スポーツ見るもの語る者〜フモフモコラム

レスリング

「イチかバチかの大増量」に屈した須優衣さんは連覇を逃すも、オリンピックチャンピオンと変わらない価値がある銅メダルを奪還した件。

07:00
レスラー須優衣の価値がさらに増したパリ五輪!

いやー、波乱に次ぐ波乱でした。レスリング女子フリースタイル50キロ級、前回東京五輪では相手に1ポイントも許さず金メダルを取った須優衣さんがまさか1回戦で敗退しようとは。誰もそんなこと思いもしなかったのか、須さんが敗れた1回戦はテレビ中継もない始末。連覇を狙う女王がネット配信の試合でひっそり負けるだなんて。日本からの応援がちょっと足りなかったんじゃないの?と思わずにはいられません。

しかし、これは波乱の始まりに過ぎませんでした。須さんに勝利したインドのビネシュさんはその後決勝戦まで勝ち上がりました。大会規定により、決勝進出者に敗れた選手は銅メダルを目指す敗者復活戦に進むことができます。よーしこれで須さんは敗者復活戦進出だ…と思っていたところ、翌日になったら敗者復活戦はなくなったと言うではありませんか。

どうも、2日目の競技に臨むにあたっての計量において、ビネシュさんは計量オーバーで失格となったようなのです。その結果、準決勝でビネシュさんに敗れた選手が決勝戦に繰り上がりで進み、本来であれば敗者復活戦として行なわれるはずだった「ビネシュさんに1回戦と2回戦で敗れた選手同士の対戦」がそのまま3位決定戦にスライドすることになったのです。

↓一部報道ではビネシュさんは「100グラムオーバーで計量失敗後は脱水症状で失神した」そうです!



かつてレスリングは柔道のように1日で競技を行なっていましたが、リオ五輪後の2017年に試合方式を変更し、「1回戦〜準決勝」「敗者復活戦〜決勝戦」と2日間に分けて実施することにしました。これは選手の減量後の急激な体重増加による健康被害を防ぐ目的だったとのことで、現行ルールでは2日間とも「試合当日の朝」に計量が実施されます。国際トーナメントにおいては2日目の計量に2キロの許容幅が認められていますので、50キロ級の場合は2日目の朝の計量では52キロにおさめればよいということになります。

計量を失敗した選手は大会から除外され、失格として最下位にランクされます。失格した選手に敗れた選手は次のラウンドに進むと規定されていますので、準決勝で敗れ3位決定戦を戦うはずだった選手は決勝戦へ、1回戦・2回戦で敗れ敗者復活戦を戦うはずだった選手は3位決定戦へと進むことになります。このようなことで、須さんは敗者復活戦をスキップして、いきなり3位決定戦に登場することになったわけです。

↓「2018年から10階級制、2日間の試合形式になります」という公式からのお知らせです!

五輪で行なうのは10階級のうち6階級です!

なので、体重が中間ぐらいの人はいろいろ悩みますよと!


……と、これは国際レスリングルールに規定されていることなのですが、よくよく考えたらこれは不公平で理不尽ではないでしょうか。2日目の計量で失格になった選手というのは、初日の朝は規定内の体重であったものをドカ食いで一気に体重増加を果たし、その結果として2日目の計量では「2キロの許容幅」におさまらなかったわけです。ということは、初日の競技においては2キロどころではない体重増加を行なっていたわけです。個々の状況にもよりますが、5キロ以上増えていても不思議はないでしょう。

まぁ、体重増加はどの選手もやることなので構いませんが、それは「同じ条件ならば」という話。決勝まで勝ち上がるつもりの選手は当然「翌日は2キロ増におさめる」範囲で体重を戻します。しかし、強い対戦相手を引いてしまった選手は「1回戦の相手は絶対女王か」「ここで勝たねばその先を考えても意味がない」「もう一度落とせるかどうかはわからんがマックスまで体重を増やしてイチかバチか勝負だ!」と翌日の計量のことなど考えない大増量に挑むことだって考えられます。

今回の場合も、ポイントリードで試合を優位に進めていた須さんが、試合時間残り9秒の相手の捨て身の体当たりで押し負けたことが敗因でしたが、そこには「翌日は2キロ増におさめる程度の増量」と「イチかバチかの大増量」との1階級ぶんほどの体重差が効いていたのではないかと思うわけです。しかも、この「イチかバチかの大増量」の選手との差は戻したあとの「最初の試合」のほうが、少し動いたあとの「数試合後」よりも大きいはずです。つまり、一番の不利を被ったのは須さんなのです。

その際、「イチかバチかの大増量」を行なった選手と「1〜2回戦で対戦してしまった」選手は現行ルールでは著しく不利益を被っています。前提条件が異なる不利な勝負を仕掛けられたにもかかわらず、先に対戦したというだけの理由で、相手が失格になっても金メダルへの挑戦権は失われてしまうのです。これは計量に関する話だけではなく、ドーピング違反などでも同様の規定が適用されますので、ドーピングで筋肉の塊となった違反最強選手と「1回戦で当たって敗れてしまったら」、クリーンな選手はどうやっても金メダルにはならないのです。対戦順が違って、準決勝以降まで当たらずに済んでいれば決勝進出&金のチャンスが残ったかもしれないのに。

今回はもはやどうにもならないと思いますし、すべてをあとからやり直すことができるはずもありませんが、せめて「2日目の計量等で失格」が出た場合は「敗れた選手全員でもう一回決着戦」をやるのが穏当ではないかなと思います。16人参加のトーナメントであれば、もう一度やり直したところで「敗者復活戦⇒3位決定戦」だったものが「敗者復活戦⇒やり直し準決勝(※負けたほうは3位になる)⇒決勝戦」で1試合増えるだけですし(※十分不利ではあるが)。本来の準決勝で敗れた選手も、「負けても3位、勝てば決勝」という設定の試合なら納得感はあるでしょう。本来なら2日目は「負けたらメダルなしの3位決定戦」をやるつもりだったんですから(※十分不利ではあるが)。被害を被るまで気にしていなかったコチラも間抜けでしたが、もうちょっと改善の余地がある仕組みではないかと思いましたよね。

↓うーん、対戦運が悪かった!16分の3の大ハズレ!



