スポーツ見るもの語る者〜フモフモコラム

パリ五輪

素人衆が「JUDO」と揶揄するときは「つまらん」という意味なので、柔道有識者は真に魅力ある柔道を目指して改善に努めてほしい件。

08:00
4年に一度議論になる「柔道」と「JUDO」!

パリ五輪が終わりまして世間も急速に冷え込みモードに入っているなか、引きつづき五輪の話をこねくり返していきたいと思います。大会期間中は試合観戦と「メダルだ、わーい!」という話をすることで精一杯でゆっくりまとめる時間がなかったテーマについて、少しずつやっていければというところです。

まず、大会序盤にいろいろな議論を引き起こした「柔道」と「JUDO」について。多くの場合、これは日本選手が負けたときに盛り上がるテーマです。「何だこの負けは」「こんなもの柔道ではない」「JUDOに負けた」と噴き上がりながら、ルールへの不満やら審判への不満やら結果への不満やらをぶつけるのが定番の流れです。

ただ、その議論というのは上手く嚙み合っていないと常々僕は感じています。世間一般の素人の側は4年に一度だけ柔道を見ておりますので、最新のルールやそうなった経緯、技術の進化や流行について把握しておりません。ですので、自分の不満を的確に表現するのが難しい状態です。4年に一度しか見ないのですから、そうなるのは仕方のないことです。世間はそんなに毎日柔道を見るほど柔道を好きでもヒマでもないのです。そして、柔道はそんなに見てもらえるポジションにあるコンテンツではありません。我々素人はハリウッド超大作を見たり、面白新作ゲームをやるのに忙しいのです。

ただ、せっかく見たのに、せっかく自分なりの意見を表明したのに、その表現が不的確だといわゆる詳しい側の人がズレた反応を返してきます。そして、下手に詳しいものですから隙あらばマウントを取ってきます。「ルールがわかってないね」とか「これは優れた技術でーす」とか「日本の選手だってやっていますけど?」とか「嘉納治五郎先生の教えにもかなっているぞ」とか「私は黒帯ですが?」みたいな知識自慢・経歴自慢を始めて、せっかく4年ぶりに柔道を見てくれた人を冷たくあしらいがちです。どの世界にもいるヤなヤツというだけの話ではありますが、せっかくの機会に分断を加速させるのはもったいないと思うわけです。

↓この肩車みたいなのも「柔道」なのか「JUDO」なのかで喧々諤々でしたよね!


この技について的確に不満を伝えるのは結構難しいものです。まずこの技自体がよくわからない。原理としては相手の脇の下に頭を入れて、相手を引きずり倒しながら「肩で担ぐような」態勢を取り(※人間を横にして首と肩の上に乗せているイメージ)、そこから頭の上のほうに抜く感じで相手の身体を畳に落としていますので、肩車だと言われたらそうなんだろうなとは思いますが、パッと見で判断するのは難しいと思います。

↓伝統的・古典的に肩車だと感じるのはコッチの動画みたいな投げですよね!


この動きを足を持たずに、地面スレスレでやることをイメージしてみてください!

さっきの技と近づいていきますから!



この伝統的・古典的な肩車は現在の競技柔道では反則となります。現在の柔道では立ち技において腕を使って「相手の帯から下」を攻撃したりつかんだりブロックしたりすれば反則負けとなります。いわゆるレスリング式の片足タックル(朽木倒し)や両足タックル(双手刈)は反則ですし、前述の伝統的な足を持って持ち上げる肩車も反則となります。ただ難しいのはこれは国際ルールでの話であって、国内向けのルール…講道館ルールでは禁止されていないのです。

なので、前述の肩車のような技に関しても、素人意見がなかなか通らなくなるわけです。「あんなものタックルじゃないか!あれはJUDOレスリングだ!」と言えば「足なんて持ってませんけど」と返ってきますし、「柔道の精神にそむく!」などと言えば「むしろ講道館ではOKなんですけど?」と返ってきますし、「ヘンな技!」とか素人感満載で言おうものなら「あれはルールに対応して生まれた高度な技術!正真正銘の肩車でーす」とガッツリとマウント取られますし、「これだから外国のJUDOはけしからん!」とか言えば「日本の偉大な眛D昭選手もさまざまな肩車を使ってますが?知らないんですか?」みたいなことを返されます。そして「普段柔道を見てもいない素人は黙っとれ」とマウント一本で勝負ありとなるわけです。

違う違う違う違う。

素人衆の不満を「正しく表現できていない」からと言って汲み取らないのは有識者のやることではありません。「何もしていないのにパソコンがぶっ壊れました!」という人を、優しくウィンドウズ起動まで導いてこそ有識者のはずです。別にそれは義務ではありませんが、有識者がそんな態度で素人にマウント取って、どうしてこの競技が広まったり発展したりするでしょう。「最初は全員素人」なんですよ。

素人衆の真の不満は「つまらん」ということなのです。日本選手が負けるのは別に構いませんが、あのようなワケのわからん形で負けるのは「つまらん」のです。そしてもっと言えば柔道に素人衆が期待していることは、人間を美しく投げること「だけ」です。フワッと身体が浮いて、人間の身体が宙を舞い、弾むように背中から畳に叩きつけられる「あの瞬間」だけを「柔道」と呼んでいるのです。それ以外の全部は柔道ではないのです。前述の阿部一二三さんを倒した肩車のように、地面スレスレでもちゃくちゃしたものは「柔道」ではないのです。伝統的・古典的な肩車のように立った状態で担いでから投げられたのであれば、「柔道で負けた」と認めてもいいですけれど。

競技スポーツとして発展していくなかで、柔道の技は「相手の背中を地面につける」ことでポイントを取れる建て付けになりましたが、そのルールを真正面から攻略して「背中をつけりゃいいんだな」と思ってやっているすべての選手とすべての試合は、素人衆の感覚では「柔道」ではないのです。ルール云々とか国際的な合意云々ではなく、そんなものは「つまらん」からです。ハッキリ言って、地面付近でもちゃくちゃしながら相手の背中を地面につけるだけなら、グレコローマンスタイルのレスリングを見たほうがよっぽど面白いです。レスリングにだって投げ技はありますし、むしろ豪快です。消極的な選手はすぐ注意されますし、背負い投げ風の偽装攻撃なんか存在しません(レスリングだとその体勢になったら簡単に2点取られるから)。チャレンジの仕組みもありますし、レスリングのほうがよっぽど気持ちよく観戦できます。

