スポーツ見るもの語る者〜フモフモコラム

平昌五輪

ボブスレー・ジャマイカ女子代表がドーピング陽性となったらしいので、下町ボブスレーの頓挫もめでたくノーカウントの巻。

12:00
下町ボブスレーセーフ!セーフ!セーフ!

関係者にとっての大朗報が飛び込んできました。町工場のチカラを結集してソリだけ五輪出場を目指す下町ボブスレープロジェクトが支援し、決別し、金だけ吸われた相手・ジャマイカの女子ボブスレーチームが平昌五輪前に実施されたドーピング検査にて陽性反応を示したというのです。



検出されたとされるクレンブテロールは蛋白同化薬、いわゆる筋肉増強剤の一種で、陽性ということになると4年資格停止となる違反です。元記事であるロイター通信の報道では、まだB検体のテストはされていないということですので、確定までには少し時間がかかるでしょうが、同じタイミングの尿なのですからA検体で出てB検体で出ないということは基本的にないのがドーピングテストです。早晩、資格停止並びに平昌五輪からの記録抹消がなされるでしょう。

これは日本からソリだけ五輪を目指していた下町ボブズレープロジェクトにとっては大朗報と言えるものでしょう。「あぁなんだ、どっちみちダメだったやん」という決着は、自分たちの能力不足・努力不足・運不足を悲嘆させることなく、いっさいがっさい「なかったこと」にさせてくれます。それはさながら寝坊して慌てて駅に向かったら電車が止まっていたときのような気持ち。「すみません、電車がクソでして…」と会社に電話をするとき、そこに寝坊したかどうかは関係なくなります。寝坊ノーカウントです。

これにより、一旦は頓挫したプロジェクトにも再度やる気というものが生まれます。「ジャマイカはクソだったわけであるが…」から始まるプロジェクト再決起集会では文字通りの怪気炎が上がり、「もっとまともな国を見つけよう」「まともで貧乏でスポンサー企業が存在しない国がいい」「いやむしろ、30人以下の国際大会に出場しつづけて出場権だけ獲るみたいなクソルートで五輪を目指してくれる国を見つけよう」などと、ソリをどうこうではなく、国をどうこう議論で盛り上がるはず。

ちなみに、ボブスレーの出場権は基本的に世界ランクで決まりますが、大陸からひとつも出場国が生まれなかった場合に「大陸枠」として与えられる枠があります。ろくすっぽ国数がないわりに大陸然としているオーストラリアとか、平昌大会でも明らかに一大陸だけチカラが劣っていたアフリカ大陸の国とかを狙っていくとクソルートの開拓ができるかもしれませんね!やっちゃダメな気がしますが、可能・不可能で言えば「可能」ですよね!

昔のエラい人は言いました。二度あることは…じゃなくて、「三度目の正直」と。

ソチと平昌はダメでしたが、五輪はこれからもつづきますし、下町もなくなったりはしません。2022年北京五輪へ。二度目の挑戦では限りなく五輪に近づき、ソリも関係者も現地までは行ったのですから、三度目ではもっと近くまでいけるはず。僕はそういう諦めない姿勢に共感する者であり、諦めずに努力をつづける姿にこそ真実の愛は宿ると理解する者です。

ここで諦めれば「所詮は自己顕示欲か…」「部品にも製造者名を入れたい派…」「日本人ボブスレー選手はひとりも知らないけれどソリを製造しているグループの人間には見覚えがある不思議…」と思っている世間も、何度も立ち上がる姿には共感してくれるでしょう。そして、そういう姿にこそ「物作り」の精神は宿るはずです。できなくても、できなくても、できるまで諦めない。不可能を可能にしてきた職人魂が。

先日放映されたテレビ東京系の報道風企業宣伝番組「ガイアの夜明け」にて、下町ボブスレー関係者はジャマイカ女子チームの元コーチからこんなことを言われていました。「あなたはソリに乗ったことがないでしょう?まずはその経験が必要ね」「ボブスレーのことを知っている人の話をもっと聞きなさいよ」と。

それを言ったのはボブスレー大国ドイツで五輪の金・銀を獲ったサンドラ・キリアシスさん。番組では陰謀論の首謀者みたいな取扱いをされていましたが、少なくとも日本人の誰よりもボブスレーを知っている人物です。製造者がソリに乗ったこともなく、ソリに乗ったことのある人が誰も五輪用に選んだことがないソリをどうして信用できるのかというサンドラ氏の指摘は、全世界共通でまっとうな話のはずです。

使う人があってこその道具であり、人が使ってこそ道具の完成というものはあります。「ガイアの夜明け」内でも下町のソリをテストした「ジャマイカ代表女子選手」「オーストリア人のジャマイカ代表メカニック」「オーストリア代表女子選手」からレビューがなされていましたが、三者に共通していたのは「下町のソリはハンドルが敏感である」ということ。

好意的にとれば繊細なコース取りが可能であるということでもありますが、端的に言えば「ちょっとした操作で左右にブレやすく、少しでも操作をミスすればすぐに壁にぶつかる」という意味でもあります。ボブスレーのレースで差がつくのは壁にぶつかったかどうかです。壁に接触して氷を削れば、それでテキメンにタイムは遅くなります。ちょっとぐらい最高速が速くても壁に当たれば意味がなくなるのです。それは特に、操縦が下手な選手にとっては重要なポイントでしょう。

それこそまさに「ユーザーの声」であり、ユーザーの声に対応できないのは、用具メーカーの能力不足・努力不足なのです。今大会で結果を残した選手からの用具メーカーへの感謝の言葉は、何度も何度も微調整に対応してくれたことや、自分好みのものに仕上げてくれたことなど、性能面だけでなくサポート力についてのものが多く聞かれました。自分の作りたいものではなく、選手の欲しいものを提供する、それがアスリートファーストの精神。選手は「私が乗ったときに速いもの」が欲しいのです。性能や仕組みやらはどうでもよく、「私が乗ったときに速いもの」が。

たとえ扱いが難しくても、使ってみて「これは速い」と思えば使うのです。「扱いは難しい」「大して速くもない」であれば使わないのは当然です。その「ユーザーの声」を吸い上げるタイミングが、出場権を獲りにいくワールドカップや、五輪本番直前の試走では遅すぎるのは当たり前の話。もっと早い段階で、もっとたくさんの声を聞かなければ、使いたいと思われるソリはできません。

