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挫けて折れなければそもそも挫折ではない!

最近は推しの乾季と言いますか、大量の新コンテンツが降り注ぐ激流の時間からは少し離れ、静かに学びを積み重ねたり(※アニメ履修する的な)、新しい技術の習得に励んだり(※ゲーム履修する的な)、振り返って過ぎし日々を見つめ直したり(※過去映像リピートする的な)、穏やかな時間を過ごしています。

そんななか、オアシスのように恵みをもたらしてくれたのは、「ドコモが運営する気前のいい映像サブスク」としておなじみのLeminoさんで配信されている番組「NumberTV」です。おなじみ文芸春秋さんが「週刊文春とNumberは別物」というスタンスでアスリートのドラマを紐解くこちらのドキュメンタリー番組に羽生結弦氏が出演されるということで、僕も正座して拝見いたしました。

何でもこちらの番組はひとつテーマとして「挫折地点」というものを掲げているそうで、各界のトップアスリートに競技人生における「最大の挫折」について話してもらっているのだとか。なるほど、あまり「挫折」感は覚えない羽生氏の半生ですが、Numberらしい切り口だなと思いつつ見守っていきます。

↓挫折からどう前を向いたのかに迫っていきますよ!

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内容そのものはLeminoさんでじっくりご覧いただければと思いますが、何というか全体的に「過去」を感じる視聴体験です。やはり番組の切り口として競技会時代の羽生氏にフォーカスしているところがありますので、それ以降の活躍を見つづけているコチラの側には「今はもっと困難な壁や大きな重圧を前に」「勝ち負けすらつかない形のないものを目指して」「さらに美しく強くなった彼が挑む」みたいな一歩先行く気持ちがあるのだなと感じました。

番組冒頭、本人提供による4月の映像としてアイスリンク仙台での4回転トゥループから3回転サルコウにつなぐコンビネーションを紹介してくれたのですが、最新映像だ!と思いつつもそれ自体はごく当然のこととして受け止めている自分がいました。もしかしたら番組の意図としては「今もできる凄さ、驚き」を伝えたかったのかもしれませんが、「ずっとできつづけている」ことを知っていますし、さらに美しくなった現在に触れてきておりますので、そのあたりも番組に対して「過去」を感じる由縁だったりするのかなと思ったりしました。

Numberらしく写真を並べた収録スタジオに羽生氏が登場した際も、そこに掲げられた写真がプロ転向会見に至る競技会時代のものまでだったものですから、「遠い昔のような気がする」としみじみ思っていたところ、羽生氏本人も「懐かしい!」から始まっており、改めてこのプロとしての3年弱の時間の長さと濃密さを感じるような気持ちになりました。まだ五輪1回ぶんさえも経過していないのに、長さと濃密さで言えば一時代を過ごしてきたような気分にさえなるのですから不思議なものです。

↓冒頭部分はYouTubeで公開中です!


そんなことで、番組では競技会時代の羽生氏の半生を振り返っていくわけですが、適度に「過去」と感じられることも相まって、改めて新鮮な気持ちで「やっぱり『羽生結弦』は面白い!!!!」と実感しました。基本的にはひととおり知っている話で、多くの時間をリアルタイムで併走した話だったりはするのですが、改めて振り返るとなるほどこれは燃え滾るわけだと思わずにはいられません。次々に迫り来る困難と理不尽と試練と、それを受け止めて打ち勝っていく不屈の主人公との物語は、まさに漫画を超えるようなドラマです。

もしかしたら今の10代の若者とかは、平昌五輪はまだ幼くて見ていないとか、それ以前は記憶自体があんまりないとか、そういう人たちも増えているのかもしれませんが(※そういう世代がメダリスト経由で今ビックリしてる説)、このドラマをリアルタイムで見られなかったことを「それは惜しまれる…」と思いつつ、もう一度見せてあげられたらいいのになと素直に思います。あのジェットコースターのような日々、見る側としても大変だったけれど、感情が上へ下へと激しく揺さぶられたあの時間は実に面白かった。このドラマを後世に伝えるべく漫画化・アニメ化・映画化などを検討いただきたい、そんなことを思いながら、半生振り返りパートを堪能していく僕。