それでも我々素人衆が柔道に期待し、柔道を面白いと思うのは、フワッと身体が浮いて、人間の身体が宙を舞い、弾むように背中から畳に叩きつけられるあの瞬間があるからです。いつか飛び出す魔法のような美しい瞬間に期待して、ほかの技を受け入れているのです。本当は内股一本と背負い投げ一本しか認めたくないような気持ちで、「ま、毎試合そうもいかんわな」と思いながら足技とか地面スレスレでのもちゃくちゃを見ているのです。「ホームランを見たいなー」と思いながら「ま、犠牲フライでも1点は1点」と思っているような話なのです。

その意味であの試合は素人衆は大いに不満を溜めたはずの試合です。まともに組み合わない相手。上手な偽装攻撃。なかなか出ない指導。そして最終的にあの地面でもちゃくちゃした一本負け。しかも負けたのは素人衆からも「これは確かに柔道だ」と認められる真の柔道家・阿部一二三さんです。こんなもの面白いわけがありません。その不満をさまざまな表現や理由で(ときに不正確に)発信しているだけで、本当の思いは「つまらん」その一点です。あの試合だって一二三さんが見事に浮かされて、内股でバーンと畳に叩きつけられていたら「ガバ強ぇーーー!」「負けたーーー!」「橋本が秒殺されるからこんなことになるんだよーーー!」と素人衆だって「柔道での敗北」を清々しく受け入れたでしょう。

リネールさんに対する冷ややかな視線も同じ思いから生まれるものです。ハッキリ言ってリネールさんは強いです。まだ10代の頃に、すでに完成した柔道家であった井上康生さんをアッサリと破ったように、リネールさんは世界一の強さを備えています。相手全員を美しく投げようと思えばできるでしょう。しかし、リネールさんはそれを目指していないように感じます。リオ五輪決勝での原沢久喜さんとの「指導決着」などは最たるもので、リネールさんにとっては勝利することが目的であり、そのための手段は別に投げである必要はないのだろうと思います。現在のように指導決着が起きにくい状況なら、「仕方ない、投げるか」とやり出すというだけで、美しく投げようとも思っていないし、一本で勝ちたいとも思っていない、そう感じます。できるはずなのにやらない、そう見えています。

パリ五輪期間中に真の柔道家である大野将平さんも言っていましたが、「正しく組んで正しく投げる」柔道を素人衆は見たいのです。「攻めた結果、相手に指導が行く」のであって最初から指導を狙うような戦いは見たくないのです。「一本を取る」柔道を見たいのです。そして、その一本とは「フワッと身体が浮いて、人間の身体が宙を舞い、弾むように背中から畳に叩きつけられるあの瞬間」のことなのです。それを目指さないものを素人衆はすべて「JUDO」と呼んでいるのです。

結果的に指導決着になるかもしれない。結果的に美しい投げでは決まらないかもしれない。しかし、目指してほしい。ホームランを打ってやると思って打席に入ってほしい。日本人選手もやっていようが、世界のルールで認められていようが関係ありません。美しい投げを目指さなければ「つまらん」のです。「つまらん」ものは「つまらん」のです。素人衆が「JUDO」と言い出したとき、有識者は「この競技はつまらないんだな」「何とかしなきゃヤバイな」「ルールを変えるかルールの運用を変えよう」と思うタイミングなのです。現状を追認して、「俺たちはこういうスポーツ!」とか開き直っている場合ではないのです。

↓真の柔道家である大野将平さんは信じられる!何度もその見解に頷いたパリ五輪でした!



このようなことを踏まえれば、有識者の行動はもっと変化があってしかるべきです。我こそ黒帯、我こそ詳しい者と思うなら、「もっとサンボみたいな投げもあるんだぞ」みたいな知識紹介をしてマウントを取るのではなく、4年に一度の「世間一般による視察の機会」だと受け止めて今後の柔道界の前進に向けたさらなる議論を進めていくべきなのです。「両者直立した状態以外からの投げは全部無効にしよう」とか「両袖を握って防御している輩にはすぐ指導を出そう」とか「パラ柔道みたいに組み合った状態から始めよう」とか、美しい投げをすべての選手が目指し、美しく投げなければ勝てないような環境を整えていくことを考えてほしいのです。

これまでも「足取り」を禁止したり、有効や効果を廃止したりしてきたのは、「美しい投げによる一本」を目指してほしいからでしょう。本来なら禁止しなくていいものまで禁止するのは、日本国内と違って禁止しないとみんなそればかりやるからでしょう。一時期よりは随分とよくなったとは思いますが、それでもまだまだ理想には程遠いのが現状です。その理想からの距離を教えてくれるのが素人衆からの「JUDO」という揶揄であり、「JUDO」と言われる間はまだまだ改善点があるんだなと思って改善に努めてほしいのです。「こういうのはつまんないんだな」と自覚して。

そして日本選手には、発祥の国の誇りを持って美しく投げて勝つ「柔道」を実践してほしいと思います。相手の「JUDO」については受けに徹し、そんなものは通用しないぞと跳ねのけて、美しく投げて勝ってほしい。全員ができるとは思いませんし勝つためにほかの手段を取ることもあるでしょうが、日本が真の柔道家を生み出せなくなったら、この競技はジャケットを着て行なうレスリングになってしまいます。それがダメとは言いませんが、それなら五輪には「レスリング」だけがあれば十分。似たようなものを2つもやる余裕も意味もありません。この競技の魅力と面白さを体現する真の柔道家を輩出するのは日本のつとめであり、柔道発展のために必要なことなのです。だって、日本が一番柔道を愛しているんでしょう?大切なんでしょう?それとも柔道の未来はフランスにお任せして、まともに組み合わずに地面でもちゃくちゃしますか?