幸いなことに、今回の挑戦失敗は「性能云々ではなく不可抗力的にどのみち失敗であった」という話におさめられそうです。これはノーカウント。ノーデス。ノーゲームオーバーです。北京までは4年あり、まだまだ十分な時間が残されています。ぜひ、自分たちのソリを北京に送り込むためではなく、選手を…できれば日本のボブスレー選手を北京に送り込むために頑張ってもらいたいもの。

長野五輪のレガシー・スパイラルが運営を休止したことにより、日本のボブスレー選手は国内で練習することができません。彼らを海外に送り込み、練習を支援するサポートを行ない、その代わりと言っちゃなんですが下町に対するたくさんの「ユーザーの声」をもらっていきたい。そして、日本の選手たちが「このソリなら出場権が獲れる」と思える製品になっていきたい。

僕は下町ボブスレーについてなまあたたかい視線で6年見守ってきていますが、日本のボブスレー界にとって下町は貴重なチカラなのです。「ボブスレーなどあってもなくてもどうでもいい」というのが国民の全体的な気持ちであるなかで、下町にはボブスレーへの情熱があり、それを支えるスポンサーもいるのです。日本に残った最後のボブスレーの火と言ってもいい。ぜひそれが、同じ日本の選手のチカラになるような形で、燃えつづけて欲しいと思います(※炎上を期待しての嫌味ではなく)。

「日本のソリに乗る日本の選手が、日本のソリがめっちゃ速いことで大活躍」というストーリーのほうが、単にソリが出場するよりも何倍も感動的な物語のはず。そんな物語があってこそ、このプロジェクトが真にボブスレー界からも愛されるものとなるはずです。もっと大きなストーリーと、そこに向かうもっと大きな情熱で、頑張っていってもらいたい。「ジャマイカはクソであったわけだが…」から始まる再起に、僕は期待しています!

↓なお、本件とは全然関係ありませんがボブスレー関係ではロシアの選手もドーピングで陽性だったそうです!
<ドーピング検査で陽性反応を示したロシアのボブスレー女子代表チーム>


<その陽性反応を示した選手がロシアに対する処罰への不服を示すために着ていたメッセージシャツ>

こりゃロシアへのソリ提供は止めたほうがいいですね!

ま、向こうも日本のソリには興味ないでしょうが!




「絶対バレないクスリを下町の技術で作ろう!」という超展開にも期待!

平昌五輪閉幕!日本選手団の「対魔物ほぼ全勝」と言える素晴らしい戦いぶりが、明るい未来につながりますように。

12:30
最高に楽しい五輪でした!

17日間ちょっとの熱い戦い、平昌五輪が終わりました。開催が決まったときから懸念していた運営側不手際による人災はおおむね回避され、選手たちにとっても納得の五輪になったのではないかと思います。平昌のみなさん、大役お疲れ様でした。

25日には閉会式が行なわれ、華やかに大会の幕が閉じました。僕も2020年を担う東京の一員として、次は自分たちが…という気持ちで見守りましたが、非常に安心できる、心強い内容となっていました。

まず、開会式とともに大きな学びとなったのは「映像に頼る」という大方針。地面全体にプロジェクションマッピングで事前に用意した映像を流せば、その上に乗ってやっていることが多少パッとしなくても全然大丈夫である。「韓国だからショボそうやのぉ…」という疑いの目で見ても大丈夫であったことは、大きな勇気をくれる実例確認でした。

もちろんよく考えて似たようなものと比較すれば、ショボいものはショボいのでしょうが、この規模のセレモニーを見る機会などそうそうありませんし、「4年前はどうだったっけ…」なんて覚えている人もいないでしょう。映像さえしっかりしていれば大丈夫。ならば日本は大丈夫。映像に関しては、それなりに自信がありますからね。

↓映像と光を最大限に活用して盛り上げる平昌五輪閉会式!


おっ、序盤に「冬スポーツを模したスケーターが光と映像の演出で踊る」という場面があるな!

誰でも思いつきそうなことだがアリだな!


↓閉会式中に行なわれた次回・北京五輪のセレモニー!



うわっ、「冬スポーツを模したスケーターが光と映像の演出で踊る」という場面があるじゃないか!

誰でも思いつきそうなことは止めてもらえませんか!

カブってるネタを、ちょっとクオリティ高くやるの止めてもらえませんか!

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チビっ子ギタリストの調べに乗せて華やかに始まったセレモニーは、閉会式らしい和やかさ。やたら大挙して訪れたカナダ選手団、フィギュアスケートのリフトで登場してきたフランス選手団ほか、閉会式の伝統に則って国や地域の区別なく、ゾロゾロと選手たちが入ってきます。統一コリアの名のもとに開会式ではひとつの選手団として入ってきたはずの韓国・北朝鮮が、閉会式ではキッチリと分裂して入ってきたのは「ですよねー」と思いましたが。

日本勢も多くの選手がこの閉会式に現われ、華やかな式典を楽しみます。大活躍のスピードスケート選手団、歓喜のメダルを獲得したカーリング女子、最終日にエキシビションを演じて締めくくったフィギュアスケート選手団、絶対に閉会式に出たいという強い気持ちで現地に踏みとどまったアイスホッケー選手団…今大会を彩った面々が笑顔でいっぱいです。

↓この普段づかいが難しそうな色のウェア、すごく目立って大成功でした!

どうせ、普段づかいなんかしないもんな!

だったら、セレモニーで見つけやすくて目立つほうがいい!

帽子と手袋とブーツとマフラーは単品でそれぞれ使いますね!



インテルから借りたドローン。パナソニックから提供された映像投影設備。自分たちで作ったと思しき光る亀。入場した選手たちを、再び光と映像がお出迎えするとセレモニーは中盤へ。まずは最終日の一部種目に対してのメダル授与が行なわれます。クロスカントリーのメダリストが表彰台に乗り、メダルを受け取る。そして国旗を掲げて国歌を演奏する。何とも誇らしいセレモニーです。

東京も大会日程に若干の手心を加えまして、最終日の最後のほうに「コレは絶対勝てるやろ」的な種目をおしこめるなど、ここに日本の選手を立たせたくなってきます。もちろんマラソンで勝てば東京五輪閉会式でメダル授与ができますが、勝てない気がするじゃないですか。そうだ、最終日の夕方に空手の形種目をやるといいかもしれないですね。空手・形はさすがに絶対金でしょうからね!日本が「コレが金の演技」って言い張れば、それが正しいのかどうかなんてわかりゃしないでしょうからね!