その後、半生振り返りパートを経て、いよいよ番組は羽生氏の「挫折地点」を探っていきます。地元のホームリンクの閉鎖、伸び悩んだ苦しい時期、東日本大震災、多くの怪我や病気、成功に至らなかった4回転アクセル…羽生氏の人生には十二分に「挫折地点」に挙げられそうなポイントがいくつも見つかります。ただ、「ここが私の挫折地点」(※アナザースカイの言い方で)的な話にはどうにもなっていきません。羽生氏曰く「そもそも挫折と思ったことがない」と。挫折とは、マイナスになってからそれがプラスにならずにほったらかして歩いてきてしまったら、そう呼ばれるのであると。

たとえ困難と感じることはあっても、そこから逃げずに、受け入れて、エネルギーにして、前に進んできたという羽生氏にとって、それは「挫折」にはあたらないということのよう。苦しんで悩んで立ち止まったとき、そのまま終わればそれは挫折になるけれど、そこから得た学びを人生につなげて乗り越えたり先に進むことができたなら、その出来事は別の意味を持って存在するようになるのでそもそも挫折ではなくなる…そんな風に僕はこの話を受け止めました。

その概念は新鮮で、とても学びが大きいものでした。羽生氏自身は困難も壁も「乗り越えて」きたのかなと思いますが、僕のように「乗り越えてはいないな」と思う手合いでも、その出来事をちゃんと受け入れて「あのときアレを諦めてコレをやることに決めたんだ」と先の人生につなげて考えることができれば、「挫折」ではなく「転機」という位置付けにもできるわけでしょう。そしてその転機の先でちゃんと幸せを掴めば、もともとの出来事の辛さや悔しさも糧と思えてくるわけでしょう。

そういう意味では「挫折だぁ!」って思っている間は、逃げているというか、ちゃんと受け入れてないというか、まだやるべきことがあるってことなんだなと気づかされました。身も蓋もない話ですが、もしかしたらこの番組で話聞いてる相手って全員「挫折じゃなくなった人」だったりするんじゃないでしょうか。禅問答のようですが「挫折していない人に挫折の話を聞いている」みたいな、不思議な感覚にさえなる回答でした。「番組テーマ破壊王子」とでも言いますか、投げかけられた質問を包み込んで、さらに大きな概念を戻して質問ごと揺るがせてくるなんて、さすが羽生氏だなと唸りましたよね。「あのとき前を向いた理由」どころか「前しか向いてない」眩しい光を浴びて、こちらの心にも火が灯るような時間でした。いやー、このあとの回の出演者の方が答えづらくなっちゃわないか心配ですね!

↓番組テーマを超える回答をしちゃうと、今後の出演者が困りそう!

「いやー、私アレが挫折で」
「ホント、すごい挫折で」
「今も引きずってるんですけど」
「めちゃめちゃ挫折地点ですね」
「ここが私の挫折地点!」
「アナザースカイみたいになった(笑)」
「ん?」
「え?」
「第21回の羽生結弦選手は」
「そもそも挫折と思ったことがないと」
「マイナスをほったらかさずに」
「マイナスがプラスになるように」
「乗り越えたり学びを人生に活かせば」
「そもそも挫折と呼ぶ必要もないと」
「そんな話をされていたんですか?」
「あぁそうですか……」
「そもそも挫折にならないと…」
「いやー、何と言いますか…」
「まったくおっしゃる通りで…」
「挫折してたら私ここにいないっていうか…」
「言われてみれば挫折してないですね…」
「キツかったけど負けてないし…」
「なのに挫折地点とか挙げちゃって…」
「何か恥ずかしいというか…」
「私がまだまだ未熟というか…」
「ちっちゃく見えるというか…」
「ちょっと話変えていいですか?」
「さっきのナシ!ナシで!」
「えー、挫折はしてません」
「私は一度も挫折してません」
「挫折と感じたことはないです」
「挫けそうになっても」
「折れそうになっても」
「それを乗り越えて進んできた」
「そういう自負があるので」
「私はそれを挫折とは呼ばないです」
「だから私の挫折地点は…」
「まだ存在しない場所?ですかね(遠い目)」
「いつか私が命を終えるとき」
「もしも心残りがあったなら」
「それが最初で最後の挫折と」
「言えるのかもしれませんね(遠い目)」
「これでお願いします!」
「最初のはナシで、こっちで!」
「ふぅー、あっぶねー」
「挫折回避成功!」

