スポーツ見るもの語る者〜フモフモコラム

格闘技

日本ボクシング界因縁の相手ルイス・ネリを東京ドームのリングに沈め、井上尚弥さんが日本ボクシングファンの憤りを浄化してくれた件。

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東京ドームで裁きが下された!

日本ボクシング界因縁の相手に、日本ボクシング史上最高の選手が裁きを下しました。5月6日、ゴールデンウィークのラストを飾るように東京ドームで行なわれた井上尚弥さんとルイス・ネリによる世界スーパーバンタム級4団体王座統一戦。これまで幾度も日本のボクシングファンの逆鱗を刺激してきたネリを、井上さんが6ラウンド1分22秒でリングに沈め、テクニカルノックアウト勝ちをおさめてくれました。ようやく、この相手に、目にもの見せてやりました!

↓ありがとう井上さん!やっと溜飲が下がりました!


誰もが互いをリスペクトし合える理想の世界。みんなそうありたい、とは思っていてもごくまれにそうもいかない輩というのがいます。そのひとりが今回の対戦相手であるルイス・ネリという選手。2017年8月、当時WBC世界バンタム級王者として12連続防衛中であった「神の左」こと山中慎介さんに挑戦したネリは、強打の連打で4回TKO勝ちをおさめました。日本屈指の王者がタオルを投げ入れられる凄惨な敗北でした。まぁ、それだけであれば「あなたお強い」で終わる、ボクシングの日常風景です。

しかし、どうもキナ臭いものがこの試合にはありました。試合に先立って実施されたドーピング検査で、ネリは禁止薬物「ジルパテロール」への陽性反応を示していたことが発覚。ネリ側は、薬物は家畜を太らせるために使われるものであり、肉を食べたことで反応が出たのであるという主張で疑惑を否定しましたが、食肉からの摂取で薬物が検出されるには牛1頭分を食べる必要があるとも言われるものでした。結局「故意の確証がない」として統括団体からの処分は下らなかったものの、疑念は強く残りました。

その疑念が強く残ったなかでの2018年3月、山中さんとネリは再戦します。山中さんにとって誇りとボクシング生命を懸けての試合でした。するとこの際、あろうことかネリは前日計量で2.3キロの体重超過を示し、時間を置いての再計量でも1.3キロの体重超過となったことから試合前に王座を剥奪されたのです。計量室に響く山中さんの「ふざけるな!」という怒声。減量の影響も、まともに戦う気もないネリを前に、山中さんの張りつめた気持ちは切れてしまったのかもしれません。試合当日の再々計量でリミットを下回ったことから試合自体は行なわれましたが、山中さんは精彩を欠き、2回1分3秒でネリがTKO勝ちをおさめます。不完全燃焼…いや、燃えることすらできずに終わった試合でした。山中さんはこの試合を最後に引退。日本ボクシングコミッションはネリを招聘禁止選手とし、この理不尽でアンフェアな屈辱を雪ぐ機会は失われたのです。

あれから6年、日本ボクシングファンの胸に燻る憤りを掬い取ってくれたのが井上さんでした。ネリがWBCでの指名挑戦者となったことはその通りですが、ボクシングにおいて規定通りに試合が組まれないことなどは日常茶飯事です。怪我、病気、階級変更…戦わない理由はいくらでも探すことができます。そうして機を見送るうちに相手が怪我や敗戦によって消えていくことも多いもの。しかし、井上さんは「やる」と言ってくれた。今はベルトもさしたる評価も持たないネリを相手に、世界トップの選手が「やる」と言ってくれた。メリットのない戦いを「やる」と。それはこの因縁、この憤りに思いを馳せればこそ。要するに、日本ボクシングファンの代わりにネリをぶっ飛ばしてくれると、そういうことだと皆が理解したのです。そのためならば招聘禁止の処分も解こうじゃないかと日本ボクシング界を動かしながら、ついに迎えたこの「裁きの日」。これで燃えないわけがありません。東京ドームが埋まるのも納得です!

↓殊勝な態度でやって来たネリは、前日計量で500グラムアンダーの仕上がり!

やればできるじゃないか!よくやった!

これでフェアにぶっ飛ばせるな!



34年前、あのマイク・タイソンさんがジェームス・ダグラスさんを相手にKO負けした衝撃の試合以来となる、東京ドームでのボクシング開催。実際のところ後方の座席からはまともにボクシング観戦はできないでしょう。人と人が動いているのはわかるでしょうが、拳の速く細やかな応酬が見えるはずがありません。しかし、それでもいいと集った4万大観衆。井上さんの試合が見たい、その場にいたい、そんな思いがついに東京ドームのサイズにまで膨らみました。まさにタイソン級のモンスターと言ってもいいでしょう。

迎えたメインイベント。ネリはメキシコの国旗を背負い、まるで勝者のように両手を掲げながら入場してきました。解説席に座る山中慎介さんはわずかに声を震わせています。「できれば見たくない」と語る因縁の相手の試合。それでもここに来てくれたのは、解説者としての責任感か、あるいは日本のファンの「山中さんに見てほしいんです」という思いが届いたからか。集まるべき人が集まった、そんな気持ちになります。

つづいては王者・井上尚弥さんの入場。ステージには布袋寅泰さんが現れ「バトル・オブ・モンスター」の演奏で井上さんを呼び込んでくれます。炎噴き上がる花道、鋭い表情のチャンピオン、井上さんの後ろにつづく4種のベルトと布袋、入場シーンを撮影しようとスマホを掲げた大観衆。この燃え上がる興奮の前では、試合運営スタッフのひとりとしてロバート山本さんがいることなど気にしてはいられません。そんなことよりも試合、試合、試合に全集中です!

↓頼むぞ井上さん!山中さんの代わりにぶっ飛ばしてやってください!


そして始まった試合。第1ラウンドは互いに「見」となる試合もよくありますが、この試合に限ってはそうではなさそう。井上さんは序盤から大きな右フックを飛ばし、攻勢を見せます。ネリも積極的に前に出てきます。互いに攻め合うなか、いきなり衝撃の展開が。第1ラウンド残り1分21秒でネリが放った左フックが井上さんの顔面をとらえ、井上さんがダウンしたのです。これが井上さんにとって公式戦初のダウン。東京ドームが騒然とします。

ただ、井上さんは倒れてすぐに生きた目でレフェリーとコンタクトしており、闘志も意識もしっかり保たれている様子。カウントが進むまでは腰を下ろして息を整える冷静さもあります。派手に倒れたことでインパクトは大きいダウンですが、無理に逆らわずに威力を受け流したという見立てもできるもの。ダメージは深刻ではなさそうです。残り時間でネリは猛然とラッシュに出ますが、井上さんはしっかりと防御で凌ぎ、コーナーに追い込まれたところではネリのパンチをかわして右ボディ、右アッパー、右ストレートと逆に有効打を返していきました。セコンドからの「冷静になれ!」のアドバイスは不要だったかもしれないくらいに、井上さんは冷静でした。

↓相手のパンチと同じスピードで頭を振ればそのパンチは当たっていないのと同じ…的な倒れ方!


フォゥ!と一声気合をつけて踏み出す第2ラウンド。前のラウンド終盤の攻防で「追撃できなかった」とネリ自身も感じていたのか、ラウンド頭からラッシュをかけてくることはありません。逆に井上さんが左のジャブを積極的に出し、攻めていく構え。陣営からも「勝負でいいよ!」の声が掛かります。井上さんのジャブがネリをとらえ始めると、上にいった意識の隙を突くように井上さんのボディもネリをとらえ始めます。そして第2ラウンド残り56秒、ネリの左フックが大振りになったところに井上さんがカウンターを当てると、ネリは尻もちをついてダウン!すぐさまダウンを取り返し、場内もザワつきから大歓声へと一転します。

↓よーし、あっという間に取り返した!相手のパンチを完全に見切ったうえでのカウンター!