その後もお祝いの宴はつづきます。知らない歌手の歌、知らない子どもの歌、そしてネタがカブっていた北京五輪のお招きセレモニー…素晴らしい時間の連続。特に北京五輪のステージでは映像の美しさやディスプレイの演出効果もさることながら、何と言ってもご飯が美味しそうです。お招き映像に映る北京ダック、水餃子、鍋…早くも4年後が楽しみになるようです。

エラい人挨拶と小平奈緒さんらアスリート代表を招いての韓国への労い、地元スターの熱演を挟むと、いよいよセレモニーもクライマックスへ。開会式に登場した子どもたちが巨大なスノードームを持ち込むと、そこには平昌の景色が。そして、ステージ上の映像には平昌五輪の名場面が。日本関連からも羽生結弦氏に投げ込まれた大量のプーさんの映像が紹介されました。「そこか…」という気持ちで胸もいっぱいになります!

さぁ、いよいよ閉会式最大のイベント・聖火消灯へ。映し出された雪の結晶が聖火台のほうへ向かっていくと、中継を担当するNHKのアナも「どうやって聖火を消すんでしょうね」「これはリハーサルでも見ることができませんでした」「私たちも知りません」と前のめり。しかし、雪の結晶がステージに到達すると…!

↓聖火台のガスの元栓が、静かに閉じられた…!(3分50秒から)


「どうやって聖火を消すんでしょうね!」
「これはリハーサルでも見ることができませんでした」
「私たちも知りません!!」

(NHKドキドキ)

(運営サイド、元栓を閉める)

「選手たちを見守ってきた聖火が、今消えました!」
「静かに消えましたね…!」
「聖火は消えても思い出は残ります!」

ハシゴを外されたwwww

ツボを爆破するとか、ツボを宇宙に発射するとか何かなかったかなwww



最後は世界的だというDJの演奏で壮大なダンスパーティーへ。選手たちもスタンドから降りてダンスに加わります。たくさんの思い出を作ってくれた平昌が終わっていきます。よかった、予想より平穏に終わった。少々の事故等はあったものの、最後にバッハ会長が「今大会中の例の事件を悼んで黙祷」とかする展開にならなかったのは、本当によかった。ありがとう平昌、よろしくね北京。次は夏の東京でお会いしましょう!



とうとう終わってしまった平昌五輪。あっという間の17日間でした。個人的にも今回はなかなか充実の観戦となりました。放置していた会社の仕事を思うと憂鬱ですが、それも自分の人生の選択として受け入れ、五輪が終わったあとの日常に戻ろうと思います。

今大会、日本勢は大躍進でした。過去最高のメダル獲得はもちろんですが、多くの選手、いやほとんどすべての選手が「このぐらい頑張れるだろう」というチカラを発揮していたと思います。メダルの個数は「獲れそうなもの」「もしかしたら獲れるかな?」をしっかり獲ったものであり、「失った」と表現するに値する結果はありませんでした。対魔物、全勝と言ってもいいくらい。素晴らしい奮闘だったと思います。

しかし、これを当たり前に思うのはいましめないといけないと思います。これらの結果は、そうなるべきシステムが敷かれたうえでのことではなく、選手・親・周囲の人々が人生を懸けて奮闘したからのものです。どこかの子どもが決断し、どこかの親がサポートし、どこかの企業が商売抜きでお金をあげた。そういう「持ち出し」の積み重ねであろうと。

それは言うなれば長野の遺産なのかなと思います。あれから20年、あの感動を知る子どもがキャリアハイを迎え、あの感動を味わった人々の子が大人になった、そんな時の流れが実りとして再び戻ってきた。あの大会を経て「こういう人生」を選択した人がたくさんおり、持ち出しの連続・不断の努力でここに至ったのではないかなと。そして僕らはそれを「へー、頑張ってる人がいるんだなぁ」と見て楽しんだのではないかなと。そういうことなんじゃないかと思っています。

今大会、印象的だった言葉として小平奈緒さんの「氷とケンカしない」や、カーリング女子の「氷と戦う」といったものがありました。なるほど、冬のスポーツは雪や氷があってこそというものばかりです。自分よりも、相手よりも、まず最大の存在としての「雪や氷」と戦わなければ何も始まらないのです。

しかし、雪や氷がある場所は限られており、雪や氷に触れるためだけでも大変な労力と費用を要するというのが現実です。ソリ競技に至っては、日本唯一の競技場である長野五輪のレガシー・スパイラルが「使う人もいないし、お金もかかるから運営止めるわ」となったことで滑れなくなりました。コースはないのに下町にボブスレー作りをする人はいる。どこで滑るのかわからないソリがたくさんの企業の支援で作られている。何も日本全国でいつでもスキーやスケートが楽しめるようにまでなればいいとは思いませんが、もっと雪や氷と戦いやすくしてあげられないものかなと思います。

結局のところ、どれだけ練習できるかで勝負というのは変わってきます。スピードスケートは異例の300日合宿をしたそうですが、300日も合宿すれば強くなるとわかっていても、そうできないのが現実です。多くの競技で見られる「持ち出しの連続で結果を残す」⇒「支援が集まり、練習に集中できる」⇒「さらに大きな結果を残す」というサイクル。この「結果⇒支援⇒結果」という順番を、「支援⇒結果⇒支援」にすることがシステムなのだろうと僕は思います。そうなっていくきっかけに、この頑張りがつながればいいのになと。

決してそうはなっていないなかでも、たくさんのものを持ち出してここにきた選手・関係者のみなさん、本当にお見事でした。

この素晴らしい思い出がきっかけとなって、未来の選手たちがより「雪や氷と戦いやすくなる」ことを祈ります。


つづいて平昌パラリンピックは来月9日開幕!そちらも楽しみましょう!

睫敞帆さんは睫攤敍瓩気鵑遼紂日本初の冬季五輪複数金メダル獲得女性となり、睫攤敍瓩気鵐譽献Д鵐匹望些福

07:00
睫敞帆さんは「睫攤敍瓩気鵑遼紂廚任后

「当たり前やんけ」「ずっと前からそう」「生まれたときから何ひとつ変わってない」というツッコミが連打されそうですが、それぐらいの偉業を菜那さんはやってしまいました。冬季五輪で金2つ、しかも一大会、しかも女子。これは日本では過去に誰も成し遂げていない、レジェンドクラスの大偉業です。もはや美帆さんのオマケなどとは言わせない!

