スポーツ見るもの語る者〜フモフモコラム

陸上

箱根駅伝で大学駅伝3冠を成し遂げた駒澤大学・大八木監督評の変化から考える、「人間性も優れた選手が増えている」ことの理由。

08:00
言われてやるでは頂点に届かない時代!

今年も若者たちの素晴らしい走りを堪能しました。第99回東京箱根間往復大学駅伝競走、いわゆる箱根駅伝。今年は駒澤大学が出雲・全日本につづいて箱根も制し、史上5校目の大学駅伝3冠を達成しました。大会後に駒澤大・大八木監督の勇退が発表されましたが、箱根に一時代を築いた名伯楽の素晴らしい花道となる3冠でした。強かった、お見事でした。駒澤大学のみなさん、おめでとうございます!



今年は3年ぶりに沿道の応援も心置きなく行なうことができ、にぎわいが戻ってきた箱根駅伝。「応援に行かないことが応援になる」などと心をねじ伏せながら見守った去年・一昨年の寂しさを乗り越え、ようやくコロナ禍というものとも社会が折り合いをつけられるようになってきたのかなとしみじみ思います。この2年、よく頑張った、よくつないだ。「箱根駅伝」という文化のタスキがしっかりつながった、そう思います。新年にふさわしい慶びの光景でした。

そんな大応援を受けて走る選手たちの奮闘は本当に素晴らしかった。チームや個人の力量差はもちろんありますので早かったり遅かったりといった違いはありますが、学連選抜を含めて全校がリタイアなく走り切り、しっかりと東京箱根間を往復しました。ときには自分自身の期待に及ばない走りとなってしまうこともあったでしょうが、物事には好不調と幸不幸が必ずつきまといます。いつも全員が絶好調で超ラッキーなんてことはあり得ません。大事なのはそういう日でも「つないで」いくこと。つなげば誰かがカバーしてくれる。つなげば未来が残る。それが人間の営みだろうと思います。

駒澤大学と優勝を争うと目されていた青山学院大学などもそうでした。今季はチーム状態があまり芳しくはなかったか、出雲・全日本でも駒澤大の後塵を拝していました。箱根でも予定メンバーに発熱があったとかでアクシデント的なオーダー変更を余儀なくされました。その玉突きとなる格好で6区では区間20位となり、一時はシード権争いのほうが気になる8位まで後退しました。しかし、そんなアクシデントのなかでもしっかりとタスキをつないだことで、9区では岸本大紀さんが区間新に迫る歴代2位の好走を見せて3位まで再浮上。浮き沈みありながらもしっかりとみんながつないだことでの3位でした。結果だけ見れば「平年並み」くらいではありますが、青学の総合力を示す見事な3位だったと思います。

「総合力」というのは全方位が完璧である状況よりも、浮き沈みをカバーしながら苦境を乗り越えたときにこそふさわしい言葉です。どのチームにも早い選手と遅い選手、好調な選手と不調な選手がいるでしょうが、つなぎさえすればひとりひとりの良し悪しではない「総合力」での戦いとなります。人生のなかでスタープレーヤーではない自分にも、多くの平凡な人にとっても、よくない日にも頑張っていくことが必要なんだなと改めて伝えてくれるような走りでした。

↓素晴らしい走りで総合力を見せた青学もお見事でした!

9区岸本選手は「逆に見せ場を作ってくれた」と燃えて区間賞!

苦境が飛躍につながる、それもまた人生のあるあるだなと思います!


↓優勝候補の青学を上回って2位に入った中央は、長い苦境を越えていよいよ名門復活へ!

記念すべき100回大会に向けて幸先のいいスタート!

「駒澤・青学2強の争い」という気分で2位への注目度が低くなってしまって申し訳ない!



そういう意味では、定型文のように使う「ブレーキ」「大ブレーキ」といった表現も少し実情とは違うのかなと思いました。長い道のりのなかには苦境が必ずあります。人生には苦境がつきまとうものです。そういった苦境がない時期のほうが幸運に恵まれた珍しい時間なのであり、何かあるのがデフォルトなのです。優勝した駒澤大でさえも主力メンバーを複数欠き、大エース田澤さんもコロナからの病み上がりという布陣でした。見えづらいだけで苦境と向き合いながらの走りでした。ブレーキと呼ばれる出来事と無縁のチームなどそうそうないのです。ブレーキの有無のみで勝ち負けが決まるわけではなく、それは当然あるものとして、それ込みの全部で競うものなのです。

ましてや、タスキがつなげず繰り上げになったなんてのは、ブレーキ云々なんて話ですらなく、交通事情とか運営事情で仕方なくそうなっているだけのことです。もう少し社会の側に時間と心の余裕があれば途切れることなくつながったはずのタスキです。「たまたま」そういう役回りになった選手はあまり自分を責めずに「せわしないルールだなぁ」くらいの気持ちでいてもらえたらいいなと思います。みんなの道路を借りて走るんだから、そういうこともあるというだけのことです。倒れるときも「申し訳ありません」ではなく「盛り上がっていただけましたでしょうか……」で倒れる、それくらいでいいのではないかと思います。

↓55年ぶりに出場の立教大は最後までタスキが途切れずにつながりました!

せわしない交通ルールに見事に勝利!

監督が選手と同じ目線をチームを引っ張る、青春感あふれるチームでした!

「第二の青学」あると思います!


