このエントリーをはてなブックマークに追加
Share on Tumblr
カテゴリ:
大相撲
2025年10月20日08:00
巡業に行きたくなってきました！

大盛況のなか5日間の日程を終えた大相撲ロンドン公演。1991年以来34年ぶりにロイヤルアルバートホールに帰還した大相撲を迎える地元観衆の声は温かく、敬意に満ちて、相撲を心から楽しむものでした。僕もそれを遠く日本からRチャンネルとかいう楽天の運営するジェネリックABEMAみたいな知らないサービスを通じて見守り、その新鮮な盛り上がりぶりを大いに楽しませていただきました。

↓今さらお知らせされてもって話かもしれませんが、大相撲ロンドン公演はRチャンネルとかいう知らないサービスで配信中です！


改めて思うのは大相撲というコンテンツの強さです。神話の時代からやっているかのような雰囲気を醸し出しているのは伊達ではありません。まずその吊り屋根や土俵といったリング周りの設備、座布団を並べたリングサイド席の特異性。まわしを絞め、髷を結い、半裸の巨漢というさすがにココでしか見られない選手たちの独自のスタイル。行司や呼出し、土俵入り、四股、塩、懸賞旗、すべてが新鮮で謎めいていて、見る者に驚きを与えるものだったことでしょう。「ハリー・ポッターの世界みたい！」の逆バージョンの何かのような感じで。

日々の公演においてはいわゆるDJ的な人たちが取組開始に先立っていろいろと解説をするのですが、NHKで大相撲中継の英語実況を担当するヒロ・モリタさん（森田博士さん）がこの公演に参加し、正しくて詳しい解説をしてくれるという行き届いた配慮があるのですから、観衆の満足度もブチあがるというもの。四股や塩がEvil Spiritsを祓うのであるなんて説明されると、とうに知った話ではありますが「この競技は神聖なるものなんだ」と改めて感心させられます。儀式のような、神事のような、特別な感銘。僕らがオールブラックスのハカを見るときに感じる畏敬の念のようなものが、この競技の全体に向けられるのだろうと思いました。

寄せ太鼓と跳ね太鼓を呼出しさんが土俵のうえで披露すると、普段は「鳴ってるな」くらいのもので感謝も感動も薄れかけ当たり前のBGMに思ってしまっているリズムにも、相撲が始まるという喜びや、相撲が終わって寂しいけれど明日の相撲が楽しみだという期待が、いつもと同じ音からちゃんと感じられるのです。そんな素晴らしい舞台に、600人ほどいるスモウレスラーたちのなかでもベストオブベストである幕内の力士ら40人が集い、400年あまりの歴史においてわずか75人しか存在しない横綱が「2人も」やってきているんですよと、ヒロ・モリタさんが興奮しながらまくし立てるようにして行なう説明を聞いていると、コチラまでワクワクしてくるのだから不思議です。

↓事前にヒロ・モリタさんが「フットスタンプに合わせて3回ヨイショーって言うんだよ」って説明してくれるので横綱リングエンタリングセレモニーのヨイショーもバッチリでした！


観衆とのコネクトという意味では、もしかしたら日本の本場所より上質だったかもしれませんね！

ほら、日本だとヘンなタイミングで叫ぶ声のデカい人がたくさんいるから！



迎えた千秋楽の相撲。優勝争いは大の里・豊昇龍の両横綱に加えて、フライングモンキー翔猿が全勝で先頭を走っていました。この時点で「ははーん、翔猿はいい感じに負けて優勝争いから自然に退場し、最後に千秋楽結びの一番で東西両横綱の全勝相星決戦をやってドッカンドッカン盛り上がって終わりなんだな」とピーンと来る展開ではありますが、まぁあまり細かいことは言いますまい。

「細かいことはいいんだよ」精神で、巡業相当の取組を眺めていく優雅な時間。日翔志が土俵上で後ろ向きになってしまい土俵際で一本背負いでの逆転を狙うという示し合わせたようなエキサイティングな取組（※やたらと土俵上で後ろ向きになる展開が多い場所です）や、4日目まで黒星がつづいていた錦木がまるで示し合わせたような土俵際うっちゃり逆転劇（※決まり手は下手投げ）で初日を出したことや、大栄翔が漫画のような突っ張り速射砲で示し合わせたように狼雅をオラオラオラオラと突き出した熱戦、平戸海が一山本を示し合わせたように空中で一回転させた鮮やかな切り返しなど、いずれも華やかで見せ場があって盛り上がる取組ばかり。