これまで冬季五輪で金を複数回獲った選手は、日本には菜那さんを入れて5人しかいません。アルベールビル・リレハンメルのノルディック複合団体メンバーである荻原健司、河野孝典の両氏。長野五輪でスキージャンプラージヒルと団体を制した船木和喜さん。フィギュアスケート男子シングルでソチ・平昌を連覇した羽生結弦氏。そして、平昌五輪でスピードスケートチームパシュート・マススタートを制した睫攤敍瓩気鵝これしかいないのです。女性はもちろん菜那さんひとりです。

ノルディック複合団体は「ジャンプ飛びすぎ」の時代性、スキージャンプは「地元開催」という優位があると考えると、これはもう羽生氏か菜那さんかということになってきてもおかしくない。国民栄誉賞という話が急激に出てきたとしても不思議はない。それぐらいスゴイことになってきました!

菜那派:「清水宏保クン!ここへ」
菜那派:「キミは金何個かな?」
菜那派:「あぁ、1個」
菜那派:「はい、戻ってよーし」
菜那派:「原田雅彦クン!ここへ」
菜那派:「キミは金何個かな?」
菜那派:「あぁ、1個」
菜那派:「ほぼほぼ獲ってたヤツがある?」
菜那派:「リレハンメルの団体戦?」
菜那派:「でもアレは、キミが落下したやん」
菜那派:「レジェンド葛西の金を銀に変えたやん」
菜那派:「はい、戻ってよーし」
菜那派:「小平奈緒クン!ここへ」
菜那派:「キミは金何個かな?」
菜那派:「あぁ、1個」
菜那派:「ということは」
菜那派:「スピードスケート史上で」
菜那派:「一番金をたくさん獲った」
菜那派:「日本選手は誰でしょーうか?」
菜那派:「はい、戻ってよーし」
菜那派:「睫敞帆クン!ここへ」
菜那派:「キミは金何個かな?」
菜那派:「あぁ、1個」
菜那派:「銀と銅はある?」
菜那派:「合計3個だから勝ってる?」
菜那派:「すまんのぉ」
菜那派:「五輪では金の個数が最優先なんよ」
菜那派:「各国メダルランクもそうなんよぉ」
菜那派:「はい、戻ってよーし」

まぁ、さすがにここまで下衆が登場すると「そもそもマススタートとは」「その種目いる?」「何か納得いかない」みたいな話にされそうなので、どこかで折り合いをつけないといけませんが、これぐらいの暴言を言っても一応の筋が通るくらいのことを菜那さんはやってしまいました。レジェンド・オブ・レジェンドの位置に一気に上り詰めた。コバンザメのように後ろにくっついた走法で!

↓ゴメン菜那さん!「メダル獲れ」っては言ったけど、メダル獲るとは思ってなかったわ!

正直、応援馬券で100円買うくらいの気持ちやった!

世界距離別選手権・銀の実績を舐めてました!

お詫びにこの場で死にます!ギニヤー!



ムクッ、不屈の邪心で生き返りました。いやー、それにしてもサプライズでした。まったくゼロとは思ってませんでしたが、金だなんて。本番にだけ妙に強いタイプ(※例:里谷多英さん)ってのがいるものですが、菜那さんもこの大本番に合わせてくる稀有なる能力の持ち主だったとは。

迎えた準決勝、菜那さんは完璧なレース運びでした。

マススタートは12名から16名というとても大人数の選手が一度に滑って着順を競うというもの。ただ、単に速ければいいということではなく、自転車競技のポイントレースのように「特定の周回ごとの上位選手にポイントを与える」という特別なルールがあります。

準決勝では、上位8名が決勝への切符を得ますが、その順番の決め方は着順ではなくポイント順。もちろん1着入線なら60ポイントという高得点をゲットし、ほかの選手がどう頑張っても「1着がポイント順でも1番」ということにはなるのですが、大事なのは上位8名に入ることだけ。

菜那さんはスタート後、中団前目の競馬で言う「好位」につけ、馬群のなかに入って足をじっとためます。パシュートの際にも紹介しましたが、菜那さんはこのコバンザメをやるときに無類の強さがあり、小さな身体をすっぽりと他選手の後ろに入れてラクをします。

そして菜那さんはダラダラーっと3周滑ると、4周目のトップ選手がもらえる5ポイントの小ボーナスを狙ってスパートします。そして、その5ポイントを獲ったあとは馬群のうしろで周回遅れにならない程度にダラダラーっと滑り、スタミナも使わず、もらい事故も避けて、準決勝そのものをやり過ごしました。完璧なレース運びでした。



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そして、迎えた決勝。菜那さんにとって、若干の不都合もありました。準決勝2組に登場した佐藤綾乃さんがもらい事故で敗退したため、日本勢ふたりでチームを組んで滑るという策はできなくなったのです。「なるほど、競馬で言うとサトノが2頭出ししようとしたら1頭除外されたみたいな話ですね!」。わかんないと思いますけど、そういう話です。

しかし、菜那さんは類稀なるレースセンス、展開の読みを持っていました。改めてレースを見直すと、菜那さんはスタートからずっとオランダのスハウテンをマークしていました。スタート直後には激しい位置取り合戦でスハウテンにコバンザメしようとしますが、そこに同じオランダのファンデルバイデンが寄せてきて菜那さんを押し出します。「2頭出しでブロックかよ!」と競馬場のオヤジからも野次が飛ぶような作戦です。

それでも菜那さんは焦りません。そのうちオランダのふたりは助け合いを始めることはわかっているのです。ファンデルバイデンの背中にぴったりつきながら、流れのなかでポジションを探ります。エストニアの選手が大逃げを打ちますが、もちろん菜那さんはガン無視です。中途半端に目先の変化に引きずられるのではなく、実力者だけを徹底的にマークする。見立てのいいジョッキーの競馬のような、素晴らしいレース勘。

そしてしばらくカメラが先頭の大逃げを映している間に、菜那さんはお目当てのスハウテンにコバンザメしていました。スハウテンはそれを嫌って大きくカーブで膨らみ、ついてこないでくれというコース取りをしますが、菜那さんは背中に軽くタッチしながらしつこくついていきます。すごく、イヤなレースするジョッキーです!