美しく投げて勝つ。

相手を魔法のように宙に舞わせて畳に叩きつける。

それが柔道の魅力であり、それを失ってはいけないと思います。世界がどれだけ違う方向に進もうとも、日本の真の柔道家がそれを打ち破り、柔道への憧れを生み出さないといけないと思います。真の王者は勝てばいいのではありません。皆が憧れる存在でないといけません。柔道への憧れを生み出すのは、美しい投げによる一本、それが究極ですべてだと僕は思います。「そんなことはどうでもいい」と柔道界隈の人が思うなら、それはそれでひとつの選択ですが、その先にある未来は「JUDO」とも呼ばれなくなる静かなものだろうなと思いますね!

↓美しい投げを目指し、美しい投げで勝てる者が真の柔道家だと僕は思います!


これを見たくて柔道を見ています!

毎回見せてもらえるわけではありませんが!



有識者は「柔道=面白い」「JUDO=つまらん」と受け止めてください!

パリ五輪閉幕!パリでの情熱的な17日間+αの「本当の五輪」を見守り、できなかったわけではなくやらなかった東京五輪を詫びるの巻。

08:00
パリ五輪、ありがとうございました!

熱く楽しい17日間+α、2024年パリ五輪が終了しました。2021年東京、2022年北京はコロナ禍によって大きな制限を受けた大会となったことで、久しく忘れていた「本当の五輪」を6年ぶりに見たような気がします。街全体に広がる人々の喜びと熱狂、この貴重な機会を活かして社会を前進させようとする意欲、人間の「生きる」活力が漲るような夢空間に僕自身も大きなパワーをもらいました。

そうした熱い大会のなかで日本選手団は大変な活躍を見せました。金メダル獲得総数20個。銀12個・銅13個と合わせてのメダル獲得総数45個。これらは2021年東京五輪を除けばいずれも史上最多となりました。ランキングで言えばアメリカ・中国に次ぐ世界第3位です。メダルの個数で何かを測れるわけではないものの、メダルを手にすることで圧倒的に膨れ上がる人々の喜びのことを思えば、喜びもやはり「史上最多」級だっただろうと思います。個人的にも日本選手団のメダル獲得の瞬間はほぼすべてライブで見守らせていただき、肉体的には大変でしたが充実の時間でした。喜びあふれる夏を過ごすことができて心から嬉しく思います。改めてこのような機会を整えてくださったフランス・パリの皆さんと、ともに競い合ってくれた世界のアスリートの皆さんに御礼申し上げます。ありがとうございました…!




日本視点で言えば、今大会は東京五輪のことを改めて一歩引いて振り返れるタイミングだったのかなと思いました。あの当時、あれしかできなかったこと、あれで精一杯だったことが、本当に限界だったのかどうか。パリ五輪の期間中、何度も噛み締めるように自問自答しました。パリに広がる熱狂に身悶えるように嫉妬する時間と、それを追認するようにアスリートたちから語られる「これが本当の五輪だ」という感激の言葉たち。3年越しに落ち込むような気持ちに何度も囚われました。

貴重で希少な機会を自分たちは活かせなかったと悔やみつつ、そもそも社会の「民意」として、あの機会を貴重とも希少とも本心のところでは思っていなかったのだと改めて痛感しました。フランス・パリとてさまざまな社会問題を抱えながらの大会運営だろうと思いますし、膨大な費用も手間もかかっているでしょうし、それを快く思わない人も一部にはいるでしょう。実際に開会式直線には高速鉄道がテロに見舞われたりもしました。しかし、パリは揺らぐことなくこの祭典をやり抜きました。日和らなかった。おもねらなかった。

大会運営の不手際や、ホスピタリティの不足、ちょっと愛国正義が過ぎるのではないかと感じてしまう側面はあったとしても、「やれたらやる」「いけたらいく」「儲かる範囲でやる」みたいな損得勘定ではなく、この大会をやるのだ、成功させるのだという情熱にパリは突き動かされていました。よくも悪くも自分たちにしかできない、自分たちが夢に描いた大会をパリはやり抜きました。楽しいことや初めてのことをたくさん考え、批判に抗しながら、勇敢に実行しました。情熱が血しぶきを上げていました。

東京も仕事として「ちゃんと」やりはしましたが、あれは国と都市と人々の情熱を注いだ出来事ではなかったと思います。ごく一部の人が熱かっただけで、もっと楽しんでやろう、もっと参加してやろうと人々が自らそこに加わったわけではなく、いつもはどこか外国でやっているお祭りがたまたま近所に来ただけでした。「足りる・足りない」で足りていないものはなかったけれど、逆に自分たちがそこに求める「夢」もなかったのです。五輪から夢をもらうことばかり考えて、五輪に注ぐ夢は自分たちのなかにはなかった。「こうしたいんだ」は何もなかった。大人しく家でテレビを見ていられる程度の出来事だった。「バーベキューパーティーの仕切りをそつなくこなしたけれど、バーベキューは別に好きでも嫌いでもない」ような幹事だった。焼きたい肉も焼きたいキノコも食後にやりたい花火も一緒に遊びたいゲームもオススメの河原も買いたいテントも会いたい人も誘いたい仲間も歌いたい歌も何もなかった。雨が降れば速やかに中止の連絡を入れるような淡白なシゴデキ幹事でしかなかった。文句が出ないようにご機嫌をうかがいながら「ちゃんと」やっただけだった。喉元過ぎれば銀座パレードもやめちゃうくらいの思い入れでしかなかった。その点で日本・東京は開催都市に名乗りをあげる身の丈ではなかったんだなと思い知りました。