第3ラウンド、試合中ずっとネリが仕掛けてくる「井上さんの左拳を上に払いのける」ような動きに対してのリアクションなのか、ネリの右拳を上からハエ叩きのように打ちつける井上さん。それも余裕の表れだったでしょうか。すでに相手のパンチは見えているようで、井上さんはネリの繰り出すパンチをことごとくかわしていきます。井上さんのパンチが一方的に当たることで、ネリは序盤の攻勢が消え、体重を後ろに掛けた守りの姿勢に。試合の主導権は完全に井上さんのものです。

↓身体がのけ反るほどの強烈な連打!


第4ラウンド、ネリが再び攻勢の意志を見せますが、井上さんのパンチの壁に阻まれ思うように手が出ません。そんなネリの強気なような臆病なような中途半端さを見てか、残り1分41秒で井上さんは左頬にグローブを当てて「打ってこいよ」と挑発し、棒立ちの素振りを見せたではありませんか。その挑発にネリがトコトコ歩み寄ってくると、井上さんは横向きの態勢からやおらパンチを飛ばしました。かつて輪島功一さんが得意とした「あっち向いてホイ」のようなエンターテインメント精神あふれる攻撃。その後もノーガードで挑発したり、踊るようなステップを踏んでみたり、相手の左フックをすかしておどけてみたり、井上さんは完全に相手を飲み込んでいきます。東京ドームも大盛り上がりです!

↓ネリが手を出しても当たらないし、手を出せばその隙を突かれる八方塞がり!


第5ラウンド、ダメージが蓄積してきたか、井上さんの右ストレートを受けてたたらを踏むようなところも見せるネリ。井上さんのジャブを止める手立てがなく、中間距離以上ではもはや何もできない格好です。ネリの鼻柱は真っ赤に腫れ上がりました。仕方なくネリは頭から突っ込んで距離を潰そうとしますが、それに対してはレフェリーからのバッティングへの注意と大観衆からのブーイングが浴びせられます。完全なる手詰まり状態。そして迎えた残り36秒、ロープを背負った井上さんが小さく放った左フックがネリの顔面をとらえると、ネリは真っ直ぐ落ちて正座しました。二度目のダウン!立ち上がろうとするときには踏ん張りが効かずよろめいており、これはもう時間の問題といった感触も。

↓意識の外から飛んで来る神の左が突き刺さった!


気の早いボクシングファンがダブルピースで盛り上がるなか迎えた運命の第6ラウンド、もはやネリはパンチすら出ず、井上さんが動きを止めて「打ってこい」と挑発しても反応しません。井上さんのストレートのような威力の左ジャブがネリのボクシングを完全に破壊しました。ついに井上さんは「わざと何発かパンチを受けて、効かないねとアピール」するような場面まで作り、観衆を楽しませ始めます。そして迎えた残り1分43秒、ロープを背負ったネリが放った左ボディを右ヒジでブロックした井上さんは、今ブロックしたばかりの右手を素早くリロードし、ネリの顔面を強打!ロープまで吹っ飛んだネリは、一番下のロープとその上のロープの間に絡め取られるように倒れました。クチからマウスピースを吐き出し、目には闘志も生気もありません。レフェリーが手を交差してテクニカルノックアウトを宣言して井上さんが勝利!これが世界の井上尚弥です!

↓これはもう立てない!圧倒的な勝利!ありがとう!ありがとう!ありがとう!



最高の試合、最高のボクシングで東京ドームを満たしてくれた井上さん。ネリ陣営とも握手を交わすと、用意したチャンピオンTシャツに着替え、再び4本のベルトを身にまといました。勝利後のインタビューでは、「1ラウンドのサプライズ、たまにはいかがでしょうか!」とダウンさえも盛り上がりのスパイスに変えてしまいます。そして、観衆が「裁いた」と沸き立つ状況のなかで、繰り返し「ネリを倒した」ことへのコメントを求められると、井上さんは対戦相手のネリにも穏やかな感謝を示したのです。あのアンフェアに対して、フェアでクリーンな勝利をお返しするという最高の決着をつけてくれた井上さん。これぞ王者の姿。日本ボクシング界の憤りもようやく浄化された気がしました。井上さん、本当にありがとうございました!

↓勝ち誇りも嫌味もない、王者の美しいインタビューでした!


井上さんがサプライズと語ったダウン、僕も驚きましたし、会場もザワつきましたし、一瞬ヒヤリとしました。ビデオで振り返ればさほどピンチではありませんでしたが、思わぬ事態に浮足立ったのは確かです。井上さんの美しい戦績にダウンがついたことに少し惜しい気持ちもあります。ただ、この因縁を考えたとき、あれはあれで悪くないダウンだったのかなと思います。

井上さんが圧倒することは予想内で、実際そういう結果にはなりましたが、あのダウンでネリもまた相応にチカラのある選手だと再確認しました。6年前と7年前に「アンフェアに奪われた」という思いがあるからこそ強い憤りが燻っていた胸も、「井上尚弥からダウンを取るくらい強い選手でもあったのだ」という納得が得られたことで、少し風通しがよくなった気がします。裁かれただけで許されたわけではありませんから、この先ネリと遭遇する機会を望みはしませんが、握手で別れるくらいはしてもいいのかなと思いました。「仏の左」こと山中慎介さんもネリの謝罪を受け入れていますし、僕の気持ちもこれで決着ということにできればと思います。今後もフェアに頑張ってください!

↓山中さんが優しい人でよかったですね!



次に戦う機会は、もしもネリが4団体統一したら考えることにしましょう!

ボクシング史上2人目の「2階級4団体統一」を成し遂げた井上尚弥さんが示してくれる、4団体統一してこそ真の王者という価値観の巻。

08:00
主要4団体統一してこそ真の強者!

この「モンスター」はどこまで強いのか、改めて底知れぬ強さに震えるような一戦。世界スーパー・バンタム級4団体王座統一戦、井上尚弥さんVSマーロン・タパレスさんの試合は、ボクシングの価値観ごとアップデートしてくれるような戦いとなりました。

有明アリーナに集った1万5千人の大観衆。このビッグマッチを日本で開催することの誉れを感じつつ迎えるメインイベントで、先に登場したタパレスさんはいたって静かな入場です。王者でありながら挑戦者のような佇まい。前日計量でのフェイスオフでも、これまでの対戦相手のように睨み合うようなことはなく、井上さんからの握手の申し出に和やかに応対していました。油断してしまいそうになる雰囲気、気を引き締めて掛かる必要がありそうです。

会場中に掲げられた日の丸を“背負って”入場してきた井上さんもいたって落ち着いています。足に滑り止めをつけながら、深々と礼でもするように息を吐く集中の時間。リングに上がった井上さんを迎える大歓声と期待感は、試合ごとにますます高まっています。今夜はどんな勝利を見せてくれるのか、勝敗ではなく決着の美しさに心惹かれる…そんな雰囲気です。両方とも同じ2団体王者であるはずなのに、何という圧倒的な王者感であることか!

↓入場曲はおなじみの「Departure」!荘厳で雄大な王者の佇まい!