とは言え、繰り言を述べても仕方ありません。今この場でできることは3位決定戦に勝って銅メダルを取ることだけ。須さんは本来なら2回戦で対戦するはずだったオクサナ・リバチさんと銅メダルを懸けて戦います。相手も2018年の世界選手権で銅メダルを取った実力者ですが、そのときに金を取ったのが須さんなのですから何の問題もありません。

前日のインタビューでは何度も申し訳ないと謝りながら「ここで終わってしまったのが信じられない」と泣いていた須さんですが、3位決定戦の舞台には堂々たる王者の風格で登場しました。タネが割れてみれば相手は「イチかバチかの大増量」だったと分かったわけですから、王者の威厳はいささかも傷ついてはいません。「残ってる選手にここから3連勝できたら金にしてあげましょうか?やりますか?」と提案したら即答で「やります!」と答えそうなくらいに気合が入っています。

会場ではこの試合に先立ち、男子グレコローマンスタイル77キロ級で日下尚さんが獲得した金メダルの表彰式が行なわれており、主に日下さんの大応援団がドッカン盛り上がっています。日下さん本人も表彰式の前に須さんの激励に向かっていました。これは遠いパリの地であっても日本の須さんに強い追い風が吹くというもの。

そして須さんはつかみました。開始30秒手前でタックルから後ろにまわって先制すると、2分過ぎにもタックルを決めて追加点。そこからローリングしてさらに追加で6-0。さらにタックルから後ろにまわって8-0。第2ピリオドに入って早々にもさらにタックルを決めて10-0。10点差がついたことでいわゆる「コールド勝ち」に相当するテクニカルスペリオリティ勝ちとなり、須さんは勝ちました。東京五輪のように1ポイントも与えない圧倒的なレスリングで銅メダルをつかみました。見ている者としては「金」を奪われたという憤りは拭えませんが、須さんは美しく銅を奪還しました!

↓本人的には銅で満足はできないかもしれませんが、素晴らしい戦いでした!


試合を終えたインタビューで須さんは「オリンピックチャンピオンの須優衣じゃなかったら価値がないんじゃないか」と思っていたという苦悩を明かしました。そして、「負けたのに」応援してくれる人たちに感謝していました。その様子を見守っていたスタジオにいる伊調馨さんが、みんな須優衣というレスラーが大好きだから、須優衣のレスリングが見たいから応援しているんだと思うよ…と寄り添うように言葉を掛けていたのが印象的でした。レスリングを楽しんでほしい、そんな想いが滲んでいました。

五輪4連覇を成し遂げ、誰よりもオリンピックチャンピオンでありつづけた人が、「違うよ、勝っているからではなく、愛されているからなんだよ」と自ら見出した人生をの答えを教えてくれているようで、とても温かい気持ちになりました。放送を通じて須さんに呼び掛けたわけではないので、人づてになると思いますが、伊調さんの思い伝わってくれたらいいなと思います。僕もその通りだと思います。ここにも「銅」で泣いている者がいます。金がすべてではないのです。金に挑み、頑張っている人間の姿に尊い価値があるのです。だから、「須優衣」の価値は上がりこそすれ下がるはずがないのです。どうか胸を張って、実質無敗でつかんだ「銅」持ち帰ってください!



2キロは許容幅だって言ってるのに、そこをリミットに戻すんじゃないよ!

2020年だからこそ改めて吉田!NHKBS『アナザーストーリーズ』吉田沙保里回はTOKYO2020への想い高まる超エモ回だった件。

12:00
TOKYO2020はこの気持ちでいきましょう!

改めて東京五輪への想いが高まるようなエモーショナルな番組でした。7日にNHKBSプレミアムで放送された『アナザーストーリーズ 運命の分岐点 吉田沙保里が負けた日〜最強伝説の真実〜』の回は、スポーツというのはいいものだなぁとしみじみと感じさせ、そして「かくありたい」と思わせるような想いの交錯を丁寧にまとめていました。

複数の証言者の声を束ねて、ひとつの分岐点をさまざまな角度から採り上げていくというスタイルの同番組。別の回でとてもいい番組作りをしていたことが印象に残っており、ときおりチェックしているのですが、NHKBSプレミアムならではの余裕というか、商機を狙って拙速に走るようなことがないのが、当たり前ではあるのですが素晴らしい。

2020年に吉田沙保里、その遅さ。

登場する人物も吉田さん本人と、リオの決勝で戦って吉田さんを負かしたヘレン・マルーリス、アテネ・北京・ロンドンで吉田さんと五輪のメダルを争ったトーニャ・バービークの3人。これは2016年に同じ企画を思いついたとしても、同じ顔ぶれでの番組作りは可能だったことでしょう。

ただ、何事にもしかるべき時というものがあります。あの負けをどう総括するか、それは吉田さんが勝ち負けの物語を終えてからでないと意味がありません。「負けて強くなった」のか、「負けて納得できた」のか。その区切りと言えるのは2019年1月の引退会見であり、ここまでは総括のしようがないのです。吉田さんがこれからどうするのか、本人含めて誰にもわからなかったのですから。『情熱大陸』なら2016年に撮って出しでやってしまうところを、しっかりと区切りまで待ってから、TOKYO2020の今こそが吉田さんに再びスポットライトを当てるべきときだと取り組んだ。その時点で、いい番組になると期待が持てました。

↓今、改めて、吉田沙保里とは何だったのかを振り返る!




まず番組は吉田さん自身の振り返りから始まるわけですが、基本的に新しい話はありません。「負けた人の気持ちがわかった」などの言葉も、引退会見を含めて何度も繰り返してきたものです。それが吉田沙保里らしさです。吉田さんは天真爛漫であり、あけっぴろげな人です。自分の感じたことを隠すではなく、それをオープンにしてきました。奥歯に挟まっているのは伊調パワハラ問題へのご意見くらいです(!)