「あの時は申し訳なかった」と、今さらですがすべてのアスリートに謝りたい気持ちです。あの一瞬しかないあなたの夢の瞬間を、僕たちは十分に実現できませんでした。「試合をできた」ことだけで許されるような世界情勢だったのかもしれませんし、それでいいよと許してくれたのかもしれませんし、実際あれで「民意」は精一杯だったのですが、やっぱり十分ではありませんでした。できなかったわけではなかったのです。国立競技場のすぐ隣では楽しく野球やってたんですから。僕らがやらなかっただけでした。本当はやりたいことなんかないのに、手を挙げてしまっただけでした。本当にやりたいと思っていたら、国内であんなに足を引っ張られることもなかったし、それに屈することもなかったのです。日本・東京にとっての五輪というのはフワちゃん程度の存在でしかなく、「問題が起きない範囲で楽しめればいいなぁ」「でも何かひとつでも問題があるなら即キャンセル」くらいのものだったのです。心から愛し、欲していたわけではなかった。僕自身もパリの様子を見ながら「これが本当の五輪だ」と思ってしまったので心に嘘はつけません。やってしまってごめんなさい。

↓「東京オリンピックとは全然違って、これが本当のオリンピックなんだって肌で感じた」という言葉が、その通りなだけに胸が痛みました…!



それでも、すべてが至らなかったわけではないだろうと思います。少なくとも日本の選手たちにとっては。今大会の日本選手団の大活躍は、間違いなく東京五輪のレガシーです。東京五輪に向けて整備した環境と振り分けた予算とが全方位的な強化を成し遂げ、今回の大活躍に活かされていたからこそのものだろうと僕は思います。

たとえば、今回は「もとから強いとわかっていた選手が活躍した」大会ではありません。連覇を確実視されていた体操の橋本大輝さんや、柔道の阿部詩さん、レスリングの須優衣さんなどに「まさか」の敗戦がありましたし、国内選考会での代表漏れなども含めて前回王者たちは一様に苦しみました。最終的に同競技同種目で純粋に連覇を成し遂げたのは、スケートボード男子ストリートの堀米雄斗さんと柔道の阿部一二三さん、永瀬貴規さんの3人だけです(※フェンシング加納虹輝さんや体操橋本大輝さんなど別種目での連続金メダルはあるものの)。にもかかわらずこのような「史上最多」レベルの活躍が見られたのは、新たな顔ぶれが続々と登場してきたからにほかなりません。それは東京五輪への一極集中ではなく、一連の強化がレガシーとなって活かされた結果だろうと思います。

今大会で生まれた「史上初」の枕詞がつく快挙の多くも、東京を経て花開いた人たちによるものです。史上初のメダル獲得となったフェンシング各種目や、飛込、馬術といった競技は、東京ではコロナ禍と他競技の活躍にかき消される「目立たない奮闘」を見せていた種目だったりします。団体球技は全種目において男女いずれかが「自力で」出場権を獲得しましたが、これも開催国としての経験がしっかり受け継がれた格好です。スケートボード女子ストリートの吉沢恋さんのように「東京五輪がキッカケ」になって自身も世界を目指した金メダリストも誕生しました。舞台は十分ではなかったけれど一応「踏む」ことはできたし、舞台裏はキレイに整えることができたのだろうと思います。そう思ってお互いに許し合えたらいいなと思います。

次回2028年ロス五輪は「本当の五輪」を知っているアメリカでの開催です。日本の選手たちにもさらなる飛躍を果たしてもらえたらいいなと思います。2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪もトリノからわずか20年でのイタリア開催ということで、きっといい思い出と新しい情熱とで幸せな大会になることでしょう。その手前には日本でも2025年東京世界陸上があります。陸上競技からのせめてもの慰めであろうと思いますが、今度はもう少し僕らも前のめりでやれたらいいなと思います。そして、次の機会を思いながら、五輪の余韻に浸りながら、目の前にあるもうひとつの熱い夏パリパラリンピックを楽しんでいけたらいいなと思います。閉会式のフラッグハンドオーバーセレモニーを見ながら、「本当の五輪」が末永く受け継がれていくことを祈って、心をパリから日本に一時帰国させようと思います。ありがとうパリの皆さん、パラリンピックも頑張ってくださいね!

↓パリ五輪お疲れ様でした!ロス五輪もよろしくお願いします!


まぁ、東京はメシが美味くて、過ごしやすかったと思うので一長一短ということで!

強盗は出ないうえに、逆にタクシー代くれたりする「ちゃんと」した幹事でしたからね!



「選手村だけ日本において、開催地は別」とかができたらベストかもですね!

1投に懸ける集中力をパリでは最初に発揮して、あとはゆったりカステラをいただいた陸上女子やり投げ北口榛花さんの歴史的金の巻。

07:00
一撃で期待に応え、不安を打ち消した歴史的「金」!

もう終わってしまうのか、そんな寂しさが少しずつこみ上げてくるパリ五輪の日々。しかし、そんな寂しさも日本選手団の大活躍による嬉しさで「寂しさがこみ上げる前に忘れる」ことができているのは嬉しい限り。大会18日目は「初」がこれでもかと並んだサプライズの一日となりました。

飛び込み種目では初となる飛び込み男子10メートル高飛込での玉井陸斗さんの「金を争った」銀。こちらも日本勢「初」となる近代五種男子での佐藤大宗さんの銀。そして陸上フィールド種目では「初」となる女子やり投げでの北口榛花さんの金。お家芸であるレスリングや卓球団体戦でもしっかりメダル獲得を果たしてくれ、これで自国開催を除けば日本勢の金メダル獲得個数&メダル獲得数は史上最多となりました。

大会最終日にもすでに「受け取り確定色決定待ち」となっているメダルがありますので、記録をさらに伸ばしていくこともほぼ間違いありません。東京五輪を目指した強化の日々は、レガシーとなってしっかりパリにも受け継がれたのだ…そんな思いで感無量です。もうちょっと日本勢に優しい大会であったなら、もっともっといけたんですけどねぇ!

↓スポーツクライミングも、もうちょっと優しくしてくれればねぇ…!

森さんにリード1位の金あげてください!

そしてルートセッターは「スタート地点で意味なく選手を振るい落とす」という興ざめなコースにしたことを猛反省してください!



