スポーツ見るもの語る者〜フモフモコラム

ミラノ・コルティナ五輪

幻の銀!スキージャンプ男子スーパーチームは日本勢金確実と調子に乗るも、悪天候中止による6位決着でメダルはなしでーすの巻。

07:00
長野五輪で借りてたぶんは返しました!

いやー、とんだ調子乗りになってしまいました。ミラノ・コルティナ五輪日本勢全体のなかでも金最有力種目のひとつに位置付けていた、スキージャンプ男子スーパーチームはまさかの6位となりました。金どころか銀も銅もなく4位でもなく惜しくも何ともないこの結果には「何らかのギャンブルとかで賭けてなくてよかったー」と思いましたよね。逆に、当てればこの金銀銅3連単はそこそこ高かったかもしれないですけど!



しかし、歴史の目撃者としてあえて言いたい、言い残しておきたい。この6位はイタリアでやっていたからこうなっただけで、本当の結果は銀だったと。あーもしかしたら銅だったかもしれないですけど、「幻の銀」は手の平のなかに確かに入っていました。あとは小林陵侑さんにしっかりと握ってもらうだけだった。日本でやる大会であれば、きっと握れた。僕はそう確信しています。

迎えた決勝の日。今大会のラージヒルの試合結果などを紐解きながら、僕は展開予想などをしておりました。各国2選手が各3回合計6回飛ぶこのスーパーチームの種目。ラージヒルの結果は合計4回のものとなりますが、日本チームの記録は全体1位でした。それにつづくのが出場2選手ともに穴がないオーストリア、そしてノルウェー、その後にポーランドといった様相。ラージヒル金のドメン・プレブツさんを擁するスロベニアも、ノーマルヒル金のフィリップ・ライムントさんを擁するドイツも、パートナーはやや安定感を欠きますので、メダル争いには絡めないかなといった感触です。

ラージヒルのスコアを単純計算すれば、日本は6メートルほどオーストリアを上回って金、メダル圏内という意味でも距離にして15メートルほどの余裕がありましたので、たぶん金が獲れるしメダルは確実と踏んでおりました。調子に乗っていたぶんも加味しますと「1ハラダくらいなら大丈夫」(※ハラダは痛恨の失敗の単位/距離にして25メートル程度)といった、敗退フラグをビンビンにおっ立てる発言さえ飛び出しました。

しかし、五輪は簡単ではありませんでした。1回目、日本は二階堂蓮さんが全体3位、小林陵侑さんが全体9位ともうひとつ伸ばせません。先行逃げ切り、1回目でトップに立って、その後グングン引き離すというイメージでいきたかったものが、わずかな差ではあるもののメダル圏内にも入れず5位となりました。トップのオーストリアとは18.9点差、距離にして10メートル弱ほど離されました。

さらに困った感じになったのが2回目。日本は二階堂蓮さんが全体4位、小林陵侑さんが全体6位と悪くはないものの、ノルウェーが好ジャンプで順位を上げ、日本は6位に下がります。トップのオーストリアとは33.5点差で距離にして17メートルほど。メダル圏内の3位とは1メートルほどの差ですので、そこはまったく問題ないのですが、オーストリアをつかまえるのはちょっと難しくなりました。この時点では、まさかこの6位がさらに壮大なやらかしだったとは思ってもいなかったわけですが…。




勝負の3回目。日本は暫定6位ということで、8チームで争うこのラウンドの1本目は3番目で飛ぶことになりました。ここで二階堂蓮さんは138.5メートルの大ジャンプ。飛形点も高く、146.8点とします。これで日本は合計682.0点として一気に2位にジャンプアップします。1位のオーストリア713.5点とは、距離にして16メートル差ほど。ただ、3位のノルウェー675.5点には距離にして3メートル少しの差をつけました。あとは小林さんがしっかり決めれば銀を確保できる、いい展開に持ち込んだのです。

しかし、最後のジャンプが始まった頃、パラリパラリと雪がチラつき始めます。そして全体3人目で飛ぶスロベニアのドメン・プレブツさんのところで競技が止まります。逆転のためにゲートを下げて加点を狙おうとしたスロベニアの要請を含めて、ゲートを3段下げることになったのです。これによってまずゲートを動かす時間が発生します。さらにその工事の間に風向きがガラッと変わったために運営側の様子見が発生しました。さらに、プレブツさんが飛んだあと、ほかの選手はゲートを3段も下げることを求めなかったもので、「ゲートを2段戻す」という折り返しの工事が発生したのです。

プレブツさんの前の選手が飛んでスコアが表示された時点から数えて、プレブツさんが飛んでスコアが出るまでにかかった時間が約7分20秒。次にドイツのライムントさんが飛んでスコアが出るまでにかかった時間が約1分30秒。その次にポーランドのトマシャクさんが飛ぶ前にはさらに雪が強くなり、アプローチの雪を吹き払う作業なども行なわれましたが吹けども吹けども追いつかず、なかなかジャンプすることができません。しばらく間隔が空いたことで、テストジャンパーが飛ぶという工程も加わり、結局トマシャクさんがジャンプしてスコアが表示されるまでに約8分50秒を要しました。

残りは3人、順調であれば5分とかからず競技は終わるはずの人数です。今飛べたのだからポンポン飛べばよさそうなものですが、トマシャクさんの記録が悪かったことで、条件が不公平であるという判断に至ったでしょうか。トマシャクさんが飛んでから約2分50秒後、中継映像では各国の選手が抱き合って喜び始める姿が映し出されました。どうやらこの時点で現場では「3回目のジャンプはキャンセル、2回目までの結果で競技終了」と告げられていた模様。プレブツさんのゲート工事が始まったところから数えて約20分30秒、日本は2回目までの結果をもって6位となることが決まったのです。

↓「1ハラダしても金」などと調子に乗っていたら遅効性のハラダで6位になりました!