すると今度は、オランダはファンデルバイデンを前に出して全体のペースアップを図るような動き。ペースを上げて、後方で足をためたスハウテンが差し切る…そんなイメージでしょうか。しかし、菜那さんはあくまでも徹底的にスハウテンをマーク。絶対にスハウテンの後ろをどかないという意志の強さを感じます。ちなみに、菜那さんの後ろには韓国のキム・ボルム(※パシュートで仲間を置き去りにして涙の謝罪会見をやらされた選手)がずっとくっついてきています。3選手がトレイントレイン状態です。

やがて全体のペースが上がり、勝負はクライマックスへ。それでも菜那さんは動かない。絶対にスハウテンの後ろから動かない。これがワールドカップであれば、イタリアのロヨブリギダにコバンザメしたのでしょうが、五輪の戦いはまた別。複数の種目をこなしてここにきたロヨブリギダよりも、この一戦にだけ絞ってきたスハウテンこそが最大のライバルと見定めていた。競馬で言うと、「天皇賞・秋とジャパンカップ使ってきたスペシャルウィークよりも、有馬一本の仕上げのグラスワンダーをマークする」みたいな予想屋としても一流の読みでした。

オランダのファンデルバイデンは後方に沈み、もはやスハウテンを助ける僚馬はいません。菜那さんはどこで差すか、その機会をじっとうかがっています。残り1周の鐘を前に、オランダのスハウテンがスパートするも、菜那さんは素早い反応でピタリとマーク。向こう正面の直線も後ろで風除けを最大限に使うと、各馬3コーナーから4コーナー!

先頭を行くスハウテンは外に大きくヨレると内ラチ沿いに進んでいたタカギナナがするするっと抜け出して先頭に!後ろからはキム・ボルム!スハウテンは大きく外をまわってしまった!タカギナナ!キム・ボルム!タカギナナ!キム・ボルム!もう一度外からスハウテンだ!スハウテンが伸びてきた!タカギナナ斜行してブロック!スハウテンの頭をおさえた!タカギナナ今1着でゴール!2着争いキム・ボルムとスハウテンはわずかに内、キム・ボルムが優勢か!お手元の勝馬投票券はお捨てにならず、確定をお待ちください!!

↓1着はタカギナナ!単勝は320円!馬連9番11番は860円、3連単9番11番7番は5460円でした!


配当は何となくこんな感じかなというイメージです!

そしてインタビュー用のカメラで毛並を整えるタカギナナ!

前髪直ってるのか直ってないのか、全然わかりません!

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いやー、見事なレース運びでした。これまでもこの種目では「睫敞帆さんを徹底的に風除けにして、妹のアシストで銀」とか、逆に「自分がマークされるだろうから、ペースを落として集団を引きつけ、美帆さんを大逃げさせる」などのレース運びにより国際大会で数々のメダルを生み出してきた菜那さん。「競馬は展開」という真理、改めて本当にそうだなぁと思わされました。

もう菜那さんに対しての想いというか、僕のえこひいきな気持ちはパシュートのときにポエムっぽく言ってしまったので、特に追加はありません。ただただ嬉しいし、ただただ驚いている。そして、「いい根性してんな!」と改めて感心しています。この勝負根性が全妹のタカギミホにもあれば、三冠は間違いなかったであろうと思うほどに。

今大会、もしもMVPを決めますよという話になったら、それぞれいろいろ意見はあるでしょうが、金2つという金看板の前では菜那さんを上回るのは難しいでしょう。そりゃあもちろん国民が誰を見たかと言えば、羽生結弦氏であったり高梨沙羅さんでしょう。しかし、視聴率とアカデミー賞が一致しないように、それはそれ、これはこれの別の話。

睫攤敍瓠睫攤敍瓠睫攤敍瓠

8年間「睫敞帆の姉」と呼ばれてきた選手は、日本スポーツ史に残るレジェンドになりました!

名前だけでも憶えて帰ってくださいね!


菜那さんが競馬場で馬券を買う企画とか見てみたいです!

銅メダルだね!そだねー!とにかく明るいロコ・ソラーレが日本カーリング史上初の銅メダル獲得でいいと思うーの巻。

00:00
負けてやらないことを考えていたら、相手が先に負けていた!

平昌五輪もいよいよ佳境。過去最高の個数のメダルを獲得する実り多い大会の最後に、日本をパッと明るくする眩しい銅メダルが届きました。カーリング女子日本代表、ロコ・ソラーレ北見の日本カーリング競技史上初のメダル獲得。事前にある程度メダル獲得の見込みを立てていた僕の想定でも、このメダルはカウント外でした。世界選手権・銀のチームへの敬意がないわけではありませんが、もし獲ることがあれば「サプライズ」だなと。

とにかく明るかったこのチーム。トリノ五輪以降、カーリングは少なからず明るく楽しいイメージを定着させてきましたが、そのなかでもとにかく明るかった。特にサードをつとめた吉田知那美さんの太陽のようなにっこにっこにーの笑顔。「とにかく明るい吉田知那美」だった。人生をかけた緊張の戦いのなかで、こんなに素敵な笑顔が見られるなんて、何だかとてもうれしくなるくらいの。

試合が始まるときはいっぱいの笑顔のロコ・ソラーレ。

でも、試合が終わるとよく泣いていたロコ・ソラーレ。

予選リーグの最終戦・スイス戦でチカラ及ばず大敗を喫したあと、知那美さんはやっぱり泣いていました。ずっと記憶に残っていたソチのあとの悲痛な涙、チームから戦力外通行を受けたときと同じ泣き顔で。でも、最後の最後、3位決定戦が終わったあとに知那美さんが、藤澤さんが、夕梨花さんが、鈴木さんが、本橋麻里さんが流した涙は嬉し涙でした。笑って泣いて笑って泣いたチームが、最後の最後に笑いながら泣くなんて!


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「そだねー」「いいと思うー」「ナイスー」…この大会を通じて聞いたたくさんの言葉。彼女たちの言葉は誰かのアイディアや誰かのプレーを決して否定しません。別案があれば「こういうのもいいんじゃない」と問い掛け、みんなが最後は「そだねー」で終わる。決してそれは馴れ合いではなく、みんなが「そだねー」と思える決断でなければ本当の意味でいいプレーにはならないから、最後まで「そだねー」を模索するのです。

カーリングはひとりでストーンを投げるスポーツではありません。みんなで立てたプランに沿って、ストーンを投げる者、そのライン…つまりコースを見定める者、ウェイト…つまりストーンの速さや届く距離を見定める者、ブラシでスイープする者、プランに変更があればそれを改めて指示する者、みんながたくさんの役割を同時並行でこなしながら、一瞬ごとに変わっていく状況に対応するのです。単なる共同作業ではなく全員参加のひとつの作業です。