それらの喜びのなかでもやはりこの日は陸上女子やり投げの北口榛花さんでしょう。大会前から世界陸上の女王として「金」を期待されてきた北口さん。しかし一方で、北口さんは前評判ほどに「金」確実な候補ではありませんでした。今シーズンの記録を見渡せば、北口さん以上の記録を出している選手が5人もいます。北口さんと同じ65メートル台まで広げれば北口さん含めて全部で7人。北口さんの安定して記録を残すチカラは傑出していましたが、「本物の一発」が出てきたときは跳ね返せないかもしれない、そんな危うい本命候補でした。

戦いぶりの面でも、金を取った世界選手権を含めて北口さんは最後の1投で大逆転というパターンが多く、素晴らしく勝負強い一面を持ってはいるものの、やはりその展開では苦しいところ。理想としては先に好記録を出して、他選手にプレッシャーをかけて力みを引き出し、試合を支配したいところです。相手にリラックスした状態で気持ちよく投げさせていては何が起こるかわかったものではありません。そんな不安要素を北口さんは跳ね返せるのか、期待と心配を胸に見守ります。

入場してきた北口さんはとっても素敵です。メイクもバッチリ決まっていますし、髪飾りもオシャレ。耳にはピアスなのかイアリングなのか金色のアクセサリーも輝いています。やりを投げに来たわけではありますが、ドレスに着替えればそのまま祝勝パーティーにでも行けそうな正装感です。そういう部分も含めて「いい準備」をしてきたことが伝わってきます。心が行き届いています。

そして、北口さんはさまざまな期待と不安に対して一発で満点快投を出して見せました。全体のなかで4人目で登場した北口さんは、1投目で65メートル80センチのシーズンベストを出してきたのです。65メートルを投げれば金メダルが見えてくるだろうと想定していた記録を文字通りの「一撃」です。この日は大逆転の北口ではなく、一撃の北口でした。試合の流れをいきなり支配しました!

↓1投に懸ける集中力を、今日は最後ではなく最初に発揮した!


この1投で他選手は俄然苦しくなりました。金を取るには自分の限界を超えるような会心の投擲が必要とされます。出そうと思って出せる記録ではなく、出そうと思えばむしろ難しくなるような記録です。2投目、3投目と投擲を重ねても65メートル台はおろか、64メートル台にも他選手は伸ばしてこれません。3投終えて2番手の記録は南アフリカのファン・ダイクさんの63メートル93センチ。3番手はチェコのオグロドニコバさんの63メートル40センチ。どちらかと言えば伏兵だった顔ぶれが上位に進出してきており、逆にメダル争いの強力なライバルと見込まれていたコロンビアのフルタドさんはメダル圏内にも入れず、オーストラリアのリトルさんは4投目以降にも進めませんでした。

↓インターバルではカステラを美味しそうにいただきました!

テレビ見てるオッサンと同じポーズですが、リラックス&身体を整えています!

オッサンも同じポーズと顔でテレビ見ていますが、一緒にしないでください!



その後、スタジアム上空ではかなりの風が吹き始めます。やり投げの方向に対して向かい風となっているようで、記録が出づらいコンディションに。疲労や焦りもあってか、各選手3投目までの記録を伸ばしていくこともできなくなりました。もしもいつものように「逆転の北口」の試合展開であったなら、非常に心理的にも追い詰められる形になったことでしょう。やはり勝負は先行逃げ切りに限ります。

そんな悪コンディションのなかでも北口さんは警戒を緩めることなく、5投目に全体2番目の記録となる64メートル73センチを投げて改めて全員を圧倒すると、金を決める最終第6投へと向かいます。ファウルや50メートル台の低調な記録がつづき、もちろん誰も北口さんを超えてはいきません。そして、北口さんの最終6投目を残して、誰も記録を更新するものはいなくなりました。北口榛花さん日本女子史上初の陸上フィールド種目での金メダルです!

↓歴史的な金をありがとうございます!


決着後、北口さんのもとにはライバルたちからも温かい祝福が寄せられました。コーチのもとに向かって喜びを分かち合っていると、そこには銅メダルとなったチェコのオグロドニコバさんがやってきました。自身も初の五輪メダルを獲得したオグロドニコバさんは、セケラックコーチと抱き合って「チェコファミリー」としてこの金と銅を互いに祝いました。

2019年から単身チェコに渡り、セケラックコーチに師事した北口さん。セケラックコーチは国内ではジュニア選手の指導などをしており、いわゆる代表監督的な存在ではなかったそうです。もっと大きなトレーニングセンターも、もっと高名な指導者もたくさんいたと言います。しかし北口さんは、やり投げの基本を教えてくれる指導者が自分には必要だという考えで自らセケラックコーチにアプローチし、やり投げ大国チェコの教えを基礎から吸収してきました。その行動力、決断力、考え方が北口さんを飛躍させ、セケラックコーチにとっても大きな大きな夢となった…人の「縁」の不思議さというものを感じます。お互いに「まさかそんな話が」と思うような出来事が、「まさかそんなことが」と思うような夢につながったのですから。「まさかオリンピックチャンピオンになろうとは」という。

日の丸をまとった北口さんがようやく本来の明るく楽しく元気な姿を見せてくれたのは、優勝者だけが鳴らすことができる鐘を打ち鳴らしたときでした。すべての重圧から解放されたかのように、北口さんは跳び跳ねながらジャカジャカジャカジャカと鐘を乱打しました。その喜びようがとても嬉しく、こちらまで楽しくなりました。なお、大会後その鐘はノートルダム大聖堂に据えられるそうですが、ノートルダムの鐘を商店街の福引の鐘みたいにジャカジャカしただなんて、おめでたさも歴史的ですね!

↓1等の景品は金メダルとポスターです!おめでとうございます!


↓それでもまだ「70メートル投げたかった」「悔しい」と向上心は尽きない!


東京世界陸上でも日本勢に金をもたらしてください!

そのときは70メートルでお願いします!



メインスタジアムで日の丸を揚げ、君が代を鳴らしてくれて感謝です!