その後、二階堂さんにインタビューなどしておりますと、競技終了の決定が下されたと思しきタイミングから5分ほどすると雪が小降りになり始め、小林さんがインタビューを受ける頃にはすっかり晴れたではありませんか。小林さんからも「この通り、5分強待ってれば出来た状況なので」「その判断が何故できなかったのかわかんないですし」「悔しいです」という振り返りとなりましたが、まったくその通りです。あと5分、あと5分も待っていれば状況は好転していました。

現地の状況や判断は詳報などを待とうと思いますが、きっといろいろあるのでしょう。競技開始時刻が現地時間の19時で、競技終了の決定が下されたのが21時頃。山の上のジャンプ台に観衆が集っていることを考えると、交通網や安全面など配慮すれば無限には待てないというのは理解はできます。テレビ中継の枠が限られているという身もふたもない事情もあるでしょう。あと5分・10分という話はありますが、ポーランドのトマシャクさんを不利な条件で飛ばせてしまったことで、条件が好転したとて競技再開という決断もしづらかったのかもしれません。それならスッキリ2回目までで打ち切ろうと。

もしこれが長野五輪であれば、映画化されるほどの粘りと熱意でもって「絶対に最後までやり切る!」と1時間でも2時間でも運営も粘ったのでしょうが、ここはイタリアです。イタリアの代表にメダルの可能性は事実上なく、長野のように粘る理由もありません。長野だって昼の競技だったから粘れただけで、夜の白馬であればあれほど粘れはしなかったでしょう。「プレブツがゲート工事せんでポンポン飛べば終わってた」と言いたい気持ちはありつつも、まぁ致し方ないでしょう。自然と戦う競技にはこういう事態はつきものなのですから、1回目からしっかり上位につけないといけなかった。日本以外の下馬評有力候補はしっかり上位につけてメダルを獲っているわけで、日本が「弱かった」と言うよりありません。

ただひとつ、あえてひとつ付け加えると、この試合実は本来の予定よりも11分遅延していました。本来は3回目のジャンプを現地時間の20時20分から始める予定だったのですが、当初16チームで争う予定が参加チームが17に増加したことで、競技スケジュールが繰り延べられたのです。五輪予選時点での参加予定チームと実際の参加チームを見比べると、その増えた1チームは…中国でした。だからどうだって話ではありませんが、その11分があれば全員飛び終わっていたのではないか、そんなことを思うとより一層「幻の銀」の幻具合がアップしてくるなと思うのです。世界にスキージャンプが拡大していくことを喜びつつ、「であればもうちょっと早く始めませんか」と思う出来事なのでした。

ま、長野五輪では相当粘らせてもらいましたのでね。

そのぶんだと思って大人しく引き下がるほかないでしょう。

次、もし日本でやるときは、勝てそうなときはトコトン粘りますんで、よろしくお願いします!



長野のときは「日本以外全員帰りたそう」くらいの悪天候でしたものね!

ふたりの出会いに感謝!フィギュアスケートの歴史に宇宙一の演技を刻んだ、三浦璃来/木原龍一「りくりゅう」ペアの強く尊い金の巻。

18:00
1+1を158.13にした金!

新たな歴史の扉が開きました。すでに日本勢にとって歴史的な大会になりつつあるミラノ・コルティナ五輪に打ち立てられた金字塔、フィギュアスケートペア三浦璃来/木原龍一組、「りくりゅう」ペアによる金。しかもフリー世界歴代最高得点となる158.13点をマークしての金。ロシア勢の不在など些末なこととかき消し、今ここに史上最高の演技があることを高らかに示しての金。歴史的な金になりました!




世界一のチカラを持ってりくりゅうペアは五輪にやってきました。世界選手権を二度制し、今季はGPシリーズ連勝からのグランプリファイナルも制覇。四大陸選手権を制したキャリアとあわせて、五輪制覇によるゴールデンスラム達成に手をかけるところまでやってきていました。「獲り得る」ではなく「獲るべき」まで自分たちを高めてきていました。

しかし、それでも簡単ではないのが五輪という舞台。人生を捧げた者たちとの戦いは、世界一のチカラをもってしても容易く勝ち抜けるものではありません。ショートプログラムで起きたアクセルラッソーリフトでのミス。リフトを得意とし、リフトで世界をリードしてきたペアにとって、信じられないような出来事でした。これが五輪か。ここで裏切られるか。そう唸りました。

演技を終えたあと頭を抱える木原さんの姿。このペアのリーダーシップを取り、リフトさながらに力強く「りくりゅう」を導いてきた頼もしさが消え入るように、うなだれ、目を濡らし、焦燥して見えました。得点差で言えばトップまでわずか6.90点差ですので、まったく諦める段階でも落ち込む段階でもないのですが、「これが五輪か」によるダメージは相当な深刻さに映りました。ことに、この大会ではすでに金確実とみられた選手が「これが五輪か」によってメダルさえも失う姿を見てきたばかりなのですから。



迎えたフリー。りくりゅうペアは金メダル候補としては早い、第3グループでの登場となりました。この演技のあとにメダル圏内にいるペア4組による最終第4グループの演技が行なわれます。ただ、りくりゅうペアの直前が前回金の中国スイ/ハン組であったことと、日本で一番なじみのあるシングルは6人のグループで行なわれることが多いこと、そんなこともあって今これが最終グループのような錯覚も覚えます。先に演じてプレッシャーを掛けられるか。真の強さが問われる瞬間です。

冒頭のトリプルツイストを高く鋭く美しく決めると、3連続ジャンプも見事な同調性で決めます。嫌なイメージがよぎっても不思議はないアクセルラッソーリフトもこの日は何の問題もない本来の出来栄え。ひとつ心理的難関を突破してりくりゅうは自分たちの強さを示しました。

その後もつづく攻めの演技。武器であるスロートリプルルッツは大きくて流れがあります。デススパイラル、笑顔で入るペアコンビネーションスピン、歓声あがるトリプルサルコウ、高くて大きくて安定したリバースラッソーリフト、GOE+5をつけるジャッジも出たスロートリプルループでは、三浦さんの振り付けがガッツポーズのようにも見えました。まだ要素を残した時点ですでに速報の技術点はこれまでのトップを上回っています。

最後のリフトはリンクを巡るように長く長く行なわれ、フィナーレのコレオシークエンスへ。「やった!」とでもいうような表情の三浦さんと、「おおお!」と叫び出しそうな木原さん。最後に木原さんが三浦さんを持ち上げたフィニッシュでは、団体戦では何度も何度も拳を突き上げて三浦さんがガッツポーズをしていたものが、天高く拳を突き上げたまま万感胸に迫って硬直するような幕切れでした。美しい彫像のようでした。これまでの日々、積み上げた想い、払った犠牲、すべてがこの日この時この瞬間のためにあった、すべてをやり遂げたふたりが抱き合って涙する姿は見ている者ももらい泣きさせるようなものでした。

スタンディングオベーションで大拍手と大歓声を贈る場内。そのなかでひときわ大きな声をあげる解説の…いや日本のペア種目を牽引し、木原さんをこの種目、この人生に導いた高橋成美さんはすごいすごいすごいと連呼しながら「宇宙一」とこの演技を評しました。そう、そうかもしれない。この広い宇宙でも、氷のうえでふたつの人生が同調する美しい種目はこの地球にしかないかもしれない。だとすれば。この演技は宇宙一に違いない。この試合の勝ち負けはまだ未定ですが、りくりゅうは五輪に勝ち、自分たちの人生に素晴らしい偉業を打ち立てた。間違いなく、勝者でした。