その「息」をぴったり合わせるには、お互いへの深い理解がなければ無理であり、それができるチームが強い。だから、カーリングにおいて選抜チームは組まれないのです。みんなができることできないこと、得意なこと苦手なこと、間違えやすいこと信頼できること、それを互いに知って、信じて、決断する。それが最終的に「そだねー」になる。よし、それでいこう。そんな決断の言葉として。

だから、ひとりのミスが必ずしもミスになるとは限らないし、むしろ仲間を頼ることを前提に組み立てていいのです。「強い」ことよりも、少し「弱い」くらいがちょうどいい。強すぎるストーンは仲間が手を出すことはできません。スイープをすればストーンは滑り、より遠くまで伸びていってしまいます。しかし、短いぶんには助けられる。ひとりで決めてやろうと投げたストーンよりも、怖くて萎縮したストーンのほうが手の施しようがある。

「ヤーーープッ!(ゴメン、短い!)」「ヤーーーーーーップ!!(掃け!)」「ヤップ!ヤップ!ヤップ!(掃け!掃け!掃け!)」、大声が飛び交う懸命のスイープはストーンの距離を数メートル伸ばし、ストーンの曲がりを遅らせてガードをすり抜ける。「私がやるしかない」ではなく「私が終わらせさえしなければ、まだできることはある」という気持ちが、カーリングにはちょうどいい。

スキップの藤澤さんのプレーにもそれがよく表れています。僕はずっと藤澤さんはドローショット…置きに行くショットが苦手だと思っていました。しかし、今大会はここ一番のドローがよく決まっている。いや、藤澤さんのドローが決まっているというよりは、全員のチカラを使って決めるというプレーになっているのかなと思います。決まればみんなのチカラ、外れればみんなのミス。だから、責任を背負うこともないし、自分を責める必要もないし、スーパーショットは必要ない。微調整ありき、ピッタリでなくてもいい、そんな意識で。


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ロコ・ソラーレの使う言葉で「そだねー」が人気ですが、もうひとつ僕の印象に残ったのは「やらせよう」です。相手はきっとこうしてくるだろうけれど「やらせよう」。それはなかなか出てこないというか、普通は「やらせまい」とするのが当たり前だと思うのです。でも、彼女たちはより幅広い可能性というか、自分たちが上回ることだけでなく、相手が下回ることもちゃんと念頭に置いている。

サッカーで言えば、コースを切って最後まで身体を寄せることのような、完封できないまでも、少しでも難しくさせていれば、何かが起きるんじゃないかというしつっこさ。そのしつっこさがときに驚くような相手のミスやラッキーを生み、絶体絶命の状況からの粘りを演出してきました。そして、そんなときロコ・ソラーレは「これがカーリングだね」と言いました。

予選リーグ・スウェーデン戦の第10エンドスチール、準決勝韓国戦での9エンド・10エンドの連続得点。「勝とう」という気持ちより、「できるだけ負けてやらない」という戦いぶり。その粘りがつながって届いた3位決定戦、そして敗戦と延長戦を五分五分で覚悟したなかで生まれた、まさかの相手の銅メダルミスショットでした。ミスショットは相手がしたことですが、それも含めて「やらせよう」を仕掛けたのはロコ・ソラーレだった。

3位決定戦イギリス戦は、最初から最後までしびれるロースコアの展開でした。それぞれが相手の後攻めエンドになんとか1点を取らせようとし、それに抗ってブランクエンド(0点エンド/有利な後攻めの権利を持ったまま次のエンドに入る)にしようとし、互いにプレッシャーをかけ合いました。前半の5エンドを終えてキレイに1点ずつ交互に取り合う2-3。長い長いプレッシャーの掛け合いは剣豪のにらみ合いのような雰囲気でした。

後半に入っての6エンド、7エンド、日本はブランクエンドとしてロースコアの展開を継続していきます。その緊張のなかで、序盤は苦しんでいたアイスの読みがじょじょにハマりはじめ、正確なショットを連発できるように。あやふやなときに勝負をかけるのではなく、粘って粘って慣れるまで粘った。1点を取らされて先攻めとなった第9エンドは、日本が縦に真っ直ぐストーンを並べ、プレッシャーをかけていく展開。「ここ」に置かなければゲームプランが崩れるというショットを、何度も、何度も、何度も決めていきます。

そして、スキップ藤澤さんに残った最後の2投。相手のガードストーンの裏にピッタリと隠し、強烈なプレッシャーをかけるナイスショット。それが結果的に相手に「自分の石を含めたトリプルテイクアウト」のミスを誘い、1点スチールにつながった。終始先行される展開で、初めてスコア上のリードを奪った。しかも相手のミスを突いて奪った。守り合いのなかで、初めて攻撃の牙を見せたエンドでした。

そして10エンド。基本線の目論見としては、スチールできれば最高だけれど、相手に1点を取らせて延長エクストラエンドで決めればOKというところ。5投ずつを終えて、日本がナンバーワンとナンバーツーのストーンを持っている状態で、チームはコーチを含めてのタイムアウトに入ります。ここから最後のストーンまでのイメージをすり合わせ、最後の勝負に臨みます。

最終盤、藤澤さんの最後のストーンは自分たちの石に当たって、狙いよりも少し短いところで止まります。端的に言えばミスショットですし、ラインのコールもミスでした。最低でも相手は1点取れそう、上手くしたら2点取れそう。そんな場面です。しかし、これがまさに「やらせよう」の道だった。

もう少し奥に行けば相手は逆サイドからビリヤードのような玉突きで比較的狙いやすい局面を作れましたが、安易に叩きやすい場所にはおかず、難しいショットならやらせてもいい。コースだけでなく、強さも、カーブも含めて気を遣う「全員ショット」ならやらせてもいい。そんな心持ちが、重圧を自分たちを追い詰める方向ではなく、相手を追い詰める方向へと動かしていった。そして、相手のラストストーンは自分たちの石をすべて押し出し、日本のストーンだけをハウスの中心部に残しました。ミスだった。けれど、それは難しいことなら「やらせてもいい」の先にあるミスだった。

↓たたいて弾いて残った石は日本の黄色!しびれる試合を連続スチールでものにした!


相手も「延長はイヤ」だから2点で決めにきた!

10エンドかけて「イヤだな」と思わせた!

「イヤだな」よりも「いいと思うー」が強かった!