だからこそこんなに愛された。地上最強の絶対女王でありながら、その辺のおねーさんでもあった。その人柄は太陽のようであり、女子レスリング界を照らす象徴でした。代名詞でもある「高速タックル」もレスリング・フリースタイルを象徴する技です。野球で言えば200キロの豪速球です。レスリングのド真ん中です。強いだけでなく、象徴的だった。

言うなれば、今回の番組は太陽を見る人間の言葉を束ねるような話です。いかに太陽が熱く、大きく、神々しかったのか。人間の言葉を聞きながら太陽が「ほーん」と思う。そんな話です。「頭が空っぽよ、1回戦で(サオリと)当たるなんて」「気づいたらもう終わっていた」「何が起きているかわからないうちに何か起きていた」などと下々がひれ伏すのを、太陽はさして気にもしていない。さすが吉田沙保里だな、改めてそう思います。



その太陽を下から見上げてきたのが、第二の視点ヘレン・マルーリス。吉田さんを「初めて出会ったレジェンド」だと挙げるリオの女王は、この取材にあたってニッコニコです。出迎えるカメラと会った瞬間からニッコニコで、話始めるとニッコニコが止まりません。現在は肩の負傷を治療しながら東京五輪での連覇を目指しているとのことですが、戦いへの緊迫感さえないような笑顔です。

アテネで吉田さんが金メダルを獲り、その輝かしい姿によって自分がレスリングをつづけることができ(※両親の反対を押し切った)、いつか吉田さんと五輪で戦いたいという目標を持てた。その夢のために吉田さんと同じ55キロ級を選び、階級変更ののちも過酷な減量に耐えて53キロ級に留まった。その過程を語るマルーリスは「私の推しについて語る女子」そのものです。

「(初対戦時)すんごいタックルでした!」
「あんなの対策のしようがありません(笑)」
「本当に強かった!」
「減量は確かに大変でした」
「でも53キロとか58キロとか関係なく」
「自分がオリンピックで誰と戦いたいか」
「サオリと戦う夢を叶えたい」
「(リオの決勝で吉田さんを見たとき)銀メダルでいい!十分!と思った」
「でもすぐに、ヘレンダメよ、金メダルを目指して最高の試合をしようと思った」
「オリンピックの決勝で最高の相手と戦っている」
「夢が叶った、チョー幸せ!」
「チョー幸せと思っていました」

彼女の話すこともまた基本的にはすでに聞き及んだことです。ただ新鮮でした。若手の成長に驚き「圧」を感じていたという吉田さんと、「サオリに憧れて決めた私のスタイル、とにかく攻める」と意志を貫いたマルーリスの攻防。レスリングの試合でありながら、「私、あなたのファンなんです!」と詰め寄るかのような想いの交錯は、2020年に改めて新鮮な気持ちを呼び起こすものでした。

これこそスポーツだなと。勝つことがすべてではなく、自分がこうなりたいと願い努力する日々が大切なのであると。その目標となるのがオリンピックや金メダルであり、自分の日々がどれだけ充実していたかの目安となるのが勝利や記録なのだと。吉田沙保里というもっとも強大な敵は、もっとも大きなチカラをくれる存在でもあった。レスリングを頑張ろうと思った日、その「初心」を思い出させるようなマルーリスの姿でした。



そして、太陽を上から眺めていたのが、第三の視点トーニャ・バービーク。現在はカナダ代表チームのヘッドコーチをつとめるバービークは、6歳年上で、一大会早くレスリングを退いたものとして、沈まぬ太陽の夕暮れを予感していました。リオのスタンドから見た吉田さんの姿は、かつての吉田沙保里ではない「まるで別人」だったと言います。

その原因についてバービークは自身のレスリングがそうさせたのだと、後悔を持って語ります。自身最後の五輪となったロンドン、負けっぱなしで終わるのはイヤだと自身の強みを捨て、守備的な試合をしてしまった。そこである程度の善戦をしてしまった結果、消極的なレスリングスタイルが主流になった。試合が長引くようになり、消耗戦の影響から吉田さん自身も攻めの姿勢を失っていったのだと。リオの1年前から、吉田さんの敗戦について予感していたとも言います。

ただ、そうした敗戦を経ても、バービークが抱く吉田さんへの敬意はまったく変わりません。「あなたは永遠のチャンピオン」「吉田沙保里がいたから女子レスリングはここまでになった」「そのことをちゃんと語り継いでいくべき」だと熱っぽく語るバービーク。そしてバービークもまた、マルーリスとまったく同じ言葉を発します。吉田沙保里という強大な敵が自分に何をもたらしたのか。スポーツの本質と言えることを。

↓太陽からの無慈悲な言葉と、それでも太陽に憧れる気持ちの交錯!

吉田:「(バービークは)私がいなかったらチャンピオンになっている人だな、と(笑)」

バービーク:「カナダのひどいマスコミによく聞かれたわ、いつも銀メダルですけれど、サオリ・ヨシダと同じ階級でなければ1位になれたとは思いませんか?って」

バービーク:「でもそういう人はスポーツの醍醐味がわかってない」

バービーク:「自分より優れた人がいたら、その人を超えるために何倍も努力できる」

バービーク:「そんなモチベーションを与えてくれることに感謝をしないと」


バービーク:「特に私がいた階級は、サオリという絶対的な存在がいたことで一気にレベルが上がりました」

バービーク:「私はいつも彼女と対戦するたびに、ワクワクしていましたよ」

この気持ちをもって試合に臨む、常にそうありたいという真髄!

大きな敵だからこそ、人生をもっと頑張れる!