この演技は会場の空気を変え、世界の空気を変え、五輪を支配しました。珍しいものを見たい、特別な場面を見たい、ときにそうした世界の群衆の思いは負の方向に蠢いて、力量実績がある選手が五輪の魔物に食い散らされて失意に沈む姿を望むもの。もしかしたらあったかもしれないそんな負の空気さえ、りくりゅうの演技はかき消しました。苦しい場面もあったけれど、その困難をも乗り越えて、世界一のチカラを持つ者がその強さを示して勝つ、そんな王道を見たい。そういう正の方向で世界の空気が定まった、そう思います。すべての者がチカラを発揮したとして、なおこの演技が勝つべきだ、そんな空気へと。

まるで花道が開かれるように、金メダルへと近づいていくりくりゅうペア。最終第4グループは金ではなく銀と銅を争うかのように、ショート1位発進としたドイツのハーゼ/ボロディン組も、ショート2位ジョージアのメテルキナ/ベルラワ組も、ショート3位カナダのペレイラ/ミショー組もジャンプ要素に明確なミスが出て、りくりゅうの黄金の演技には及びません。互いに生涯最高を出し尽くせば、あるいはショートのミスが順位に影響を及ぼしたかもしれませんが、そうはならなかった。

これもまた五輪だな、そう思います。これまでの偉大な王者たちが、偉大であればあるほど必ず五輪を制してきたように、本当に勝つべき者がそれに値するチカラを示したとき、必然としてそれは金に至るのだなと思います。日本を団体戦銀に導いたりくりゅうペアに、ふさわしい色のメダル・金メダルが届いたこと、心から嬉しく思います。おめでとう、りくりゅう!





すべてがつながっての今だな、そう思います。日本では決して本流ではないペア種目の歴史を紡ぎ、切り拓いてきた先人たちがいたこと。そんなひとりであり、もしも時代が違えば今このりくりゅうペアのような輝きで世界だけでなく日本でもその名を轟かせたかもしれない高橋成美さんがいたこと、その成美さんの存在もあってもともとはシングルの選手であった木原さんをペア種目に向かせることになり、オリンピックへと到達したこと。そして、そんな姿を見ていた三浦さんが、一線を退くようにリンクでの仕事に打ち込んでいた木原さんのもとへ向かったこと。いろいろな出来事がすべてつながって今ここにある。

そのなかには、その瞬間においては挫折としか思えない出来事もあったでしょう。日本はもともとシングルが活況な地域です。木原さんも三浦さんももとはシングルの選手だったといいます。しかし、シングルが活況であるがゆえにその競争も険しい。木原さんが最後にシングルの選手として出場した2012年の全日本選手権には、羽生結弦氏や高橋大輔さん、小塚崇彦さんや町田樹さん、宇野昌磨さんといった世界のメダルを獲った選手たちがズラリと並んでいます。そこに織田信成さんや田中刑事さん、無良崇人さんが居並んでの熾烈な黄金時代。そこからペアに転向するにあたっては、100%前向きな決断だったものだろうかと思います。唇を噛むようにして団体戦に活路を見出した、そんな分岐点だったのではないかと想像します。

ただ、それすらも巡り巡ってふたりの一部になっている、そう思います。ショートプログラム、ふたりの武器であったリフトが滑り落ちたとき、正と負のどちらへ進むのか別れ道があったはず。そのとき、ふたりを支える別の武器である難度・精度の高いジャンプが力強く踏み留まらせた。ミスの直後の要素スロートリプルルッツ、最高ではなかったかもしれないけれど際どい別れ道で踏み止まった。三浦さんが着氷の姿勢を崩さないまま、上半身を動かしてバランスを保ち、降り切った。ひとりが崩れそうなとき、もうひとりがその倍の強さで支えるような、絆の強さが胸を打つ着氷でした。

ふたりがペアを組んだとき、見ている側も、演じている側もごくごく初めの段階から「合っている」と感じてきました。それはおそらく偶発的なものなのでしょう。持って生まれた体格や、バランス、タイミング、滑りの技術、ナチュラルなスピード感やスピンの速度。それぞれが培ってきたものが、おそらく出会いの瞬間から自然に合っていた。外れたパズルのピースがぴったりハマるように、これだと思えるような感覚があった。努力と研鑽による積み上げは当然するとしても、スタート地点が異例の高みにあったのだろうと感じています。

そして、その「合っている」は滑りだけではなかった。まだ年若かった三浦さんと、すでにスケーターとしてはベテランの域に差し掛かっていた木原さん。年齢とキャリアの差は、木原さんをりくりゅうでリーダーシップを取る存在へと押し上げていきましたが、それはある意味で補強的な部分だったのかもしれません。団体戦の表彰台にのぼるときに、過去の経験からもしかしてブレードに影響があるかもしれないとスペアの靴に履き替えるような繊細さであったり慎重さを持った木原さんは、ショートプログラムのあと崩れかけそうな姿を見せていました。何も終わってなどいないのに、終わったという顔をし、終わったという思考に絡めとられそうになっていた。剥き身の弱さが見え隠れしていた。

しかし、三浦さんは木原さんに「合っていた」。この極限の舞台で、剥き身の自分を暴かれたとき、このペアを支えるぶんの強さを三浦さんは備えていた。木原さんを抱き締め、励まし、思考を変え、ネガティブになりそうになる表現を何度も言い直しながら、これまでやってきたことも今起きたことも何も問題はないし終わってなどいないことをすぐそばで示しつづけた。キス&クライで大転倒してもあっけらかんとしているような強さと前向きさでりくりゅうを守った。思えばそれは始まりの日からそうだったのでしょう。放っておけば静かにリンクを離れていったかもしれない木原さんの手を取り、もう一度戦わせたのは三浦さんなのだから。

このふたりは生まれるべくして生まれたペアではない、そう思います。

はじめからペア種目を志す人がたくさんいて、ペアでの勝利を意図する周囲の後押しを受けて、すでに構築された組織と方法論によってベストなパートナー候補にあたりをつけ、成功するまで何度も何度も組み直して、「遅かれ早かれいずれ誕生していた類のペア」ではない、そう思います。ペアを組むという考えに至る人自体がまだ少なく、活躍を期待されるような環境もまだ乏しく、ほとんど誰も「金メダルを獲れる、獲る、そのために支える」などと思ってくれてはいないなかで、野生の花のように生まれたペア、そう思います。敷かれたレールなどなく、本人が辞めると言ったらそれで終わってしまうような道なき道を、紆余曲折を経て、挫折とも言えそうな分岐点を経て、それぞれが切り拓いてきたペア、そう思います。