そして、大会のなかで印象的だったのは、さまざまな人のクチから飛び出す駒澤大・大八木監督評でした。幾多の勝利を重ねた名将として知られる大八木監督は、「男だろ!」の檄に代表されるように厳しさが前面に立つタイプの監督でした。その厳しさが駒澤大学を常勝チームに飛躍させたことは間違いありませんが、「古き良き厳しさ」がなかなか結果につながらなくなってきた近年でした。

そんななかでの三冠達成に関して、今までと何が変わったのだろうかということが当然気になってくるわけですが、「何が変わった」の答えとして「大八木監督が変わった」を挙げる関係者の声がつづきました。青学・原監督のコメントとして紹介されたのは「大八木さんが変わったからです。厳しさだけではなくなったからですよ」というもの。テレビで解説をつとめる渡辺康幸さんは「昭和の香りが漂っていてずっと勝てなかった」「それが指導法の方向性がガラッと変わった」「大八木さん自身が選手の目線までおりてきた」と追随しました。

さらに駒澤大でコーチをつとめ、来季から監督に就任すると伝えられた藤田敦史さんは「自分が現役時代、大八木監督がこうと言ったらこう、意見をすることはほぼなかった。意見する気持ちもなかった」「なぜならば監督が言ったことをやれば強くなれるから」「でも今の大八木監督は違う。考え方、練習方法を何パターンか示して、あとはお前たちが決めなさいと対話する時間も長くなった」と振り返ったと言います。

↓大八木監督自身が時代を感じて、自分を変えていったとのこと!

「話し合ってやらなくちゃ」
「自分から話を聞こうと」
「自分も変わらないと」
「そういう時代かなと少しずつ思いました」



幾多の勝利を積み上げた名将が、時代を感じながら自分を変えつづけられること、とても素晴らしいと思いますし、変わった方向はきっと正しいものだろうと思います。厳しさは確かにある程度の成長を約束してくれます。何もしないよりはやったほうが当然強くなります。ただ、イヤイヤとか渋々やるのでは真の成長はありませんし、イヤイヤでなかったとしても厳しさによって選手を動かす方法にはおのずと限界があります。

選手を動かすのは選手自身にほかなりません。音声入力のロボットではないのですから、何を言われたとしても、最終的には自分で動かすしかないのです。そして、本当に自分を動かすのは、自分の心だけなのです。自分で考えたこと、自分で願ったこと、自分で描く夢、それ以上にはいけるはずがない。自分の心が伴わずに「言われたことをやる」だけでは、24時間365日すべての時間をプラスにしていくことはできません。「自律」だけが自分の最高を引き出せる道です。

そういうスタイルで自分を鍛えていったとき、さらなるチカラが生まれます。自分で自分を鍛えることの難しさを感じたときにはじめて、日々の練習メニューを一緒に考えてくれる人、新しい知識や道具を与えてくれる人、食事や身の回りの世話をして助けてくれる人、応援して励ましてくれる人、そういった助けのすべてにありがたみが実感できるでしょう。その「感謝」がさらなる自律を生み、助けてくれた人の喜びが苦境を乗り越える追加のチカラとなるのです。

最終的には人間性、これに尽きると思います。

身体能力や環境といったスタート地点の差はあったとしても、最後に一番高いところに至るには「人間性」が必要です。人間性が伴っていなければ「自律」などできるはずもありませんし、たくさんの助けを得られるはずもありません。人間性が伴わなければ無闇に多くのアンチが生まれ、無闇に足を引っ張られます。どれだけ巨大な才能を持っていても、助力は乏しく、無数のアンチと戦いながらでは頂点に至るのは困難です。100点でなくてもいいけれど、スピードやパワーなどと同じくらい重要な指標として「人間性」があることを認識し、そこで80点くらいは取らないと、道具も知識も悪評も一瞬で世界に共有されるSNSネット社会にあっては頂点は目指せないでしょう。

昨今、「人間性も優れた選手が増えている」という印象は多くの方がお持ちでしょうが、それは偶然ではなく、人間性にも優れた選手でないと頂点付近には至らないようになってきたのだろうと思います。全体の競争力が高まった結果、まわりの助けを得ることも、足を引っ張られず後押しを受けることも、その後押しをさらなるチカラに変えることも競争の一部として必要になってきた。競技力だけではなく競技外の「人間性」も育まなければ、それがそのまま隙となり、すべてを伸ばしてきた選手との差となる。そういう時代なのだろうと思います。

今回の例で言えば、大学駅伝3冠というのは距離もコースも違い、それぞれのレースで何人もの選手が走るなかでの競争です。そこで勝ち切るには必要な選手数の2倍から3倍の選手層が必要でしょうし、そうなれば当然レースに出場できない選手が生まれます。「自分は出場できないなかで仲間を助ける選手」が生まれます。そういう選手がどうやって日々を過ごし、そういう仲間の姿に出場する選手たちが何を感じるか。そこに「人間性」が伴っていなければ、チームはたちまちひび割れてしまうでしょう。スポーツに限らずどんなものでも同じかもしれませんが、頂点を高くするには山全体を大きくしないといけなく、それは競技力だけで成し遂げられるものではないと僕は思います。

「人間性」という大事なチカラ。

スポーツに限らず誰しもが問われるチカラ。

それを育んでいくことが欠かせない、そんな時代なのかなと思います!





毎年正月は奮起するのに、それがつづかないのは僕の人間性の不足です!

サニブラウンさんが男子100m決勝進出という夢を叶え、織田裕二さんが泣いた世界陸上オレゴン大会は次走に引き継ぐベストタイミングだった件。

08:00
サニブラウンさん世界の7位に織田さん号泣!