若元春と豪ノ山が何度も土俵上で距離を取って睨み合った取組には「イギリスだけにボクシング精神が宿ったのかもしれないな」と思いつつ、ロンドンのお客様に「土俵上で距離を取って睨み合い、張り手を打ち合って、ムカつきながら怒りの決着」という日本でも大ウケする展開をお見せできたのは、示し合わせたような幸運でとてもよかったなと思います。もはやここまでくると熱海富士が足を滑らせて負けた王鵬との取組も、示し合わせようにコケたのか、文字通り勝手にコケたのかもわからなくなってくるほど神懸かり的な展開一色です。

宇良と安青錦の取組にいたっては宇良のセルフ腕捻りというか、合気道の達人が弟子を相手にしたときにだけ実践できるという空気投げのように宇良が空中で一回転しながら吹っ飛びまして、さすがに驚きましたよね。これは投げた安青錦のほうもビックリしたのではないでしょうか。とにかくすべての取組が神懸かっていて、本当に相撲の神様っているんだなと思いましたよね！

↓なお、あまりに神懸かりなことから宇良は完全に「マジシャン」扱いです！


3日目に見せた「まわし待ったからの伝え反り」！

仮に演技でやれと言われてもこれは難しい！



そして迎えた終盤戦。優勝を争っていた翔猿は大熱戦の末に高安に土俵下まで吹っ飛ばされまして、決着は横綱同士の直接対決に委ねられることに。吹っ飛んでいく翔猿が「ロンドンのお客様にアレを見せるぞ！」みたいな顔で土俵下に控える大の里にしっかりと体当たりして勢いを殺してから溜席にゴロンゴロン転がっていったのには、思わず僕も「完璧だ！」と大きな柏手を打ちましたとも。素晴らしい技巧とあうんの呼吸が詰まった芸術品のような一番でした。

すべてが美しく整えられてたどりついた結びの一番は、まさに宝石のような輝きです。本場所では願ってもなかなか叶わない「東西両横綱による千秋楽全勝相星決戦」は、ロンドンのお客様への相撲の神様からの贈り物でしょう。現地実況が「ドリームカムトゥルー！」と大興奮するなか、この大一番に臨む大の里・豊昇龍の両横綱は燃えていました。立ち合い強く当たって大相撲の魅力を存分に示すと、土俵際へと互いに追い詰め合う互角の戦いを演じつつ、最後は豊昇龍が左の出し投げで大の里の体勢を崩し、送り出しての見事な決着。ロンドン公演優勝を決め、先輩横綱の意地を示したのでした。

↓優勝の豊昇龍には副賞として特大キティちゃんのぬいぐるみが贈られました！


弓取り式での弓の高速回転にドッと沸く観衆たちは、最後まで魔法のような異世界での時間を楽しんだようでした。日本では弓取り式ともなれば何割かの人は席を立ち、表彰式を最後まで見守る人は半分くらいになってしまうのですが、すべてを楽しもうとするロンドンのお客様たちの新鮮な反応は、とても楽し気で素敵なものでした。巨大なキティちゃんぬいぐるみの贈呈に沸く気持ち、巨大なしょうゆ型トロフィーの贈呈に沸く気持ち、かつては自分も「牛1頭」とか「米1トン」とかの贈呈に沸いた初心を取り戻したい、そう思ったもの。遠いロンドンの地で行なわれた場所だからこそ得られる素敵なものがあったなと思う5日間でした。

もしかしたら日本にいて、国技館の近くにいて、少し慣れ過ぎてしまって、大相撲に対する自分のなかの新鮮さやありがたみを失っていたのかもしれません。やはり「初めての人の盛り上がりからしか摂取できない栄養」はあるなと改めて思いました。どんなものも慣れ過ぎれば淀んでしまうことを胸に刻みながら、今と違う新しい人、新しい世界とつながるような取り組みは積極的に応援していかないといけないんだ……そんなことを思いました。ここのところチケット抽選でハズレがつづいて拗ねている部分もあったのですが、次の東京場所はまたしっかりと観戦へのチャレンジをしたいなと思いますし、ロンドン公演を見ていたら「神懸かりな相撲」もたまにはいいなと思いまして、ちょっと巡業にでも繰り出そうかなと思いました。その際はロンドンのような新鮮で温かい空気を、自分もその一部となって作っていけたらいいなと思います。相撲の神様はいる、そう信じて見守ります！



Rチャンネルもありがとう！CMが入らなくてとっても見やすかったです！