そんなふたりが出会えたこと。誰もが「合っている」と感じるような巡り会いを果たすまで、諦めなかったこと。木原さんの時間に三浦さんが間に合ったこと。「運命の出会い」という言葉があるなら、きっとこういうことを言うのだろうと思います。このふたりが出会っていなければ、今も僕は、そしてたくさんの人は、日本がカップル種目で金メダルを獲る姿など想像もしていなかったでしょう。いつか獲れたらいいな、カップル種目強ければ団体戦も勝てるのにね、でもロシアとか強いしね、何か勝てる気しないしね、日本にはシングルがあるしね、さて女子シングル見ようか、みたいな価値観のまま長い時間を過ごしていただろうと思います。

その価値感すら変えたこの運命の出会いを、日本は大切にしないといけないなと思います。今この偉業は、本人たちの途方もない努力と忍耐と天運のもとで偶発的に生まれたものだと僕は思います。りくりゅうがいなくなったあと、じゃあ次またメダルを目指しましょう、そんな再現性のある話ではまだないだろうと思います。ただ、今大会はりくりゅうだけでなく長岡柚奈/森口澄士のゆなすみペアも五輪の舞台に登場しました。五輪の舞台に日本から2組が出場するのは初めてのことであり、「ゆなすみ」にはこの偉業につづいてくれそうな大きな期待感があります。そうして、やる人、目指す人、支える人、経験を持った人、伝える人、信じる人、憧れる人が、増え広がっていけば、価値観の次に現実が変わっていくはず。

いつか、この金メダルを見て、この絆を見て、「自分もこれをやりたい」と憧れる子どもたちがたくさん生まれ、その憧れがたくさんの応援を受けながらそれぞれのゴールまで辿り着けるようになったなら。五輪があるから、五輪にいけそうなカップルだから、だけではなく、「やりたい」というピュアな憧れがゴールにちゃんと辿り着けるように現実が追いついてくれば、日本においてもカップル種目がお家芸となっていくのだろうと思います。力及ばず破れるのは仕方ないけれど、今の日本では力及ばず破れたと納得するところまで競技をつづけるのも簡単ではないでしょう。シングル以上にペアやアイスダンスは、ふたつの魂が必要なぶん、乗り越えるべきものもふたつになるのですから。もし、力及ばず破れたと心から納得できるところまですべての憧れを辿り着かせることができるようになったら、そのなかにはきっとまたりくりゅうのように「合っている」ペアがいるだろうと思います。

そこまで辿り着いてはいなかっただろう木原さんと、

その消え残る心に火を点けた三浦さんとが、

「運命の出会い」を探し求めなくても遅かれ早かれ出会えるような日本になる日、

それが未来のステージかなと思います。

だからこの偉業は、少年漫画ならきっとこんな言葉で締めくくられる奇跡の物語なのかなと思います。

「出会ってくれて、ありがとう」
「見つけてくれて、ありがとう」
「この広い宇宙のなかで、私を」

本当に、ふたりが出会ってくれて、ありがとうです!




そんなことで、ちょっと感極まってきまして、映画化・舞台化を希望する心が昂っているので、心とお金のあるどなたか、三浦璃来/木原龍一主演によるアイスショー「りくりゅう」を企画していただけないでしょうか。本人たちの半生を振り返りながら、最後にあの感動の「グラディエーター」で締める感じの3時間くらいの公演を。途中に絶対に欠かせないキャストとして高橋成美さんが登場したときにそこだけコメディタッチにならないかは若干気になるところですが、最後は絶対に泣いて終われると思いますので。いや、リアルに、次の未来を目指すのにあたっていい案じゃないかなーと思うので、検討してみていただけると幸いです。その際は、木原さんのバイト先で三浦さんがペア結成を誘った場面は、脚色バリバリてんこ盛りで「リアルにはこうは言ってないです」「ていうか全然嘘です」「私ビンタとかしません!」くらいのドラマティックな嘘をお願いします!ショーなんで、軽くビンタするくらいの嘘が入っているほうが泣けると思いますので!


この出会いは一生の宝物ですね!末永く仲良くしてください!

喜び基準の謎深まる!日本の大エース・睫敞帆さんが出場不透明だった500メートルで銅を獲り、歓喜の飛びつき抱っこハグの巻。

13:30
飛びつき抱っこハグ出ました!

日本の大エースがまたもやってくれました。大会も折り返しを迎えたミラノ・コルティナ五輪、スピードスケート女子500メートルで睫敞帆さんが銅メダルを獲得しました。これで500メートルは前回北京での銀につづく2大会連続メダル。すでに獲得している1000メートルでの銅とあわせて2大会連続での500・1000・1500でのトリプルメダルも視界に入ってきました。この勢いでチームパシュートを含めた4メダル、金入りで取り切ってもらいたいものです。




今大会では自身の真の種目と自認する1500メートルでの金を最大の目標とし、大会入りにあたってもそこにフォーカスしてきた睫擇気鵝この500メートルは出るのか出ないのかわからないといった具合で、方針を明確にしてきませんでした。主要な国際大会への出場もワールドカップ第3戦ヘーレンフェーン大会の2部での優勝があるくらいで非常に限定的なものでした。

そのため世界ランキングは下位になっており、この日の登場も第4組という早い順番でのものでした。通常であればメダルを争う選手が出てくるような順番ではありません。実際、今季美帆さんが試合で記録してきたタイムを見ても38秒台から37秒台後半といったところで、最終的に36秒台に入るのではないかというメダル争いを云々する実績は残してきていませんでした。

しかし、ふたを開けてみればそこにいたのは世界の睫敞帆さんでした。第4組アウトレーンからスタートした睫敞帆さんは、スタートしっかり決めると、最初の100メートルを全体でも4番目のタイムとなる10秒40で入ります。少し距離が長いところで強みを見せる美帆さんとしては非常に速い入りで、最初のコーナーの出口では早くも時速53キロ弱までスピードを伸ばすなど、さらに後半へと伸ばしていけそうな手応え。アウトレーンのスタートだったことと同走の中国・王さんも前半型で非常に入りが早かったことで、同走選手が美帆さんにとって絶妙にいい位置でのターゲットになってくれるという幸運もありました。美帆さんはバックストレートでは時速55キロに迫るところでまで加速し、3コーナー・4コーナーに入っていきます。

このコーナーでも非常にスムーズな動きで、52〜53キロ台でまわってくると、ストレートに戻ってくる頃には再び54キロを超えるところまで加速するなど、まったくロスがありません。最後までスピード落とさず入線すると、本人も即座に笑顔を見せる好タイム37秒27が出ました。自己ベストに近いこのタイムは、ワールドカップでも表彰台圏内に入るもの。解説の加藤条治さんも「めちゃめちゃいいです!」「これはいいです」「あ、これはいいです」「あれ?メダルも狙えるところまでもしかして」「あれれ?」と大興奮です!