終わりよければすべてヨシなんて言いますしね!

終わりよければそもそも全部挫折にはならんのですよ!

ちなみに僕の最新の挫折は一連の概念を聞いて打ちのめされた「今」です!



さて、番組を見終えたあと思ったのですが、番組自身がテーマに掲げているように「挫折から立ち上がる人間の姿」というのは、多くの人が好きなものなのかなと思いました。負けそうなところから勝つとか、奇跡の大逆転とか、雪辱とかリベンジとか、困難を乗り越える人間の姿というのは多くの人を惹きつけるんだろうなと。羽生氏自身の競技会時代のドラマもまさしくそういう出来事の連続でした。見ている側からすると「これはもう挫折必至」と思うような困難や苦境から何度も何度も立ち上がり乗り越えてきたその姿に、熱く心が滾り、強く惹きつけられた部分はあるのかなと思います。

そういう意味で、現在の羽生氏が創っているアイスストーリーなどは、とても特殊なエンターテインメントなのだと思います。形式としてはアイスショーですし、コンサートやライブなどと近い性質のものにはなりますが、アイスストーリーはあくまでもスポーツでありつづけることによって、常に挫折の影をまとっている特殊なエンターテインメントのだなと。あえて挑む五輪相当のプログラム、あえて挑む代役代演のきかない単独公演、肉体を酷使して限界の先を追求しつづける姿勢、そこには常に大きなリスクと不安と恐れがついてまわります。幸いにもこの3年弱、本当に大きな「挫折必至」の出来事は起きませんでしたが、それは起きなかったというよりも「起こさぬようにすべてを尽くし、勝った」という話なわけです。見ているコチラも常に震えるような思いをどこかに抱えながら見守ってきたわけです。

だから今も、あの熱く滾る日々はつづいており、だからこそ競技会時代の話に「過去」を覚えるのかなと思いました。あの当時、あの頃の『羽生結弦』は本当に面白かったけれど、今も変わらずに、むしろさらに『羽生結弦』は面白いと思えているので、ちゃんと過去に見える。ゲームの最新作をプレイしている人が前作を見るような気持ちで、「前作は本当に面白かった」「そして最新作はさらに面白い」と今の素晴らしさを噛み締めるような気持ちになったりするのかなと思いました。

五輪は本当に面白かった。

でも今は次のアイスストーリーが見たい。

そんな素直な想いを改めて実感する時間でした。察しがいい人には「次をお待ちしております」「楽しみです」「次はどんな挑戦を」「精一杯あげた期待のハードルを上空から破壊されたいです」「えぇ!?さすがにそれは困難過ぎる!」「でもあえてやるんですか!」「震える!震えて直視できない!でも見たい!」「あー!早く冬にならないかな!」みたいなプレッシャーを感じてしまうかもしれませんが、決してそんなことではなく(!)、あったらいいなの祈りの気持ちを持ちながら、今はしばしの乾季を楽しもうと思います。最近我が家はU-NEXT様を再契約しまして、わりと何でも見られるようになったところなので、何見てるとか何が好きとかあったらそれとなくお知らせいただけるとタイミングがいいかなと思っております。履修に励んで、未来を頑張る、そんな時間です!



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