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日本の太陽に涙の銀!

いよいよ最後の週末に入ってきたミラノ・コルティナ五輪。そのクライマックスにふさわしい、尊い競い合いが繰り広げられました。フィギュアスケート女子シングル、素晴らしい演技たちがつづくなかで、坂本花織さんが銀、中井亜美さんが銅、そして千葉百音さんが4位と、日本勢が上位にズラリと並びました。素晴らしい演技、素晴らしい試合でした。誇ってもらえたらいいなと思います。




迎えたフリープログラム。ショートプログラムで上位発進となった日本勢はいずれも最終グループでの登場となりました。最終グループを迎える段階でトップに立つのはアメリカのアンバー・グレンさん。ショートプログラムではジャンプの要素抜けなどがあり、70点台に乗せられず13位と出遅れていましたが、フリーではトリプルアクセルの成功などで盛り返してきました。何かとザワつきが多い今大会のアメリカにあって、強い心を示す演技。ショートとフリー、ふたつのプログラムで競うからこそ生まれる悲嘆と雪辱だったなと思います。最後に歓喜の叫びとガッツポーズが見られて、よかったなと思います。

最終グループ、まず登場したのはジョージアのアナスタシア・グバノワさん。団体戦ではメダル獲得を目指してショート・フリー両方に登場したというなかで迎えた個人の種目ですが、もしかしたらその過酷さが少し出てしまったのかもしれません。完璧な演技とはならず順位を下げます。ロシアからの中立選手として出場のアデリア・ペトロシアンさんも、冒頭の4回転トゥループが転倒となり、本来の演技には至りません。ショート、フリーともに出来得る最高の構成にはしてきませんでしたが、仮に構成を上げてきたとしても、立場的にも経験的にもチカラを出し切るのは難しかったかなと思います。「出られた」、それ以上を望むには堂々と出られるような世界に戻すこと、選手の頑張り以外のものが求められるでしょう。

残る演技者は4人、そしてそのうち3人が日本勢。まず、日本勢から最初に登場したのは千葉百音さん。初の五輪とは思えない落ち着きぶりで、直前の採点に時間が掛かるなどややナーバスになりかねない状況にも乱されるところはまったくありません。見た目の印象にはとても美しい演技で、初の五輪をノーミスで演じ切りました。ただ、速報の技術点と最終スコアにはやや乖離が。コンビネーションジャンプでqマークの回転不足を都合3回取られており、速報値の77点台から74点台までマイナスされました。全体的に採点が辛い傾向のある大会と感じますが、僅差で競う拮抗した大会でもあるので、辛くならざるを得ないのかなと思います。それでも千葉さんは演じ終えた時点で暫定トップに立ち、残る3人の演技を待ちます。初の五輪で堂々のメダル争いです。

そして、日本勢最大のライバルと目される、今季GPファイナルの女王、アメリカのアリサ・リウさん。かつてはトリプルアクセルと4回転を駆使するジャンプで知られたスケーター…いわゆる「天才少女」でしたが、一度の引退を経たあと、スケートの完成度を高めることを追求し、今大会は団体戦を含めてトリプルアクセルも含まない構成としました。音楽のチカラ、演技の美しさ、弾ける笑顔、あがる大歓声。場内の空気を途切らせることなく、熱狂を加速させていくような演技は、明るくて強くて華やかで「これぞアメリカ」というもの。ジャッジにGOE+5を連打させたまったく軸のブレないレイバックスピンから、天高く一本指を突き立てるフィニッシュは、すごい盛り上がりでした。エンジョイフィギュアスケートでした。ジャンピングハグが出るのも納得の演技です!



この熱狂のなかで自分の演技を貫けるのは、この人、坂本花織さんしかいなかったのではないかと思います。一番苦しいタイミングを一番強い人が引き受けてくれた。それは偶発的なものですが、日本にとってはまたも坂本花織という太陽に救われた瞬間だったと思います。引退を表明し、これが最後と決めて臨む五輪の演技。愛の賛歌ほかに乗せて演じるファイナルの演技は、坂本さんらしいものでした。大きくて流れのある世界一のダブルアクセルで「これが坂本花織だ」とリンクの支配を奪還すると、不動の軸で貫くスピン、壮大なステップシークエンス、ジャッジの心深くまで飛び込むトリプルサルコウ、どの要素も高い加点を積み上げていきます。

惜しむらくは演技後半最初のコンビネーションが、トリプルフリップの着氷こらえで繰り返しのジャンプとなったことくらい。余ったコンボを最後のトリプルループにつける選択肢もあったと思いますが、その1.5点とかを取りにいくことよりも、坂本さんはこの演技の完成を目指しました。もともとの構成を知らなければ、どこに予定と異なる箇所があったかもわからないような美しい演技。本人は朗らかな笑顔ではなく、泣き出しそうな笑顔で演じ終えましたが、観衆は立ち上がって笑顔と大歓声を贈っています。今日だけではなく、坂本花織というスケーターのすべてに対しては、お祝いも労いも別れも笑顔こそが似つかわしい、そんなことを思います。