↓いわゆる漬物石となって美帆さんはこのあと長くトップに座りつづけます!


日本勢の山田梨央さんも37秒78でつづき、一時は日本勢のワンツーとするなど、さらに期待感が高まっていくレース。美帆さんのタイムを上回る選手がようやく出たのは第12組、1000メートルを圧倒的な強さで制したユッタ・レールダムさんのところでした。それでもタイムは37秒15とわずかな差。これはリアルに美帆さんのメダルも見えてきました。

組が進んで優勝候補が並ぶ最終盤へ。第14組ではメダルの期待がかかる日本の吉田雪乃さんも登場しますが、タイムを伸ばせず。これで残るは最終組の2人だけで、依然として美帆さんは2位をキープしています。銀か銅か4位か。最終組の世界記録保持者フェムケ・コクさんと、この種目で北京五輪金のエリン・ジャクソンさんのレースで美帆さんの結果が決まります。

「この2人が残っているのではさすがに4位までか…」と覚悟しつつ見守ると、何とバックストレートでエリン・ジャクソンさんがつまずいてしまいました。このわずかな減速が最終的にメダルの有無を分けました。先着したコクさんはオリンピックレコードでの金、そしてエリン・ジャクソンさんは37秒32でわずかに美帆さんに及ばず4位。睫敞帆さんの銅メダルが決まりました!

↓決まった瞬間ガッツポーズからダッシュしてコーチに飛びつき抱っこハグする美帆さん!


1000メートルでは銅でも悔しそうにしていたのに、500の銅はめちゃめちゃ嬉しそう!

基準がよくわかりません!



スタンドで見守る姉の睫攤敍瓩気鵑皀献礇鵐團鵐哀ッツポするなど喜びに沸く日本勢。オランダファンで埋まる場内からも、長年にわたり鎬を削る強力なライバルへの敬意を込めて美帆コールが贈られました。互いにチカラを出したレベルの高い決着、その一角に日本の大エースが食い込んだことは誇らしくさえなるよう。出るか出ないか迷うくらいの扱いだったはずの種目が、いざ銅となるとめちゃめちゃ嬉しそうにしているあたりの喜び基準は謎が深まるばかりですが、とにかく美帆さんが喜んでいる姿が見られて嬉しい限り。

1000のときよりも動き自体がよくなっている雰囲気もあり、本人的な手応えも増しているようなので、これはチームパシュートと1500メートルでも大いに期待できそう。「1500があるので500は控えた」が想定された動きだったなかで、「1500があるのに500も出た、そしてメダルを獲った」わけですから、これはもう大きな大きな結果が見えてくるというもの。最大最強のライバルと目されたオランダのヨーイ・ベーネさんが1500メートルの代表を逃したということも含めて、吹く風はオール追い風になってきました。

4種目出場というのは大変過酷で、そのなかで一番狙っている種目が日程の最後になるというのは難しい状況ではありますが、それを乗り越えてこその大エース。歴史を紐解いても、スピードスケートの王者というのはそうやっていくつもの種目を制してきました。最後に向けてあげていく、その過程においてもしっかりメダルを確保する。そんな大会の流れを構成して、最後に500以上の笑顔を見せてもらえたらいいなと思います。そのときは飛びつき抱っこハグスペシャルでヨハンコーチをひっくり返す感じでいっちゃってください!



強いオランダ勢を打ち倒して悲願の金をつかむ締め、見えてきました!

五輪の魔物に襲われたかのようなフィギュアスケート男子シングルの結果を受けて、より一層勝者の尊さと勝利の困難さを強く感じた件。

07:00
魔物はいつもそこにいる、気づいていないだけで!

衝撃的な結末でした。フィギュアスケート男子シングル、あえて言うならば「イリア・マリニンさんまさかの8位」というこの結果。誰が金を獲ったか以上に誰がメダルを逃したかが語られることはそう多くはないのですが、この種目に関してはそうなるのも仕方ないことでしょう。それだけの力量と前評判があったわけですから。

試合についてはすでに十分に振り返られたあとでしょうから、各位で反芻していただければと思いますが、フリープログラムでは全体的に苦しむ選手の多い大会だったなと思います。特に最終グループは「生涯最高」はもとより自分の標準的な出来栄えにも届かない苦しい演技がつづきました。

現地の雰囲気なのか。リンクの状態なのか。団体戦も絡んだ日程問題なのか。あるいはほかの何かなのか。理由は定かではありませんが、日頃の試合とはまったく違うことが起き、だからこそ、そうした状況のなかでも自分のベストに近いパフォーマンスを出せた選手が大きな結果につながったのかなと思います。

カザフスタンのミハイル・シャイドロフさんは、この大本番に向けて4回転フリップやトリプルアクセルから4回転サルコウにつなぐ3連続ジャンプなど、自分にできるすべてを注ぎ込む演技。この1回、この日この時この瞬間に自分をどこまで高めることができるかの挑戦に勝った。そんな演技でした。

そして、日本の佐藤駿さんの演技も素晴らしかった。最後まで4回転フリップを追加するか構成で思案していたようですが、自分をオリンピック団体戦の表彰台まで羽ばたかせた「火の鳥」を貫きました。メダルを欲しがる以上に、最高の自分を五輪に遺すことに徹した、そんな選択だったと思います。この日この時この瞬間に向けて積み上げてきた長い長い準備の軌道の先に今があり、その軌道から正しく美しく跳んだ、そんな演技だったと思います。

過去の記録だけを踏まえるなら、演技を終えた時点の佐藤さんは自身のメダルはないものと思っていたでしょう。ただ、それは過去がそのまま再現されたら、の話。五輪に「たられば」はありません。過去がそのまま再現されるなら改めて五輪をやる意味はないのです。競技終盤の演技は…あえてひとつひとつ痛みをあげつらうのも無粋なので割愛しますが、あれが五輪ということだと思います。だから五輪は難しいし、だから五輪で勝つことは尊いのだ、そんな出来事だったと思います。

↓五輪の舞台で生涯最高を出せたシャイドロフさんが金!日本勢も銀銅!


真っ暗だった鍵山さんの表情が、佐藤さんのメダル確定で満面の笑顔に変わった!

日本はずっと「団体戦」で戦っているようでした!

表彰台に飛び乗る夢を叶えた皆さん、おめでとうございます!