2年おきに開催される世界陸上。世界陸上としては初めて陸上王国アメリカで開催されるオレゴン大会は、少し感傷的な、メモリアルな大会になっています。日本の陸上競技を盛り上げつづけてくれた織田裕二さんが、今大会でTBSによる世界陸上中継を勇退するからです。



TBSが世界陸上を独占的に中継するようになった1997年アテネ大会から足掛け25年、13大会連続でのメインキャスター。ともに進行をつとめるフリーアナウンサーの中井美穂さんとの名コンビでつないだ時代のタスキは、当時まだ20代だった織田さんが50代となり還暦が見えてくる年齢になるまでつづきました。いつしか織田さんの年齢は出場選手たちの倍ほどになりました。

当時、ドラマ「東京ラブストーリー」で時代の寵児となり、「振り返れば奴がいる」「踊る大捜査線」「ベストガイ」などヒット作で次々に主演をつとめた、まさしく時代のスターとして活躍をしていた俳優が、その活躍のさなかに陸上の大会のメインキャスターをつとめつづける。今で言えば、菅田将暉さんが世界陸上のメインキャスターになるような感じでしょうか。客寄せにしては強過ぎるのではないかと、起用自体に驚きを覚えたことを思い出します。

「騒がしい」とか「馴れ馴れしい」とか「ビジネスなんだろう」とか根拠のない批判も含めていろいろと言われる機会の多かった織田さんですが、時間と愛情とで、すべてをなだめてきました。「この人は、単純に、心から陸上が好きなんだ」とわからせてきました。いざ勇退するとなった今、そして偶然にも2025年大会が東京で開催されることが決まった今、あふれる声はその勇退を惜しむものばかり。

僕もそうやって惜しむひとりですが、だからこそいいタイミングなのかなとも思います。東京に世界陸上がやってくる。東京五輪の忘れ物を届けにやってくる。そういう機会として生まれた2025年はまたとない新生の機会です。誰かが盛り上げずとも、みんなの記憶に残り、たくさんの新しいファンが生まれる機会です。その新生に備えるステップとして2023年のバトンはもう次走につないでおいたほうがいい、そう思います。今がいいタイミングなのだと。

中継体制がどうなろうが競技の本質は変わらないと思いつつも、多くの人が中継を通じて競技に触れる以上は、競技に近しいくらい大事なのが中継です。その意味でこの25年、日本の陸上界は幸せだったと思います。時代のスターが陸上に夢中になって楽しんでくれたのですから。その楽しそうな姿に惹かれて、陸上って楽しそうだなとたくさんの人が思ったでしょうから。織田さんと過ごす最後の世界陸上を、存分に楽しみたいと思います。

そして2025年東京大会では、大会公式テーマソング「All my treasures」を歌う歌手の織田裕二さんが開会式にやってきてくれるだろうと確信しています。僕も東京五輪の忘れ物を取りに国立に駆けつけ、一緒にオマトレを歌い、一緒に世界を驚かせたいなと思います。海外勢にしてみればおそらくまったく知らないであろう謎の曲が(※2007年大会で聴いたことがあるかもしれない程度)、日本では陸上競技を象徴する国民的ソングとなり、6万人が合唱できるほどに定着していることを見せつけたいなと思います。

競技の話をする前段階がだいぶ長くなってしまいましたが、そんな気持ちでオレゴン大会を見守っていきたいなと思います。そして、また新しく生まれた未来への楽しみを大事にしたいなと思います。2025年は国立で世陸を見て、開会式でオマトレを歌う。新しい目標ができたことで、そこまでは元気に楽しく生きていないといけないなという気持ちが高まりました。2025年大会はもう「このあとすぐ」ですからね!

↓さぁ、楽しんでいきましょう!

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そんなメモリアルな大会で、大きなプレゼントが生まれました。日本勢としては世界陸上の歴史で初めて、五輪を通じても90年ぶりとなる「男子100メートルでの決勝進出」という夢が叶ったのです。夢を叶えてくれたのはサニブラウン・アブデル・ハキームさん。

16日の予選では第7組の1位、9秒98の全体6位で準決勝進出を決めたサニブラウンさん。予選から9秒台という驚きと、さらに上位にいる選手たちは追い風のなかでのタイムだったのに対して、サニブラウンさんは向かい風のなかでセカンドベストを出したという好調ぶり。あるいはメダルにすら届くのではないかという好発進でした。

迎えた17日の準決勝。スタジオで見守る織田さんも「サニが10代で世界陸上に初めて出たとき、世界のてっぺんを目指していると言ってくれた」「僕は今でもその可能性があると思っています」「最後です、せめて決勝には残ってね」と祈りのような重圧をオレゴンに送って見守っています。

サニブラウンさんの登場する準決勝第1組にはアメリカのブロメル、ジャマイカのヨハン・ブレイクがいます。南アフリカのシンビネも世界の決勝でよく見る名前です。各組2着プラスタイム順で2名が決勝進出となる準決勝、「名前」だけで比較するならすでに敗退濃厚な状況です。

しかし、サニブラウンさんは堂々と世界の選手たちと渡り合い、素晴らしいスタートからジャマイカのブレイクを抑えてこの組の3位に。着順での決勝進出は決められませんでしたが、10秒05の好タイムを叩き出しました。その後、第2組では3着の選手のタイムがサニブラウンさんのタイムを上回ることはなくタイム順は変わらず、第3組でも東京五輪金のジェイコブスの棄権があり3着の選手のタイムはサニブラウンさんを上回りませんでした。

これでサニブラウンさんはタイム順で拾われる2名の1番手、単純なタイム順で言えば全体6位タイ、走った時点の風も加味すれば全体の6番目での決勝進出を決めました。予選とほぼ同じ位置を保っての決勝進出は偶然でもたまたまでもなく、地力によってつかみ取ったもの。世界陸上初、五輪を通じても90年ぶりの決勝進出、しっかりと決めてくれました!