「オリンピックは参加することに意義がある」などと言いますが、まさにこういうことなのだと僕は思います。勝つのはもちろん嬉しいですが、大きな目標を持って、自分を高めていけること。「これぐらいでいいや」ではなく限界の先の先まで目指せること。どうせ死んだら焼かれて土になる人生で、どれだけ自分で自分を燃やせるのか。スポーツは、人生の素晴らしさをわかりやすく示してくれるのです。そして「自分もまたこんな風にありたい」と思わせてくれるのです。

吉田沙保里という巨大な太陽があり、それに負けっぱなしであった人も、それに憧れて乗り越えた人も、それぞれに自分の人生を輝かせています。太陽に近づけば、その反射で眩しく光るように、頑張ることの素晴らしさを身をもって示しています。そんな熱い気持ち、2020年を迎えるのにふさわしい気持ちになれる番組でした。レスリングへの興味の有無に限らず、TOKYO2020新春の誓いとしてぜひ心に入れていただくといいのではないでしょうか。地上波での再放送は13日の月曜日。「エモさ」でいっぱいになりますよ!

↓こんな瞬間を東京でたくさん見られる!その喜びを感じて2020年を生きましょう!




自分を高めるために頑張った人は、勝っても、負けても、美しい!

川井梨紗子さんの伊調超えなる!伊調馨さんの五輪5連覇はほぼなくなるも、川井姉妹の「姉妹で五輪金」の夢はつながるの巻。

08:00
「伊調超え」で川井梨紗子さんが世界へ!

リオ五輪女子レスリング63キロ級金メダリスト・川井梨紗子さんと、言わずと知れた「世界の」伊調馨さんとの頂上決戦。女子57キロ級のひとつしかない出場枠を巡る争いは、川井梨紗子さんに軍配が上がりました。まだ確定というわけではありませんが、別階級で世界選手権を連覇している金メダリストが、今年の世界選手権でメダルを獲れば「そのまま東京五輪の代表に内定」するのです。ほぼ決した、そう言っていいでしょう。伊調馨さんの五輪5連覇は「ほぼ」なくなりました。

ただ、納得のいくなくなりかたではありました。

モチベーション、体力、いろいろなものを経験で補いながらの5度目の五輪への挑戦。5連覇という継続性がなければ、この挑戦自体も行なわれたかどうかというところ。それでも伊調さんは、いろいろな意味での休養を経て再起してくれました。まず「挑戦してくれた」ことに本当に感謝したいところ。世間はもちろん5連覇が見たい。けれど、やるのは伊調さん本人です。身体を追い込み、人生を捧げるのは伊調さん。その挑戦を見させてもらえたことは本当にありがたいことでした。仮にこのまま伊調さんの東京五輪がなくなったとしても、それは「挑まずになくなった」わけではないのです。「挑んで敗れた」という納得の結末なのです。

そして、敗れた相手は日本の選手だった。伊調馨を倒したのが世界の誰でもなく日本の川井梨紗子だったというのは、日本レスリング界にとっても誇らしいことでしょう。これがヨソの国であるならば「五輪4連覇の偉大な女王を倒したのは自分たちの選手だ」とバンザイするところ。「伊調さんの東京五輪がほぼなくなった」を同時に受け止めなければならない日本だからお祭り騒ぎにならないだけで、「ウチの選手が伊調を超えた」はとても喜ばしい日、とても嬉しい日のはずです。

しかも川井梨紗子さんは、伊調さんと同じく姉妹でレスリングに取り組む川井姉妹の姉です。伊調さんの五輪5連覇はほぼなくなりましたが、山本姉妹も、伊調姉妹も、坂本姉妹も成し遂げられなかった「姉妹での五輪金」という挑戦は継続することになったのです。「これを見てみたい!」と思うテーマはしっかりとつながっているのです。

どんな選手にも負ける日はきますし、挑戦が終わる日はきます。ときには不満足な、残念な終わり方もあります。けれど、伊調さんの挑戦がこのまま終わったとしても、「最後まで挑み」「強い相手に敗れ」「新たな物語がすぐにつながった」という意味では決して悪くない。しっかりとエンディングをつけたうえでの決着です。まだ「ほぼ」という段階なので伊調さんも心を切らないでしょうし、コチラも感謝を述べる段階ではありませんが、この物語の映画監督に「こんな感じの終わり方でよいですか?」と問われたなら力強く「大丈夫です!」と答えたい。心からそう思える戦いでした。歴史に残る一戦でした!

↓世界の誰にも「伊調超え」はやらせない!川井梨紗子さん、伊調さんを下して世界選手権へ!

伊調馨は五輪で一度も負けなかった!

世界の誰にも負けなかった!



和光市体育館で行なわれたプレーオフ。ほかの階級での決着戦と合わせて6試合だけの戦いは、小規模な会場であることから一般観衆の入場を差し止め、関係者と報道陣だけが見守るものとなりました。もしもお金を稼ぐつもりがあれば、数千人もの有料入場者が集ったであろうドリームマッチは、ごく一部の人たちだけがそこに立ち会うことを許される…さながら「神事」のような雰囲気で始まります。

東京五輪という大目標を見据え、どの選手も燃えています。勝って泣き、負けて泣く。終わり方を問わずに勝者敗者いずれの立場でも泣く、そんな人生の大一番の連続。その最大の戦いとして行なわれる川井梨紗子さんと伊調馨さんの試合。マットに上がった両者はこの一戦の重さを当然知っています。「負ければ東京五輪はなくなる」と思っています。

試合は激しく梨紗子さんが攻めていく構図。伊調さんはやや腰高で、下から突き上げるような梨紗子さんの攻撃によって押し込まれます。しっかりと伊調さんが組み止めて制することで、それ以上の技こそ出させず、逆に梨紗子さんに「消極的である」という注意も出ますが、攻めているのは梨紗子さんです。

二度の「消極的だ」注意の結果、梨紗子さんは「次の30秒で得点できなければ1点を相手に与える」アクティビティタイムを課せられます。ここは得点動かず、伊調さんに1点が入ります。ただ、レスリングでは同点の際には、ビッグポイント…1回の技でより大きな得点をあげた側が勝つという決まりがあります。1点ずつを失って0-2とされても、タックルなどから2点の攻撃を決めれば「2-2同点でもビッグポイントの差で勝ち」となる。だから、1点を失おうとも焦ることはなく、どこで攻めを「決める」か、チャンスをじっくりとうかがっていきます。