五輪には魔物がいると言われます。もちろん、そんなファンタジーはありません。突き詰めれば、それは「弱かった」に尽きます。慰めの言葉や、勝ち負けがすべてではないという別の価値観の提示や、さまざまな不運・不利がなければというタラレバ繰り言、採点や判定に対する疑義など、過去(あるいは予測)との不一致を補うような言葉はいくつも用意があるのですが、勝利とメダルを求めた選手にあえて端的に言うならば「弱かったから」になってしまうのです。

五輪は過去を競う場所ではありません。過去の実績で五輪の結果が決まるなら、五輪をやる意味はないのです。五輪は日常的な範囲で出せる、平均的なチカラを競うための舞台ではありません。100回やってどちらが強いか、という話であれば、それは体力・技術だけでなく、抑えた出力でどの程度のチカラが出るかといった効率や、資金や環境がどれだけ整っているかという持続可能性など、さまざまな要因も含めての勝負になります。日常とは言うなればリーグ戦のようなものですが、五輪という非日常はそういう性質のものではないのです。

2019年6月24日にミラノ・コルティナ五輪の開催が決まったときから、この日この時この瞬間に向けて人生を捧げ、ここで自分の生涯最高のチカラを出すための長い長い一発勝負は始まっていたのです。途中経過は参考資料でしかなく、すべては初めからこの日この時この瞬間の1回だけの勝負だったのです。その1回きりだから、何年もの準備があるから、初めて出せる生涯最高最大最強のチカラがある。そのチカラは誰が一番大きいのか、その答えが初めて出るのが五輪なのです。「8年とか4年かけて人生すべてを注いだ準備をしたらどっちが強いかな?」の答えは誰も持っていないから、それを五輪で確かめるのです。それが「実力」なのです。だから難しいのです。だから尊いのです。

たくさんの人生がすべてを犠牲にして、たくさんの人を巻き込みながら、この日この時この瞬間に向かってきました。怪我をするかもしれない。病気になるかもしれない。不慮の事故に遭うかもしれない。道具が壊れるかもしれない。用具を盗まれるかもしれない。交通事故で会場入りが遅れるかもしれない。急に音楽が止まるかもしれない。楽曲が使えなくなるかもしれない。世界的なパンデミックで大会が中止になるかもしれない。母国が急に戦争を始めるかもしれない。特定の選手にだけ有利(不利)な判定をする審判が紛れ込んでいるかもしれない。隕石が落ちてくるかもしれない。そんなすべての危機を回避するのは本人の体力・技術だけでは到底足りません。自分以外のチカラや幸運も総動員して、すべてに備えるのです。

今回も団体戦の表彰台に乗ったときにブレードのエッジが刃こぼれしたという話がありました。そんな事故・不運があったとしても、刃こぼれしたエッジで転倒すれば、それは「8年とか4年かけて人生すべてを注いだ準備」に不足があったということ。靴が壊れてもいいように同じくらい使い慣れたスペアを用意する、であるとか。何を踏むときにも本当に踏んでいいのか確認する、であるとか。あるいは刃こぼれしても直せるような体制を組む、であるとか。それもこの長い長い一発勝負の一部であり、ほんの入り口でしかありません。「道具が壊れる」なんてのは、さっきありそうな危機を適当に列記したときにごく自然に入ってきていますよね。冷たい言い方ですが、当然備えるべき範囲のことなのです。

日本はその点で本当に幸運だったというか、素晴らしい備えができていたというか、佐藤駿さんを指導する日下匡力コーチが過去の苦い経験からブレードを研磨する技能を習得しており、今大会でもその技能によって各選手が問題なく滑れるように応急処置ができたといいます。本当ならば「もし靴が壊れたらどうしよう?」の答えを個々に持っておくべきでしたが、「研磨する」の選択肢を行使できたのは、まさに「支える人たちのおかげ」であり「幸運(=過去の不運とも言える)」であると思います。ひとりで戦っているわけじゃない、ありがたいことです。そんなことに思い致していれば、普段から支える人たちへの感謝の念が自然とこぼれると思うのです。自分では到底やり切れない準備を、その人たちが担ってくれているのですから。ほかの人の人生を使わせてもらっているのですから。支える人に感謝の念がこぼれない選手は、備えが足りない、僕はそう思います。あなたはまだ自分ひとりで戦って勝てる、そう思っている段階なんでしょうね、と。

五輪の魔物とは、そういうすべてのことなのです。

そこで起きるすべてが魔物のようになり、自分が今まで気づいていなかったこと、備えが足りなかったことを突きつけてくるのが五輪であり、そのなかでも特に気づいていなかったことや備えが足りなかったことを、人は未知であるがゆえに「魔物」と呼ぶのです。

日常のなかでは些細な、取るに足らないことが、「8年とか4年かけて人生すべてを注いだ準備をしたらどっちが強いかな?」という極限の戦いにおいては日常の千倍・万倍の強さで効いてきます。自分が重圧にどれだけ強いのか、重圧のなかで使える体力はどれだけあるのか、ほんの少しだけ配慮を欠いた言葉がどれほどの悪意の広がりを生むのか、今まで自分を知りもしなかった人たちが急に猛然と悪意や好意を向けてきたときどんな影響を受けるのか、自分がどんな責任や義務を負うことになるのか、すべては五輪でしかわからないことです。五輪に匹敵する舞台は五輪しかないのですから、五輪を知らない選手がいるのは無理からぬことです。が、それも備えのひとつ。「期待の若者にあえて早く一度経験をさせる」とか「弱いことを前提に徹底して守る」とか、できること・してあげられることはあるはず。できなかったのは足りなかったということ。備えが足りなかった結果として起きたことは、甘んじて受け入れるしかありません。そして、その不足が何で、どうすれば解消できたのかを確かめる機会もまた、五輪にしか存在しないのです。今度はすべてに備えられたのだろうか、自分は本当に強くなったのだろうかと自問自答しながら4年後に向かう、それしかないのです。

そんな難しい戦いだから、五輪の勝者は尊いのだと僕は思います。

まして、五輪を何度も勝つというのは、途方もない尊さなのだと思います。

五輪は出てみないとわからないように、五輪に勝つとどうなるかというのは勝ってみないとわかりません。期待も重圧もさらにいや増すでしょう。好意も悪意もさらにいや増すでしょう。責任も義務もさらにいや増すでしょう。そのとき自分がどうなってしまうのかは、その立場になってみないとわからないこと。それはきっと「8年とか4年かけて人生すべてを注いだ準備をした一発勝負(自分だけ常時魔物遭遇モード)」なのだろうと思います。想像もつかない世界の話ですが、そういう世界を見させてもらうことに、素晴らしい喜びがあり、尽きない感謝があります。願わくば今大会も、そんな途方もない勝利が見られるといいなと思います。すでに日本勢による同種目連覇の可能性は潰えましたが、種目問わずであればまだまだチャンスはありますのでね!