↓「決勝になればヨーイドンなんで」と野心も見せたサニブラウンさん!


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CM明けのスタジオ、織田さんは「いやはははは…やりましたね」と絞り出すと、目を真っ赤にして泣いていました。近年サニブラウンさんが苦しんできた怪我とそれによる停滞を念頭に「正直、今回間に合わないと思ってました」と心境を語りながら、この偉業をやってくれたサニブラウンさんを「何なんでしょうね、あの男は」「男のなかの男」と織田節で讃えました。拭っても拭っても止まらない涙。最後の大会でも「熱くて」「泣ける」織田さんを見ることができて、サニブラウンさんの決勝進出とダブルで嬉しくなります。

つづく決勝。あわよくばメダルもと期待を懸けて見守りますが、サニブラウンさんはスタートの行き脚がつかず、予選で見せたような伸びがありません。ほとんど記憶がないような状態での走りだったそうで、どこかフワフワしたところもあったでしょうか。ゴールに入線する段階では上体を前に倒す動きも見られず、ほぼ棒立ちで駆け抜けるような格好。ゴール後にはよたよたと座り込む姿も見られました。金のカーリーが軽快にウィニングランをしている姿、その余力とは対照的でした。

サニブラウンさんの決勝のタイムは10秒06。風が向かい風ということで単純な比較はできませんが、予選・準決勝よりもタイムを落としました。上位は軒並み9秒8台に入れてきたなかでタイムが落ちるというのは、やはり地力の差だろうと思います。しかし、その差がどんなものなのかは一度決勝まで出てみないとわからないもの。決勝進出を懸けた準決勝で相当のパワーを消費すること。それでも上位勢は決勝でさらに上げてくること。決勝はヨーイドンの勝負ではなく、肉体的にも精神的にもどれだけのチカラを温存しているかでスタート前から差がついていること。決勝に進んだサニブラウンさんの姿を見て、初めて実感できることがたくさんありました。「準決勝を突破すれば勢いで決勝はイケるなんてことはナイ」んだなと。

それでもレース後のサニブラウンさんと織田さんには笑顔がありました。サニブラウンさんからは「満足できた」という言葉も出ました。それを織田さんは「それはこちらの言葉です」とたしなめるような場面もありましたが、率直な心境だったのかなと思います。どれだけ厚いかわからない壁に挑み、破ったあとです。決勝にチカラが残っていなかったなとか、負けて満足してどうするんだとか、反省をするのはまた別の日の話。今は笑顔で喜ぶのがいいでしょう。素晴らしい歴史をありがとうございます!

↓お疲れ様、ありがとう、そしておめでとう!世界の7位!



本当に見られる日はくるのだろうかと思っていた100メートルでの決勝進出、しかと見せてもらいました。織田さん時代に間に合いました。織田さん時代ではいくつもの出来事がありました。200メートルでは2003年パリ大会で末續慎吾さんのメダル獲得がありました。4×100メートルリレーではメダルの常連国になりました。100メートル9秒台に飛び込む選手が何人も生まれました。日本陸上は短距離で目覚ましい進化を見せました。いい時代でした。

改めていいタイミングだなと思います。

100メートルでの決勝進出という夢を叶え、メダルという夢を遺す。

ひとつの夢を叶え、さらに大きな夢を次走につなぐ。

前走にも次走にも美味しい夢がある、いいタイミングだなと。

今後、織田さんのような存在が現れるのかはわかりませんが、またそういう存在が生まれ、ひとつの時代となっていったらいいなと思います。今大会でひとつでもふたつでも、この時代の出来事として新たな歴史が作られ、次の時代の新しい夢が生まれるように祈りたいものですね!

↓大会期間中、心のヘビロテとしてオマトレを鳴らします!


2025年、期待していますよ!

6万人のオマトレ大合唱に!



次走の人が特に歌手とかでなかったら、オマトレは残してもいいと思います!

国立競技場で行なわれたセイコーゴールデングランプリ陸上を観戦し、再びここに世界の選手と観衆が集う日を心待ちにするの巻。

08:00
これからも国立で陸上の大会はできまぁす!

ゴールデンウィークが終わるという絶望を振り払うように、連休の締めとなるお出掛けをしてまいりました。向かいましたのは我らがレガシー、国立競技場。今振り返ると何故有観客で開催できなかったのかトンとわからぬあの2020東京五輪以来となる、国立競技場での陸上競技会が有観客にて開催されたのです。

7日に行なわれた日本選手権の10000メートル、そして8日に行なわれたセイコーゴールデングランプリ陸上。国内外の有力選手が集い、観客とコネクトしながら展開する熱い戦いは、オリンピック・パラリンピックの残像を感じられるようなものでした。やはり国立で見る試合、とりわけ陸上は素晴らしい。陸上をやってこそオリンピックスタジアムです。

よく言われていた「国立にはサブトラックがないから五輪後は陸上の試合はできない」という話も、日本陸連が内規のほうを改定しまして、「五輪を開催した陸上競技場ならサブトラックなくてもオッケーです!」ということになりました。これからも国立で陸上競技の大会はできるのです。7月に決定される2025年世界陸上開催地、ぜひ東京に決まるように祈りたいもの。ここはひとつ委員たちにも「忖度」してもらいたいものですよね!一回東京を挟んでからほかにまわせやと!