第1ピリオドの終了間際、タックルから伊調さんの左足をつかんだ梨紗子さんは、素早い旋回で伊調さんの反撃をかわしながら、伊調さんを担ぎ上げる場面を作ります。攻める梨紗子さんと、それを驚異的なバランスでしのいでいく伊調さん。伊調さんは完全に逆立ちするような状態まで追い込まれますが、そこから脱して逆に相手の足を取りにいく反撃を見せ、梨紗子さんもそれを察して素早く飛び退く。スコアは動かないものの、東京五輪がふたりの間をいったりきたりしています。攻撃⇒返し技⇒再攻撃⇒返し技⇒両者飛び退いてにらみ合う…達人同士の死闘のような第1ピリオドです。

↓この態勢から赤・伊調さんが脱出して足を取りに行く展開が想像できるだろうか?

梨紗子さんの攻めもすごいが伊調さんの受けもすごい!

勝負は第2ピリオドへ!


首を傾げながらインターバルに入った伊調さん。「上手くいっていない」という様子です。梨紗子さんは先に世界選手権の代表を決めている妹・友香子さんのサポートで、給水やマッサージを受けています。姉妹での五輪、ふたりで挑んでいます。

そして迎えた第2ピリオド。梨紗子さんは開始8秒でタックルに入り左足を持ち上げますが、またも伊調さんは片手片足の態勢でそれを凌ぎます。ただ、受けているだけでは得点は取れません。技が出ない伊調さんにアクティビティタイムが課せられると、30秒間でスコアが動かなかったため、梨紗子さんに1点が入ります。「攻防のなかで私がバックにまわったのではないか?」という表情の伊調さんですが、梨紗子も伊調さんの足をガッチリとつかんでおり互角の凌ぎ合い。これで1-1の同点。残り1分47秒。

そして残り1分での攻防。再びのアクティビティタイムを課せられた伊調さんは、ここでもう1点やるわけにはいかぬとこの日初めてタックルから足を取ります。しかし、梨紗子さんはその攻撃を凌ぎ、逆に伊調さんのバックにまわって、伊調さんの両肩を90度以上傾けさせるニアフォール(デンジャーポジション)とします。これは2点となる攻撃。大きなポイントが梨紗子さんに入ります。

↓勝負をわけた大きなポイント!この攻めで梨紗子さんが3-1とリード!


うん、しっかり攻めてる!

押し込まれてるのではなく、意志を持って肩をマットに傾けさせている!




その後の攻防で、スコアは5-2、梨紗子さんの3点リードまで動きますが、伊調さん側よりチャレンジの要求が入ります。チャレンジが失敗すれば梨紗子さんにさらに1点が入り6-2で残り33秒となるところ。そうなればほぼ絶望的です。勝負のチャレンジです。伊調さん側のセコンドである田南部コーチはマットに上がって抗議したということで一足先に退場処分を受けました。

長い協議の結果、先の画像のプレーで3-1となったあと、伊調さんの態勢は戻っていないということで、再度肩を傾けたことによる梨紗子さんの追加の2点は取り消されます。そして、伊調さんが切り返してあげた1点は残ります。チャレンジが成功したという扱いですので、最終スコアは3-2となって試合再開。伊調さんに可能性が残りました。

ただ、梨紗子さんは先ほどのプレーで2点をあげていますので「1+2」での3点。伊調さんは「1+1」での2点ですので、もしあと1点を取って「1+1+1」の3点にしても、判定ではビッグポイント2点をあげている梨紗子さんが勝ちます。つまり、「残り33秒で相手に1点やっていい」という、梨紗子さんが逃げ切りを狙える状態での試合再開でした。

6月に行なわれた全日本選抜でも同様の展開から「あと1点やってもアタシの勝ち」と理解したうえで、しっかりと逃げ切った梨紗子さん。この日も、その1点をしっかりと使い切って逃げます。間合いを遠くとって伊調さんのタックルを許さず、何かあればすかさずバックステップします。「場外に押し出されての1点はやってもいい」という勝負に徹した戦いぶりです。

終盤に伊調さんが仕掛けたタックルも、梨紗子さんは「場外まで逃げて1点で止めればアタシの勝ち」とわかっていました。ヘンにこらえることはなく、自分から積極的に場外へと進んでいきます。伊調さんはスコア上は3-3の同点としますが、残り2.71秒という時間でもう1点取らないといけない状況。あとは冷静にさばくだけ。川井梨紗子さん、見事に逃げ切って勝利です!

↓積極的だった!そして冷静だった!強い伊調さんに強い梨紗子さんが勝つ、名勝負でした!


これが東京五輪の金銀マッチだったな!

お金払うから現地で見させて欲しかった!




受けの上手さ、懐の深さ、そういった面で伊調さんのチカラはさすが「世界の伊調」でした。しかし、近年見られる攻めの遅さは、やはり勝ち切るには至らない部分でした。先に攻めつづけた梨紗子さんと、それによって2度のアクティビティタイムを課せられた伊調さん。受けているだけならもっと凌げたのでしょうが、アクティビティタイムによって「攻めなければ」と伊調さんが攻めに掛かったところで、ビッグポイントを許す展開になりました。

「攻めなければ」ではなく、「攻めるのだ」の心。

伊調さんが待つ階級へ、伊調さんを倒さねば東京五輪はないと知りながらやってきた梨紗子さんの「攻め」が、この僅差の勝負をわけた理由かなと思います。それは若さであり、勢いであり、伸びしろなのかなと思います。伊調さんを倒した以上、世界選手権でもしっかりと金を獲って、東京五輪でも金を獲ってほしいもの。五輪2連覇、期待しています!


伊調さんの5連覇を止めるなら、東京五輪で金を獲らないとですね!