「既知の課題」と認識できていれば、人はそれを「魔物」とは呼ばない!

平野歩夢さんの1620に震えた男子ハーフパイプは、戸塚優斗さん金・山田琉聖さん銅・平野流佳さん4位と日本勢が超席巻した件。

08:00
挑戦はこれからもつづく!

ミラノ・コルティナ五輪を席巻する日本スノーボード勢がまたまたやってくれました!ここまで男女のビッグエアでダブル金+男子の銀を獲得し、ハーフパイプ女子でも小野光希さんが銅を獲得。そして大注目の男子ハーフパイプでは過去2大会メダル候補と言われながら決勝で満足のランができずに失意の五輪となってきた戸塚優斗さんがついにメダル、それも金メダルを獲得しました。山田琉聖さんが銅、平野流佳さんも3本フルメイクで4位、そして平野歩夢さんもダブルコーク1620を決めて奇跡の7位に!この大活躍には、スノーボード大国を自認してもバチは当たらないでしょう。お茶の間でも座布団をジャパングラブしながらガッツポーズです!



迎えた決勝。日本勢は予選2位通過で戸塚優斗さん、3位通過で山田琉聖さん、5位通過で平野流佳さん、そして7位通過で平野歩夢さんと出場4選手がいずれも決勝進出を果たしました。特に、直前1月の大会で大転倒し、複数個所の骨折ほか多数の負傷をしながら奇跡的な出場に漕ぎつけた平野歩夢さんの決勝進出は、その時点でもうメダル級の感動を日本…いや世界に広げてくれるものでした。鼻が折れた、骨盤が折れた、ヒザが倍に膨らんで感覚がない、その状態でもここに立つというその覚悟、その勇気たるや。

予選での平野歩夢さんは、ドロップイン後のダブルコーク1280からキャブダブルコーク1440につなぎ、フロントサイド900、バックサイドのダブルコーク1280、そして最後のフロントサイドダブルコーク1080まで抑えめの構成でしっかりとつなぎ切っていました。すると、このランに予選のジャッジ1番は90点をつけました。このジャッジだけの判断ではあるものの、ジャッジ1番のなかでは歩夢さんのランはメダル圏にも肉薄する評価でした。怪我の状況は心配ではありますが、決勝の最後の最後の1本にすべてを懸けることができたなら、奇跡は起きるかもしれない…そんな予感で勝手に頭のなかには夢の光景が広がっていきました。





多くの選手が高難度の技に挑み、1本目から究極の一発を狙ってくる決勝の舞台。「まずはメダル圏内に置きにいって」なんて選手はひとりもいません。全員がフル全力でフルメイクを目指しています。成功には至らないものの、ダブルコーク1620(4回転半)やトリプルコーク1620に挑む選手も。4年前の北京で平野歩夢さんが金を獲った技はトリプルコーク1440でした。世界はそこからさらに1回まわしていこうとしている。何というレベル、何という進化。この挑戦の連打のなかでは、恐れていてはメダルも金もありません。

日本勢で最初に登場したのは平野歩夢さん。1本目からいきなりフロントサイドダブルコーク1620に挑んできましたが、ここは腹ばいで転倒。身体の状態はわかりません、が、最初から最後まで全力でいく覚悟があるのはわかります。ここで決められなかったのであれば、決まるまで挑みつづけるのでしょう。最後までもってくれ、そう願うだけです。

そんな平野歩夢さんに刺激を…今さら改めて受けるなんてはずはなく、ずっとその存在に牽引されてきたであろう日本勢は、平野歩夢さんの挑戦をさらに超えていくような見事なランを見せます。平野流佳さんは1440を3本入れる構成でフルメイク。ジャッジ6人全員が90.00点をつけたランは「今日のメダルラインはまずこのランが基準だね」というメッセージでした。

つづく山田琉聖さんは、トリプルコークは含まないもののマックツイストやスイッチダブルアーリーチャック900などをまじえてスタイルを出すラン。キャブダブルコーク1440もバッチリ決めて92.00点で上に出ます。その後、戸塚優斗さんもダブルコーク1440からトリプルコーク1440を連続で決めると、スイッチダブルアーリーチャック900からスイッチスタンスでのダブルコーク1080につなげるなど淀みない連続技で91.00点。最後に滑った前回銀のスコッティ・ジェームズさんがミスとなったことで、1本目を終えて何と日本勢がワン・ツー・スリーとしました。

ただ、スコアは「92、91、90」と明らかに上位の入る枠を残しています。「これで終わりじゃないよな?」「あと2回、金銀銅が全部更新されてもいいように枠を空けてあるぜ」そんなメッセージ付きの採点。もちろんどの選手もそこに飛び込んでいくつもりです。

決勝2回目。この2回目はまず平野歩夢さんがやってくれました。3個目のトリックでフロントサイドダブルコーク1620を見事に成功!最後となる5個目のトリックにフロントサイドトリプルコーク1440を決めて86.50点!メダル圏内に飛び込むことはできませんでしたが、奇跡のランを見せてくれました。4年前を超えてきました。この大怪我のなかで!



そんな頼もしい姿を前に、さらに高く跳んでいく日本勢。平野流佳さんは先ほどの1本目よりも構成をあげて、1440を3本入れてきました。点数は90.00点と変わりませんでしたが、さっきの自分を超えてきました。山田琉聖さんは、何と1本目とはまるで違う構成で、2個目のトリックにスイッチスタンスでのアーリーダブルロデオ1080を組み込んできました。転倒となりランは途中で途切れましたが、大本番にまったく違う構成のネタを2種類持ってきているなんて、M-1 決勝かと。この多彩さ、独創性、最後までメイクしたら何が起きるのかワクワクが止まりません。

そしてそして、過去2大会は決勝で満足のランができず、栄光の影で救急搬送されるなど五輪に苦しんできた戸塚優斗さんに、ついに「戸塚さんの番」が訪れました。最初のトリックをトリプルコークにして「連続トリプルコーク1440」に構成をあげ、完璧なフルメイク。すべてがクリーン、すべてが一本でつながった美しさ。先ほどの91.00点より下にすることは絶対にできないランで、これにはジャッジたちも「金では?」と認める95.00点の高得点を出さざるを得ない!最後に滑ったスコッティ・ジェームズさんもフルメイクで93.50点としますが、これは2位まで。最後の1本に勝負を懸ける展開となりました。



決勝最終3本目。誰もが究極の1本を目指して全力の挑戦をしてきます。ダブルコーク1620、トリプルコーク1620の大技を決める選手も生まれます。平野歩夢さんももちろんそのひとり。2本目のランよりもいい内容で再びダブルコーク1620を決めました。しかし、フルメイクには至らず、連続メダルはなくなりました。ただ、あの1月の大転倒負傷からすれば、この舞台に立ち、この大技をメイクしたことは奇跡にほかなりません。滑る前も、ランを終えたあとも、「ありがとう」の言葉しかなかった。本当にすごいものを見せてもらいました!