日本のお家芸・陸上男子4×100mリレーは東京五輪の無念を雪ぐ「攻めた結果」で世界5位となり、マイル侍にいい流れをリレーした件。

07:00
リレー侍(100メートル)は「攻めた結果」の5位!

熱戦つづくパリ五輪。いよいよ佳境へと向かう大会17日目は、残念ながら日本勢は参加が叶わなかった各種団体球技の準決勝・決勝ラッシュに加え、アーバンスポーツのメダルマッチが行なわれました。日本の新お家芸となったスポーツクライミングでは、男子のボルダー&リードで17歳・安楽宙斗さんが銀メダルを獲得。前半のボルダーでは1位で、あと少しリードで伸ばせれば金も見えていたので惜しまれる部分もありますが、日本男子としては史上初のメダルです。この快挙を「ホールド」として、次なる高みへと向かっていってほしいもの。あと、それはそれとして「準決勝の課題の設定がおかしい」「リードの序盤にきついの置くしボルダリングは難し過ぎ」「ボルダー潰しか、だったら種目を分けろ」というご意見は送っておこうかなと思いました。

そして今大会の追加種目として採用されたブレイキンでは女子の種目Bガールが行なわれ、日本から出場したAMIさんが見事に初代金メダルを獲得。「めちゃ楽しそう!」という緩い解像度で拝見していただけではありますが、スケートボードなどとも重なる「互いの個性を尊重し合い、ともにチャレンジする」というポジティブな空気感が魅力的でした。ともすれば「勝ち負け」で死ぬの死なないのと自分を追い詰めてしまいがちな日本勢ですが、こういった競技の心持ちには大いに学ぶところがあるだろうと思います。「俺は挑戦した、お前も挑戦した、そしてお前が勝った、リスペクト、以上」で終わってもいいと思うのです。誰よりもメダルが欲しかった本人としてはそんな気持ちにはなれないかもしれませんが、負け方にも「時代」というものがあります。今は「死にたい」「申し訳ございません」「メダルがなければ私の価値はない」的な負け方はナシの時代だと思いますので、勝っても負けても元気に帰ってきてほしいなと思いました。

↓金が見える銀だったので悔しさも残るけれど、メダルがあってよかった!清々しい負けっぷりも見事ですね!


そして、この日活躍を見せたのは伝統のお家芸・リレーです。予選が行なわれた陸上男子4×400メートルリレー…いわゆるマイルリレーでは、中島佑気ジョセフさん、川端魁人さん、佐藤風雅さん、佐藤拳太郎さんの4人が予選を走り、日本勢としては20年ぶりの決勝進出を決めました。しかも、この走りで日本記録を更新し、全体4位の好タイムでの決勝進出です。個人種目の敗者復活戦を辞退してまでリレーに懸けた決断が見事に吉と出た格好。5月の世界リレーでも決勝4位となるなど、メダルに肉薄する走りを見せていた日本のマイルリレーですので、決勝での好走にも大いに期待したいものです。

↓トラック種目の最後を飾るマイルリレーに自国の代表がいるのはイイですね!



マイルリレーに先駆けて決勝に登場したのはメダル常連国として世界と堂々渡り合う4×100メートルのリレー侍たち。前回東京五輪では決勝で痛恨のバトンミスがあって途中棄権となっただけに、今回に懸ける想いはひとしおのはず。前回メンバーから唯一継続参加の桐生祥秀さんには、あの日走れなかった「東京の分」も思い切り走ってほしい、そんな気持ちで見守ります。

予選では日本チームの作戦は安定感重視でした。通例であればバトンパスが2回あり(※つまり長く走れる)、直線走路を走ることができる第2走者に強い選手を置くことが多いものですが、日本は走力で言えば最強であろうサニブラウンさんをあえて第1走者に起用しました。第4走者でも第2走者でもなく、あえての1走なのは「受ける」よりは「渡す」のほうがやりやすいからでしょうか。世界リレーでも同じような並びをやってはいたものの、一番速い選手を1走に置くのはセオリーではありません。

ただ、その起用の結果、予選では1走から2走へのつなぎではアメリカに先着するなど、予選2組分を総合しても全体トップの速さを見せることに。日本は3走の桐生さんも強く、予選では全体3位の好走を見せていますので、コーナー区間でだいぶ差を稼ぐことができました。着順での決勝進出こそ逃すも、全体4位のタイムで決勝進出はしっかり決めた日本。決勝ではもう一段上げてメダルを狙いたいところです。

↓強豪ぞろいの予選1組で4着!全体でも4位のタイムで決勝へ!


↓優勝候補アメリカは100メートル金のノア・ライルズさんがコロナ陽性で欠場のため、エクゾディアを召喚することにしたようです!

「俺のターン!ドロー!」
「オレの引いたカードは…!」
「感染せしノア・ライルズ!」
「今5枚のライルズが揃った!」
「ノア・ライルズは召喚される!」
「俺の勝ちだ!」

いや、コロナで召喚できないんだってば…!

じゃ、このデッキでは勝てないだろ…!



迎えた決勝。日本は3年前以上に攻めた選択をしてきました。日本のオーダーは第1走者に坂井隆一郎さん、第2走者にサニブラウンさん、第3走者に桐生祥秀さん、第4走者に上山紘輝さんというもの。2走に一番走力があるサニブラウンさんを起用するのはセオリー通りではありますが、サニブラウンさんはリレー合宿も基本的にパスするなど、ほかのメンバーほどバトンパスの練習をしていないはず。「受ける」と「渡す」が両方ある2走で上手くバトンをつなげるのかどうか。「受ける」だけの4走のほうでなくていいのか。もしロスなくつなげるならば、タイム的にはかなりのアップが狙えるはず。3年前の東京五輪で「攻めた結果」をやったチームが、もう一度この「ゴン攻め」をやろうとは思いませんでしたが、この勇気が結果につながってほしい…祈るような気持ちで見守ります。

