12秒をも上回る、素晴らしいタイム、素晴らしい走りでした。これで往路優勝も決めた青学大。自らが持つ往路記録には及ばないものの、往路総合でも歴代2番目となる走りで、この時点で総合の勝負もつけてしまうようでした。
山で苦しみながらも2位に粘り込んだ中央大との差は1分47秒、ライバル・駒澤大との差は3分以上つけており、青学大・原監督の「復路はピクニックランで」という余裕の話しぶりにも「そうなりそう」と頷かざるを得ません。決して全区間で圧倒したわけではないのですが、要所要所でしっかりとチカラを出す青学のエースたちの走り、これが「王者」というヤツなんですね。
↓正式タイムで山の神・今井さん超え!見事に「若乃神」襲名!
↓5区の途中では近過ぎる中継バイクをランナーが払いのける場面も!
バイクもランナーに合わせて速度上げていきましょう!
ランナーは毎年速くなってますからね!
日付変わって折り返しの復路。青学大は復路でも見事な走りでした。6区・野村昭夢さんの区間新の力走たるや、すでについた勝負を念のためもう一発撃ってトドメを刺すかのよう。史上初の56分台の記録には、監督車から見守る原監督も「すごい記録が出るよ!」と興奮を隠せません。レース中には、取り立ててのぼりもなく集っている応援団を見逃さず、サッと手を挙げて見せるなど走りも心も終始余裕たっぷりでした(←本人はそうは言わないだろうが)。これでもう青学のピクニックランは確定的で、視聴者の関心はシード権争いへと移っていくことに。いやー、今年も青学の大会でした!(←早い)
↓「ここで少しでも詰めて…」というライバルの望みをナタで断ち切る圧巻の区間新!
7区では10ヶ月ぶりのレースとなった駒澤大のエース・佐藤圭汰さんが区間新記録となる走りで、8区中継の時点で先頭の青学大との差を1分40秒ほどに詰めました。タスキをもらった時点では3分以上あった差が一気に見える範囲まで近づく力走でした。ただ、いかんせん山での差が大き過ぎました。山でつける1分差も平地でつける1分差も同じ1分。このあたりが箱根の魅力であり、面白さであり、難しさかなと思う駒澤の猛追でした。
8区では再び青学大の塩出翔太さんが区間記録に並び掛けようかというペースの区間賞快走を見せ、駒澤をわずかに突き放します。勝負の9区、長い直線ではまだ2位駒澤からも先頭の青学が見えそうな距離でレースはつづきますが、お互いにしっかりチカラのある布陣で大きな動きはありません。青学大9区の田中悠登さんは横浜駅前の給水ポイントでは給水を担当してくれた仲間とボトルで乾杯してともに水を飲む場面もありました。4年間苦楽をともにした仲間と最後の箱根を目いっぱい楽しもうとする姿勢、とてもいいと思います。スポンサーのサッポロビールさんも「来年はこのふたりがビールで乾杯するCMを作ろう」とニッコリしているのではないでしょうか。
優勝争いはそのまま青学大がリードを守り切って2年連続の総合優勝を果たしました。総合新記録、復路も新記録となる素晴らしい走り。ただ、総合2位となった駒澤大も青学大を復路では上回り、復路優勝&復路新記録としました。出走メンバー中の4年生の数は青学大が6人で駒澤大は1人だけということを考えると、青学大のエース級がゴソッと抜ける来年は駒澤大の総合優勝奪還にも大いに期待が持てそう。この11年で青学大が8回総合優勝という状況には「強過ぎ」「つまらん」みたいな声も上がりやすい面がありますが、どんなに強い選手も4年で抜けるのが学生年代ならではの難しさであり面白さです。選手が入れ替わるなかで毎年強いチームを作ってくる各校の努力や工夫、そのあたりを楽しみながら来年以降にも注目していきたいものです。
そして10区では優勝争いよりもシード権争いが盛り上がりました。東京国際大、東洋大、帝京大、順天堂大の4チームが集団で並走しながら「1チームだけ」がシード権を逃すという競り合いは、最後まで白熱し、明暗のコントラストが浮き立つ印象的なものになりました。誰がチカラを残しているのかを探り合うような心理戦から、ラストのスパート合戦で競り落としていくバトルは優勝争い以上に熱かった。審査員特別賞的にもうひとつシード権をあげたくなるくらいのバトル、新年からいいものを観させてもらって感謝・感謝・感謝です!
↓青山学院大学が総合新記録で連覇達成!
↓順大も先に仕掛けてはいたので戦った結果の11位!頑張った!
終わってみて思うのは、やはり箱根は山だなということ。総合3位の國學院大などが顕著でしたが、平地では十分に競り合うことができており、実際そのチカラをもって出雲・全日本という全国大会を制しているチームでも山の特殊区間で互角以上の戦いができないと勝てないのが箱根駅伝というレースだなと思います。最終的に青学大と3位の國學院大は9分28秒差でしたが、そのうち5区・6区の山でつけられた差が6分41秒ありました。山のみで決まったわけではないものの、山でこれだけ差がつく状態では相手の大ブレーキでもないとなかなか競り合うのは難しいでしょう。
そうした特殊区間への適正の見極め・スカウティング・育成・選手層、特殊な区間へ適応した走りを磨いていくんだという選手たちの箱根に懸ける想い、レース当日だけではない部分に青学大の箱根での強さがあるのかなと思います。レース後のインタビューでは解説の瀬古利彦さんから「出雲・全日本も勝たないとね」と呼び掛けられ、青学大・原監督が「一応狙ってるんですよ!」と応じる場面があったように、三大駅伝と呼ばれる大会において青学大が箱根以外を制したのは2018年までさかのぼります。決して青学大が「強過ぎる」わけではなく、箱根の勝ち方を知っているチームなのかなと思います。
その意味では、本当の意味でチームが強い・弱いといった論評をするのであれば、全国大会を含んだ三大駅伝をトータルで見ていかないといけないのだろうと思います。三冠を達成した真に強いと評されるべきチームは、2016年の青学大を含めて過去に5校5例しかありませんが、そういうステージへの挑戦が青学大には求められているのかなと思います。どこかの大会を何連覇しようと、さらに高い目標に挑んでいるチャレンジャーであれば「強過ぎ」とか「つまらない」なんて話にはならないわけですから。箱根連覇を果たした王者として、11年で8度の箱根優勝を果たした国民的なチームとして、常に「三冠」を目指していく、そんなステージでの戦いを見守れたらいいなと思います。それが期待できる希少なチームだと思いますので。競走馬の世界でも、ダービーこそが最大の目標ではあっても、真のスターホースはクラシック三冠を獲った馬であり、そこを狙っていく馬であってほしかったりするように。史上初となる二度目の三冠、いつかどこかが成し遂げてくれたらいいですね!
ゴール後に寮母もつとめる原監督の奥様を胴上げしていたのが印象的でした!