覚悟の猛攻!「30秒守れば1点」のチャンスに、逆に怒濤の攻めで勝利をつかんだ川井梨紗子さんの「伊調三本勝負・二本目」の巻。

12:00
妹と私のために、伊調と日本と戦う!

世間が何を望んでいるかと言えば、それはもう「伊調馨さんの五輪5連覇」だろうと思います。歴史上かつてない五輪の5連覇。それはもちろん見たい。しかも東京でそれが行なわれるのであれば絶対に見たい。見たい・見たくないで言えば満場一致で見たいでしょう。実際できるかどうかはともかく、そのチャレンジの日を迎えたい、それは東京五輪での大きなテーマのひとつです。

もし、そこに挑みかかり、そのチャレンジを国内代表争いで断とうというのがリオ五輪の金メダリスト・川井梨紗子さんだと聞けば、「待て」と羽交い絞めも発動するでしょう。前回リオでは別々の階級で金を獲ったふたりが、何故わざわざ同じ階級で戦うのか。代表はひとり、メダルはひとつ。ふたりが別々の階級にいけば2個金が獲れるかもしれないものを、潰し合う必要はない、と。「川井、待て」と。冷静に考えろ、と。

だからこそ燃える。

反旗を翻して燃える。

世間様のご希望がどうであるかは知らないけれど、私は伊調を倒す。申し訳ないが、五輪5連覇は大会前に諦めていただく。だって、妹と一緒に五輪に行くのだから。ふたりで金メダルを獲るのだから。かつて日本女子レスリングが積み重ねてきた姉妹選手の歴史、その一角にまさに「伊調姉妹」という偉大なプレーヤーも刻まれているわけですが、歴史は巡り今度は「川井姉妹」がともに五輪を目指しています。そして、それを実現するには梨紗子さんが伊調さんを倒すしかないのです。たとえ相手が日本の期待を背負う最強のレスラーであったとしても。

梨紗子さんと妹の友香子さんは伊調姉妹ほどの体格差はなく、五輪階級で言えばどちらも57キロ級か少し上げて62キロ級(※2018年より階級調整で63⇒62に)かというところ。リオでは梨紗子さんは少し上げて63キロ級での出場を目指し、見事に金を獲りました。それはまさに、「冷静な計算」の上で伊調さんとの被りを避ける選択でもありました。

しかし、友香子さんが十分なチカラをつけ、世界でトップを争うところにまでなった今、ふたりで五輪に出るにはどちらかが57キロ級に、どちらかが62キロ級に行かなければならない。妹さんのほうが若く(当然ですが)、少しだけ身長が大きい。そのぶん適正なサイズも大きく伸ばしていける。ならば、妹を62キロ級に。そして自分が57キロ級に。57キロ級には「伊調を倒す」という五輪金に匹敵する大仕事が待っているわけですが、ふたりで五輪に行くにはそれが一番可能性の高い道。計算と覚悟の上での選択です。

↓川井姉妹の妹・友香子さんは2018年の世界選手権62キロ級で銀を獲った実力者!


さらに昨年の天皇杯と15日の全日本選抜を制して世界選手権の代表に内定!

東京五輪へ大きく前進しました!


↓一足先に妹が世界への切符を決め、姉妹が歓喜の抱擁!

「伊調との戦い」へ向けた自分の調整もあるけれど、それよりも妹を見守ることを優先!

すべてが「ふたりで五輪」につながっている!



東京五輪の選考では何よりもまず2019年の世界選手権が優先されます。ここに出場し、メダルを獲れば即内定。仮にメダルを逃しても5位以内に入れば、2019年の天皇杯優勝で五輪代表に内定します。「絶対」ではありませんが、大きく東京五輪代表に近づくステップです。逆に言えば、世界選手権を逃した選手は自力での出場を失い、「代表選手が負けるのを待つ」しかなくなります。

そして、その世界選手権代表は、2018年の天皇杯と2019年の全日本選抜の結果で決まります。2連勝なら決定、どちらかで優勝すれば優勝者同士のプレーオフへ。まず2018年の天皇杯では伊調さんが57キロ級を制しました。梨紗子さんにとってはもうあとがない、前回金の選手が「五輪ごと逃すかもしれない」という大一番。それが6月16日に行なわれた全日本選抜決勝でした。

↓昨年12月の天皇杯では、1次リーグで梨紗子さんに敗れ「17年ぶりの国内黒星」を喫しながらも、決勝では土壇場の逆転勝利で伊調さんが優勝!

残り1分時点までは2-0で梨紗子さんリード!

そこから残り10秒時点で伊調さんが逆転!

代表争い、五輪争いで先制!




互いに全勝で勝ち進み迎えた決勝、序盤は頭をつけての激しい組手争いから。手で頭を押したり、引き倒したり、相手を崩そうという動きで梨紗子さんが攻勢を見せます。下からもぐって頭をつけ、伊調さんの上体を浮かせていくような構え。受けに回る…というよりは返しの上手さもあって待ち受けている伊調さんの姿勢には「消極的である」という注意が与えられ、「次の30秒間で得点できなかったら相手に1点をあげますよ」というペナルティ…アクティビティタイムが課せられます。まずはここを守り切って梨紗子さんが1点を先制。引きつづき組手争いのまま第1ピリオドは終了し、梨紗子さん1-0リードで第2ピリオドに進みます。

第2ピリオドの開始直後、鋭いタックルで伊調さんの足をとった梨紗子さん。得点にはなりませんが、先に先に仕掛けていきます。若さというアドバンテージで、減量と年齢という厳しさを抱える伊調さんを攻め立てます。そして梨紗子さんの攻勢の結果、再び伊調さんに課せられたアクティビティタイム。「よし、守り切れば梨紗子さん1点追加」と考えるのが常識的な判断です。しかし、計算と覚悟の上でこの戦いに臨んでいた梨紗子さんにとって、むしろそこが攻めへの好機だった。「守り切れば1点と私が思っているだろう、と相手が思っている」虚を突いて、よもやの攻勢を仕掛けたのです。