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リング上、ガウンを脱いだ井上さんの肉体に目を見張ります。また大きくなったか。さらに分厚くなったか。あるいは顔が小さくなったのか。前戦もスーパー・バンタム級での戦いではありましたが、これまで以上にパワーと大きさを感じさせる身体がそこには仕上がっていました。前戦はまだスーパー・バンタム級への移行途上で、今回はようやく階級にキッチリ合わせた肉体になったのだとすれば、前戦よりもさらに強くなっていることは疑いようもありません。まだ、これは、通過点。まだ、まだ、強くなる。身体でそう語るかのよう。

そして始まった第1ラウンド。サウスポーのタパレスさんとの対峙ということで、前に出した足が交錯するような形となる両者。まずは守りを固めるタパレスさんに対して、飛び込んでの右ボディでご挨拶した井上さんは、相手の様子を探りつつも、ときおり鋭いワンツーでタパレスさんのガードを叩きます。タパレスさんは飛び込んでの左ボディを繰り出しますが、井上さんは冷静に距離を取ってさばきます。互いに手数は多くないものの、まずは井上さんが主導権を握った、そんな印象の立ち上がり。

つづく第2ラウンド。ひきつづき守りを固めるタパレスさんに対して、井上さんはそのガードをこじ開けようといった動き。鋭いジャブでガードの中央を叩いては、さらに同じ中央の隙間に右をねじ込むといった連打で、相手の意識を中央に向けさせます。40秒過ぎにはガードの隙間を通すパンチで、タパレスさんに片ひざをつかせる場面も。ここはスリップの判定でしたが、タパレスさんは重心を後ろに後傾させ、警戒心を高めた様子です。

第3ラウンド、ここまでは両方のガードを高く上げていたタパレスさんですが、右手でL字のガードを作り、左で攻撃のチャンスをうかがうような構えに変えてきました。ただ、手を出せば隙が生まれるのがボクシング。タパレスさんが攻撃を繰り出して構えを崩せば、すかさずそこに井上さんの連打が飛んできます。反応、目、スピード、いずれでも上回り、じょじょにパンチをヒットさせていく井上さん。このラウンドもポイント奪取の手応えです。

第4ラウンド、ラウンド開始から相手のガードも構わず連打を仕掛ける井上さん。タパレスさんもそれにつられるようにアッパーなどを返して、打ち合いの様相になっていきます。ただ、打ち合いで強いのはモンスターのほう。タパレスさんは打たれた右腕を「いってー」とばかりに思わず振ってしまうなど、ダメージは否めません。そして迎えた第4ラウンド残り20秒、ここまで中央・前に意識を集めてきた井上さんが、相手の足幅が狭まり突っ立ったようになった瞬間を狙って、中央を固めるガードを左フックで払いのけるようにしてパンチをねじ込みました。顔がブンと横に振られたタパレスさんは明らかに効いています。その隙を逃さずに連打で攻めると、タパレスさんはたまらずダウン!残り時間の関係で仕留めるチャンスはありませんでしたが、早くも勝利が見えてきました!

↓まだ何も始まってないくらいの身体に見えるのに、相手はもう倒れている!


第5ラウンド、当然井上さんは攻勢に出ます。人間に当たったら死んじゃいそうな凄いパンチがズドン、ズドンとタパレスさんを襲います。しかし、そこはタパレスさんも2団体王者です。接近したほうがむしろ安全とばかりに井上さんの懐にもぐり、何とか耐えようという構え。そして、この試合に向けて用意してきたものか、ときおり右のフック、右のアッパーを放って井上さんを脅かします。すごい根性、すごいタフネス、このラウンドで試合が終わらなかったことはタパレスさんの強さの証明でした。ポイントとしては井上さんが取るも、試合を終わらせることはできなかったという意味では「やられた」という感じもするラウンドでした。

つづく第6ラウンド、引きつづき打ち合いとなる試合。接近戦で根性を見せるタパレスさんですが、井上さんも一気に仕留める動きではなく、もう一度相手をしっかり崩していこうという意識で、少し距離が取りつつ正確で強いパンチをガードの隙間に通していきます。いや、通るはずのない隙間が、パンチの強さで広がってしまうというべきか。タパレスさんとしては、パンチを出さねばガードをこじ開けられてジリ貧、でもパンチを出せば動いた隙を連打で突かれるということで、ちょっとどうしたらいいのかわからない様子です。

第7ラウンド、タパレスさんは再びL字ガードの構えに転じると、ここまであまり打ってこなかった右のジャブで井上さんの顔を跳ね上げる場面を作ります。ならばと井上さんも顔を突き出して「打って来い」という誘いも見せますが、タパレスさんは無理はせず、丁寧にジャブを突いてきます。互いに動きが乏しくなったことで、もしかしたらこの試合で始めてタパレスさんのラウンドと言える攻防になったかもしれません。

↓ラウンド間にはタパレスさんがトップバリュの天然水で水分補給する姿も見られました!


中盤から終盤へ差し掛かる第8ラウンド、L字ガードで頭を遠くに置くタパレスさんに対して、井上さんは右を伸ばしていきます。回り込みながら身体ごと飛び込むような井上さんの右フックは、当たれば一撃もありそうな勢いのもの。それを何とか左のガードで受けて耐えるタパレスさん。タパレスさんはようやく「この形ならば」という活路を見出した感もありますが、あとはどこまで「一撃で終わる」攻勢に耐えていけるかといったところ。

第9ラウンド、懸命に攻撃を仕掛けるタパレスさんですが、井上さんもしっかりパンチを返していき、互いに譲らぬ攻防となります。ただ、タパレスさんのパンチが当たっても井上さんは平然としているのに対して、井上さんのパンチが当たるとタパレスさんはロープまで押し下げられる場面が目立ちます。これは下がってパンチを殺しているのか、あるいは飛ばされているのか。その答えが明らかになるのは次の第10ラウンドでした。

迎えた第10ラウンド、タパレスさんはL字ガードでの後傾の構えを止めて、前に出てきました。勝とうと思えばそうせざるを得ない、背水の攻勢です。しかし、それはもはや最後のチカラだったかもしれません。ラウンド開始から50秒頃、井上さんの右ストレートがタパレスさんをとらえると、ものすごく効いたという見た目ではないのに、タパレスさんがその場に崩れ落ちたのです。あるいはテンプルのあたりの急所にパンチが突き刺さったでしょうか、タパレスさんはそのまま立ち上がれません。「勝った」というよりは「え?終わったの?」と驚くような決着。最後は勝った本人も見守る会場もちょっとびっくりしつつ、井上さんが10ラウンドTKO勝利で、スーパー・バンタム級統一です!

↓あっさりと、簡単に、ボクシング史上2人目となる「2階級での4団体統一」を最速達成!

スーパー・バンタムでまだ2戦しかしていないのにベルトは4本!

計算も合わなくなるモンスターの強さ!

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「やる前から勝つと思っていた」と「あ、最後それで決まったんだ」の合わせ技で、ドーンと大熱狂というよりはポカーンと鎮まるかのような場内。その雰囲気は、ここが頂点ではないという認識を、本人だけでなくファンも世間も持っていることを示すかのようでした。ボクシング史上2人目の偉業達成でも、それを誰も奇跡と呼ばず、誰も驚いていないというこの凄み。もはや井上さんが世間を驚かせるのは「負けたとき」しかないかもしれません。何を成し遂げても不思議はない、そんな圧巻の強さでした。

さぁ、スーパー・バンタム級を非常にスムーズに統一できたことで、夢は順調に広がりました。今の適正階級はスーパー・バンタムということで、当面はここに留まることを表明した井上さんですが、30歳という年齢はボクサーとしてはまだまだ全盛期で、まだまだ残された時間はあります。遠回りになれば数年掛かってもおかしくはない階級統一をわずか1年で成し遂げられたのは、井上さんの時間をロスしなかったという意味で、世界のボクシング界にとっても幸運でした。この先、さらに身体も強さも大きくなっていった先に、ボクシング史上初の3階級統一、6階級制覇といった夢があるかもしれない。それをするだけの時間がまだまだ残されている。そんな夢を思いながら、モンスターの行く末を見守っていきたいもの。

近年は興行面からの要請か、正規王者だの暫定王者だのスーパー王者だのと王者の乱立で「誰が強いのか」がわからなくなっていたボクシング界隈ですが、井上さんの示した価値観によって真の強者とはどういうものか、再認識できた思いがします。より強い相手を求め、より強い相手と戦い、その結果として階級を統一しまう。それでこそ真の強者なのだ、そう思います。今後も強者VS強者の美しい戦いを見られるよう、強くて勇敢で品位のある挑戦者の登場に期待したいもの。このモンスターを恐れず、正々堂々立ち向かっていける挑戦者をお待ちしております!