この大会を締めくくるように最後に登場したのは中井亜美さん。ショートの弾ける笑顔から連続するように笑顔で滑り出した中井さんは、冒頭のトリプルアクセルを見事に成功!トリプルルッツからのコンビネーションでセカンドジャンプが2回転になるなど耐える場面もありますが、初の五輪で、最終滑走という重圧のなか、金メダルを狙って躍動した17歳に眩しさ以外のものなどありません。最後のキュートな決めポーズで演技を終えた段階では、速報の技術点もこれまでのトップに立つ78.06点を示していました。かつて見られなかった夢が、一瞬心によぎるような演技でした。

ただ、まぁ、辛いなというか、厳格だなというか、オフィシャルのスコアを見ているとそこからグングンTESが削られていきます。後半のコンビネーションジャンプふたつに、エッジの「!」とqマークが2個つき、最終のTESは72.53点まで下がりました。この素晴らしい演技が結局フリー単独では9位となるだなんて。正直納得がいかない。スコアが出たのに中井さんが無反応だったときには、これは怒りの抗議活動でもせねばならんかと奮い立ちましたが、それは「どこに順位が出るのかわからなかった」のだそうで、自分がメダルだと理解したあとは跳び上がって喜んでくれたので一安心。金メダルを決めたアリサ・リウさんもお祝いにきてくれて、嬉しいメダル獲得となりました!



中井さんが嬉し涙を流すなかで、金を目指してきた坂本さんも止まらない涙を拭っていました。金を目指してきた人が銀なのですから悔しさがないはずがありません。この日の演技にも満足はできていないでしょう。本人が意図したとおりの、磨いてきたとおりの、完璧な演技は残せなかった。わずか1.89点差の最終スコアを見れば、無限にタラレバも浮かぶかもしれません。

それでも、最後まで笑顔でいようと、止まらない涙を隠せないまま、笑顔を見せつづけた坂本さん。坂本花織は女子シングルを救った光であり、日本フィギュアスケートの、いや世界のフィギュアスケートの太陽でした。前回北京五輪、4回転を駆使するロシア勢を前に挑む前から「絶望」の言葉が飛び交うなかで、自分の演技を極めて銅を獲ったこと。その後の暗澹たる世界を思えば、あの銅は女子シングルにとって金にも等しいメダルでした。この種目を守り、照らす光でした。

それから4年、世界をリードしてきた坂本さんはみんなの太陽だった。明るかった。あたたかかった。頼もしかった。この五輪の開幕を迎えてからも坂本さんを見ない日はありませんでした。団体戦に始まり、各個人種目、そして自分自身の種目と、毎日いるんじゃないかというくらいにリンクやスタンドに坂本さんの姿がありました。誰かが苦しいとき、誰かが落ち込んだとき、その傍らで励まし、元気を分け与えていたのは坂本さんでした。自分のことだけでも大変なはずなのに、自分に対してする以上の熱量で、みんなのことを見守っていました。

銀の表彰台に乗った坂本さんは、精一杯の笑顔を見せながら、金のアリサ・リウさんが上手にぬいぐるみをセットできるようにサポートしたり、通例では銅メダルの選手が担当することが多いオフィシャルの表彰台自撮りも買って出て、自慢の撮影テクニックを見せていたりしました。目に入る誰かに手を差し伸べずにはいられない、そんな人となりが、最初から最後まで坂本花織だったなと思います。

試合後のインタビューにあった「銀メダルで悔しいと思えるくらい成長したのかな」の言葉は、スケートについての振り返りなのでしょうが、人としても大きく大きく成長してこの日を迎えたのではないでしょうか。坂本花織は日本の、世界の、頼もしいリーダー、太陽だったと思います。引退を迎えたあとも、何をするにしてもまたみんなの中心にいて、たくさんの人をあたたかく照らす、そんな存在でいてもらえたら嬉しいなと思います。

すべてを終えて今何をしたいかと問われたとき、「今は、相当悔しいので、泣きたいと思います」と答えた坂本さん。もうずっと泣いていたわけですが、それは満杯のコップから水がこぼれていただけで、この舞台を去るまで笑顔を頑張って作ってくれていたのだろうと思います。なので、最後は自分を労わってあげてほしいなと思いました。氷の上じゃなかったら、胴上げでもしたいような、そんなカーテンコールだったと思います。ありがとうかおちゃん!かおちゃんのいるスケートは、とても楽しかった!

↓たくさん泣いたあとは、笑顔のエキシビションお待ちしています!




これは中継内で主に4位の千葉百音さんに向けられていた言葉ですが、自身も平昌五輪で4位となった宮原知子さんがこんなことを言っていました。「やっぱりもうあと一歩でメダルっていう順位であることに変わりはないので、もっとできたんじゃないかって思う気持ちは、もちろん消えないですけど、でも順位以上に大事にすべきものってあると思うので、今は悔しいかもしれないけど、そういった頑張ってきた自分っていうのは認めてほしいです」という言葉、千葉さんだけでなくたくさんの人に通じる言葉だと思います。たくさんの悔しさとやるせなさを抱えた人が、自分を労るきっかけになるといいなと思います。順位は大事だけれど、僕らも順位だけを愛しているわけではないので、何位であろうがかおちゃんはかおちゃんで、いつだって最高に輝いている、そう思います!


悔しくて辛くても、笑顔を守った太陽のようなかおちゃんに感謝!