伊調さんが攻めなければならないはずのアクティビティタイム開始直後、梨紗子さんは鋭いタックルで伊調さんの足をつかみます。伊調さんをタックルで倒すと、さらに足首をつかんでローリングし2点・2点を追加、5-0の大量リードを築きます。攻めるしかない伊調さんがここから攻勢へと回りますが、5点を挽回するには時間が足りませんでした。5-4まで追い上げてのラスト2秒。完全に守りに徹する梨紗子さんに対して、伊調さんは最後のタックルを仕掛けますが、場外に押し出したかに見えた攻撃は残り時間終了の直後でした。仮に押し出されていたとしても、ビッグポイントの差(同点で終わった場合、より得点の高い攻撃を多く決めていたほうが勝つ)によって梨紗子さんが勝っていた展開。そこまで含めて読み切った勝利。自分から攻め、相手の虚を突き、最後は冷静に逃げ切った、梨紗子さんの完勝でした!

↓守れば1点のアクティビティタイムで、攻めて4点奪取!攻めて、伊調を倒した!



「伊調を倒す」ためには守っているだけではいられない!

攻めるチャンスがあればためらわずに行く!

たとえそれが「30秒守れば1点」というアクティビティタイムであっても!




これで東京五輪へつながる世界選手権の代表争いは、7月6日のプレーオフでの梨紗子さんVS伊調さんの三度目の対決に持ち越されました。今度は「勝ったほうが世界選手権」というふたりだけの決着戦。そして、この両者のチカラからすれば勝ったほうが東京五輪代表と言える決着戦、ひいては「事実上の金メダルマッチ」です。五輪以上の戦いが、このプレーオフで行なわれる。東京五輪では絶対に見られない女子レスリング界最高のカード、どう転んでも楽しみです!


「妹と戦う」ではなく「伊調を倒す」を選んだときから、この猛攻は始まっている!

吉田沙保里さんが現役選手を退くことを決めたので、東京五輪開会式での最終点火者として吉田大戦争の勃発待ったなしの巻。

12:44
吉田沙保里さん、33年間お疲れ様でした!

いつかこの日は来ることはわかっていた…というよりは、発表される覚悟を決めた上でせかさず、焦らず、待っていたという気持ち。地上最強の乙女・吉田沙保里さんが33年間のレスリング人生に区切りをつけ、現役を引退しました。リオ五輪以降、試合には出場せず後輩たちの指導にあたっていた姿からは、こうなることは知っていたという未来ではありますが、日本のスポーツ界にとっても大きな節目となりました。本当にお疲れ様でした。ありがとうございます。

↓みんなに愛された偉大な選手、最高に面白いアスリートでした!


「幸せな女性をつかみたい」って圧殺でもするのかよ、と思ったら「女性の幸せもつかみたい」でした!

つかみましょう、男の首ねっこを!

イヤとは言わせないし、たぶん言えない!(※ノドを圧迫されているから)



さて、これでようやく動きやすくなりました。ハッキリ言って吉田さんに休息などというものはありません。本人の気持ちとしてもそうでしょうし、日本としてもそう。今までは「あるいは東京五輪を目指すかもしれない」と思っていたから皆が静かに動向を見守っていましたが、辞めたのであれば早速次の仕事に取りかかってもらわねば。

偉大なレスリング選手である以上に、吉田さんは日本における「五輪の象徴」です。金と言えば吉田さん、五輪と言えば吉田さん、2020年を迎えるにあたって吉田さんのチカラはあらゆる場面で求められるでしょう。そして、吉田さんの性質から考えて、それを断るということは到底考えられません。

2013年、レスリングが五輪の競技から除外されそうになったときに、競技を背負って奮闘したあの姿。100万人もの嘆願署名を集めた人望。「請われれば、立ち上がる」そんな吉田さんの度量もまた、吉田さんが特別であった理由です。2020年があなたを待っている。ようやくあなたのチカラをあてにすることができる。

↓「止められても五輪に出る」という約束、忘れてないですからね!

ただし「試合に出る」とは言ってない!

公約違反するつもりなど毛頭ありません!


まず思いつくのが聖火の最終点火者。吉田さんは旧・国立競技場が解体される前の最後のイベントで、最後の聖火点灯をした人です。僕もそのイベントに立ち会い、吉田さんの聖火点灯を見ましたが、あの日の最終点火者が再び国立の聖火台に火を灯すというのはストーリーとしても美しい。解体前に「この人だろう」と思われた人物なわけですから、その意味では過去のオリンピアンや関係者との比較においてはすでに「吉田さんだろう」という結論は出ているも同然。止められても出てもらおうじゃないですか。

↓最後の聖火をつけた人が、最初の聖火をつける!
DSC00210
吉田さんが手に火を持っているんだぞ!

誰がコレを止められると言うんだ!

クマがたいまつとか持ってたらマタギも「絶対ムリ…」「向こうが武器持ってるのは想定外…」「山が燃えている…」と思うだろう、そんな気持ち!




さて、吉田さんだろうということを念頭に置きつつ、過去数大会を振り返っていきます。過去の傾向を踏まえつつ、被りを避けつつ、さらに東京らしいインパクトのある点火を編み出さねばなりません。吉田さんであれば少々の無茶も通るでしょうし、ひろーーーーく考えていきたいもの。

↓近年の夏季五輪最終点火はこんな感じでした!
●1992年バルセロナ五輪
アーチェリーのパラリンピアンであるアントニオ・レボージョさんが炎の矢を放って点火。

●1996年アトランタ五輪

ボクシング金メダリストでもあるモハメド・アリさんが最終点火者。五輪のメダルを捨てたという逸話を持つ人物、パーキンソン病を患いながらの点火ということで、大きな話題となる。

●2000年シドニー五輪
先住民族アボリジニ出身の陸上選手キャシー・フリーマンさん(この大会で金、登場時は前回大会の銀メダリスト)が最終点火者。滝を背景に水に覆われた聖火台に点火するという幻想的な演出。