↓ちなみに、本人による振り返りとしては、意外とパンチ当てられなかったとのことでした!意外と!



↓どこぞの悪そうなヤツが日本に来たがっているようですが、先に4団体で1位を統一とかしてから来てほしいですね!

井上さんがぶっ飛ばしたいなら止めはしませんが、契約はしっかりお願いします!

気分的には、前払いで5億円くらい保証金払わせたい気持ちです!

試合やるって言っておいて逃げられても困りますし!



5万人集めた大興行で「対戦相手逃げたわ…」は絶対避けたいですからね!

井上尚弥さんが階級を上げて臨んだ2団体統一戦で勝利し、「2階級で4団体統一、即返上、5階級制覇へ」が年内にも見えそうな件。

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ボクシングでは強い者を中心に相手と世界がまわる!

「モンスター」の二つ名に違わぬ底知れぬ強さ。WBC・WBO世界スーパーバンタム級タイトルマッチ、スティーブン・フルトンさんと井上尚弥さんの試合は、またしても歴史の扉を片手で開けてしまうような試合でした。早くも2団体王者となったことはもちろん、日本人ではわずか2例目となる4階級制覇の達成。井上さんが強いことの何度目かの再確認をしながら、「どこまで強いんだ」と奥底がまた見えなくなるような破格の戦いぶりでした。強い、強過ぎる。あまりの強さで、早くも次なる一歩は「2階級で4団体統一、即返上、5階級制覇へ」しか見えなくなりました!




井上さんの試合で、勝ち負けという点で緊張感を覚えるのはいつ以来だろうかと思います。5年ぶりの挑戦者という立場自体は気にするものではないとしても、バンタム級からスーパーバンタム級へと階級を上げたことによる階級の壁というのは、どうしても意識せざるを得ない点でした。かねてよりバンタム級ではかなり過酷な減量を強いられているという話でしたので、昇級はプラスに働くだろうと思いつつ、これまで何度も見てきた「階級を上げた途端に、あの圧倒的なパワーは影を潜め…」という現象がナイとは言えません。いかなモンスターと言えども。

前日の計量でも「階級」という部分での差は感じられました。キッチリと仕上げて一発で計量をパスした両者でしたが、身長・体格では明らかにフルトンさんが上回っています。もうひとつ上、フェザー級あたりでも十分にやれそうなサイズをスーパーバンタム級まで絞っているフルトンさんは、両者並んだ際にも明らかに大きい。肩の位置も、手の長さもフルトンさんが一回り上です。公称では身長・リーチそれぞれ5センチ程度の差がある模様。どんなに強いパンチでも届かなければ意味がないのは当然のこと。はたして、この差をどう跳ね返していくものか。

↓乳首の位置の差で見るともっと差がありそうに見える両者が睨み合う!


試合前にはちょっとした悶着もありました。フルトンさんの陣営から井上さんのバンテージの巻き方にクレーム(※陣営的にはクレームではないとの主張)が入り、精神戦を仕掛けてきたのです。もちろん井上さんは「ここは日本だ」と、世界の常識通りに「日本ボクシング界のローカルルール」に沿って何も気にせずにやるとどこ吹く風ですが、いろいろとピリピリさせてくる対戦相手です。

しかし、そのピリピリがまた心地いい。尊敬とヘリ下りで迎えられるのも悪い気はしませんが、「勝つ」と思ってやるのなら、マックスまで自信満々な相手を殴り倒してこそ盛り上がるというものです。フルトンさんは「俺の名前は間違いなく歴史に刻まれるだろう」「俺は独創性にあふれ頭がいい」「いいところに当てれば試合は終わる」と不敵な笑みを浮かべてくれています。そして、「俺は自分が不利な状況ほど生きている実感がある」とも。おおっ、いい感じの煽りVTRじゃないですか。それでこそ、貴重な井上尚弥の1試合を使う甲斐があるというものです。「勝てるかな?」というドキドキがあってこそ井上さん本人も自身を高める意欲が増しますし、見る側も楽しくなります。

そのワクワクを示すかのように会場となる有明アリーナは満員大盛況です。会場に入りきれない人のためにドコモはLeminoなるdTVのゾンビみたいな動画配信サービスを用意して、この一戦を無料生配信することを決めてくれました。以前、dTVで井上VSバトラー戦を中継したときの、アクセスをさばき切れずに「もう全員無料で見てヨシ!」と当日になって緊急無料全開放をしたヤケクソ対応の反省を踏まえて、最初から無料開放とした英断、大いに支持したいところです。

さらには、この一戦の勝敗を予想して当てると1000万ポイントを山分けするという破格のキャンペーンまでも実施してくれるという気前のよさ。ドコモが出した1000万ポイントをクイズ正解者で分けるだけなので「これは断じて賭博ではない」という周到な建付けに僕も試合前から興奮の色を隠せません。「よし!dアカウント27個作って全通り応募すれば必ず当たるな!」という気づきを実行はしませんでしたが、応援と儲けが重なることがあればその熱さは最高潮です!

↓これはボクシング賭博ではありません!山分け型のクイズです!


↓ウチは快適に見られたので、リプ欄は読まないでおいてあげてください!


↓この事例はLimenoで頑張るより「俺は松ちゃんみたいに入場できないのか?」路線を探ってもよかったかもしれません!



16時の配信開始からLeminoにガッチリと接続し、そのポジションをキープした僕。おかげさまでセミファイナルが終わっても、引きつづき回線は絶好調です。一瞬の遅延感も固まり感もなく安心して見守ることができます。まさかセミファイナルのあとに、煽りVTRで1時間使うとは思っていませんでしたが(※現地の皆さま、お疲れ様です!)、緊張と興奮を高めるにはちょうどいい待ち時間です。それぐらいの待ち時間があったほうが、一瞬で終わるかもしれない試合を楽しむのにはいいのです。「見る前に飲む」でないと間に合わないかもしれませんからね。

そして1時間たっぷりと煽っていただいてから迎えた入場のとき。「ボクシング・プライド・オブ・ジャパン」と呼び込まれた井上さんと、対戦相手のフルトンさんが、それぞれ無敗の歴史を映像で振り返りながらリングに上がってきます。井上さんの表情はとても落ち着いており、花道脇の少年ファンの声援にもしっかりと応じています。入れ込みも、硬さもない、大いに期待できそうな気配です。

↓来ているメンツも、華やかさも、今宵リングに上がる選手の格も、まるでラスベガスのよう!