↓やって来ました国立競技場!
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↓ハイテクゲートをくぐってセイコーゴールデングランプリ陸上2022東京観戦に向かいます!
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↓入場時にガイド冊子と携帯用消毒液、福島千里さんの引退記念品をいただきました!
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↓場内は国際大会の祝祭感あふれるいい雰囲気です!
国立競技場のスタンドには1万人に迫るたくさんのお客さんが集いました。その手にはお弁当やビールも握られ、行楽としての観戦を楽しむ姿も見られます。久々に再会したファン仲間なのか、若い女性グループが抱き合って喜ぶような場面も目撃しました。思わず僕もそこに加わってワンチームを結成したくなるような和やかな光景でした。(※結成した瞬間に警察からワンチーム飛んできそうだが…)

有観客での開催という前進に、選手たちも奮い立っているようです。陸上では「ここぞ」の場面で見られる、観客に手拍子を求めてチカラを引き出そうとする仕草も頻繁に行なわれています。素晴らしいパフォーマンスが生まれれば大きな拍手が起こり、驚きの決着となればざわめきが広がる。自分のパフォーマンスが誰かの心に響いていることを直に感じるのは、選手にとってもきっと喜びとなるものでしょう。

舞台と観衆と選手が一体となって生まれた、たくさんの素晴らしいパフォーマンスたち。フィールドとトラックで並行して競技が行なわれ、追い切れない部分もありましたが、個人的にも東京五輪のような気持ちで見守ることができ、大変盛り上がりました。こういうのをリベンジ観戦というのかもしれないなと思います。ま、もっとも、東京五輪の陸上のチケットは当たってなかったんでリベンジも何も、どの道見られたわけではないんすけどね!

↓やり投げの北口榛花さんは63.93メートルの好記録で海外勢を抑えて優勝!
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↓男子やり投げでもディーン元気さんが完全に元気になったところを示して優勝!
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↓男子400メートルハードルでは東京五輪銀のライ・ベンジャミンが貫録の優勝!
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↓女子1500メートルで期待の田中希実さんは、終盤の仕掛けで先頭に立つも最後は失速して4位に!
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↓男子3000メートル障害では三浦龍司さんが終盤の仕掛けで圧倒して優勝!
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↓東京五輪さながらの顔ぶれとなった女子200メートルハードルでは世界記録保持者のケンドラ・ハリソンが優勝!
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↓男子110メートルハードルでは順大の村竹ラシッドさんが世界陸上の参加標準に肉薄する好記録で優勝!
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↓男子100メートルでは予選で東京五輪代表のデーデー・ブルーノさんが重め残りで敗退する波乱!
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↓男子100メートル決勝では東京五輪には出場できなかった幻の金候補クリスチャン・コールマンが圧勝!
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↓世界陸上に向けて我らが織田裕二さんも熱く観戦していました!
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期待の選手が何人か棄権していたり、五輪の反動が感じられる選手がいたりするようなところもありつつ、今夏の世界陸上そして次回パリ五輪を目指す選手たちの躍動も感じられるような試合ぶりでした。なかでも、男子110メートルハードルの村竹ラシッドさんは、記録面でも、スターを続々と生み出している順大3年というプロフィール面でも、心に留めておきたくなる選手でした。フォトセッションで持たされるポカリとボディメンテ、一番かわいく持てていたと思います。そういうところ、いいんじゃないでしょうか。

そして、競技終了後には先頃引退を発表した福島千里さんの引退セレモニーも行なわれました。いまだ破られていない女子100メートルと200メートルの日本記録について、「私が持つ日本記録が更新されることをとても心待ちにしている」と語っていたのが印象的でした。いつもの福島さんのとぼけたような明るさで、本当に心からその日を待っているようでした。

超えていくこと、超えられること、そうやってつづいていくもの。誰かを目標にして成長していくすべての人は、やがて誰かに目標にされることで恩返しをしていくのかなと思います。遺された記録もまたレガシーです。レガシーはただ置いておくのではなく、活用されることに意味があります。活用されることで過去は生命を持って今を生きつづけていきます。過去の記録が、目指す人が現れたとき、超える人が現れたときに再び話題となるように。

せっかく作った国立競技場ですから、このレガシーもしっかり使って、ここで新しい記録が生み出される日を楽しみに待ちたいと思います。この舞台で陸上競技を観戦したことで、一層その想いは強くなりました。2025年の世界陸上が東京で行なわれるようであれば、そのときには福島さんの記録を始めとした幾多のレガシー記録たちも超えていける、そう思います。その日は世界のみなさんにもリベンジ観戦をしてもらえたらいいなと思います。走りやすくてアクセスしやすくて観戦しやすい、いいスタジアムですからね、国立は!

↓福島さんの引退セレモニーは動画でまとめておきました!


直前の試合のほうで大惨敗してたデーデー・ブルーノさんがとっても元気でした!

試合にはエントリーしていない山縣亮太さんもとっても元気でした!


世界のみなさん、また東京でお会いできる日をとても心待ちにしています!

今年も箱根駅伝の素晴らしい光に元気と勇気をもらいつつ、やはり「応援したいから、応援に行かない」ではやり切れないと思う件。

08:00
箱根駅伝、今年もありがとう!

正月のだらけた心身に一本芯が通るような思いで、今年も箱根駅伝を見守りました。長い鍛錬の日々を超えて、この日に自分の学生生活の結晶を示す、そんな生き様に目標を持つことの素晴らしさ、頑張ることの素晴らしさを改めて感じさせられます。今年こそ自分も…と思ってすぐに諦めることの連続ではありますが、今年こそ自分も何かの目標に向かって頑張りたい、そう思いました。

この大会を目指したすべての学生たち、大会を実現してくれた関係者の皆さん、そしてすべての応援する人たちに感謝と激励を送りたいと思います。今年も箱根駅伝をやってくれてありがとう、また来年を目指して頑張りましょう。そんな気持ちでいっぱいです!