日本は、グータッチで一丸となって入場。第3レーンから前を追って走り出します。1走坂井さんは出足鋭くほとんど差のない走りで2走のサニブラウンさんにつなぎます。サニブラウンさんはそこから区間1位の走りを見せると、3走の桐生さんへのつなぎもパーフェクトです。3走へのつなぎの時点で日本は1位。日本の賭けは当たりました。桐生さんはそこから区間2位の走りで、1位のままアンカーにつなぎます。一瞬ザワッとしました。見せ場十分でした。「この馬券当たる!」と思ったときの鼓動がドクンときました。チームとしての仕事は完璧にできた、そう思います。

しかし、リレーもかけっこですので足が速いほうが勝つのは道理。各国の強力なアンカーが追い上げてくるなか、バトンを受け取るときに「なかなかバトンが来ないので一瞬振り返って」いた上山さんの走りは伸びを欠き、残念ながら順位を守ることはできませんでした。「たられば」ですが「来ないなら来ないで構わん!」で全力で加速していればどうだったかなと思う、一瞬のロスでした。

結局日本は5番手で入線。アメリカの失格(※1走⇒2走でエリアオーバー/エクゾディア召喚失敗)などもありましたが、日本はアメリカよりも前でゴールしていますので見た目の順位と最終順位は変わらず日本は5位となりました。目指していたところには及ばないかもしれませんが、大きなチャレンジをして、シーズンベストを出しての5位ですので、これは「攻めた結果の世界5位」と受け止め胸を張ってもらいたいもの。いやー、あと1人個人で100メートルの準決勝に残るレベルの選手がいたら、アメリカもジャマイカも消えたので、金もあったと思いますね!

↓日本は素晴らしいリレーをするも、腕力でまくられました!


いい走りだったが…及ばず!

でも、見事な「攻め」でした!



順位的には過去の大会のような好結果ということではありませんが、内容としては非常に充実したいい走りでした。勇敢に攻め、見事につかんだ5位でした。東京五輪の無念を雪ぐ、文字通りの「攻めた結果」でした。この流れ、翌日の4×400メートルリレーにもぜひつながってもらえたらと思います。日本記録も出してしまって他国よりも予選⇒決勝での上積みが見込めない日本は、ここから上げていこうと思ったら「さらに速く走る」しかありません。個人種目を辞退しても大切に残したチカラを振り絞り、さらなる日本記録の更新で歴史を作ってもらえたらいいなと思います。今回のリレー侍は「400メートルのほう」に期待です!


力量的には苦しい状況でも世界で戦えるあたりが、「お家芸」なんですね!

「イチかバチかの大増量」に屈した須優衣さんは連覇を逃すも、オリンピックチャンピオンと変わらない価値がある銅メダルを奪還した件。

07:00
レスラー須優衣の価値がさらに増したパリ五輪!

いやー、波乱に次ぐ波乱でした。レスリング女子フリースタイル50キロ級、前回東京五輪では相手に1ポイントも許さず金メダルを取った須優衣さんがまさか1回戦で敗退しようとは。誰もそんなこと思いもしなかったのか、須さんが敗れた1回戦はテレビ中継もない始末。連覇を狙う女王がネット配信の試合でひっそり負けるだなんて。日本からの応援がちょっと足りなかったんじゃないの?と思わずにはいられません。

しかし、これは波乱の始まりに過ぎませんでした。須さんに勝利したインドのビネシュさんはその後決勝戦まで勝ち上がりました。大会規定により、決勝進出者に敗れた選手は銅メダルを目指す敗者復活戦に進むことができます。よーしこれで須さんは敗者復活戦進出だ…と思っていたところ、翌日になったら敗者復活戦はなくなったと言うではありませんか。

どうも、2日目の競技に臨むにあたっての計量において、ビネシュさんは計量オーバーで失格となったようなのです。その結果、準決勝でビネシュさんに敗れた選手が決勝戦に繰り上がりで進み、本来であれば敗者復活戦として行なわれるはずだった「ビネシュさんに1回戦と2回戦で敗れた選手同士の対戦」がそのまま3位決定戦にスライドすることになったのです。

↓一部報道ではビネシュさんは「100グラムオーバーで計量失敗後は脱水症状で失神した」そうです!



かつてレスリングは柔道のように1日で競技を行なっていましたが、リオ五輪後の2017年に試合方式を変更し、「1回戦〜準決勝」「敗者復活戦〜決勝戦」と2日間に分けて実施することにしました。これは選手の減量後の急激な体重増加による健康被害を防ぐ目的だったとのことで、現行ルールでは2日間とも「試合当日の朝」に計量が実施されます。国際トーナメントにおいては2日目の計量に2キロの許容幅が認められていますので、50キロ級の場合は2日目の朝の計量では52キロにおさめればよいということになります。

計量を失敗した選手は大会から除外され、失格として最下位にランクされます。失格した選手に敗れた選手は次のラウンドに進むと規定されていますので、準決勝で敗れ3位決定戦を戦うはずだった選手は決勝戦へ、1回戦・2回戦で敗れ敗者復活戦を戦うはずだった選手は3位決定戦へと進むことになります。このようなことで、須さんは敗者復活戦をスキップして、いきなり3位決定戦に登場することになったわけです。

↓「2018年から10階級制、2日間の試合形式になります」という公式からのお知らせです!

五輪で行なうのは10階級のうち6階級です!

なので、体重が中間ぐらいの人はいろいろ悩みますよと!