そして迎えた決戦の時。第1ラウンドはいたって静かな立ち上がりです。スタンスを広げ、腰を沈めてかなり距離を取ってきたフルトンさんは、まずは「見」といった雰囲気です。当たりそうにない距離からでもジャブを伸ばし、間合いを探っています。一方で井上さんは、その「見」にお付き合いしつつ、当たりそうもないパンチは避けることすらせずに見切っています。そして、時折遠目から飛び込んでの左ボディをみぞおちあたりに突き刺していきます。大きなパンチこそまだ当たらないものの、積極的な攻勢で怖さは十分に与えていく井上さん。体格・リーチいずれもフルトンさんが上のはずなのに、リングの上ではどう見ても井上さんのほうが大きく見えます。これがボクシングの不思議さ、「リングでは強い者が大きく見える」というヤツなのでしょう。

第2ラウンドも、リングの中央からプレッシャーをかけていく井上さんと、下がり気味に守勢に徹し、井上さんのパンチの軌道や強さを確かめるフルトンさんという構図は変わりません。井上さんは1ラウンドよりも距離を詰めていき、左のジャブは顔面をとらえるようになります。ただ、フルトンさんは「メイウェザーのよう」と評されるだけあって、なかなかに守りが上手い。素早いバックステップと固いガード、頭をよく動かして井上さんに的を絞らせません。ピンチの際も、ロープを背負って大きくスウェーして逃れるなど簡単にはやらせてくれそうにない相手です。

第3ラウンド、じょじょに「見」が終わったか、あるいは「見ているだけではいつか死ぬ」と悟ったか、フルトンさんは前に出始めます。距離を詰めることで、むしろ連打を許さないようなそんな構えです。しかし、そのなかでひとつ鍵となる攻撃が生まれます。30秒過ぎに井上さんの左でボディを突く攻撃に対して、フルトンさんが打ち下ろし気味に右のカウンターを合わせたのですが、井上さんはそのカウンターにさらに反撃の左を合わせたのです。「1発返す間に2発打たれる」という速さ、そして当たった打撃の強さ。ボディ自体が効いていることと合わせて、フルトンさんにとって警戒を高めざるを得ない攻撃となりました。ラウンド終わりにはフルトンさんが鼻血を流す様子も。

そして第4ラウンド、フルトンさんはさらに前に出てきます。攻撃は最大の防御、です。しかし、井上さんはリングジェネラルシップでも冴えています。相手が前に出ようとすればすかさず機先を制して、イヤな感じを植えつけます。鋭いワンツー、突き上げるようなアッパー、パンチの引き出しも少しずつ開いてきました。ラウンド終わりにはリングサイドにいるWBA・IBF世界スーパーバンタム級王者マーロン・タパレスさんの姿をカメラがとらえました。「次はあなたの番ですよ」と言ったところでしょうか。

第5ラウンド、井上さんのテンポはさらに上がり、新たなコンビネーションが繰り出されます。フルトンさんはガードを上げて懸命に守ります。ときにはガードごと押し込まれてたたらを踏むようなところも見せますが、さすがに守りは固い。フルトンさんの慣れもあってか、井上さんの有効打がなかなか出ません。第6ラウンドに入ってもその流れは変わらず、井上さんはほぼガードを叩いているような感じになり、ボディ打ちから突破口を探りますが、それも身体を「く」の字のようにしてボディの威力を堪えるフルトンさん。守りの手数を重ね、神経をすり減らすフルトンさんの心と身体のエネルギーを削りにいくようなラウンドです。

第7ラウンド、フルトンさんは飛び込んでワン・ツーと打ってくるような攻勢を見せます。1分過ぎにはフルトンさんの右フックが井上さんの顔面をとらえ、井上さんの上体が大きく揺らぐ場面も。井上さんもすかさず返してはいきますが、ここまでのラウンドとはやや違う展開となり、判定としても初めてフルトンさんのラウンドと言えるような内容となりました。あるいは、少し長い試合になるのかな…とも思ったのですが、決着は次のラウンド早々に訪れます。

第8ラウンド、ここまで終始安定して当たり、効いていた左のボディがみぞおちのあたりに入ります。フルトンさんはガードを下げてボディを守る姿勢を取り、身体を「く」の字のようにしてこらえますが、その動きがわずかに鈍かった。フルトンさんがガードと上体を下げた頃合いには、すでに井上さんはツーのパンチを始動しており、完全にガラ空きになった顔面に鋭い右が飛びます。大きく吹き飛び、リングに手を突きそうになるフルトンさん。何とか立ち上がろうとしますが、その上下する頭を前進しながらの左で井上さんがとらえます。さっきまで元気だったフルトンさんは、都合3発のパンチでリングに大の字になりました。

何とか立ち上がったフルトンさんですが、懸命の守りも空しく、雨あられと注がれる井上さんの連打によってコーナーに追い詰められ、数発が顔面をとらえたところでレフェリーが割って入りました。8ラウンド1分14秒、TKOによって井上さんは勝利し、世界スーパーバンタム級2団体王者、そして4階級制覇の王者となりました!

↓ここまで懸命に守ってきたフルトンさんの守りが追いつかなくなって決壊!

ボディを打って、効かして、効いているから守ってかばって、ガードが下がる!

下がったガードが上がるより先に叩き込む!

守りの手数と対応が追いつかない攻撃で「壁」を壊した!


いやーーー強かった。これは強い。ひとつ上の階級の2団体王者が相手という、かなり厳しめのシチュエーションでしたが、何ら問題にしませんでした。5年ぶりの挑戦者という立場、賞味30分ほどで終わってしまうとは。井上さんは顔もキレイですし、疲労感もジョギング後くらいの感じで、もう1試合くらいやれそうに見えるほど元気です。強さ、戦術、精神力、あらゆる面で完勝でした。

この戦いのひとつポイントとなるのは、体格・リーチで上回り、さらにディフェンス巧者であるフルトンさんをどう仕留めるかでした。サイズの小さいほうが懐に飛び込んで…という展開を想像していたものの、実態はそうではありませんでした。第1ラウンドから頻繁に繰り出した左のストレートで打つボディ、あの攻撃がその構図をしょっぱなから打ち砕きました。フルトンさんはかなり距離を取り、自分のジャブが当たらないほど離れた位置で「見」に構えていましたが、それでも井上さんのボディは届いてきた。バックステップで逃げるスピードよりも井上さんの踏み込みのほうが早い、これでひとつ安定して通じる攻撃が見つかりました。

顔面狙いならば、頭を振ったりスウェーしたりガードで防ぐこともできますが、ボディは動かしたり守り抜いたりできるものではありません。ある程度は打たれる場所です。そのある程度打たれるパンチが、かなり効くものだった。顔面はもちろん守るとして、ボディも漫然と打たせておくわけにはいかない打撃だった。そこで、いかにも狙えそうなカウンターの右を放ったのが第3ラウンドでしたが、井上さんはそのカウンターに反撃を合わせてきました。ボディ打ち自体が罠だったのか、あるいは単純に井上さんのほうが倍速いのか、この応酬がかなり印象に残ったのではないかと思います。このラウンド終盤で同じボディを打ったとき、フルトンさんはまだ飛んできてもいない追撃の右を警戒してガードをすかさずあげる動きを見せていましたので。

避けられない、耐えられない、反撃も怖い。ひたすらひじで守ろうとしても、あまり下を意識すると、似たような軌道から顔面を狙うジャブが飛んできて、しかも痛い。中盤からのフルトンさんの前進も、遠距離で一方的にチクチクされてはたまらんというところでしょう。この時点でフルトンさん側のプランはかなり狂ってしまったかもしれません。

そんななかで中間距離での打ち合いに挑んだフルトンさんは非常によく守り、よく凌ぎましたが、顔面を守ればボディが空きますし、ボディを守った状態から顔面を守ろうとすると、自分の手の動きよりも井上さんの手の動きの方が速くて苦しい。結果として、ボディを耐えつつ顔面を守るといった苦しい形を強いられ、その守りの手数が疲労とダメージの蓄積で鈍ってきたとき痛恨の打撃をもらってしまった、そんな格好かなと思いました。一言で言えば「井上さんのほうが強かった」という試合内容で、次はどうしたら勝てる、というプランが今は浮かばないのではないかと思います。「いいのが当たれば(誰でも)倒れる」くらいしかないのかなと思いました。

試合後にはリングサイドにいたタパレルさんが上がってきて、現時点ではまだ口約束ではあるものの、「年内に4団体統一戦」を行なうことが宣言されました。残された時間と貴重な試合を回り道に使うわけにはいかないという意志、まさに「最強」の歩む道だなと震えるような約束でした。これで年内にスーパーバンタム級を統一して、即返上からの昇級、5階級制覇という道も現実味を帯びてきました。そして、そのさらに先にある6階級制覇という夢も。「2階級で4団体統一」という偉業すら通過点としか感じない、そんな大きな夢を見られること、未来がますます楽しみになるような勝利でした!