さぁ、メダル争いはいよいよ決着へ。メダル圏内に飛び込みたい平野流佳さんは全体の流れはこれまでと同様も、グラブを変えてさらに上を目指してきました。ジャッジの評価は微増の91.00点と大きく響くものではありませんでしたが、全選手のなかで唯一の3本フルメイク、すべて90点台、そして1本ごとに自分を超えつづけたことは誇れる結果ではないでしょうか。お見事でした。

競技が進み、山田琉聖さんの番を迎えた時点では山田さんの銅メダル以上、そして戸塚さんとふたりで日本勢の複数メダルが決まっていました。もうこれは金を目指すしかないシチュエーション。山田さんは2本目で通せなかった構成に再び挑み、今度は見事にフルメイク。3位は変わらずも、2種類の構成いずれでもメダルに届く92.00点のスコアを出してきたというのは力量十分&個性十二分の内容でした。

金を獲りにいく戸塚さんの3本目。2本目の構成からさらにあげて4個目のトリックを1440まで追加で1回転まわしてきました。決まれば95.00点以上は間違いないところでしたが、最後のトリックの着地でリップに当たり、惜しくもフルメイクはならず。堂々の95.00点を持って、金が決まるのを待ちます。

最後に登場のスコッティ・ジェームズさんは、金を獲るための秘策を開放してきました。最後の5個目のトリックにダブルコーク1620を入れるという自分を超える構成は、決まれば金もある、金のために挑んだ限界への挑戦でした。その挑戦は実りませんでしたが、誰もがそのフルメイクを見てみたくて、失敗を喜ぶのではなく失敗を惜しんでいました。清々しい挑戦と挑戦の戦い。色は金銀銅でわかれましたが、全員を讃えたいような聖戦でした。日本、戸塚優斗さん金、山田琉聖さん銅、ダブル表彰台ありがとうございます!

↓平野歩夢さんは「生きて帰ってこれてよかった」だそうです!




さて、この大会のなかで、中継で解説の方が言っていた話を通じて気づかされたことがあります。このハーフパイプやビッグエアでは選手たちの仲睦まじさが中継でもよくわかりますが、それを僕は単に普段から一緒にいるから、みんなで頑張っているから、仲がいいから、みたいな表層で捉えていました。しかし、実はその奥には恐怖に打ち勝つための連帯があるのだというのです。

冬の雪山、コンクリートのように固めた雪面、そこでビルの3階・4階にも相当する高さを跳び、ときに頭から雪面に叩きつけられる過酷なスポーツは、選手たちにとってもやはり怖いのであると。そこに自分ひとりで挑むのはとてもとても怖いのであると。試合はまだしも練習ではその恐怖と戦う自分を支えてくれるものも後押ししてくれるものもありません。それでもその恐怖に打ち勝っていけるのは、そこに仲間がいるからなのであると。

彼らはライバルではあるけれど、自分の挑戦を見届けてくれる観測者でもあり、その視線があるからこそ恐怖を乗り越えて飛び込んでいけるのだと。あいつが見ている。俺もやってやる。あいつすごいことをやったぞ。俺も負けられない。そうやって互いの挑戦を見守り、讃え合うことが選手たちの孤独を埋め、恐怖に打ち勝つ後押しとなり、限界を超えていくことができるのであると。だから、たとえ勝負に負けることがあったとしても、偉大な挑戦には惜しみない賛辞を贈るのです。誰かの挑戦が、次の自分の挑戦につながっていくから。そんな「情けは人のためならず」みたいな視点を得たのです。

今大会の平野歩夢さんの挑戦は、もしかしたら大変危険なものだったかもしれません。勝ち目の薄いものだったかもしれません。しかし、この挑戦は本人だけのものではなく、ミラノ・コルティナ五輪にいる選手たち、世界のスノーボーダーたち、そしていつかボードに乗る子どもたち、そういったすべての仲間たちに勇気を伝える連帯だったのかなと思うのです。「歩夢は負けなかったじゃないか、だから俺だって」と誰かを奮い立たせるような。前回大会の激闘が「あれを超えなければ」という思いを世界に広めて、今日この素晴らしい戦いに至ったように、また新たな勇気を広めるものになったと思うのです。

前日の女子ハーフパイプでも最後に金をつかんだのは、1本目でリップに激突し頭から落ちる大転倒となっていた韓国のチェ・ガオンさんでした。一時は棄権という情報まで流れたチェ・ガオンさんが2本目に登場したとき、再びの転倒となるも会場からは惜しみない拍手が送られました。それだけでも十二分に勇敢な挑戦であったのに、何と最後の3本目で900を3本成功させる圧巻のフルメイクを見せるだなんて。90.25点はその日唯一の90点台でした。あの転倒から金で終わる未来を見せてくれたこと、それはチェ・ガオンさんがすごいという話であると同時に、スノーボーダーはすごい、人間はすごい、そんな勇気を広げるものだったと思います。

世のなかにはさまざまな競技があり、それぞれの哲学があります。決勝に限っては1本1採用というモーグルのような完成度を重んじる競技もあれば、3本2採用のビッグエアや3本1採用のハーフパイプのように失敗があることを前提として限界を超える究極の1本を求める競技もあります。そういう挑戦に重きを置いた哲学のなかで、平野歩夢さんをはじめ選手たちの挑戦は勝負の結果を超えて意義あるものだったと思います。そこに挑める機会があるならば、恐れずに挑む。そんな勇気を伝え、そんな勇気を讃える、それこそがこの競技の価値感なのだと高らかに示すような。

いいな、と思います。

すごいことに挑んだ人が、すごいことに挑んだねって、讃えられる世界は。

勝者とか敗者である前に、全員が挑戦者。

敵はライバルではなく「限界」。

ライバルは敵ではなく「同志」。

結果もさることながら、とても清々しい挑戦たちでした!



「限界に挑め、挑まねば何も得られない」と言っているルール、イイですね!

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婦人公論 2017年 12/27、1/6 合併特大号

僕は自分が見たことしか信じない 文庫改訂版 (幻冬舎文庫)

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