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カーリングではハウスの中心から後ろにいったストーンは、もう戻ってくることはありません。でも、短くてハウスに届かなかったストーンは、あとで別の石で押すことができる。そして、何かを起こすことができる。ロコ・ソラーレはみんなのチカラを信じることで、誰かひとりがチカラを出し過ぎず、「短くなったとしても、まだ使える場所に留まる」という簡単には負けてやらない戦いをしました。簡単に負けてやらないことで、いくつかあった相手の自滅を自分の勝ちにしっかりつなげられた。相手のチカラをも「可能性」のひとつとして使い切った。そこにこの銅メダルまで届くサバイバルがあったように思います。

五輪で辛い想いをした人に、五輪が最高の喜びをくれた。

頑張った人に五輪が微笑むような銅メダルでした。

おめでとう、そしてありがとうロコ・ソラーレ北見!

すごく楽しい平昌五輪になりました!


あぁ、これでカーリングは完全に冬季五輪の花になった!満開の!

次の階段を作ろう!ひとつのミスも許されず人生で最高の演技を求められた、フィギュア女子シングル「神々の戦い」。

12:30
次の階段を作ろう!

尊く、神々しい戦いでした。平昌五輪フィギュアスケート女子シングル、その戦いは今大会を通じても際だって輝く美しさであり、フィギュアスケートの歴史に刻まれる奇跡でした。メダルが足りない。これだけの数のメダルの器を持った選手が集ったのに、メダルが3つしかないという不都合が惜しまれます。

戦いはショートプログラムの時点から始まっていました。自己ベスト、自己ベスト、自己ベスト、自分にできる最高を繰り出したものだけがメダルのそばに残れるという状況にもかかわらず、多くの選手がそこに踏みとどまっていた。「あぁ、これこそが五輪だ」と感謝の気持ちがわいてきます。

五輪に自己ベストを出すのは偶然ではありません。過去のすべてを超えることができるのは五輪だからこそです。4年に一度、そこですべてを出し切るためにすべての準備をしてくる。生涯でこれほどの努力をすることはもうないだろうと思えるだけのことをやってそこに向かう。どの日よりもベストを出せる日、それが五輪です。だから自己ベストが出るのは不思議ではないのですが、まさかこんなにスゴい日になるとは思いもしませんでした。まるで五輪の魔物を集団で撲殺するかのような、ものスゴい日に。

迎えたフリープログラム、第1グループの時点から緊張感は満ちています。今日は神々の戦いになる、そんな予感とともに。その異様な状況のなか、地元の期待と重圧を背負って高得点をマークし、TESカウンターに国旗を掲揚した韓国のキム・ハヌル、そしてチェ・ダビン。ショートの落胆を払拭する演技で笑顔を見せたマリア・ソツコワ。二度とないチャンスに、今はもうこれ以上できないという演技をできた選手は、本当に幸せ者です。

そして、悔しい演技になってしまったとしても、それもまた五輪の財産。カナダのガブリエル・デールマンが連続転倒で個人としては結果を残せなかったときも、客席には団体戦でともに金メダルを獲った仲間が見守っていました。望みどおりの結果ではなくても、ここまでやってきた人生は変わらない。自分自身でそれを認められてなくても、キミは頑張ったと拍手をしてくれる人がいるなら、それもまた幸せなことです。

↓アメリカの長洲未来さんは最後と決めた五輪で、トリプルアクセルに再び挑戦!

団体戦で決めたトリプルアクセルは、金メダリストにも劣らない偉業!

トリプルアクセルの歴史をつないでくれてありがとう!



そして3つしかないメダルを6人で争う最終グループがリンクに登場。最後の瞬間まで自分を高めるように直前の6分間練習をこなします。最初に演技するのは日本の宮原知子さん。長く苦しめられた股関節の怪我、そこからの復帰。そして五輪を間近に控えてにわかに指摘が相次ぐようになった回転不足。事前の見通しは決して明るいものではありませんでした。

けれど、そんな明るくない道を歩んできたからこその宮原知子さんであり、明るくないことに今さら嘆きはしません。天賦の才を評価されて始まった道のりではなく、小さな身体は高さや幅を見せるには不利がある。ただ、先が見えないなかでも一歩ずつ努力を重ね、できることを必ずやり遂げる強さがある。

冒頭のトリプルループ、3回転+3回転のコンボ、さらにトリプルフリップとつづく連続ジャンプは、疑いの目で見守っても認定できる回転で着氷します。よし、大丈夫。演技後半に入っても勢いは衰えることなく、むしろさらに伸びていくかのよう。キレている。苦しめられた回転不足を振り払ったあと、最後の最後に見せたレイバックスピンは彫像のように美しい。一応採点表を見れば、当然ではあるけれどGOE満点の出来栄え。

あの全日本をも超えて、今までで一番のガッツポーズを見せた宮原さん。あぁ、もうこれでいい。この大会の順番がどうなるかはわからないけれど、五輪に勝ち、自分に勝った。もう一度やり直すチャンスがあったとしても、これでいい。そう納得できるような演技。さすが日本の宮原知子、これぞ日本の宮原知子。「私はパーフェクト、あとはあなたたち次第」と高らかに最終決戦の幕開けを告げる演技でした。よかったね、さっとん!最高の五輪だった!

↓五輪の舞台でショート、フリー、総合自己ベスト更新!

メダルはその日のことを記録するお土産!

旅行のペナントのようなもの!

記憶は自分のなかに残る永遠!

この喜びは、お土産がなくても忘れたりしない!


ひとつのミスも許されず、可能なかぎりの加点を取らなければこの上にはいけない。「生涯最高」がこの日の勝ち負けを争う器だ。そんな線引きをした宮原さんの演技。つづく神々にも多少のプレッシャーにはなったでしょうか。イタリアのコストナーは、どこがどう悪いという演技ではないものの、この舞台で今まで生きてきたなかで最高の演技を出すことはできません。

そして日本の坂本花織さん。自慢のジャンプは冴え、高さ・幅ともに一級の出来栄え。初五輪なんて但し書きはもはや必要ありません。宮原さんも、ザギトワも、メドベージェワもよく考えたら初五輪、状況は一緒です。若干の乱れはありつつ、坂本さんは日本代表として堂々の演技で、この舞台をやり遂げます。最終グループで神々とやり合うそのひとりとして、まったく遜色のない演技は総合6位となるもの。次はここで自己ベストを出すために、誰よりも早い4年後へのスタートを切ってもらえたら嬉しいです。

↓かおちゃん頑張ったね!ピンバッジ追加で買ってよーし!