↓「勝ったらやる契約」でもありそうな、すごいスピード感で次戦が決定!


イノウエから逃げるのではなく、イノウエとやりたいと望まれる世界!

真の強者が築く世界はそういう構図になるものです!

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ボクシングでは強者がリングの中央に立ち、相手はその周囲をまわるような展開になるものですが、この試合はまさに「イノウエを中心にまわる世界」のようでした。この試合に向かう過程で井上さんが右拳を怪我をしたとき、井上さんが弱い挑戦者なら「チャンスを逸したね、残念」で試合ごと流れていたかもしれません。あるいは中途半端な強さの挑戦者であれば、怪我をいいことに「やっぱりやらない」と王者の方から対戦を避けられたかもしれません。

しかし、実際としては、井上さんの怪我が完治するのを待つために、試合が延期されました。それこそが「イノウエを中心にまわる世界」を示すものです。相手も戦いたいのです、このモンスターと。そして、逃げることはできないのです。このモンスターから逃げれば、それは有無を言わさず臆病者とみなされるのです。誰もが強いと認める強者だからこそ、こういう試合がしっかり組まれ、しかもそれがラスベガスではなく日本で行なえるのです。

多くの選手が「試合をする」ということ自体に苦心し、政治力と経済力の壁の前で望むようなキャリアを積み上げられずにいるボクシング界にあって、狙った相手を招き、無駄な遠回りのない試合を組める真の強者の存在はまさに「ボクシング・プライド・オブ・ジャパン」です。次戦が日本で見られるのかはわかりませんが、何らかの形で見守っていきたい、そう思います。ボクシングでこれほどの夢を見る機会、そうそうないと思いますからね!

↓ちなみに、予想が当たりましてドコモさんより1725ポイントいただくことになりました!

ええっ!タダで井上さんの試合を見たうえに、1725ポイントもらえるんですか!

賭博より効率よくて最高です!


次戦、1億ポイント山分け企画があれば、dアカウント増やすべきかもですね!

モンスター井上尚弥さんによる史上初のバンタム級4団体統一は、生存を強く主張したdTVを含めて勝者しかいない神試合だった件。

08:00
dTV独占というドコモの自己主張!

この世の大体は経済が第一である…そんな真理と向き合うような時間でした。13日、日本の有明アリーナで行なわれた歴史的一戦を、僕はdTVとかいう「消滅済だと思っていた動画配信サービス」で見ていました。DAZNと提携したのはdTVを捨てるためではなかったのか。あるいはDAZNを切ることを内心で決めたからdTVなのか、真実はわかりません。わかりませんが、こんなところで、この試合を、よくやったものだなと思いました!

↓dTVの「d」はたぶんドコモのdです!「ダメ」とか「鈍」とか「DEAD」とかではありません!


永久に使うことがないと思っていたサービスだからこそ永久に残っていた初回無料体験特典。「これを使うのは今日だ」と決断するのに時間は無用でした。今日を最後にもう見ることはないだろうと思いながら、僕が見守ったのはボクシング世界バンタム級4団体統一戦である井上尚弥さんVSポール・バトラーさんの試合でした。井上さんが持つ3本のベルトと、バトラーさんが持つ1本のベルトが勝者によって統一され、バンタム級では史上初となる主要4団体統一王者が誕生することになっていたのです。

井上さんが達成すれば日本人初・アジア人初のオマケつき。しかも、井上さんはこのベルトを1本ずつ獲得してきていますので、そのグローリーロードは非の打ちどころのない輝きで満ちています。この階級に敵はいない。「無敵」であることを完全に証明する。そんな歴史的な試合が!まさかdTVで!行なわれようとは!今さらドコモはどこにチカラを入れているんだと!真剣に思いましたよね!

↓なおdTVは大量のアクセスをさばき切れず、急遽無料配信に切り替えていました!

それはどうもありがとうございます!

それならもっと告知してほしかった!

無料なら広く国民が見られたのに!

単純な運営力で言えばABEMAのほうが遥かに上だと証明された中継でしたね!

○ABEMA(1R KO)dTV●

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星空のように輝く有明アリーナ。リングを囲うスポットライトはまるで檻のように、光の道のように、リングを光の筋で彩ります。「キルビル」のテーマで入場してきた井上さんは自らの拳と、自身が持つ4本のベルト(WBA・WBC・IBF・リングマガジン)を高く掲げ、威風堂々です。前日計量では電子式体重計と微妙な差が出て計量やり直しになる場面もありましたが、それもサッと所用を片付けてクリアするなど仕上がりは万全。相手も世界王者ではありますが、完全にホーム、圧倒的に格上のモンスターとして「挑戦者」を迎えます。陣営の着るTシャツには「GET THE FOURTH」の文字、見据えるターゲットは挑戦者ではなく「4団体統一」です。



そして始まった試合、それは思いがけない苦戦となりました。勝ち負けという観点で言えば1ラウンド半ばでは「確勝」を確信しました。対戦相手バトラーさんのパンチは井上さんによって完全に見切られており、手を出しても当たる気配がありません。相手のパンチを「届かない」と見切ったときはほとんど反応せずに攻撃につなげ、「届く」と思ったときもバックステップではなくスウェーでかわして即座に攻撃に転じる井上さん。その見切りの正確無比さは少し呆けるほどでした。スウェーで相手のパンチを鼻先で感じたあと、拳が戻るのに合わせて井上さんの身体と拳が突っ込んでいくのです。これでは攻撃すればするほどピンチになってしまいます。「よくできた格ゲー」みたいな動きです。

そのように勝ち負けという意味ではまったく問題のない試合なのですが、ひとつ問題がありました。相手の作戦か、あるいはリングに乗ったあとの本能か、バトラーさんがほとんど手を出してこないのです。すべてのチカラを防御と移動に振っているかのように、ほとんど手を出さずに防御に徹しているバトラーさん。それでも井上さんはガードの隙間からジャブを突き刺したり、ボディを打ったり、ガードの上からでも構わずパンチを見舞ったりと一方的に攻勢をつづけます。ただ、相手もWBO王者です。「勝たなくてもいい、立ってさえいられれば」という姿勢でこられると倒すのは簡単ではありません。

勝つだけならポイントはいくらでも取れそうですが、史上最強のモンスターを目指す井上さんにとって「倒す」ことが勝つこと。勝負を捨てて守りに徹した相手をそれでも倒そうというのは相当に難しいミッションでした。毎ラウンドのように相手をコーナーやロープに詰めて1・2・3・4・5・6のパンチを見舞うも、バトラーさんはなかなか倒れない。バトラーさんのボディや顔面、そしてロープを背負う背中までも真っ赤になっていきますが、それでも倒れない。これではそのうちガードを叩いても爆音あげる井上さんの拳のほうが壊れてしまいそう。

すると「あ、来ないな」と察したのか、ここから井上さんは驚きの戦いを実践します。3ラウンド頃からじょじょに井上さんはガードを緩め、ときに顔面を突き出し、ときに亀になってワザと相手に連打のチャンスを与えて打ち終わりを狙い、ときにゆーっくり身体を揺らし、ときに完全に静止して「的」となり、なんとかバトラーさんの攻撃を誘おうとし始めたのです。攻撃を誘いたい井上さんと攻撃をしないバトラーさんのコラボレーションによって、ノーガードの井上さんがパンチを出さないバトラーさんのわずかな身体の動きに反応して5回下がる(※本人てへぺろ笑い)なんて場面もありました。パンチを打ってもいないのによけているという、一周まわって子どもの遊びのようでさえあります。

ついにはリング上で「腕を背中で組む」という動きまで見せた井上さん。戦いのさなかに、対戦相手を目の前にして手を後ろに組むなんて、漫画のなかに出てくる中国拳法の老師しかやらないムーブですが、それを現実にやってのけたのです。しかも、その中国拳法の老師のムーブそのままに、その状態で放たれる相手のパンチを「ほほい」とかわすと、ようやく開いた扉の向こうに鋭いパンチをねじ込んでみせます。「このノーガードは罠なんだろうなぁ…」と思った相手が「やっぱり罠じゃん!」とすぐ気づくコントみたいな試合。この舞台でここまで差を見せつけるとは!ホント、パンチが、当たらない!