↓優勝は前人未到の大記録で往路・復路・総合の完全優勝を遂げた青山学院大学!

パワフル過ぎる走りで大圧勝!

往路を優勝したうえで復路で区間賞・区間新を連発する圧倒的なチーム力でした!


↓原晋監督のツイッターでは往路出発前にすでに復路のメンバーが明かされていました!

1区から10区までその通りの並びでタスキに記された選手たち!

これぞ予告大圧勝!

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例年にも増して充実の内容となったレース。圧勝の青学は当然のこととして、各校とも好タイムを記録しており、なんと11位でシード権を逸した東海大まで総合10時間台におさまっています。上位数校しか10時間台ではゴールしないという年も多いなかで、10時間台でシード落ちというのは、それだけ学生たちが日々をしっかりと積み重ねてきたことの証です。ラスト1キロでシードを逃すというのは辛い出来事ではありますが、チームとしていい走りをしたこと、胸を張れる内容だと思います。

そして、順位としては下位に沈んだチームたちも素晴らしい走りを見せてくれました。とりわけ、本大会初出場の駿河台大学などは、初出場ながらも繰り上げなく1本のタスキをゴールまでつないで見せる大快走でした。有力選手を復路にまわし、とにかく繰り上げなくタスキをつなごうとした徳本監督の采配の妙。そうした配置の結果、31歳元教員の4区・今井選手から、教員時代の教え子である5区・永井選手へタスキをつなぐ「師弟リレー」も実現しました。「夢」が詰まったチームでした。

徳本監督の学生時代をほうふつとさせるようにデカめのピカピカサングラスをかけて走った10区・阪本選手がゴール後に開口一番で発した「楽しかった!」の一言は、箱根駅伝の素晴らしさを象徴するかのようでした。学生生活を捧げるに足る目標があって、そこで自分の鍛錬の成果を発揮できることの素晴らしさは、まさに生きることの素晴らしさと同じものだろうと思います。その気持ち、すべてのチームに大切にして欲しいなと思いました。

徳本監督が監督車から放った「謝ってきたら、ぶっとばすから」などの印象的な言葉の数々は、学生たちとのいい距離感を示すかのようでした。来年はまた予選会からのチャレンジとなりますが、それも含めて、「夢」へとつながる素晴らしくて楽しい道なのだとみんなが思えるようなチームを、また作ってきてもらいたいなと思います。「まるで優勝」したような喜び方を見せた選手たちに、「まるで優勝」したかのようなお祝いをしたいと思います。駿河台大学、箱根駅伝完走おめでとう!

↓個人的には今大会優勝相当のチームでした!

選手時代はいつも苦しそうだった徳本監督が楽しそうで何よりです!

またいいチームを作ってきてくださいね!



そうしたなかで、心残りな状況もありました。昨年に引きつづき、大会主催者側により応援自粛が呼びかけられるような状況にあったことです。オミクロン株流行の兆しが見え、前週比で感染者が増加傾向にあるなかでの開催でもあり、事前にこういう判断をしていたことは堅実な道だったのかなとは思いつつも、やはり寂しさは拭えませんでした。

自分自身は正月は寝て過ごすものという姿勢で、特に沿道に出てどうこうということはないのですが、選手の親兄弟、友人・知人、身近で支えてきた人たちがこうした方針の下で直接応援することができず、むしろそういった「箱根駅伝を愛し支える人たち」こそが主催者のお達しを守って家に留まっているということには、やり切れなさを覚えます。

選手たちと直接関係がないまでも、コース沿いに住まう人々には、それを地域の喜びとしている人も多いでしょう。僕が不動産屋なら「このマンションは箱根駅伝がベランダから見えますよ」くらいは当然のセールスアピールとして言います。その地域の価値のひとつでさえあると思います。地域のひとりとして一緒に参加してきた、一緒に喜んできた人たちのなかにも、愛するがゆえに我慢をした人もいるでしょう。そのあと同じ道を買い物で通るのだとしても。愛する人ほど我慢をする世の中は、率直に言って理不尽だなと思います。



箱根駅伝がこのように大きな「夢」となったことには、あの長い箱根路を埋める人々のにぎわいというものも、大きなチカラとなってきただろうと僕は思います。原初の光は選手たちが走って生まれたものですが、それに魅せられた人々が沿道に集い、そのにぎわいをメディアが広め、遥か遠くの人までも見守る大きな夢へと育っていったのです。そうして大きくなった夢が、また新たな選手たちを惹きつけるという循環が生まれているのです。どれが欠けてもここまでの夢にはならなかったはずです。

映像で見るピラミッドと自分の目で見るピラミッドが別物であるように、選手たちにとってもテレビを通じて送られる声援と、自分の目と耳で感じる声援はまた別物でしょう。一生数度の機会に、せめて大切な人とだけでも、自分の目と耳と声とで支え合う機会を持たせてあげたいというのは、毎年テレビで楽しませてもらっている身としての願いでもあります。僕自身が東京マラソンを走った経験でも、沿道を埋める人々の列やランナーに向けられた声援は忘れがたい記憶でもあります。そうした体験の最上級のものを、頑張ってきた選手たちには経験して欲しいですし、ご家族にそういう機会を持たせたい、そう思います。

もし主催者として、そうした応援や声援がかけがえのないものだと思うのであれば「どうにかしてやれるように」という気持ちを忘れないで欲しいなと思いますし、今の状況は望んでやっていることではなく「耐え難いながらも耐えていること」であると強く発信しつづけて欲しいなと思います。そして、もしも来年もこうした状況がつづいていたときには、状況がおさまるのを待っているだけではなくて、今度は一歩でも二歩でも踏み出せるようにしていって欲しいなと思います。