選手A:「めっちゃ買ってるwww」
選手B:「過去大会のバッジ持ってたら買うで」
選手C:「うわぁ楽しそう…」
選手B:「姐さん、2個は中途半端やで。もっとつけな」
選手D:「私の心には穴が開いたようです」
選手B:「私のストラップも穴だらけやで!」
選手E:「悔いはありません」
選手B:「刺すところがもうありません!」
選手F:「目標は13位でした」
選手B:「ご覧のとおり13個以上あります」

次もここを目指したくなるようないい五輪でした!

楽しさ、充実、少しの悔しさ、そして収集欲!

次はメダル集めもできるといいね!



太ももを激しくさすりながらの登場はロシアのザギトワ。15歳とは言っても少女の演技ではなく、優雅で隙がない。のちに難癖も出ることになる演技後半にすべてのジャンプを集める構成は、勝利への当然の策であり、非難されるいわれはありません。やれば高得点になるとわかっていても簡単にできるものではない構成です。できないであろうから得点を増やしているのです。

驚異的なTESカウンターの数字と、オールグリーンの出来栄え評価。わずかにミスになったと思われたトリプルルッツでのコンボ抜けさえも、のちのジャンプできっちりとリカバーしてくるのですからかなわない。総合239.57点のスコアは男子選手でも何人が超えられるかというほどの高得点。なるほど、すごい器です。悠々と暫定トップに立ち、あとの演技者…もはやこれに届き得るのはひとりしかいない、メドベージェワを待ちます。

手に汗を握って見守るカナダのケイトリン・オズモンド。宮原さんを超えるにはこちらも自己ベストが必要です。序盤の連続コンボは出来栄えも含めて素晴らしく、ミスらしいミスはトリプルルッツでのステップアウトしかありません。やれることはやったという納得の演技。なるほど、お互いに最高を出し合う戦いだったか。日本の選手に寄り添って見守る身としても、これは仕方ない。拍手でお祝いするしかない演技でした。

↓おめでとうオズモンドさん!あなたが銅メダルだ!


メダルは上から3人が必ずもらえるけれど、その笑顔は必ず得られるものじゃない!

その笑顔をされたら、もう仕方ない!


そして、最後のメドベージェワ。ロシアの選手ではあるけれど、もう心のなかでは勝手に日本のファミリーという気持ち。できれば金を獲らせてあげたい。けれど、メドベージェワを持ってしても過去の自分を上回らないと超えられない。そんなハイレベルな戦いになるなんて。

ソチ五輪後の数年間を世界の女王として引っ張り、世界のファンを楽しませてくれた。特に日本のファンには、思いがけない形で応えてくれた。勝つと思っていたし、それでいいと思っていた。しかし、この大事なシーズンにきての右足骨折。さらに組織的ドーピングによるロシアへの処罰に対し、ロシアは彼女を「悲劇のヒロイン」とすることで抗った、その重圧。

彼女が一番強いから。彼女が美しいから。彼女がソチ五輪の当時はまだ14歳だったから。ナショナルチームにも入っていないクリーンな身だったから。だから、悲劇を演出するアイコンとして起用された。もちろん彼女自身も五輪に出られなくなるような事態は望んでいなかったでしょうが、本当にその仕事は彼女が負うべきものだったのか、僕は今も疑問に思います。骨折の治療に充てるべき時間を割いて、総会の場に立つのは本当に彼女がなすべきことだったのかと。

それでも女王は気丈にこの演技に臨みます。冒頭に持ってきた3回転+3回転のコンボ。手をあげてGOEを伸ばしていく連続ジャンプ。スピン、ステップ、骨折の影響を感じさせない演技。すべての要素にすべてのジャッジが加点をつけ、ひとりのジャッジはすべてに「+3」をつけた美しい演技。確かに、これは技術的に彼女の最高の演技ではなかったかもしれないけれど、感情としては一番の演技だった。

これまで「表現力が素晴らしい」と評されてきた彼女が見せてきた終幕の表情は、物憂げであっても、すぐに満足の笑顔に変わってきました。しかし、この日見せた笑顔とも泣き顔ともつかない、嬉しさとも苦しさとも安堵とも言えない不思議な表情は、過去のどれよりも素晴らしい表現力を備えていた。技術の問題ではない、正しい意味での表現力を。いくつもの感情を乗せた、素晴らしい表現力を。



この選手のこの演技に何と言葉をかけていいのか。「残念でしたね」とは言いたくないし、かといって「おめでとう」でもないのでしょう。お疲れ様、ありがとう、それも悪くはないけれど、やっぱり僕の気持ちとは少し違う。もっと違う結末を迎えたかったというのが本当の気持ちだから。

今、フィギュアスケート女子シングルはかつてない高みにあります。もはや現行の採点基準で裁くのは難しいほどに個々のチカラは高まり、ちいさなミスの有無でしか決着がつかないような世界になりつつあります。ある意味で煮詰まっている。それを打破していくような次のステージへ、もう向かってもいい頃合いです。

だから、メドベージェワには「次の階段を作れ」と言いたい。みんながいる踊り場の先へ、新たな世界を切り開いていく先駆者となり、一段上へこの競技ごと持ち上げていくような存在になってほしい。今の踊り場にいる選手が完璧な演技をしただけでは届かない、ひとつ上の踊り場へ。そこで再び、圧倒的なチカラを見せてほしい。完璧であり、唯一である演技。そして、その唯一を自分もできるようにならなければ勝てないと、世界のすべての選手に思わせるような演技を目指していってほしい。日本もまた、日本スケートの誇りであるトリプルアクセルで、それをやるようになっていけたらいいなぁと思います。



湿っぽい感じになりましたが、僕は少し前向きでもあるのです。これできっと、またメドベージェワに会えるだろうと思うので。とかく入れ替わりの早いフィギュアスケートの世界にあって、ことさらロシアの選手は、現れては消えていく忙しいお国柄です。これが最後?と思うようなタイミングでリンクを去る選手もいます。けれど、銀の上を望む気持ちが生まれたなら、きっとまた戻ってくるでしょう。戻ってくるしかないでしょう。

一番いい五輪は、一番最後の五輪です。次はきっともっと素晴らしい人生の瞬間になる。今の想いをも抱えたメドベージェワがあと4年人生を重ねたら、そのほうが素晴らしいに決まっている。僕はそういう瞬間が好きですし、そういう瞬間に立ち会いたいと願っています。

頑張れメド、次は自分だけのために。その日を楽しみにしています。

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次の五輪がまた楽しみになる、未来につながる大会をありがとう!
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