↓手を後ろに組んでもなお「世界王者がパンチを出せずに固まる」という井上さんの怖さ!

バトラーさんが井上さんの強さをわかり、

全部を防御に振って倒されないようにし、

その状態のバトラーさんを倒すのは容易ではないと井上さんが認めたからこそのこのムーブ!

強者VS大強者だからこそ生まれた珍場面でした!

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思いがけない苦戦(※なかなか倒せないの意)となったわけですが、井上さんと陣営に慌てた様子はありません。陣営からは「逃げ回ることはできても、リングの上で隠れることはできない」という名言アドバイスも飛び出しました。そうです、この戦いに防御はあっても逃走はありません。井上さんは「かかってこい」の挑発と、「かかってこないならコッチから行くぞ」の攻撃を繰り返し、じょじょにバトラーさんの体力を削っていきます。

迎えた終盤戦、井上さんはもう一段ギアを上げました。もはや誘っても乗ってこないと諦めたか、井上さんはボクシングの動きを解除し、小走りでバトラーさんを追いかけるようになります。ボクシングのステップで逃げるバトラーさんを小走りで追いかけてぶん殴る井上さんの振る舞いは、見方によっては恋人同士の追いかけっこのようでもあります。YouTuberが雑魚を相手にしたときみたいな試合が、4団体統一戦で行なわれてしまうことにただただ驚きしかありません。

そして場内がわずかに「大丈夫か?(※KOできるか?の意)」と不安を覚え、井上さんを大声援で後押しするなかでの第11ラウンド。両の拳を突き上げるようにしてコーナーを飛び出したそのラウンドで、ようやくその瞬間は訪れます。11ラウンド残り2分、強烈な右のボディ&左フックのコンビネーションを発端に、強パンチの連打を繰り出した井上さんは、じょじょに腰が沈んでいくバトラーさんを、打ち下ろしのパンチでついにリングに這わせました。まるで杭でも地面に打ち込むかのように、文字通り相手をリングに沈めました。

リングに両手足をついたバトラーさんは小さく首をひねり、レフェリーはテクニカルノックアウトを宣言しました。その動きを見て、安堵したかのようにリングに横たわったバトラーさんの姿と、ジャンピングガッツポーズでお父さんと抱き合う井上さん。楽勝ではあるけれど大苦戦の一戦は、勝って目標を達成した井上さんと、チカラをしっかりと示したバトラーさんと、井上さんの試合を11ラウンドも見られた観衆と、サービスがつづいていることを知ってもらえたdTVとで、勝者しかいない神試合でした!

↓強い、強い、強すぎるモンスター!


↓歴史が生まれた!バンタム級史上初の4団体統一!


↓尚弥さんのもとにWBOベルトがようやく到着!


↓見るまでもない紙ですが、ジャッジの採点は「全ラウンド井上」です!

もう寝ていても勝てるのに、それでも倒しにいった井上さん!

それが最強を求めるボクサーのプライド!

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ここまで長い道のりでした。本来であれば2018年から2019年にかけて行なわれたワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)で井上さんは4団体を統一しているはずでした。しかし、WBC王者の不参加、WBO王者の途中離脱でベルトはふたつ止まりに。そこからの時間は「戦ってもらう」ために費やされていきました。WBO王者であったジョンリル・カシメロとの対戦はコロナ禍によって流れ、その後カシメロがなんじゃーかんじゃーと難癖と悪態をつきながらなかなか試合をしないことによって、井上さんの「待ち時間」は伸びていきました。

ようやく2022年になってWBC王座を手土産に井上さんとの再戦に臨んだノニト・ドネアさんを撃破して3団体統一を果たすと、5月にはなんじゃーかんじゃーと試合をしないカシメロの王座が剝奪され、4団体統一への道が開けます。そして昨日、この階級の1本目のベルトを獲得してから約5年をかけて、なんとか20代のうちにバンタム級の統一を達成しました。待つ時間と耐える時間、じょじょに適正階級が上がっていく身体の変化、そのすべてを乗り越えた我慢の統一劇でした。

ポール・バトラー戦で見せた「後ろに手を組むポーズ」がこの5年間を象徴するムーブだったなと思います。戦えさえすれば勝てるのに、相手が戦ってくれない。そんなジレンマのなかで、世間を盛り上げ、対戦をアピールしながらじっと待ってきた。「どうかかかってきてくれ」と願ってきた。リングの上以外での長い戦いと、それをも勝ち抜いた我慢強さを示すあのムーブは、珍場面にして名場面でした。

井上さんは試合後のインタビューでスーパーバンタム級への転向を表明しました。しかし、そこでも我慢の時間はつづくでしょう。現在のスーパーバンタム級は2冠王者がふたりいるという状態。「めちゃくちゃ強そうな挑戦者」を相手に2本のベルトを賭けてくれるお人好しはなかなかいないだろうと思います。各団体から挑戦者に指名されて、その試合がつつがなく実施されるまで、どれくらいの時間がかかるものか気を揉むばかり。

とは言え、全階級4団体統一をしていく義理もないわけですし、ここから先はより強そうな相手を倒しながら、より大きな舞台へ進んでいくだけ。勝つとか負けるとかではなく、どれだけ強そうな相手と戦うことができ、どれだけ井上尚弥というボクサーの強さを世界に示せるのか、それが真のミッションです。そのためには「かかってきてくれる」相手が何よりも必要です。戦うまでも戦いです。陣営も総力を挙げて「かかってこさせる」戦いに勝ち抜いてもらいたいもの。勇敢な王者たちが、このモンスターにかかってきてくれることを切に願います!



あと、井上さんの次の試合までにdTVが消滅していることも切に願います!

井上尚弥さんが日本ボクシング史上初の主要3団体統一を果たした一戦は、強いドネアの先にあるスーパースターへの一歩だった件。

08:00
強い、強すぎる、3団体統一!

圧巻、圧勝、圧倒的でした。7日に行なわれたWBA・IBF・WBCバンタム級王座統一戦。日本の井上尚弥さんとノニト・ドネアとの試合は、日本ボクシング史上初の主要3団体統一という次元に留まらず、PFP(パウンド・フォー・パウンド)ランキングで井上さんをいよいよ1位に押し上げるのではないかと思えるほどの「強すぎる」一戦でした。



ボクシングには「強くない相手」とのタイトルマッチが行なわれるケースもよくあります。探しに探し、選びに選んだ「弱い相手」とビジネス的な興行を繰り返す王者もいるものです。しかし、井上さんはそうではありません。「弱い相手とは戦わない」という自らの意志そのままに、強い相手を踏み台にして世界の真の頂点へと迫ってきました。

真の頂点に迫るためには、実際に「強い」ということはもちろん、「強そう」であることが何よりも重要です。この男こそが一番強いのではないか、そう信じる者が増えて、別の男を信じる者たちとぶつかり合って、互いの王者をぶつけ合って形成していく「格」というものが真の王者を作り上げます。単にベルトを目指すのではなく、真の王者を目指すのなら弱い相手と戦うのは無意味であり、無駄な時間です。

そういう過程のなかで出会ったノニト・ドネアは、まさしく「強い相手」であり、実際にこれまでの戦いのなかでもっとも井上さんを苦しめた相手でもありました。前回2019年の対戦では、最終的に判定勝利こそおさめたものの、ドネアの鋭いパンチで目の上をカットし、痛打を喰らって何度もたたらを踏みました。さすがフィリピンの閃光、さすが5階級制覇の偉大な王者、アジア初の主要4団体制覇の達成者、ノニト・ドネアは強かった。

その苦戦のなかでわずかに失った「格」を、

ドネアを圧倒することで倍にして取り返す。

これは主要4団体統一という道への3冠目であると同時に、井上さんのキャリアにわずかに残る曇った部分を払拭する試合でした。「ドネアと同じくらいなのではないか?」というガラスの天井を打ち破り、どれほど強いか想像もつかないモンスターへと立ち戻る、そんな一戦でした。ドネアが望んで作った状況ではありますが、井上さんにとってもこの試合は4団体統一のさらに先にある、ボクシング界のスーパースターへと至るために、避けては通れない一戦でした。因縁、宿命、すべてがここにある。

↓両者素晴らしい仕上がり!井上さんはリミットぴったりで計量をパス!