主催者側に「大会自体がなくなってしまう」ことへの不安や恐れがあるようなら、沿道の自治体からも大会が地域の喜びにつながっているのだと後押しをしてあげて欲しいですし、支援するメディアも「テレビ中継さえできればいい」「むしろテレビで見てくれるほうが歓迎」「全員家で見てろ!一生!」という姿勢ではなく支えていって欲しいなと思います。そして、例年沿道で見守ってきたファンたちも、本心としては「行きたい」「支えたい」「見守りたい」のであると、静かに、強く、発信していって欲しいなと思います。これは「英断」ではなく「我慢」なんだと、辛いのだと、発信しつづけて欲しいなと思います。

↓そうは言うても行く人は行くんですけどね!だって公道だから!


僕はこうして沿道に出る人をおかしいとは思いませんし、非難する気もありません。素晴らしいものがあったら見たいと思うのは自然な心の動きです。屋外での観戦であることや、総数では多くても道沿いに長く伸びているだけという人の配置を考えれば、日常生活以上の感染拡大が起きるとも思いません。「自分の好きなもの以外にも、そういう気持ちを向けて欲しかったな」とは思いますし、こういう人が「自分の好きでないもの」に対して常に攻撃的であるから、みんなが我慢しなければならない世の中になっているんだぞとは思いますが、沿道での応援なども気兼ねなくできて、正義の名のもとに批判されないような社会のほうがあるべき姿だと思います。

「こうしたい」という意志がなければ、世の中は動きませんし、希望は叶いません。自分が行くかどうかはともかく、箱根駅伝のにぎわいはあって欲しいですし、それを愛する人々が選手を直接応援できる環境であって欲しいと僕は思います。来年すぐに「誰でも歓迎!」「何百万人でもOK!」「一緒に騒ぎましょう!」と言えるような状況にはならないとしても、地域との協力のもと、中継所や特定の応援エリアなどあらかじめ定められた区画だけでも、本当にそこにいるべき人たちがいられる場所を確保してあげられるような次回大会であればいいなと思います。

「応援したいから、応援に行かない」ではやり切れない。

「応援したいから、どうにかして応援に行けるように、こうやっていこう」であって欲しい。

来年・再来年という近い未来と、この先また同じようなことが起きる遠い未来に、我慢することだけが唯一解ではなく、これまでの経験を活かして一歩でも二歩でも踏み出せる世の中であるように祈ります。箱根の温泉宿あたりも、いい加減大っぴらに客を迎え入れて盛り上がりたいでしょうしね!



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一年一年すべてやり直しが効かない時間として、尽力しつづけたいものです!

マルクス・レームさんの美しい跳躍に見る、パラリンピックとは身体の機能を失った先で生まれる創意工夫の祭典なのだという気づき。

08:00
パラアスリートは創意工夫で競い合う!

熱戦つづくパラリンピック。大会も後半戦に差し掛かった1日は大会最大のスターが登場しました。ドイツのマルクス・レーム選手。陸上男子走り幅跳びT64クラスで世界記録8メートル62を持つレームさんは、もはやパラアスリートという枠を超えた存在。この地上で、もっとも遠くまで跳ぶ人間のひとりです。

今大会での注目はパラリンピック3連覇に加えて、大記録の樹立。「砂場が小さく感じるようなジャンプを見せたい」と語るレームさんが、自身の持てるチカラを発揮すれば、同じ会場で行なわれた東京五輪の優勝記録8メートル41を上回る可能性もあります。五輪よりもパラリンピックのほうが上の記録を出す。実施日も参加選手も違う両種目の記録を比較することが適切かはともかく、「五輪よりもパラリンピックが跳んだ」は爆発的なインパクトでその偉業を彩るでしょう。大注目です。




中継の冒頭、スペシャルナビゲーターをつとめる櫻井翔さんはあえてあの話題を出します。「義足の反発力」という、レームさんに対して常に向けられてきた懐疑的な視線についてです。あの板バネがものすごいジャンピングシューズなのではないかという疑念についてです。櫻井さんは言葉を選びながら慎重に、「義足の反発力よりも義足で助走をするほうが難しいという記事を見た(つまりメリットがあるわけではないんですよね)」と、素朴に、ただしその先には毅然とした答えを期待して問い掛けます。

その問いに答えたのは、競技用の義足を研究する専門家・保原浩明さんでした。保原さんは助走はもちろん難しいとしつつ、「義足の反発力」というものについては「よく誤解されるんですが」「あの義足に反発はほとんどありません」と完全に否定しました。有利不利とかではなく「ほとんどない」のであると。ホームランを打ってくれよと投げたボールが、会心の当たりで場外まで飛んでいったような感覚。気持ちよくこのあとの競技をみんなが見られるようになる、痛快なやり取りでした。ふたりのキャッチボールに感謝しながら競技開始を待ちます。

左足が義足の選手、右足が義足の選手、両足が義足の選手、義足ではないけれど機能障がいがある選手、さまざまな選手が登場してきますが、無観客であってもレームさんの存在感は抜群です。「これ関係者全部集まってきてるだろ」と音で感じる盛り上がりです。やや向かい風、走路が雨で濡れているという悪コンディンションではあるものの、各選手は6メートル台、7メートル台の記録を順調に刻んでいきます。1回目、最後に登場したレームさんは8メートル6センチとまずはしっかり記録を残してきます。この時点で東京五輪なら8位入賞相当の記録、はたしてどこまで伸ばしていけるのか。