……と、これは国際レスリングルールに規定されていることなのですが、よくよく考えたらこれは不公平で理不尽ではないでしょうか。2日目の計量で失格になった選手というのは、初日の朝は規定内の体重であったものをドカ食いで一気に体重増加を果たし、その結果として2日目の計量では「2キロの許容幅」におさまらなかったわけです。ということは、初日の競技においては2キロどころではない体重増加を行なっていたわけです。個々の状況にもよりますが、5キロ以上増えていても不思議はないでしょう。

まぁ、体重増加はどの選手もやることなので構いませんが、それは「同じ条件ならば」という話。決勝まで勝ち上がるつもりの選手は当然「翌日は2キロ増におさめる」範囲で体重を戻します。しかし、強い対戦相手を引いてしまった選手は「1回戦の相手は絶対女王か」「ここで勝たねばその先を考えても意味がない」「もう一度落とせるかどうかはわからんがマックスまで体重を増やしてイチかバチか勝負だ!」と翌日の計量のことなど考えない大増量に挑むことだって考えられます。

今回の場合も、ポイントリードで試合を優位に進めていた須さんが、試合時間残り9秒の相手の捨て身の体当たりで押し負けたことが敗因でしたが、そこには「翌日は2キロ増におさめる程度の増量」と「イチかバチかの大増量」との1階級ぶんほどの体重差が効いていたのではないかと思うわけです。しかも、この「イチかバチかの大増量」の選手との差は戻したあとの「最初の試合」のほうが、少し動いたあとの「数試合後」よりも大きいはずです。つまり、一番の不利を被ったのは須さんなのです。

その際、「イチかバチかの大増量」を行なった選手と「1〜2回戦で対戦してしまった」選手は現行ルールでは著しく不利益を被っています。前提条件が異なる不利な勝負を仕掛けられたにもかかわらず、先に対戦したというだけの理由で、相手が失格になっても金メダルへの挑戦権は失われてしまうのです。これは計量に関する話だけではなく、ドーピング違反などでも同様の規定が適用されますので、ドーピングで筋肉の塊となった違反最強選手と「1回戦で当たって敗れてしまったら」、クリーンな選手はどうやっても金メダルにはならないのです。対戦順が違って、準決勝以降まで当たらずに済んでいれば決勝進出&金のチャンスが残ったかもしれないのに。

今回はもはやどうにもならないと思いますし、すべてをあとからやり直すことができるはずもありませんが、せめて「2日目の計量等で失格」が出た場合は「敗れた選手全員でもう一回決着戦」をやるのが穏当ではないかなと思います。16人参加のトーナメントであれば、もう一度やり直したところで「敗者復活戦⇒3位決定戦」だったものが「敗者復活戦⇒やり直し準決勝(※負けたほうは3位になる)⇒決勝戦」で1試合増えるだけですし(※十分不利ではあるが)。本来の準決勝で敗れた選手も、「負けても3位、勝てば決勝」という設定の試合なら納得感はあるでしょう。本来なら2日目は「負けたらメダルなしの3位決定戦」をやるつもりだったんですから(※十分不利ではあるが)。被害を被るまで気にしていなかったコチラも間抜けでしたが、もうちょっと改善の余地がある仕組みではないかと思いましたよね。

↓うーん、対戦運が悪かった!16分の3の大ハズレ!



とは言え、繰り言を述べても仕方ありません。今この場でできることは3位決定戦に勝って銅メダルを取ることだけ。須さんは本来なら2回戦で対戦するはずだったオクサナ・リバチさんと銅メダルを懸けて戦います。相手も2018年の世界選手権で銅メダルを取った実力者ですが、そのときに金を取ったのが須さんなのですから何の問題もありません。

前日のインタビューでは何度も申し訳ないと謝りながら「ここで終わってしまったのが信じられない」と泣いていた須さんですが、3位決定戦の舞台には堂々たる王者の風格で登場しました。タネが割れてみれば相手は「イチかバチかの大増量」だったと分かったわけですから、王者の威厳はいささかも傷ついてはいません。「残ってる選手にここから3連勝できたら金にしてあげましょうか?やりますか?」と提案したら即答で「やります!」と答えそうなくらいに気合が入っています。

会場ではこの試合に先立ち、男子グレコローマンスタイル77キロ級で日下尚さんが獲得した金メダルの表彰式が行なわれており、主に日下さんの大応援団がドッカン盛り上がっています。日下さん本人も表彰式の前に須さんの激励に向かっていました。これは遠いパリの地であっても日本の須さんに強い追い風が吹くというもの。

そして須さんはつかみました。開始30秒手前でタックルから後ろにまわって先制すると、2分過ぎにもタックルを決めて追加点。そこからローリングしてさらに追加で6-0。さらにタックルから後ろにまわって8-0。第2ピリオドに入って早々にもさらにタックルを決めて10-0。10点差がついたことでいわゆる「コールド勝ち」に相当するテクニカルスペリオリティ勝ちとなり、須さんは勝ちました。東京五輪のように1ポイントも与えない圧倒的なレスリングで銅メダルをつかみました。見ている者としては「金」を奪われたという憤りは拭えませんが、須さんは美しく銅を奪還しました!

↓本人的には銅で満足はできないかもしれませんが、素晴らしい戦いでした!


試合を終えたインタビューで須さんは「オリンピックチャンピオンの須優衣じゃなかったら価値がないんじゃないか」と思っていたという苦悩を明かしました。そして、「負けたのに」応援してくれる人たちに感謝していました。その様子を見守っていたスタジオにいる伊調馨さんが、みんな須優衣というレスラーが大好きだから、須優衣のレスリングが見たいから応援しているんだと思うよ…と寄り添うように言葉を掛けていたのが印象的でした。レスリングを楽しんでほしい、そんな想いが滲んでいました。

五輪4連覇を成し遂げ、誰よりもオリンピックチャンピオンでありつづけた人が、「違うよ、勝っているからではなく、愛されているからなんだよ」と自ら見出した人生をの答えを教えてくれているようで、とても温かい気持ちになりました。放送を通じて須さんに呼び掛けたわけではないので、人づてになると思いますが、伊調さんの思い伝わってくれたらいいなと思います。僕もその通りだと思います。ここにも「銅」で泣いている者がいます。金がすべてではないのです。金に挑み、頑張っている人間の姿に尊い価値があるのです。だから、「須優衣」の価値は上がりこそすれ下がるはずがないのです。どうか胸を張って、実質無敗でつかんだ「銅」持ち帰ってください!



2キロは許容幅だって言ってるのに、そこをリミットに戻すんじゃないよ!

sports






































婦人公論 2017年 12/27、1/6 合併特大号

僕は自分が見たことしか信じない 文庫改訂版 (幻冬舎文庫)

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