●2004年アテネ五輪

セーリングの金メダリストであるニコラオス・カクラマナキスさんが最終点火者。階段をのぼったら、聖火台がお辞儀をするように降りてきて、それに火をつけた。

●2008年北京五輪
体操で3個の金を持つ金メダリスト李寧さんが最終点火者。ワイヤーで空を飛び、競技場を一周してからの点火。

●2012年ロンドン五輪
ボート競技で5個の金を持つ金メダリストであるスティーヴ・レッドグレーヴさんからトーチを受け継いだ、7人の若手選手が最終点火者。7ヶ所から火を放ち、その炎がひとつになって点火された。

●2016年リオ五輪
アテネ五輪マラソンの銅メダリストであり、レース中に暴漢に襲撃されたという逸話を持つバンデルレイ・デ・リマさんが最終点火者。演出は階段をのぼって聖火に火をつけるというオーソドックスなもの。

こうして見るとメダリストでなければいけないととか、オリンピアンでなければいけない、いうことでもない!

「苦境を跳ね除け、未来へ進む人間の強さ」とか「五輪を象徴する国民的英雄」とか、ストーリーのほうが重視される!


うむ、やはり吉田さんでしょう。

金の数だけであれば北島康介さんや、野村忠宏さんなども挙がるでしょうし、「イチロー!」とか「長嶋!」とか言い出す戦闘的野球ファンもいるかもしれません。一周まわってすごいヤベーことになりそうな感じもありますが、貴乃花にたいまつ持たせて国立競技場を徘徊させるなんてことも絶対ダメという話ではありません。オリンピアンでなくてもいいのですから。

しかし、「五輪を象徴する国民的英雄」というまっとうな視点で考えれば吉田さんでしょう。ほかに思い浮かぶ「英雄」はまだ現役選手であったり、冬季の選手であったり、組織委員会の人間であったりします。内村航平さんが引退するようなことでもあれば、これは相当な議論となるでしょうが、まぁ、今のところ吉田さん一択。

となれば、あとは吉田さんらしく、東京らしく火をつける演出方法のみ。これについても、もはや議論の余地はないでしょう。誰しもが思うイメージを、いかに本番の競技場で再現するか、「技術」のほうにこそ課題があります。これからの残り時間、そのイメージに向かってまい進するのみ。何なら、そのイメージを実現する前提で絶賛建築中の国立競技場を魔改造してもいいくらいです!

↓ディティールは詰めるとして、大体こういう話ですよね?
最終点火者としてトーチを受け継いだ吉田さん。

しかし、にわかに暗雲がたちこめ、不穏な地響きが起こる。あろうことか新・国立競技場にゴジラが襲来したのだ。ゴジラの攻撃によって競技場各地で起こる爆発(※花火です)。世界のVIPとオリンピアンがこのままでは危ない!こんなことになるなら北朝鮮の国家元首も呼んでおけばよかった!あぁ全員死んじゃう!

「そうはいかないぞ!」

力強く、勇敢に響く声。吉田さんがトーチを持ったまま聖火台に向かう階段を駆け上がる。トーチを天に掲げれば稲妻のような閃光がトーチの先端からほとばしり、光の巨人が現れたのだ。

「あ、あれは…」
「安心戦隊ALSOK!」
「安心戦隊ALSOKの正体は吉田さんだったのか!」

身長40メートル体重2万5千トンくらいの吉田さんはゴジラの放つ熱線を背中で受け止めると、「私を焼こうと言うなら、太陽でもぶつけてみるんだな」と涼しい顔。ゴジラと正面から組み合うと、いきなりの高速タックルでテイクダウン!!ゴジラのバックを取って頸動脈を締め上げます。

しかし、ゴジラもさすがの大怪獣。背中から放つ熱線と尻尾による殴打で吉田さんをはね除けると、あたりかまわず熱線を吐き出します。吉田さんはALSOK走りで高速移動し、身を呈して熱線から人々を守りますがパワードスーツは炎に包まれていく…。

「このままでは吉田さんが!」
「吉田さん死なないで!」
「不死身だと思うけど死なないで!!」

人々の悲鳴のような祈り。その声に吉田さんは「大丈夫、服が燃えてるだけだから」「服、関係ないから」「強いのは私で、ただの服だから」とニッコリ微笑み、炎をまとって浮遊します。エターナルフレイムモード(※火だるまの意)へと移行した吉田さんは、中国の故事で鳳凰と呼ばれた飛翔形態となってゴジラへと渾身の高速タックルを決め、見事に斬首!!

勝鬨の声を響かせながらゴジラの首を拾った吉田さん。パワードスーツが燃え落ち、全裸となった肉体は神々しく、このシーンは世界から「ターミネーター」と呼ばれました。吉田さんは、ゴジラの首を握りつぶし、残ったわずかな熱線を吐かせるとその炎で聖火台に点火。「いや、それじゃリレーにならないんだけど…」という世界の声を笑顔で受け流し、天空へと帰って行くのでした。開会式に出演していたジャニーズを何人かわしづかみにして……。


技術、技術だけです!

やりたいことは決まってるんだから、専用のスタジアムに魔改造すればいい!

プロジェクションマッピング用の壁とか!




とにかく、吉田さんにはこれからもご活躍いただきたいもの。現役を退けば終わりなんて考えは古く、偉大な人物は次のステージでさらなる活躍をしていくのが、日本社会の未来モデルです。50歳、60歳、100歳…吉田さんならばあるいは150歳くらいまで、戦いつづけても不思議はありません。昨今のスポーツ界のパワハラ問題とは別次元で、「会長と握手したら指が全部折れた」などの無意識のパワーアクシデントみたいなものを巻き起こすトップとして、今後のご活躍をお祈りしています!


2020年、開会式のスタジアムで吉田さんの炎に焼かれたいです!

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婦人公論 2017年 12/27、1/6 合併特大号

僕は自分が見たことしか信じない 文庫改訂版 (幻冬舎文庫)

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