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地上波ではなくアマゾン・プライムビデオでの独占中継となった一戦。この試合が500円で見られて、しかも映画などが1ヶ月間見放題だと思うと、タダ同然という気持ちになります。この日に合わせて改めてアマプラに再加入をした僕は(※前回は村田諒太さんの試合に合わせて加入)、アマゾンライフを満喫しながらこの試合を迎えました。

前座の試合を見守りつつ、試合開始時刻の21時を迎えると、前回の対戦では入場BGMとして流れたキル・ビルのテーマを布袋寅泰さんがギター生演奏で披露して井上さんを出迎えてくれます。それが極上のエンタメであるか否かを区分けする「布袋」というライン。五輪のようなド級の舞台にのみ現れる「布袋」というぶっといライン。この試合にふさわしい出囃子です。

↓布袋をバックに井上が登場!布袋も認めるビッグマッチだ!


対するドネアは「次は倒せる」という言葉とともに堂々たる佇まいで現れます。掲げたWBCのベルトはそれが欲しくて獲ったというよりも、もう一度イノウエと戦うための切符として手にしただけのこと。守るためではなく、賭けるためのベルトです。偉大な王者がこの試合にすべてを懸けて戻ってきた。勝って誇りを示すのか。あるいは敗れて花道を歩くことになるのか。ドネアのキャリアにとっても節目となる、いや、「節目となるにふさわしい」一戦でしょう。よくぞ戦うことを決めた、よくぞ再び向き合った。素晴らしい顔合わせ。なんじゃーかんじゃーと理由をつけて逃げ回るカシメロに、ふたりの爪の垢をダイレクトで飲ませてやりたいような気持ちでいっぱいです。

そして始まった試合。第1ラウンド、ドネアの動きは軽快です。この階級にしてはパワーがあり、カウンター一発で決めるようなボクシングをすることが多いドネアですが、それでは井上さんのスピードに対抗できないと考えたでしょうか。計量後に極端に体重を戻してはいないという情報もあり、スピード重視ドネアといった様相。実際にその戦略は功を奏し、ドネアは先手を取ります。

開幕初弾の左フックで井上さんの顔面をかすめると、その後も機敏な動きで攻撃の機会をうかがい、井上さんのパンチをバックステップで軽快にかわします。そして、ここぞという場面での強烈なカウンター。幾多の相手をリングに沈めてきた左フックを井上さんのパンチに合わせてきます。「ドネアは出来がいい」それは間違いなかったと思います。この試合を見た誰もがそう思ったはずです。

しかし、出来云々は関係なかった。

第1ラウンド、時計の表示が消えた残り3秒ほどのタイミングで、それは起きます。じょじょに前への圧力を掛け始めた井上さんが、左の連発でドネアの意識をわずかに左へと揺らした直後、井上さんが小さく左のフェイントを入れると「イノウエの左に対してカウンターを狙った」ドネアの左拳がわずかに下がりました。すると、狙って作ったその「隙」へ、コマ送りでもスキップしてしまうような高速の右ストレートが突き刺さります。

テンプルを直撃し、脳まで揺らすようなクロスカウンター。偶発的なものではなく、カウンターを誘って、それに合わせた神技でした。そのわずか一発で先ほどまで元気いっぱいだったドネアはリングに尻もちをつきました。ここは残り時間少なくドネアはゴングに救われますが、この試合のための積み重ねも、この試合のための対策も、よく仕上がった出来も元気も、ノニト・ドネアというボクサーのスタイルも、一発ですべて消し飛びました。

第2ラウンド、仕留めには行かないようにとあえて自重していたという井上さんですが、一発で尻もちをつくほど脳を揺らされた側が、そうそうすぐに立て直せるものではありません。井上さんは冷静に丹念にパンチを重ねていくだけで、すべてが仕留めるための攻撃になってしまいます。ドネアも懸命の反撃でペースを取り戻そうとはしますが、井上さんの連打に身体がついていかず、いいのをもらうとすぐに足がグラッときます。これは厳しい。

残り1分52秒、井上さんがガードの隙間から小さく鋭い左を通すと、ドネアは操り人形のようにフラフラと一歩、二歩、三歩、リングをさまよいます。詰め寄る井上さんと、懸命に守るドネア。しかし、もはやドネアは井上さんのジャブのスピードに反応できず、ジャブだけでグラッとくるような状態。最後はワン・ツーでドネアをコーナーに押し付け、その跳ね返りに左フックを合わせる強烈なコンビネーション。小さく速くドネアの頭部が揺れると、そのままドネアは大の字になって倒れました。

↓強い、強すぎる、井上尚弥!39歳とは言え、相手はノニト・ドネアだぞ!

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あまりにキレイに倒されたことで、ドネアの回復も早く、そして爽やかです。コーナーにやってきた井上さんをハグすると「アリガトウ、コングラッチュレーション」と日本語で語り掛けました。そして、諸手を挙げて、自分の戦いと井上さんの勝利を讃えているようでした。あるいは大きな決断をしたのかな、なんてことも思います。強さにおいてはすでに井上さんが上だったとは思いますが(※一度勝っているわけだし)、ドネアが築き上げてきた「格」のさらに上に、井上さんが昇っていった…そんな世代の継承をも感じるような光景でした。

ドネアという選手は本当に強い選手でした。

みんなに愛された辰吉丈一郎さんがいて、それを完膚なきまでに叩きのめしたウィラポン・ナコンルアンプロモーションがいて、そのウィラポンと4度激闘を重ねた西岡利晃さんがいて、その西岡さんをまったく何もできないほどに圧倒したのがノニト・ドネアの鮮烈な記憶です。自分たちが「強い」と思っていた男たちの遥か上にいる存在でした。正直なところ、前回の対戦でドネアが井上さんを苦しめたときには「ドネアが健在である」ことが嬉しくさえありました。あの時代が今も輝いているような気持ちになりました。

39歳という年齢は、ボクサーとしては当然下り坂であり、最盛期ほどの強さはないとわかってはいても「ドネアはドネア」です。強くて偉大な王者です。「あのドネア」をわずか2ラウンドで、まったく何もさせずに、美しいボクシングでリングに沈めたこの衝撃。「4団体統一」という当面の目標はもちろんとして、むしろここからどんな大きな夢が見られるのか、想像だにしなかった世界への扉が開いたような気持ちです。

例えて言うならマニー・パッキャオのような存在となって、世界がイノウエに魅了される。そんな世界もあるのかもしれないな、そう思います。パッキャオが6階級制覇を達成したのは、間もなく32歳になるという頃。井上さんはまだ29歳になったばかり、あと何年も「全盛期」はつづきます。どこまで大きな夢が見られるか。どこまでの格にのぼりつめられるのか。楽しみはまだつづきます。天井を設けず、どこどこまでも期待して見守っていきたいものです。もちろん、夢を見るならアマゾン・プライムビデオで。

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アマゾンは「この1戦」だけのために加入しても見るものが多くていいですね!

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