2回目は踏み切り合わずにファール。手拍子を求めて跳んだ3回目は8メートル9センチとわずかに記録を伸ばすにとどまります。4回目は本人的には首を振る跳躍で8メートルに届かず。5回目は8メートル18とし、五輪でもメダル争いができる記録まで伸ばしてきますが、やはりまだ首を傾げる感じ。それでも最後の6回目は、これまで以上の高さと伸びで自身の世界記録ライン付近まで迫るような跳躍。残念ながらわずかに踏み切りがファールでしたが、レームさんらしいジャンプを最後に見せてくれました。参考記録としてどこまで跳んでいたかだけでも知りたかった、そう思います。

予想通り実力通りの結果ではありますが、これでレームさんはパラリンピック3連覇。コンディションもあって記録的に上回ることはありませんでしたが、大きな足跡を東京に残してくれました。もしかしたら「東京五輪の男子走り幅跳びで勝ったのはだーれだ?」クイズの正答率を調べれば、レームさんの存在はすでに五輪をも包み込むものだと感じられるのかもしれません。「ミルティアディス・テントグル」は知ってても間違えそうですからね。「ミルミルキットクルナントカ…」的な感じで!

↓レームさんは見事にパラリンピック3連覇を達成!


↓NHKによるハイライト動画はコチラです!




レームさんの跳躍を見ていると、とにかく「キレイ」だなと感じます。まるで階段でも上がるように踏み切りから真っ直ぐ身体が上にあがり、トントンと足を踏み出すと、そのあとは反り返った身体を一気に畳むように両足を胸まで引きつけ、最後に少し左側に倒れて着地のロスを減らす。このフォームの安定感と、空中姿勢の美しさは五輪を含めて見渡しても突き抜けているなと唸ります。ずっと見ていたくなるような美しさです。

それは踏み切り足が義足というところからくる「真っ直ぐ足に乗って真っ直ぐ上に上がらないと安定しない」という結果的な美しさなのかもしれませんが、義足の使いこなしだけでなく、義足か否かは関係ない空中においても、突出した技能があるのだと感じさせます。足をバタつかせる跳び方とレームさんのような跳び方とで、どちらが距離が出るのかはわかりませんが、義足だけでなく身体も巧みにコントロールしているのだということはわかります。決して「バネでピョーン」のバネ頼みの跳躍ではありません。

レームさんは自身も義肢装具士であり、自分用の義足をメーカーと共同開発で制作しています。それはある意味で、未開の分野に挑む研究のようなものです。義足で8メートルを跳ぶテスターは自身しかいないのです。自分を使って、誰も正解を知らない分野の技術を研究していく。身体よりも頭を使う作業ですが、それができなければ今以上に強くなることはできません。「こうすればいいよ」を誰も知らないのですから。

パラアスリートは確かに身体のある部分の機能を失っているかもしれませんが、そのぶん創意工夫で補っているのだということを、大会を見るにつけ感じさせられます。手を失った、足を失ったという機能の面ではもちろん、生まれながらに視力がなく「手本を見ることができない」といった学習の面でも、パラアスリートは難しい状況にあります。手本がなく、教えてくれる人もないなかで、自分だけの正解を自分で見つけないといけません。

僕らは「バタフライとは?」ということを目で見ておおまかに理解できますし、誰かが見つけた「背面跳び」という跳び方を知っていますが、アレをゼロから発見するのはそれだけでも困難でしょう。何故アレで進むのか、何故ああやって跳ぼうと思ったのか、発想自体がそうそう出てくるものではありません。ましてや、「義足なのだが」「両手足を失っているのだが」という状態から自分だけのバタフライや背面跳びを見つける作業は創意工夫の結晶としか言えません。

今大会のなかでとても印象的だった言葉があります。

NHKが用意した競技紹介用の映像で、アーチェリーについての紹介で流れた「アーチェリーとは?」という説明の一言です。アーチェリーとは何か、と問われたら普通は「的に矢を当てる競技」と答えるでしょう。僕もそう答えます。しかし、その紹介映像では「弓をいかに自分の身体の一部として使いこなせるか」がアーチェリーなのであると言っていたのです。

矢を当てるところがキモなのではなく、弓をいかに使いこなすかがキモなのであると。その一言はパラアーチェリーの見方を変えてくれました。飛んでいく矢のほうではなく、矢を飛ばす道具をどうやって使いこなしているかを見るのだと。その答えをひとりひとりが考え、自分だけの正解を見つけ出す戦いを見るのだと。生まれながらに手がなく、足で弓を構える選手。口で矢を引く選手。「ないからそうしている仕方ない選択」ではなく「あるものをどう使うかの創意工夫」なのだということが、鮮明になりました。

身体能力により重きを置く競い合いと、創意工夫により重きを置く競い合い。その二軸は単純に混ぜればいいというものでもなく、かといって完全に別物なわけでもなく、「パラレル」な存在でありながら、もしかしたら両方を統べる可能性はあるかもしれないと夢が見られる。そういう関係なのかもしれないなと思い、また少し自分のなかの五輪・パラリンピックに対する考えが深まったような気持ちがします。そして、このあともパラリンピックの競い合いを楽しく見守りたいなと思うのです。自分では考えもしなかったことを見つけ出していく人たちの創意工夫を。もしかしたら「弓は足で持つが正解だった」と発見される未来だってあるかもしれないと想像しながら。

↓手で持てればまず試さない方法のなかに大正解がないとは限らない!




手足バタバタと一気にピョーンで本当はどっちが跳べるんでしょうね!

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婦人公論 2017年 12/27、1/6 合併特大号

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